砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~   作:elsnoir

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弐話 提督はおかしい

●提督の体はどうなっているのか

 

★鎮守府玄関前

side:五十鈴

 

「電ー斧持ってきたー?」

「はい、持ってきたのですー」

 

 提督に頼まれた斧とタオルとペットボトルの水を抱えて玄関前に出てきた。斧は倉庫から。どうしてそんなものがあるかは知らない。ただわかった時点で倉庫の中にはいろいろなものが詰まっている。旅館の倉庫ってこんな感じなのかと言わんばかりのものがたくさんあった。さっきの斧、バット、グローブ、釣竿、使えそうな冷蔵庫、折り畳み式ベッドなどなどホームセンターの中にあるものが全ておいてあると言っても過言でないくらいのものが詰まっている。

 

「司令官さん、遅いのです」

「そうね……」

 

 提督が鎮守府を出てきてからかれこれ一時間たっている。最初30分ごろに様子を見に来たが、いなかった。その時に斧を探すのを忘れていて倉庫に戻って見つけて戻ってきたら一時間後。そして今にあたる。

 

「………荷物置いて戻りましょうか」

「はいなのです」

 

 荷物を置いて間宮さんのところでお茶にしようと思った次の瞬間、目の前にある森から一人の男性が歩いてきた。上はタンクトップ、下は作業着のようなズボン。まあ、それはそれでいい。問題はその手だ。右手にはチェーンソーが握られていた。そして左肩には自分と電の身長を足しても足りないぐらい長く太い丸太が担がれていた。それを何一つ表情変えずこちらに向かってきてる自分の指揮官がいる。後ろで木こりのテーマでも流れているんだろう。

 

「おっ、斧見つかったかー。よかったよかった。余計な出費がなくて」

「て、提督……なに…それ?」

 

 渚の左肩に担いでいる丸太を指さし言った。

 

「何って丸太だ。あっちの山から切って持ってきた」

 

 両手が埋まっているため、右手のチェーンソーで方向を指し言った。

 

「は、はわわわ……」

 

 ばたんと電は気絶してしまった。あまりにも強烈すぎる光景に度肝を抜いたんだろう。当然と言ってしまえば当然だろう。そこまで筋肉質でない人間がかなり大きな丸太を片手で担いでやってきたのだから。

 

「い、電っ!?」

 

 倒れた電を起こす。

 

「体調不良か?すまん、早いとこ寝かせてやってくれ」

「あなたのせいよ!!」

「?」

 

 渚はキョトンとした。自分が何をしたのか、その行為がどれだけ異常だか気づいていないようだ。まるで当たり前とも言わんばかりに。

 

「何かあった………んで…すか?」

 

 大声に気づいたのか、明石が玄関から出てきた。明石に続いて大淀も玄関からやってきた。

 

「提………と…く?」

「ん?二人してどうした」

 

 渚が声をかける。

 

「どうしたも何もおかしいに決まっているじゃない!!ほら、明石に大淀も白目むいてるじゃない!!」

 

 二人は唖然とした表情で白目をむきながら、立ち尽くしていた。

 

「……まあいい。とりあえず皆は休憩しててくれ、雑談するなりお茶するなり自由にしてくれ。俺はこれからこの丸太を薪にするから」

 

 そう言って少し離れた場所にある切り株の近くに向かって歩いて行った。そしてそれを一つ一つ切っていった。五十鈴は思った。この提督に喧嘩吹っかけたら勝ち目がないと。人は見かけによらないというが彼がまさしくその言葉にあてはまるだろう。

 

 

●戦闘。やっぱり提督は体だけでなく頭もおかしいと思う。

side:渚

 

 深海棲艦。人類の敵で自分たちが倒すべきもの。彼らの出所は不明。噂によれば昔沈んだ艦艇が何らかの変化を遂げ浮上したものらしい。そしてその深海棲艦に対抗できるただ一つの手段。それが艦娘。いわゆる電や五十鈴といった彼女たちにあたる。なぜ彼女たちでなければいけないのか、どうして彼女たちだけ深海棲艦に対抗できるのかそういった点は不明。選ばれた人だけがここにいる。そもそも誰に選ばれたのかも不明。正直言って謎だらけ。自分たちの味方はなんなのか。戦っている敵はなんなのか。それすらわからないレベルだ。今はただ明日の未来のために戦うことしかできない。学者たちがいろいろ頑張っているが解明されるのは当分先のはずだ。

 そしてその深海棲艦の一隊がこちらに侵攻を開始している。敵は一体。艦種は駆逐。偵察のつもりかもしれない。だが駆逐艦一体で無数の被害が出ている。この鎮守府は日本から少し離れた小さな島にある。当然輸入されるものもある。だが深海棲艦のおかげでその輸入ルートが全て断たれている。海はさっき言った通り駆逐艦、軽巡、重巡といった水上艦に加え潜水艦に沈められ、空路は空母による艦載機の攻撃。そして対空砲火。それらによって無数の食糧、資材、生活用品といったものが沈められている。今この島は自給自足で何とか生活できている。そしてこの島には自分たちを含め約600人が生活している。おまけにこの生活を続けて3か月たったそうだ。いつものがなくなってもおかしくない状態だ。

 自分がここに送られてきた理由は一つ。この絶望的な状況を打破するために提督として送られた。どうやってきたって?ジェット機に乗ってやってきた。空軍でもないのに急ピッチでジェット機の操縦方法を教わり、やってきたわけなのだが、道中艦載機による歓迎を受け撃墜された。その後パラシュートで脱出。なんとか無事?たどり着くことができた。

 

「…さて、初陣になるが二人とも大丈夫か?」

 

 二人はこくんと頷いた。自信はそれなりにあるようだ。

 

「うん。頼んだ。ゆくゆくはこの島の人たちの未来がかかってる」

「ええ。行くわよ電」

「はい、なのです」

 

 二人は執務室を後にしていった。その時電は少し不安そうな表情をしていた。

 

 

★出撃ゲート

side:電

 

 この旅館から直接船が出せるように一部分が海と接触している。そこから艤装を装備し海に出ることになる。戦場がすぐそばに広がる。

 

「電、大丈夫?」

 

 艤装を装備しながら五十鈴が声をかける。

 

「大丈夫なのです……怖いのは変わらないのですが…」

「そうね…私も怖くないって言ったら嘘になる。でも戦わなければならない。市民のために、提督のために」

 

 ガチャリと音を立て銃に砲弾をつめた。引き金を引けばすぐに撃てる状態だ。砲弾を詰めるのは自分ではなく妖精の仕事。自分は目の前の敵を殲滅することが仕事になる。

 

「大丈夫。いざとなったら私が守る。行くよっ」

「あっ、はいなのです!」

 

 舵を取り海を滑るかのように足についている艤装が動き出す。

 

 

★鎮守府正面海域

 

 海を滑り出して5分。深海棲艦が現れたというポイントに到着した。

 

「ここね」

 

 五十鈴が肩にかけていた砲を構えた。五十鈴の兵装は14cm単装砲に三連装魚雷二基だ。それに対し電は12.7cm連装砲と三連装魚雷を同じく二基。駆逐艦を倒すには十分すぎるかもしれないが、これが初陣となる。訓練は積んできたが心配なことに変わりはない。渚が少ない資材を勉強ついでに開発してできた物を装備している。

 

「………どこにいるの…?」

 

 あたりを見渡す。気配はない。本来なら目だけでなく電探と言ったレーダーで探すのが一番だがこの鎮守府にはそんなものはない。

 全神経を集中させ、気配を探る。どこからかやってくるかわからない。正面もしくは背後。最悪真下ということもあり得る。

 

「………」

 

 目を閉じ集中する。揺れる海面が今以上に揺れた気がする。何かが迫っているような音がする。

 

「…そこなのですっ!」

 

 装填装備している魚雷を計六本海面に撃ちこんだ。海中を六つの魚雷が突き進み何かに激突した。爆音と同時に高い水しぶきが上がった。そこに黒い巨大な影があった。大きさは大体観光バスより少し小さいぐらいだ。鯨のような体をしているが表面は黒く装甲なようなものに身を包んでいる。その口は情報によれば商船の一つや二つを簡単に噛み千切ったという。その駆逐艦の緑色の目が光り、こちらを向く。名前はイ級。他にも幾つか別の駆逐艦がいたと思う。

「これが…」

「くっ、砲雷撃戦、始めるわ!」

 

 五十鈴が砲をイ級に構え一撃を放った。砲弾は一直線に空を突き進みイ級に直撃した。爆炎がイ級を包んだ。イ級に直撃したにもかかわらず傷らしきものはなかった。

 

「当たり所が悪かったのね!」

「砲撃、来るのです!」

 

 イ級が口を大きく開け喉から筒らしきものを出した。そこから轟音が響き砲弾が放たれた。

 

「電、避けて!!」

 

 五十鈴が声を上げる。電は砲弾を避け、海面を滑りイ級に近づく。この連装砲の射程は基本的には近距離だ。遠距離戦では向かない。大きなダメージを与えるにはできる限り近づかなければならない。イ級を錯乱させるかのように海面をジグザグに滑る。体勢をさらに前かがみにし速度を上げる。足の艤装は体重移動によって移動する向きや速度が変わる。

 

「電、無理しないで!!」

「はいなのです!」

 

 海面を滑りながら砲をイ級に向ける。イ級はこちらに向き、照準を定めている。こちらも標準を定める。

 

「撃つのです!」

 

 手に大きな衝撃が走る。二つの砲身から放たれた弾丸は空を切り、イ級の口の中に直撃した。その直後イ級が爆発し、黒煙を上げた。

 

「や…やった…のですか…?」

「そうね…よくやったわね」

 

 そう言って五十鈴が鎮守府のほうを向いた。

 

「帰りましょうか」

「はいっ」

 

 黒煙に背をむき、動き出した。次の瞬間、自分たちの視線の先で海面が突如巨大な水しぶきを上げた。

 

「な、なに…?」

 

 恐る恐る後ろを振り向く。そこには人の形をした何かが海面に浮かんでいた。その両手は異形と化していて、一種の盾の様だった。だがそこにはいくつもの筒が見えた。

 

「う、ウソでしょ……」

 

 足が震える。電も同じように震えていた。目の前の存在は青色の瞳を輝かせこちらを見ていた。戦艦ル級。深海棲艦による最初の被害はル級によるものだった。豪華客船をたった一隻で沈めたという。それもわずか三分で。そんな危険な存在が今目の前にいる。

 

 

★鎮守府 執務室

side;:渚

 

 双眼鏡をのぞき電と五十鈴が敵対している存在に気付いた。人。艦娘ではない人のような何か。タブレットのデータベースを見ればそいつのデータがあった。戦艦ル級。一番最初に世の中に深海棲艦の被害を出した存在。このル級がそいつとは限らないが、その一撃はかなりのものになる。彼女たちが一撃で沈む可能性だって否定できない。

 

「……俺はただ見てることしかできないのかっ!!」

 

 海上から水しぶきと煙が上がる。二人ともうまく立ち回りル級に砲撃を与えているがダメージを受けている様子が全くと言っていいほどない。そんな中ル級は彼女たちを蹂躙していった。砲撃は直撃し彼女たちの艤装を破壊していく。電にしては砲はすでに使い物にならなくなり、魚雷も発射管がひしゃげ、魚雷を打つことすらできない。五十鈴も服が裂けたり、砲が破壊されたりと被害は大きい。

 

「………くそっ!!」

 

 一つだけ出撃ゲートに予備の武装と艤装があったことを思い出した。ダメもとでもいい。ただ今は彼女たちを支援することにした。そうでもしなければ彼女たちの命はない。自分たち提督の変わりはきく。ただ艦娘の変わりはいない。

 

 

★出撃ゲート

 

 艤装と言っても足の部分しかない。そして武装は12cm単装砲と三連装魚雷一基のみ。魚雷を腰に装備し、単装砲を握り海上を滑りかけた。

 

「頼むもう少しだけ持ってくれ」

 

 自分がそこに行ったところでどうなるかわからない。むしろ悪化するかもしれない。それでも動かずにはいられなかった。

 

 

★鎮守府正面海域

side:電

 

 電と五十鈴はル級の猛攻によりボロボロになり、反撃することすらできなくなっていた。砲に関しては砲身が潰れ砲弾を打つことができない。魚雷にしたって発射管がひしゃげている。魚雷が引っかかって打つことができない。引き抜いて投げるという選択肢もあるがそんなことをしている間に敵の砲弾に撃ちぬかれる。そもそも魚雷で大したダメージを与えられるかどうかすらわからない。

 

「…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 ル級は大したダメージもなく立ち尽くしている。標準はこちらに向いている。

 

「……司令…官…さん……」

 

 涙があふれてきた。目の前の敵に何もすることができなかった。五十鈴も悔しそうに歯を食いしばっている。

 

「……ごめんなさい」

 

 そう謝ると同時にル級の砲身から砲弾が放たれた。対象は電。これで終わり。そう思った瞬間、電とル級の間で砲弾が爆発した。

 

「電!五十鈴!!」

 

 男の声が響いた。出会ってまだ三日程度。ここにいるはずのない人間がそこにいた。渚が艤装を装備してやってきた。

 

「提督!何してるの!!早く逃げて!!」

 

 五十鈴が残された力を振り絞って叫ぶ。

 

「……逃げるのはお前たちだ!」

 

 

side:渚

 

 海上を滑りながら砲弾を放つ。銃身から放たれた砲弾のいくつかはル級に直撃するがそれ以外は空を切り外れて行った。直撃しても大したダメージは与えられていない。それどころか電や五十鈴以下のダメージを与えている可能性が高い。

 

「なんで…」

「俺はお前たち艦娘の帰りを笑顔で迎えるのが一つの仕事だと思っている。でも俺が…提督が艦娘を守るのも一つの仕事だと思っている!だから戦う。お前たちは退け!」

 

 かすり傷すら見えない。やはり自分ではだめなのだろうか。それでも諦めるわけにはいかない。

 

「この…………くそったれがああああああああああああああ!!!!」

 

 渚は叫び、全体重を前に向け艤装を全速力で滑らせた。ル級は高速で接近する渚に標準を向け砲弾を放つ。砲弾は海面を、渚の通った空間を突き抜けて行った。艦娘と違って自分はただの一般人。当たれば運良くて重症。それ以外は死。たとえ生きたところで追撃をもらい死に至るだろう。

 

「あんたなんかに、殺されてたまるかァッ!!」

 

 腰に装備した魚雷を左手の指と指で三本ずつはさみそれを中距離で思いっきり投げた。渚の手から放たれた魚雷はくるくると回転しル級へ飛んで行った。ル級はその魚雷を落とそうにも落とすことができなかった。まず高度の問題。投げられた魚雷は顔に向けられていた。そして速さの問題だった。自信の移動速度に加えて、彼の腕力による速度で対応ができなかった。

 三本の魚雷はすべてル級に直撃した。爆炎がル級を包む。煙が晴れるとル級の顔にはやけどのような傷があった。ようやくまともなダメージを与えた。

 

「…砲撃がだめなら…」

 

 砲を握る手を強く握りしめた。砲撃がだめなら残された手段は一つしかなかった。海面を高速で滑りル級に肉薄する。そして、ブレーキをかけるかのように足の向きを変えた。

 

「12cm………」

 

 踏み込めない海面を全力で踏み込んだ。そして

 

「単装砲ッッッッ!!!!!!」

 

 叫びながらル級を右手に握られた単装砲で全力で殴った。漫画とかなら「ドゴォ」という効果音がなってもおかしくないフォームでかつ重い一撃だった。砲身が顔面に突き刺さると同時に引き金を引き零距離で砲弾を当てた。

 渚に殴られたル級は吹っ飛んだ。吹っ飛ばされたル級はそのまま沈んでいった。

 

「ああ…」

「はわわ…」

 

 その光景を見ていた二人の艦娘は唖然としていた。当然かもしれない。兵器で倒せなかった敵が大体物理攻撃によって沈んでいったのだから無理もない。

 

 

★鎮守府 執務室

 

「まあ、何がともあれお疲れ様。今日はゆっくり休め」

 

 ボロボロになった電と五十鈴に声をかけ二人をさがらせた。初陣であんなハプニングがあるとは思っていなかった。当然何か起こるということは頭の中にあった。

 

「さて………大淀、明石。お手柔らかに頼むよ」

 

 二人が去って行ったあと、扉の隙間から二つほど恐ろしい視線を感じていた。

 その後渚は一時間ほどこっぴどく説教された。

 

 

●艦娘の日記

 

 今日から司令官さんが日記を書いていけって話があったのです。記録を残せば自分たちがいた証拠になる。次の人たちへの手助けにもなる。そう言っていたのです。それは別として、今日は大変だったのです。でも司令官さんが助けてくれたから、こうやって日記を書いていられるのです。でも、司令官さん…ちょっとおかしいのかもしれないのです。戦艦相手に魚雷を投げてその後殴ったのです。でもあの時助けてくれた司令官さんは、ちょっとかっこよかったのです。




遅くなりました本当に申し訳ありません。ちょっと強引すぎるところがあるかもしれません。

独自解釈にしてはかなり特殊だと思います。

また更新は離れると思います。

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