砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~   作:elsnoir

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壱拾五話 戦力と資材の引換には

side:渚

 

 資材を持ち海面を滑り始めた。背後であの提督が手を振りながら見送っている。

 

「…………なんだ…」

「どうしたんですか?」

「……胸騒ぎがする……今すぐここから離れたほうがいいとも言っている気がして、今すぐ戻れって言ってるような気がする……」

 

 少しだけ息苦しい。胸がざわざわする。体重移動が滅茶苦茶になっている。早く進もうと前に体重を傾けると、引き返そうと体重を後ろに傾ける。

 

「……提督?大丈夫?」

 

 矢矧が声をかけてきた。他の皆も心配そうに見つめている。

 

「………わからな」

 

 振り向きながら「わからない」と言おうとした。次の瞬間、熱風が渚たちを襲った。

 

「うっ!」

「きゃあ!?」

 

 突然の熱風。吹き出した方向は自分たちの背後。つまりは、さっきまでいた鎮守府。

 

「………嘘…だろ……」

 

 ついさっきまでいた鎮守府は黒い爆炎を上げ、炎上していた。油のにおいが立ち込めていた。

 

「……………油のにおい…燃料を…やられた…!」

 

 鎮守府全体を爆炎が包み込んでいた。彼女がいた場所すらも炎がある。

 

「………ぁ」

 

 ばしゃん、と何かが水に触れる音がする。背後を見る。そこにいたのは目から涙を流し膝をついた榛名だった。

 

「……………てい……とく……」

「榛名!榛名!!」

 

 肩を揺さぶり、声をかける。全く返事がない。

 

「………………………」

「くっ」

 

 背後を見る。爆炎と煙でよく見えないが海面に何かいる。深海棲艦だが一体だけ特殊なやつがいた。巨躯に赤い光が六つ見える。

 

「榛名!榛名!!」

「…………………」

「いい加減にしろ榛名!!」

 

 右手を開き、榛名の左頬をはたいた。ぺしん!と乾いた音が響く。

 

「つっ!!」

「今ここで止まっていたら、死んだアイツはどうなる!俺たちを逃がすためにあそこで気を引いていたあの提督の行為を無駄にするつもりか!」

「っ!」

「今は退くぞ!この状況で攻められたら俺たちすら沈む!今ここで沈んだらあいつに顔向けできないだろ!」

 

 榛名が俯く。渚は声をかけ続ける。

 

「いいな!」

「…………はい」

 

 かすれるような声で答えた榛名だった。声に力もなく立ち上がるのも力が見えなかった。彼女は涙を流しながら海面を滑り出した。

 

 

★鎮守府 執務室

 

 あれから五時間後。

 

「……資材の確保、並びに戦力の増強には成功…………だが…」

「……向こうの提督が死亡…そして残っていた資材も消失…」

 

 重い空気が充満していた。

 

「………榛名たちはどうだ…?」

「…………」

 

 首を横に振る大淀。それも当然だ。自分の慕っていた提督が死んだ。それがどれだけ辛いことか。

 

「…ちょっと出る」

 

 一言残し、執務室を出た。

 

 

★鎮守府 港

 

 榛名たちを探しているうちに港までやってきた。そして榛名は港にいた。

 

「……ひぐっ…っ………」

 

 膝を抱え泣いていた。

 

「……………」

 

 無言で近づき、彼女の隣に腰を掛けた。いつも張り切って、頼もしかった彼女が今はとても小さく見えた。

 

「…………あの時はすまなかった…」

「……いえ……榛名が…悪いんです……」

「…俺も昔な、大切な人を失ったことがあるんだ」

 

 昔の話。その時の自分は今の彼女のように膝を抱えて泣いていた。妹の話によれば頼りになる兄が誰よりも頼りなかったと。

 

「………士官学校に行く前、家族で旅行に出かけたんだ。その時に深海棲艦の被害にあったんだ。そして姉を守ろうとしてかばおうしたんだ。だけど俺の姉はかばおうとした俺を突き飛ばした。放たれた砲弾は直撃。奇跡的に生きたけど結局死んだ」

 

 その時自分が悔しかった。守れたはずの存在を守れなかった。

 

「血を流して、ズタボロになってかすれた声で俺に行った。「守ろうとしてくれてありがとう。私は大丈夫だから。強くなってお父さんとお母さんと妹を守ってあげて」ってな」

「……それで…士官学校に…」

「ああ。親父が昔すごい人でな。事故が起こる前から体は鍛えていたが、その日からさらに体を鍛えるようにした。そして今に当たる」

 

 その結果化け物じみた体を得て、守るべき力を得たような結果になった。

 

「……結局何が言いたいかというとな。死んだ人の意志を背負って、その人の分まで生きるってことを学んだんだ。だからあの提督の分まで俺たちは戦って生きていかなければいかない」

「……そうですよね」

「ああ。そうじゃなきゃ、上にいる彼女に顔向けできない」

 

 こうやっている間もきっと空から見守っているに違いない。

 

「…榛名、もう大丈夫か?」

「………はいっ、榛名は大丈夫です!」

 

 彼女の目には涙の痕があるが、笑顔で答えた。

 

 

★鎮守府 会議室

 

 翌日の朝、艦娘全員と大淀と明石を会議室に呼び出した。

 

「さて、本日集まってもらったのはほかでもない。そろそろ輸送ルートの確保を始めようとしているわけだ。そこで、明後日から作戦を発令する!」

「「「「「!!!」」」」」

 

 唐突で、驚きのある発言だった。

 

「この島は自給自足で補っている分が強く、食糧とかはすぐ困るようなところではないが、輸入物は一切なし、並びに資源の在庫というものがある。いずれはなくなる。そこで戦力が増強できた今、輸送ルートの確保へと移る!」

 

 

●艦娘の日記

side:武蔵

 

 驚く日だった。よくわからない提督と艦娘が来たと思ったら、その日のうちに提督が殺された。この作戦を決行している最中に仇がとれるはず。その時は必ず沈めて見せる…!

 

 

side:大鳳

 

 提督が深海棲艦に殺されました。今は新しい提督の元で戦うことになりました。必ず提督の仇はとって見せます。




皆様の応援もあり、お気に入りの件数が200件を超えました。閲覧、お気に入り、評価してくださった皆様、本当にありがとうございます。これからもぜひよろしくお願いします。

普段は夜九時から書いています。その時は大体ツイCASもやっています。私の「elsnoir」検索していただければ見つかります。よろしかったら来てみてください。

再度言いますが、これからさらに渚を大きく暴走させますが、ぜひよろしくお願いします。
感想、意見等お待ちしております。

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