日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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悩みの種は尽きぬ物

朝食をとると、授業に向かう。

授業は予習を行っていた俺には簡単で、内容よりも先生がどんな人かを見極めるものとなった。

中でも、マクゴナガル先生は印象的だった。ほとんどの先生は最初ということでどこか甘いところが見られたが、この人は違った。

 

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの一つです。いい加減な態度で受けるようならば、私の授業では教室から出て行ってもらいます。二度とクラスに入れません。わかりましたね?」

 

そういって授業が始まった。他の授業ではどこかヘラヘラしていたドラコも、さすがにこの授業はしっかり聞いていた。先生の授業はわかりやすく、教科書では複雑に書かれている説明を数倍もわかりやすく説明してくれる。もっとも、予習をしていないものにはただの複雑な説明に聞こえるだろうが………。

ノートを取り終えると、マッチ棒が配られて、それを針にする練習が始まった。難しいというだけあって、しっかり予習をしてきたはずの俺でも多少の時間がかかった。しかし、練習開始の二十分後には俺はマッチ棒を銀の針に変えており、ドラコのアドバイスに回っていたが。

これにはマクゴナガル先生も驚いていた。俺の針をしっかりチェックした後、珍しく微笑みながら賞賛と十点の点数をスリザリンに与えた。この出来事で、俺はマクゴナガル先生にかなりの好感を持たれたようだ。

 

週の終わりである金曜日はグリフィンドールと初の合同授業だった。ドラコはどこか嫌そうな顔をしている。疑問に思った俺は、朝食をつまみながら聞いてみた。

 

「どうした、ドラコ? グリフィンドールに嫌な奴がいるのか?」

 

「うん、まあね。………それに、他の寮にはマグル生まれがいるし。だから、合同授業は嫌いなんだ。分かるだろう?」

 

「………人の好き嫌いはとやかく言わないが、そのマグル嫌いは直した方がいいと思うぞ?」

 

「どうしてだい? 君だって純血主義を望んでいるんだろ?」

 

いい機会だ。ここで誤解を解こう。そう思って口を開いたのだが、それは突然飛んできたフクロウによってさえぎられた。

 

「お、フクロウ便だ。僕宛だな………。父上からの手紙だ! ちょっとごめんよ。今、読ましてくれ」

 

そういって、嬉しそうに手紙を読むドラコに俺は何も言えず、またも機会を逃してしまった。幸い、まだいざこざは起きていないが、このままではグレンジャーに絡むのも一苦労だろう。いっそ、いざこざを起こして、その場で誤解を解こうか? なんて考えながら、魔法薬学の教室へ向かった。

魔法薬学の教室は地下にあって、何故か寒気がする。周りにおいてある動物の液体付けは先生の趣味だろうか?とにかく、気味が悪い。スネイプ先生はまず出席を取るところから始めた。その際に、ポッターの所で止まり、猫なで声で「ああ、さよう。新しい………スターだね」と言ったのにはドラコが嬉しそうに反応した。ドラコが嫌いなのはポッターなのだろうか?

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ。」

 

 

出席を取り終えると、スネイプ先生はいきなり話し始めた。静かな声だが、どこか人を引つけるものがある。皆、一言も話さずに聞いている。静かな空間の中、先生の声だけが響く。

 

「……………諸君がこの見事さを真に理解することは期待しておらん。吾輩が教えるのは、名声をビン詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である。ただし、吾輩がこれまで教えてきたウスノロ達より諸君がまだましであればの話だが」

 

話を終えると、授業に入るのかと思いきや、いきなりポッターの名を呼び、質問した。

 

「アスフォデル球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを何になるか?」

 

いきなりの抜き打ちテスト。指名されたポッターだけでなく、答えられないものはここの大半だろう。

そう思って周りを見ると、予想通り何を言ってるか分からないと言う顔をがたくさんあった。ポッターも「わかりません」としか答えられないようだ。唯一、グレンジャーだけが手を挙げて、自分は知っているということをアピールしている。

手を上げ続けるグレンジャーを見て、それを止めたくなった。先生の目的は質問の答えを聞くことではなく、別のことにある気がしていた。どこかで見た軍隊の慣習を思い浮かべながらそう思った。

グレンジャーに忠告してやりたかったが、あいにく席が離れていて声がかけられない。そうしている間にも質問は続き、三つ目でポッターがグレンジャーに聞けと言った。先生は不快そうにした後、グレンジャーに席に着けと叱り、質問の解説をする。そして、ノートを取る気配のない俺達を叱った。思った通り、さっきの質問は俺達に気を引き締めさせるためのものだったようだ。この授業の厳しさを体験する。

説明の後、おできを直す薬の調合を二人一組で行うことになり、俺はドラコと組んで作業をすることとなった。隣の席では、なんと、ロングボトムが調合することになった。ロングボトムも俺に気が付いたのか、嬉しそうにしている。が、どこかよそよそしい。やはり、違う寮になってしまったからだろう。そのことで少し感傷に浸りながらも、教科書通りに進め、作業を俺が指示しつつドラコと共同でやることであっさりと薬ができた。先生は回りながら生徒のダメ出しをしていたのだが、俺たちの席に来ると完成している薬を見てかなり驚いたようだ。そうして大きめの声で、周りに見習うように言った。それから先生はドラコを褒め、次に俺に向き直り、話しかけてきた。

 

「お前は確か、ジン・エトウだったな? 魔法薬の調合はやったことがあるのか?」

 

「いえ、これが初めてです」

 

緊張しつつもしっかりとした返事を心がける。俺の返答を聞いて、スネイプ先生は不審に思う様子を見せた。

 

「……信じられんな。それにしてはずいぶんと手際がいい。どうしてだ?」

 

「どうして、と言われましても……。教科書通りに進めただけですし。材料を切るのは料理をやっていたんで慣れてるんです。なにか似ていますし」

 

「………そうか」

 

俺の回答に、何やら考えるようにしながら次の席へと回っていった。さすがに薬品と食材を同列にしたのは失礼だっただろうか。調合も終わり、暇になったドラコはクラッブとゴイルの方へと向かっていった。アドバイスをしに行ったようだ。折角なので、俺は隣のロングボトムともう一人の知らないグリフィンドール生にアドバイスしようとそちらを見たら、あろうことかロングボトムが大鍋を加熱したまま山嵐の針を入れようとしていた。要するに、薬品を爆発させようとしているのだ。

 

「おい、ロングボトム! 火を止めろ!」

 

いきなり大きな声を出したのがいけなかったのだろう。ビクリっとしたロングボトムはそのまま持っていた針を大鍋の中に落としてしまった。俺は急いでロングボトムともう一人のグリフィンドール生を大鍋から強引に遠ざけ、火を消そうとした。

しかし、これもまた失敗だった。二人を遠ざけるまでは良かったが、火を消そうとしたのはいけなかった。火を消すと同時に、大鍋は割れて、必然的に、前にいた俺はその薬を頭からかぶってしまった。

薬は直前まで加熱していたので、相当熱い。熱さと痛みに一瞬意識が持っていかれた。どこからか悲鳴が耳を打った。自分の声だと気付いたのは少し経ってからだった。怒鳴る声も聞こえてきたが、目も開けられないので状況が認識できない。かろうじて、俺を医務室に連れて行けという先生の声と手を引っ張る感覚を感じたので、おとなしく誰かに誘導されていった。

痛みもなくなり、意識もはっきりしたら、そこはベッドの上だった。近くには医務の先生であるマダム・ポンフリーと心配そうに俺を見るドラコがいた。誘導してくれたのは、どうやらドラコのようだ。マダム・ポンフリーは話を聞いているらしく、俺の意識がはっきりしたのを確認すると話し始めた。

 

「とりあえず、どこか痛いところはありますか?」

 

「いえ、何処にも。もう大丈夫ですよ。ありがとうございました」

 

「薬によるおできと軽い火傷が全身にありました。火傷はもうほとんど引いたはずですが、おできの方はまだ少し残っています。今日はここに泊まってもらいます。明日には退院してもいいですが、しばらくは安静にしておきなさい。いいですね?」

 

反論は受け入れないという話し方に、とりあえず頷いて返事をする。おとなしくしとかないと、なんだかめんどくさそうというのは感じ取れた。すると今度は、ドラコが話し始めた。

 

「ジン、大丈夫かい? まったく、ロングボトムの奴………。あいつのせいでジンが怪我をしたんだ。先生がしっかりと叱ってくれていたらしいよ。グリフィンドールはニ十点マイナスだってさ。いい気味だ」

 

「まあ、そう悪く言うな。大したことなかったんだし」

 

「君こそもっと怒るべきだ! 怪我をさせられたんだぞ?」

 

自分よりも憤るドラコに苦笑いを向けつつ、返事をする。

 

「まあ、あいつが鈍いことはもう知ってる。でも、優しい奴だって知ってるからな。今頃、泣いてるんじゃないか? 怒るのは謝りに来ない時に考えておこう」

 

「………き、君はどこまでお人好しなんだい? 笑って許すなんて………」

 

「お人好しというのは違うな。まあ、ロングボトムは好きなんだ。好きな奴には、どうしても甘くなるだろう、誰だって」

 

「す、好きって……。……もういいよ。どうせ君のことだ。何か考えているんだろう?」

 

「変なこと言うな? さっき言ったこと以外、何も考えちゃいないよ。」

 

何処か期待を込めたようなドラコの言葉も一蹴する。ドラコは溜息をつくと諦めたように身を引いた。

 

「………もういいよ。夕方にまた来るよ。じゃあ、その時に。何か欲しいものはあるかい?」

 

「気にすんな。ありがとな、ドラコ」

 

「い、いいよ。当然のことだ!」

 

そう言うと、ドラコは少し照れながら医務室を出て行った。マダム・ポンフリーは部屋の奥に行っていて、暇になった。しばらくこの一週間を振り返っていると、医務室のドアがノックされた。マダム・ポンフリーが対応し、こちらに連れてきたのは、予想通り泣きそうな顔をしたロングボトムだった。ついでに、グレンジャーも一緒だった。それも予想の範囲内だった。最初に口を開いたのは、当然、ロングボトム。

 

「じ、ジン。ゴメンね。ほんとにゴメン。僕のせいで怪我をさせて。入院までさせてしまって………」

 

「そうだな。いいよ、気にするな」

 

あまりにもあっさりと許したのにはロングボトムだけでなく、グレンジャーも驚いていた。一言くらいの小言を言っても良かった、とロングボトムの様子を見て悪戯心がうずいた。泣きそうなロングボトムの顔を見て、少し弄りたくなってしまった自分を抑えていると、ロングボトムが食い下がってきた。

 

「で、でも、あれだけのことをして、気にするなってだけで………。僕もはいそうですかって言うわけにはいかないよ! 何か、僕にできることはない? 何でもするよ?」

 

「………なら、もうこういったことを起こさないように努力してくれ。まあ、反省してるならするだろ?」

 

「で、でも………。そんなことでいいの?」

 

「そんなことって言うけど、おまえにとっちゃ厳しいことだろ? 要するに、鈍さを改善しろって言ってんだぞ? できんのか?」

 

「そ、それは………」

 

「なんでもするんだろ? 期待してるよ」

 

微笑みとともにそう告げると、ロングボトムは何も言えなくなってしまった。

 

「安心したよ。もうトレバーを探すロングボトムは見ることはないのは残念だけど」

 

ついからかってしまうと、ロングボトムは真っ赤になって俯いてしまう。可笑しくて、笑ってしまった。グレンジャーもクスクスと笑っている。真っ赤になったロングボトムをいったん置いといて、俺はグレンジャーに話しかけた。

 

「久しぶりだな、グレンジャー。来てくれて嬉しいよ」

 

「ええ。だって心配だったんですもの。………それに、ネビルだけじゃ行きにくい雰囲気だったの」

 

少し陰のある物言いが気になり、追求した。

 

「雰囲気? なんかあったのか?」

 

「…………あなたがいなくなった後、スリザリンとグリフィンドールの間でいざこざがあったの。当然、先生がその場を収めたんだけど、ネビルだけじゃなくてハリーからも理不尽な理由で点数を引いたのよ。それで、皆、カンカンになっちゃって………」

 

「ああ、ニ十点も引かれたんだってな」

 

「ええ。しかも、そのことをスリザリンがはやし立てるから、その、えっと………」

 

「つまり、俺も嫌な奴だから見舞いに行くなと?」

 

言いにくそうにしているグレンジャーの言葉を引き受ける。それを聞いて、苦々しそうに頷いた。

 

「え、ええ。まあ。でも、全員がそういうわけじゃないのよ! 私たちの主張も聞いてくれる人は何人かいたし………」

 

「まあ、結局、お前らは見舞いに来てくれたんだ。気にしなくていいよ」

 

ロングボトムの時と同じように、グレンジャーも簡単には意見を受け入れられないようだった。

 

「でも、ジンは正しいことをしたのよ!? それなのに、あんなに悪く言われるんだなんて………」

 

どうやら、俺のグリフィンドールでの評価は相当悪いらしい。医務室に行ったのも、大袈裟にしてグリフィンドールから点数を引こうとしたのだとも言っている奴がいるらしい。それを気にして、ロングボトムとグレンジャーが反論しているようだがあまり効果は見られないようだ。なら、そう思いたい奴にはそう思わせておけばいい。無理に撤回させようとして、二人まで寮で気まずくなるのは嫌だからな。そのことを伝えると、グレンジャーは少し不機嫌な顔をし、ロングボトムは少し心配そうな顔をした。

 

「大丈夫。俺の寮はスリザリンだ。お前ら以外のグリフィンドールに嫌われても問題はない」

 

そこで、渋々と一応は納得してくれたのか、話は終わりとなった。時間もかなり経っていて、二人に急いで寮へ帰ることを勧めた。帰り際、ふとグレンジャーが振り返り、聞いてきた。

 

「あ、私は夕方にもう一回ここに来るけど、何か欲しいものはある?」

 

「気にすんな。ありがとな、グレンジャー」

 

「いいわよ。当然のことだし。」

 

そう言うと、グレンジャーは少し照れながら医務室を出て行った。

そんな光景に既視感を覚えて首をかしげると、一つのことに思い当たった。少し血の気が引いた。

今、一番会わせたくない二人が顔を合わせることになる。




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