砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~   作:elsnoir

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弐拾五話 絶対強者

★海域

side:矢矧

 

 爆音とが鳴り響く海域。潮風が煙の臭いを運ぶ。

 

「数が多いッ!」

 

 今までは泊地をつなぐまでのルートを攻撃していたが、今度は違う。本土をつなぐルートだ。そのせいか、数が異常に多い。一体一体破壊してもまるで減っているような気がしない。

 

「時間がかかってもいいです!確実に倒していきましょう!」

「榛名の言うとおりだ!!!皆、撃て!!」

 

 榛名の声に対し、武蔵も同じように声を上げる。大声に混じり、爆音が鳴り響く。自分も負けずと引き金を引く。砲弾はツ級の顔面に直撃、爆炎を上げる。それに合わせ、上空を舞う艦載機が急降下爆撃。それにより、大破炎上させる。そこに追い打ちをかけるべく、魚雷を放つ。海面を切り裂いた一撃は妨害されることなく直撃し、巨大な水しぶきを上げる。

 

「状況は!?」

「優勢……というにはまだ早いです!」

 

 敵を破壊してはいるが、一体破壊するたびに二体ほど深海から這い上がっているような気もしている。

 

「戦艦、空母を筆頭に戦っているのに……さすがに中枢部というだけあるわね……」

 

 だが時間がかかりすぎてもいけない。このまま長い戦闘を続けていれば途中で燃料と弾薬が尽きる可能性もある。だが、一度で勝ってこいというわけではない。だがこの激化した戦場の中敵に背を向けて鎮守府に戻ることができるかどうか。そこが問題なのだ。

 

「…………渚…あなたならどうしてる…?」

 

 今はいない彼のことを少し思う。彼ならどうしているだろうか。いつも通り滅茶苦茶な方法で数を的確に減らしていくか。それとも別の手段で数を減らすか。

 

「…………渚ならどうせ、目の前の敵から徹底的に倒しているかもね…………行くわ!」

 

 狙いを定め再び引き金を引く。今はそうすることでしか、彼のやり残したことを終わらせることはできない。

 

 

side:??? 

 

 騒がしい。そろそろころあいだろう。あの艦娘どもを沈めてもいいだろう。そのためには餌が必要。だがエサなどいくらでもある。ならば浮上しよう。それにもっとも害である提督はもういない。勝つことはたやすい。

 

 深海の中から海面を見上げる一つの影。その影がゆっくりと浮上を始めた。

 

 

side:矢矧

 

 戦闘中、突然空気が変わった。爆炎と煙の臭いが混じる熱風から、吹雪のような冷たい風に変わったような殺気と狂気を感じる。その空気は他の皆も感じている。自分の仲間だけではなく、敵の深海棲艦まで。この海にいるすべてが硬直している。

 

「何……」

「索敵機から通電です!敵深海棲艦中枢部より正体不明の深海棲艦が出現!」

 

 瑞鳳の艦載機から通電が入った。正体不明の深海棲艦。それに頭が疼く。渚の記録にあった深海棲艦だろうか。

 

「…………来る…!」

 

 自分の中で肌が逆立つような感じがした。この空気の殺気の出所は間違いなくそれであった。正面の深海棲艦が左右に裂け、その姿があらわとなった。小柄な体に真っ黒なコートのような服。深海棲艦特有の蒼白い肌、白く足まで伸びた髪、青い瞳、レ級のような尾。尾には凶悪そうな顔に、何もかもかみ砕きそうな鋭い牙がずらりと見えた。まるで鮫……恐竜のようだった。

 

「白い長い髪、青い瞳、レ級のような尾……!皆気を付けて!!!!」

 

 記録にあった深海棲皇と情報は一致する。あれが自分たちの鎮守府を破壊したものだ。だが今まで出会った深海棲艦と比べ、プレッシャー、覇気がまるで違う。鬼や姫クラスもしくはそれ以上のものだ。

 

「……喰ラウ」

 

 深海棲皇の尾が動き出した。動き出した尾はすぐ近くにいた重巡リ級フラグシップに向いていた。何をするのか。そう思った瞬間、尾は突然リ級を頭から食らいついた。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 バキ、ゴキという音を鳴らし、ばしゃばしゃと青黒い液体をばらまきながら、リ級は尾に瞬く間に食べられてしまった。こんな情報はなかった。なぜ味方を喰らうのか。そんな疑問を抱いた瞬間に答えは帰ってきた。何も装備していない深海棲皇の左腕が徐々に異質な形へと変化し、それこそリ級の腕のようなものになっていた。

 

「まさか……捕食した深海棲艦の力を得るというのか…!?」

 

 武蔵の言った通りのようだ。深海棲皇は一度変化させただけでは済まず、さらに近くにいたイ級、ツ級、ネ級、タ級を喰らい始めた。その間攻撃することもなく、ただ見ていることしかできなかった。恐怖心が渦巻いているのだ。初めてであったこの道の深海棲艦に恐怖している。

 

「矢矧さん……」

「榛名………」

 

 手に握る砲を再度強く握りしめる。こうしている間にも深海棲皇はさらに変化を遂げている。最初に変化した左腕すら変化し、砲が増えるなどさらに凶悪性を増している。このまま放っておけばさらに進化していくだろう。

 

「皆、一斉砲撃を!!!」

 

 自分が声を上げると同時に複数の轟音が響く。自分の放った砲弾、左右から飛んでいく仲間の砲弾が一斉に深海棲皇に飛んでいく。だが飛んでいく途中で他の深海棲艦がかばったり、着弾する前に撃たれたりと届かない。

 

「……爆ゼロ」

 

 そう声を上げた瞬間、深海棲皇の右手の砲から放たれた弾丸が自分の顔の右をかすめた。外れた弾丸はそのまま海面に直撃するが、

 

「きゃあっ!?」

 

 海面に着弾すると同時にとてつもない爆風が襲ってきた。まるで追い風が台風クラスのようだった。自分だけではなく、他の皆もだ。

 

「なに……あの火力……!」

「まともに喰らったら轟沈は防げない………」

 

 目の前の化け物をどうにかしようと考えるが、難しいと思った。他の艦を捕食し火力を上げる。なら当然装甲も増えるのではないか。その推測が浮かんだ。その可能性は非常に大きい。

 

「どうすれば……」

「…ッ!敵機直上!!」

 

 加賀が声を上げた時には上空に無数の艦載機が上空を舞っていた。前方の脅威に集中していたせいで全く気が付かなかった。今すぐに対空砲火しようにも間に合わない。全ての艦載機が攻撃態勢に入っている。そして砲を構える暇もなく、攻撃が開始された。

 

「間に合って!!!!」

 

 被弾覚悟で砲を上に向け、引き金を引いた。同時に爆音、熱風が押し寄せてきた。

 

「ッ?!」

 

 やはり間に合わなかったようだ。奇跡的に自分だけには直撃しなかったようだが、悲鳴が聞こえない。あれだけの数の艦載機が攻撃を仕掛けてきたにもかかわらず、全員が無傷というのはおかしい。

 

「どいうことだ……」

「榛名たちは………生きてるのでしょうか…」

 

 そして今全員が攻撃をしてはいない。同時に全員無傷。軽く爆風を受けただけだ。ならば誰がやったというのだろうか。

 

「…………ナゼ………」

 

 正面にいる深海棲皇はこちらからは目をそらし、右を向いている。

 

「……索敵機から通電」

 

 加賀が口を開いた。

 

「…九時の方向……何か来ます………!」


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