砲雷撃戦(物理)するには提督は必要ですか? ~はい。提督は脳筋仕様の化け物です~   作:elsnoir

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九話 大きな意志/小さな感情

★鎮守府正面海域 エリアC

side:矢矧

 

 目の前にいるのは自分たちの敵。背後にいるのは人の形をしたバケモノ(味方)。どうしてこうなってしまったのだろう。いや、正確にはどうしてこんな提督になってしまったのだろうか。仕方ないのか、それともこれが普通なのか。どちらにせよ異常すぎる。

 

「みんな無事か!?」

「私を除いて皆無傷よ」

 

 自分は吹雪をかばうために被弾した。艤装の一部が破損している。まだ戦うことはできる。

 

「その様子を見るとまだ艤装は使えるな?」

「ええ。問題ないわ」

「よし、行くぞっ!」

 

 渚が左手のドラム缶をぶんぶん振り回しながら突撃していった。

 

 

side:渚

 

 左のドラム缶を振り回しながら、ダメージを受けたチ級に向けて海面を走る。前面の敵を見ると深海棲艦すべての顔が青ざめているような気がした。もとから肌が白いからそう見えるかもしれないが、明らかに顔が恐怖にまみれているのだ。おまけに震えている。いったい何に恐怖しているか渚はわからなかった。

 

「なんだ、みんなして調子悪いのか。敵だからと言って容赦はしないぞ!!」

 

 自分がその原因だと知らずに特攻していく渚。おびえながらに砲弾を撃つチ級。その砲弾をかわし、振り回していたドラム缶をチ級に向けてぶつける。低い音が響き、チ級が爆発四散する。このドラム缶、鋼材で分厚くコーティングされていて、単装砲で殴ることと同じくらいダメージを与えることができる。もしかすると単装砲で殴るより凶悪かもしれない。自由はきかないが、少し離れた距離で当てることができる。

 引き続き殲滅に移る。今度はタ級。

 

 「あんたも戦艦か……だが知らん!」

 

 いつもと変わらず、接近する。このタ級もよく人の形と酷似している。ル級と比べ服装が薄着だ。艤装らしき武装は腰についている。誰が相手だろうとつぶす。それが渚の意志だ。

 

「ふぅんす!!」

 

 右手のドラム缶を押し出すようにぶん投げる。投げられたドラム缶は抵抗という言葉を知らず、タ級に飛んでいく。

 

「!?」

 

 飛んできたドラム缶に対応できず直撃する。タ級が顔を上げた時には渚はいつもの範囲に入っていた。

 

「はああああああああああああああああ!!」

 

 ドラム缶を持つかのように鎖を短くに握る。そしてそのままタ級の頭をドラム缶で殴る。ひるませたタ級にだめ押しの一撃。顔面をドラム缶で殴った。先ほどのチ級と同じように爆発した。

 渚が戦果を上げている間に、中破したヲ級一体と、泊地凄姫のみになっていた。

 

 

side:吹雪

 

 視界の中には中破したヲ級。艦載機を飛ばすことはできない。ならばこちらの番だ。

 

「いっけぇええええええええええ!!」

 

 腰に装備された魚雷を放つ。海中を高速で駆けぬけ、目標のヲ級に接近する。魚雷だけでは倒せないと判断し、12.7cm連装砲を構える。目標を定め、狙いを定める。

 吹雪の様相通り、魚雷はかわされた。だが、狙いは定めているままだ。

 

「当たってください!!」

 

 小さな砲身から飛んで行った砲弾は的確にヲ級に直撃する。頭部の帽子らしき部分に直撃し、煙を上げる。そこに追撃をかけるように夕張が単装砲の引き金を引く。夕張が放った砲弾もヲ級に直撃し、爆炎を上げた。さらに、電が追撃を仕掛ける。

 

「魚雷装点ですっ!」

 

 電も同じように横腹に装填された魚雷を海面に放つ。海中をかけた魚雷はヲ級に直撃する。そして巨大な水しぶきを上げ、ヲ級が沈んでいく。

 

「やったぁ!」

 

 これで残るは一つ。一つだけ形の違う特殊な艦。

 

 

side:渚

 

 吹雪たちがヲ級を沈め、残るは最後の艦。一つだけ違う形の艦。戦艦とか空母とかそういった類に分類されない特殊な艦。鬼や姫と呼ばれる特殊なクラスだ。過去に榛名たちを助けた時にいた巨大な深海棲艦を引き連れた艦は戦艦という分類になるらしい。視線の先にいる奴は榛名と矢矧の話を聞けば姫と呼ばれる鬼の上位クラスになる艦だ。

 

「クラスは姫。系統は戦艦になります。ですが艦載機による攻撃も仕掛けてきます。注意してください!」

 

 榛名が通信で声をかけながら砲撃を放つ。放たれた砲弾はバリアのような何かに弾かれ泊地凄姫には届かなかった。

 

「バリア…か?」

 

 バリアのような物を破れば攻撃が通る。だが通すまでが問題そうだ。そんなことを考えているうちに泊地凄姫が攻撃を仕掛けようとしてきた。近くに浮かぶ丸い球体が口を開ける。そこから砲身が伸びた。

 

「来るか!」

 

 渚の言うとおり、砲身から砲弾が放たれた。その砲弾を回避しながら泊地凄姫に向けて突き進む。

 

「こんのぉ!!」

 

 右手のドラム缶を投げる。榛名の撃った砲弾と同じように弾かれる。物理でもダメなようだ。

 

「榛名っ、矢矧っ、どうすればいい!?」

「ダメージを与え続けるしかないわ!」

 

 矢矧が艤装の引き金を引く。撃った砲弾はやはり弾かれる。榛名も艤装から砲弾を放つ。正直ダメージを与えている気がしない。でも、ダメージを与え続ければいつか突破できるはずだ。

 

「だったら…!」

 

 右手のドラム缶を背負い、腰に装備されている14cm単装砲を握る。

 

「当たってくれよ…!」

 

 訓練では一発も当たらなかった。だからこそ心配だ。狙いを定め引き金を引く。放たれた砲弾は空を突き進み、泊地凄姫に向かっていく。だが、直撃したのはやはりバリア。向こうの攻撃は通るのに、こちらの攻撃は通らない。それが何よりも辛い。

 泊地凄姫がさらに砲弾を放つ。放たれた砲弾は矢矧に向かって飛んで行った。ちょうど矢矧は砲弾を放った瞬間で、硬直していた。

 

「矢矧!!!!」

 

 14cm単装砲をしまい、両手にドラム缶に接続されている鎖を握る。それをさらに短く握る。幸い距離が近かったためすぐにかばうことができた。強烈な衝撃とともに熱風が渚を襲う。

 

「提督っ!?」

「…ぐ」

 

 両手のドラム缶を立てのように構え、放たれた一撃を防いだ。完全に防いだわけでなく衝撃、熱風、爆発は防げなかった。渚の軍服が焼け焦げ、素肌が見えている。素肌からは血がにじんでいる。一か所だけではない。何か所もだ。

 

「………矢矧、無事か…」

「なにやってるの……あなたは艦娘じゃない!普通の人のなのよ!私をかばうなんて……」

「…二人がいたところの提督なら同じことをしただろうな……」

「えっ?」

「………俺も、あの提督のようにお前たちを大切に思っている。兵器ではなく、一人の人として…だ」

 

 ボロボロの状態で言う。自分が思っていることをそのまま伝えた。

 

「………さあ、反撃だ!!」

 

 ドラム缶をおろし、海面を高速ですべる。右手の短く握っていた鎖を普通に持つ。ドラム缶が少し離れたところで風で揺らぐ。

 

「やるだけやってやる!!」

 

 右手を軽く振り、ドラム缶を前に投げる。渚は軽く跳躍する。そして前に浮かんだドラム缶を足につけた艤装の部分で泊地凄姫に向けて助走付きで蹴り飛ばす。重い巨大な筒が飛んでいく。ガィン!と音を立てて弾かれるドラム缶。何も握っていない右手に14cm単装砲を握る。そこに追撃を加える。蹴った瞬間に全速力で泊地凄姫に向かう。ドラム缶が弾かれたときにはすぐ近くにいた。

 

「ぶっ壊れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 雄たけびをあげ、右手の単装砲をバリアに向けて殴りつける。

 

「ムダナコトヲ……」

 

 泊地凄姫があざ笑う。

 

「無駄、か………そいつは……どうかな!!!」

 

 単装砲が接触している部分からバリアにひびが入り始めた。

 

「ナッ!?」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 左手に握られているドラム缶をバリアに向けて振り下ろす。ドラム缶が接触すると同時に今までの衝撃に耐えきれなかったバリアがガラス割れたような音を立てて砕け散る。バリアを失った泊地凄姫に向けて

 

「お返しの………ブロオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 右手の14cm単装砲を泊地凄姫の腹にめり込ませ、全力で振り上げる。そこに14cm単装砲の砲撃を零距離で加える。泊地凄姫の体が浮き上がる。

 

「榛名!」

 

 矢矧が声を上げる。

 

「はいっ!!」

 

 矢矧と榛名は艤装の砲身を浮いた泊地凄姫に向ける。

 

「「てーっ!!!」」

 

 装填されている砲弾をすべて撃つ。放たれた砲弾が泊地凄姫に直撃し、大爆発を起こす。

 

「よぅし!勝った!!」

 

 今回も渚たちの勝利になった。また新しく制海権を得ることができた。

 

 

★鎮守府 医務室

 

 帰投した瞬間に、榛名と矢矧に手を引っ張られる。そこで簡単な治療をすることになった。

 

「痛っ」

「我慢してください」

 

 軍服を脱ぎ、今は上半身は裸の状態だ。体に至る所に消毒を吸った綿で拭かれる。こうなったのは自分のせいだが、まさか榛名と矢矧に治療されるとは思っていなかった。

 

「提督…」

 

 矢矧手を動かしながらが口を開いた。ぺたぺたと絆創膏が体に張られる。

 

「………さっきは…その、ありがとう」

 

 少し顔を赤くしながら呟いた。

 

「…別に感謝されることはしていないが………俺が何かしたか?」

「私をかばったことよ。それに、あなたの言ったことが、嬉しかった…」

 

 少し俯きながら呟く。

 

「…………」

 

 渚が矢矧の頭に右手を置く。そして優しく撫でてあげた。矢矧が一瞬、びくっと体を震わす。その後矢矧の顔が真っ赤になっていた。うつむいても分かった。耳まで赤くなっていたからだ。

 矢矧の腕が止まっているなか、榛名は渚の治療を続けていた。

 

「…あの」

 

 手を動かしながら口を開く。彼女の目を見る。その目が何を訴えているかすぐに分かった。左手を榛名の頭に置き、矢矧と同じように優しく撫でてあげた。榛名は矢矧のように体を震わすことはなかった。うつむくこともなかったが、榛名の頬は少しだけ赤くなっていたような気がした。

 

「……………」

 

 無言で二人の頭を撫でる渚。矢矧に関しては撫でてあげればそのまま何も言わない。榛名に関しては撫でてほしい目線で訴えていた。二人の気持ちがよくわからなかった渚だった。渚の治療が再開されたのは撫で始めてから約八分くらいだ。

 

 

●艦娘の日記

side:榛名

 

 今日は出撃で、また制海権を得ることができました。渚さんのところに着いてから初めての正式な出撃です。最初から主力艦隊の旗艦にしてもらいました。やっぱり渚さんは変わっていて、これからが少し不安です……帰還して提督を治療して矢矧さんが撫でてもらっていたので、榛名も撫でてもらいました。提督に撫でられるとなんだかとっても安らぎました。温かくて懐かしいような……そんな感じです。


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