砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~   作:elsnoir

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弐拾参話 代償

★無人島周辺海域

side:矢矧

 

 渚が沈んだ。紅焔の中人影の姿はなく、あるのは破損した艤装のみ。また守ることができなかった。自分が守ると約束した。それなのに守れなかった。

 

「―――――ッッッ!!!!!」

 

 歯を食いしばり、港湾凄姫を睨みつける。海面を滑り出した。正面には渚を沈めた艦載機が空を漂っている。

 

「矢矧さん!!」

「矢矧、止まれ!!!!」

 

 榛名と武蔵が声を上げる。その声は届かない。今は渚を沈めたあれにしか目は届いていない。破壊する。それだけが今の自分を動かしていた。

 

 

side:榛名

 

 矢矧に声をかけたがまるで届いていない。敵艦載機から放たれる攻撃を確実に回避しながら港湾凄姫に接近していく。

 

「皆さん、矢矧さんを援護してください。今の彼女に何を言っても無駄なはずです」

 

 加賀が弓を構えながら言った。

 

「発艦はじめ!!」

 

 加賀の声に答え、大鳳が艦載機を放つ。続いて加賀、瑞鳳も艦載機を放った。

 

「……無理だけは……絶対に許しませんからね!!」

 

 三式弾を装填し、矢矧を狙う艦載機を目標に定めた。

 

 

side:矢矧

 

 砲を構え、撃ちながら接近する。渚がバリアを破壊したおかげで攻撃がすんなり通る。だが向こうも激しい攻撃を仕掛ける。弾丸に魚雷が迫る。

 

「倒すッ!!」

 

 速度をさらに上げる。放たれた砲弾が港湾凄姫に直撃し煙を上げる。まだ倒すというレベルには届かない。それでも戦っているのは自分だけではない。味方が艦載機を撃墜している。その間に距離を詰める。

 

「クルナ…」

 

 港湾凄姫が砲を構え、一撃を放った。横に動き、砲弾を回避する。一撃では済まず、二度も三度も放たれた。今度も横に避けた。だったのだが、三度目に放たれた砲弾が、回避するのに行動が送れ、被弾してしまった。艤装の左側が破損し、海に落下した。

 

「ッ!!」

 

 左手が焼ける。それでも立ち止まらずにさらに距離を詰める。港湾凄姫を睨みつけ、砲を構える。

 

「クルナ……クルナ……クルナ…!!」

 

 港湾凄姫の顔が恐怖に染まっていく。続けざまに砲弾を放つ。放たれた砲弾を的確に回避していく。そして距離がとうとう近くなった。

 

「破壊するッ!!」

 

 砲弾を放つ。一直線に飛んだ砲弾が港湾凄姫の顔面に直撃する。そして艤装のエンジンをフルスロットルさせ、海面を蹴り、跳躍する。

 

「ッッッ!?」

 

 港湾凄姫の正面に飛びかかり、右手に持つ艤装の砲身を顔面に殴りつける。

 

「…………ぐ………うあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 声を上げ、力を込める。港湾凄姫から小さな悲鳴と共にミシミシという音が響く。港湾凄姫の重い体が一瞬軽く感じられた。次の瞬間、青黒い液体をばらまきながら爆発した。

 

「はあ…はあ……はあ……」

 

 がしゃんという音を鳴らし、装備していた艤装が外れ、地に落ちる。渚の仇はとった。だが仇を取ったところで彼が帰ってくるわけではない。

 

「…………っ」

 

 がくりと力が抜けたように膝をついてしまった。自然と涙があふれてきた。守るべきものすら守れなかったことの悔し涙。そして大切な仲間を失った悲し涙。

 

「………戻りましょう」

 

 いつの間にか後ろにいた榛名が、声をかけてきた。彼が沈んだところには破損した艤装と焼き切れた軍服とボロボロになった帽子が浮かんでいるだけだった。ズタボロの体を無理やり動かし、海面を再び滑り出す。そして焼き焦げ、穴の開いた帽子を拾う。

 

「………渚…あとは…私に任せて」

 

 そう一言言い、海域から去った。


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