砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~   作:elsnoir

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弐拾四話 残された者たちは

★鎮守府 広場

side:矢矧

 

 手に持っている帽子を地面に刺さっている十字にかける。

 

「………渚、ごめんなさい。あなたを守れなくて………」

 

 彼を守ると誓った。だがその誓いすら守ることができなかった。また同じことを繰り返したのだ。

 

「…………私は……本当に馬鹿ね…………守るものすら守れず…過去と同じことを繰り返す………」

 

 誰もいない鎮守府の広場に一つの風が吹く。

 

「……………………悔やんでいてもしょうがないよね…もしあなたが私の立場だったら、今頃次の作戦に取り組むはずよね……」

 

 この後の作戦には奪還した孤島に泊地をつくること。これに関してはすでに大淀が手配をしており、今建築中とのことだ。リーダーに話を聞けば大体一週間で出来上がるとのことだ。だが泊地をつくってそこから一部作戦を練り、ようやく最終フェーズに入ることができる。

 

「…今は」

 

 彼の墓に背を向け、歩き出した。不安はない。気のせいかもしれないが、どこかで彼が見守っているような気がした。

 

 

★鎮守府 渚の執務室

 

 彼の執務室となっていたこの部屋は今自分の執務室となってしまった。彼が残したものを自分が引き継いだ形になる。

 

「ああ見えて、結構きれいに整理されているのね………」

 

 彼の性格からして考えられないぐらいきれいに整理整頓されていた。ファイルから、書類まで。

 

「あ、これって」

 

 ファイルを見ている中、一つ目についた。タイトルは「簡易報告」。

 

「報告っていうより、日記ね」

 

 誰かに報告したようなことは見られないが、彼の日記のようだった。いろいろと細かく記されている。そしてまた一つ。ぺらりとめくると一つだけびっしりと書かれたページがあった。他のページは少し行を開けて細かく書かれていたが、行が一切開いていない。

 

「……なにこれ…………」

 

 報告書にはこう記されていた。

 

 

「先日の榛名と矢矧がいた鎮守府に夜中再度一人で探索に行ってみた。明石には一つ無理を言わせてしまった。鎮守府周囲に深海棲艦はいなかった。正体不明の深海棲艦の攻撃を受けた鎮守府は、当然消し炭状態。その中に焼き焦げた死体があった。きっとあの提督だろう。そして死体の手にはUSBメモリが握られていた。外部が少し溶けていたが、中身を確認してみればまだ生きていた。このデータに関してはまたあとで記載する。そして死体以外に何かあると言えば何もなかった。資材すらもない。生物すら存在していなかった」

 

 そして次の文。

 

「メモリの中には彼女が書いたと思われる日記があった。このデータは後で自分のパソコンに保管をしておく。日記を見る限り、俺たちと同じように輸送ルートの奪還を命じられていた。だが、戦果を上げることができず、見捨てられた。あそこには市民という市民はまるでいない。だが資材が豊富だった。主に石油や石炭といった化石エネルギー。これは非常に大きい。だが、今となっては正直掘れるかどうか疑問だ。次の話だ。彼女は戦うことよりも守ることを重視していた。だからこそ轟沈した艦はだれ一人いなかった。だがあるひ正体不明の深海棲艦の襲撃を受け、大ダメージを受けた。それこそ再起不可能なレベルまで。かなりの数いたはずの艦娘たちはほとんど沈められ、最後までたっていた榛名と矢矧を逃がした。その結果が俺たちとの出会いだ。元に戻そう。先ほどから書いている正体不明の深海棲艦。推測クラスは戦艦もしくは姫。一撃の火力は未知数。そして形。もしあの時見た異形の深海棲艦と彼女が見た正体不明の深海棲艦が同じ個体だとすれば、変形することが可能と思われる。俺が見たのは六つの紅く光る眼。彼女が見た物は目が四つだった。彼女が言うにはあんなタイプは見たことがない。とのことだ」

 

 自分たちの提督を葬ったのがその正体不明の深海棲艦だとすれば仇を取ることになる。だが輸送ルートの道中にいるとは思えない。

 

「特徴は白い長い髪、青色に光る眼。それとレ級のような尾を持っている。だがその尾は艦載機を放ったり、砲弾を撃つことはしないようだ。何か別の意味があるらしい。そして名前。仮ではあるが彼女は「深海棲皇」となずけた。もしかすれば輸送ルートのどこかにいる可能性もある。注意するように心掛ける」

 

 その後は特にこれといった記載はなかった。

 

「……………」

 

 何も言わずに、ファイルを元に戻した。

 

「…………渚……」

 

 窓の外を見て呟く。白く輝く月が海を照らしている。

 

「………………………渚…必ず…あなたの後は継いでみせる。だから今は…私たちを見守っていて」

 

 

★孤島 泊地 出撃ゲート

 

 大工たちの頑張りによって予定より早く完成することになった。ここでブリーフィングをし、出撃準備を整えた。

 

「これより、TRR作戦の最終フェーズに入るわ。彼の悲願を達成してみせるのよ。渚にできなかったことを私たちがする。だから、必ず生きて帰って戻る。いいわね?」

「「「はい」」」

 

 全員が声を上げる。出撃する艦娘は矢矧、榛名、大鳳、武蔵、陸奥、加賀、瑞鳳、高雄、利根、神通、川内、暁、響の計一三の艦娘で出撃することになった。なお他の艦娘は泊地にて待機。鎮守府は大淀と明石に任せてある。

 

「さて、行くわよ!!」

 

 声を上げ、艤装を装備する。鎮守府とはまた違う形で装備される。床が割れ、艤装が現れる。その艤装をロボットアームが持ち、装備させてくれる。全ての艤装を装備し終わり、海面を切り裂き、出撃する。自分の後ろを榛名たちが追従してくる。

 

「………渚……私…頑張るから…だから、私たちを…見守ってて」

 

 艤装のトリガーを握りながら、呟いた。




いよいよ大詰めです。

相変わらずお待たせいたしました。

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