ドラコが他の奴らを呼んで部屋に戻ってきた。連れてこられたパンジー、ブレーズ、ダフネ、アストリアは少し戸惑っていた。
俺は、ドラコへした説明を他の奴らにもした。
俺が対抗試合に出たくないこと。命を狙われていると、本気で思っていること。優勝なんてどうでもよくて、ただ生きていることを望んで欲しいこと。そして、それを言うのが怖くて、今まで言えなかったこと。
それらを聞いた時の反応は、それぞれ違っていた。
ブレーズは呆れた様な表情だった。俺の事を面倒くさい奴だと言いたげだった。
ダフネは少し泣きそうだった。俺の為に、と思っていたことが全て裏目に出ていたこと。そして、俺が親友達を信じ切れていなかったという事実にショックを受けていた。
アストリアは、納得したようだった。それから心配そうな表情で俺を見た。
パンジーは烈火のごとく怒った。パンジーが俺のためにしてきたことが、全て無駄だったと思った様だ。そして、俺がダフネを悲しませたと言って、怒鳴り散らした。
俺はパンジーに土下座をさせられた。
「あんた、これから話が終わるまで頭上げるんじゃないわよ! いいわね!」
反抗はしなかった。実際、俺はパンジーの思いやりを無下にしたし、パンジーが何よりも怒っていたのがダフネを悲しませた、という点であったことを承知していたから。
頭を低い位置に固定をする俺を眺めながら、パンジーはグチグチと俺を責めた。
「……あんた、ダフネが泣きながら心配してたの知ってたわよね? そんなダフネに、嘘を吐いたと? 何が、俺は死なないよ! 死にかけてたじゃない! そんで、命狙われてんじゃない! よくそんなことが言えたわね!」
「……お前らに、心配かけたくなかったんだ」
「はい、出ました! 責任転嫁! 何が心配かけたくなかったよ! 私達を信じてなかったって、自分で言ったじゃない! あんた、しゃべるのも禁止!」
反論も封じられ、俺は黙って頭を下げたままパンジーの叱責を受ける事となった。
途中、アストリアが口を挟んだ。
「でも、パンジー。私達、選手になっておめでとうって言っちゃってたよ。……ジンも、言いにくかったんだよ。ね、そろそろ許し――」
「アストリア、駄目だぞ、こいつを甘やかしちゃ。お前の大事なお姉ちゃんを泣かせたんだ。黙って見てような?」
俺を庇おうとしたアストリアを、ブレーズが面白がるようにしながら止めた。頭を下げているので見えないが、恐らく口をふさいだのだろう。
ブレーズが、今の状況を誰よりも楽しんでいるのが分かった。
「大体ね! 私達が、あんたが優勝するって、今も言い続けてたのは、あんたを守る為だったってのも分かんないの? 普通に考えて、一試合目ダブルスコアなのに、優勝信じてますって、正気じゃないでしょうが!」
一言一言に怒気を孕ませながら、パンジーは俺を責めた。それも、俺が恥ずかしい思いをするような責め方をしながら、だ。
「傲慢が過ぎるのよ、あんた! それでいて、今更、試合に出たくないですって? そんなの、ドラコに言われなくたって分かってたわよ!」
「あ、言われないと分からなかったのパンジーだけな。俺とダフネはなんとなく察してたぞ。アストリアも、まあ、多分察してた」
パンジーの説明にブレーズが茶々を入れるように補足する。俺がいかに親友達を信じていなかったか。それをブレーズなりに責めているのだと分かった。
ここまできて、流石にいたたまれなくなってつい謝罪を口にした。
「……本当にすまなかった」
「しゃべるの禁止!」
謝罪も許されなかった。ドラコとブレーズが爆笑していた。
それからブレーズは、猫なで声でパンジーに声をかけた。
「まあまあ、パンジー。こいつのこと、少しは許してやろうじゃないか。寛大な心でよ。可愛い奴だぞ、こいつは。俺達に嫌われたくなくて、必死に強がっちゃったんだ。なあ、ジン? 俺達に嫌われるのが、ドラゴンよりも怖かったんだろ?」
ブレーズが人をからかうことに長けているのを、今になって実感した。ブレーズとパンジーは、話の揚げ足をとることに関しては一人前だ。
パンジーは散々俺の事を辱めて、少しは気が晴れたようだった。
「……いいわ。ちょっとは許してあげる。ね、ダフネ? この屑に言いたいことは?」
パンジーからの屑呼ばわりは、そんなに気にならなかった。
それよりも、まだ一言も言葉を発していないダフネが気になっていた。
しばらく沈黙から、静かにダフネが話し始めた。
「……ね、ジン。私、貴方のこと追い詰めてた? 素直に心配だって、言うべきだった? ……嫌だったわよね、優勝できるだなんて試合に送り出して。……ごめんなさい」
ダフネは悔いるようだった。俺を励ますつもりでかけた言葉が、俺を追い詰めていたという事実に。
しゃべるのを禁止されていたが、俺はしゃべらずにはいられなかった。
「お前らは悪くない。本当に、俺が悪いんだ。……馬鹿だったよ、俺は。本当のことを言ったら、お前らが俺から離れていくって、本気で思ってた」
「……でも、言わせなかったのは、私達よね。それくらい分かるわ」
「……俺が、言えなかったんだ。お前らは俺を信じてくれたのに、俺がお前らを信じてなかったんだ。ダフネ、お前は悪くないんだ。本当にすまない」
暫く、誰も話すことはなかった。顔を上げることを許されていない俺は状況が分からない為、沈黙が辛かった。
耐えきれず、俺は謝罪を口にした。
「なあ、ダフネ。本当に、お前らは悪くない。俺が悪かった。……お前が謝ることはないんだ。俺が、お前に許して貰わなきゃならないんだ。……俺に何か、償わせて欲しい」
そう口にしてから少しして、ダフネが話し始めた。
「ジン。顔を上げて」
そう言われて、恐る恐る顔を上げる。ダフネがどんな表情をしているのか、分からなかった。
顔を上げてダフネの表情を確認すると、悪戯っぽい満面の笑顔だった。
「何をして、償ってくれるの?」
嵌められたのだと気づいた。
俺は親友達に、交渉術では一生敵わないと悟った。
俺が親友達に本音を打ち明けてから、俺はすっかり日常に戻ることができた。
周りの視線は変わらず批判的なものが多く、居心地が悪いと思うこともあった。しかし、親友達が俺の本心を知ってくれている今となっては、些細なことだった。
そして冷静に周りを見れば、俺の事を批判的に見ている人間はそんなに多くないことに気づいた。
グリフィンドールの活躍が気に食わないスリザリン生。セドリック・ディゴリーが代表選手になると信じていたハッフルパフ生。俺の不正を疑うレイブンクロー生。単純にスリザリンが嫌いなグリフィンドール生。
全ての寮に俺の事を批判的に見る生徒がいた。しかし全ての生徒が俺の事を批判的に見ているわけではなかった。
多くの生徒が俺のことは気にしながらも好奇心程度の感情しかなく、中には同情的な視線もあることに気が付いた。
今までこの程度のことを気にしていたのかと、俺は不思議な気持ちになっていた。
そして俺が気づいていなかっただけで、俺の周りには確かに味方がいたことも知った。
久しぶりに出席した魔法薬学の授業が終わっての事だった。
ネビルが、俺に話しかけてきた。
「ジン!」
緊張して上ずった声だった。声をかけられ、驚いてネビルの方を振り向く。今や、グリフィンドールもスリザリンも、ほとんど全員がネビルに注目していた。
ネビルは大勢に注目され緊張しながらも、俺に一言声をかけた。
「……ぼ、僕、君の事も応援してる。君にも、頑張って欲しい!」
そう言うと、ネビルは俺が返事をする前に走って逃げていった。
たった一言の応援。しかし、グリフィンドールとスリザリンが大勢いる中で、それを言ってのけた。並大抵の勇気ではない。
俺はその日の内にネビルへ手紙を送った。グリフィンドールにいながら俺を応援してくれることが、どれほど心強いか。感謝の意を込めて。それからネビルとは同じ学校にいながらも文通をするという少し不思議な交流が続くこととなった。
俺は、自分がどれだけ周りが見えていなかったのか痛感した。
今となっては周りの視線や批判よりも、気になっていることが二つあった
一つは、親友達から俺に与えられた贖罪。
ダフネを喜ばせろ。それが俺に与えられた贖罪だった。
ドラコ、ブレーズ、パンジー、アストリアへの相談は禁止。俺が人を、特に女性を喜ばせるのが苦手だと知っている親友達のささやかな嫌がらせだった。
期日は特に設けられなかったが、早くしないとパンジーに喚かれるのは目に見えていた。
そしてもう一つは、クリスマス・ダンスパーティーのパートナー探しであった。
今や、クリスマスパーティーまで一週間を切っていた。多くの人達がパートナーを見つけていることも承知していた。
そして、誘いたかったハーマイオニーにも、既に相手がいる事も知った。
古代ルーン文字学の授業で、少し話をしたのだ。
俺が古代ルーン文字学の授業に出るのは、ほとんど一カ月ぶりだった。入院中の一週間、そしてその後の二週間以上も俺は授業を欠席していた。
ハーマイオニーと話すのは、透明マントでお見舞いに来てもらって以来の事であった。
ハーマイオニーは俺が授業に出るようになって、感動した様子だった。
「ジン。良かった、本当に。……貴方、全ての授業を休んでたでしょう? 貴方が辛いのは分かってたのに……。ごめんなさい、何もできなくて……」
「……いや、心配かけてごめん。俺が色んなことを、気にしすぎてただけなんだ」
「気にして当然よ! ……良かった、本当に」
ハーマイオニーに謝られ、こちらが申し訳なくなる。グリフィンドールであるハーマイオニーがスリザリンの俺のお見舞いに来ることがどれだけ周りから批判されるような事か、俺は良く知っているつもりだった。
そしてそんな授業中のほんの少しの雑談の中で、ハーマイオニーにクリスマスパーティーのパートナーがいる事をダフネが聞き出した。
「ハーミー。もう、クリスマスパーティーのパートナーは決まった? ……ポッターと行くの? ポッターは代表選手だから、パートナーが絶対必要でしょう? 一緒に出てあげるの?」
「あー……。私ね、実は、ある人にクリスマスパーティーに誘われていたの。……ついさっき、オーケーの返事をしたわ。その、悪い人じゃないって分かったし、誘ってくれたの、その人だけだったから」
「あら、素敵。……その人、見る目があるわね」
ダフネがハーマイオニーにそう言うと、ハーマイオニーは少し恥ずかしそうに微笑んだ。その笑った顔を見て、ハーマイオニーはその人から誘われたことが満更でもないのだということを悟った。
それを知ってから俺は、クリスマスパーティーのパートナーは本当にどうでもよくなった。
ただ責務をこなすために、何も言わずに付き合ってくれる子がいればそれでよかった。
とはいえ、そんな子ですら今の自分にとって見つけるのが難しいこともよく分かっていた。第一試合でへまをした代表選手のパートナーだ。そんな者になりたがる奴は、酷い変わり者であろう。
クリスマス休暇前最後の授業が終わって暇になった午後、ブレーズと散歩しながら俺は少し愚痴を言った。ブレーズは、俺がハーマイオニーを誘いたかった事を知っている唯一の親友だ。
「なあ、ブレーズ。適当な女の子、紹介してくれないか? 金で釣れる奴でもいい。ほんと、誰でもいい」
「そう投げやりになるなよ……。というかだ、グレンジャーはグリフィンドールで俺達はスリザリン。そもそも、ハードルが高かったんだ。分かりきってた事だろ? そう落ち込むなよ」
ブレーズは呆れながら俺にそう言う。
ブレーズの慰めるつもりもない慰めを受けながら、ぼんやりと考える。クリスマスパーティーまでもう一週間もない。どうやって、パートナーを見つけたらよいのだろうか。
「そう難しく考えるなよ。誘いやすい奴をまずは誘うっていうのがいいと思うぞ。誘われて、嬉しくない奴なんていないんだ」
「誘いやすい奴、ねぇ……」
ぱっと思いつくのは、ダフネ、パンジー、アストリアだ。しかし、パンジーはドラコと行くし、ダフネは引く手数多、アストリアはへまをした代表選手と最初に躍って目立つなんて嫌がるだろう。そしてクリスマスパーティーを楽しみにしている親友達を俺に付き合わせるつもりはなかった。
加えて、俺には女性の親しい友人がそれ以外にいないことを悟った。
「俺って友達少ないよな」
「今更何を言いやがる……。贅沢言ってないで知ってる奴を誘えって。俺から言えるアドバイスは、心を込めて、そいつと躍りたいって言うことだな」
ブレーズはなんだかんだ相談には乗ってくれた。しかしブレーズのアドバイスに対して、俺はいまいちピンときていなかった。一週間以内に都合のいいパートナーが見つかる想像ができないのだ。
煮え切らない態度の俺に、ブレーズはため息を吐いた。
「ま、一人でしばらく考えるこった。相談は乗ってやるけど、俺に言われたからって理由でダンスパーティーに誘うのは、相手に失礼だろ?」
ブレーズの女性の扱いや敬意の払い方は、素直に尊敬をしていた。そんなブレーズからのアドバイスは素直に受けるつもりだった。
しかし、ブレーズのアドバイスを受ければ受けるほど、都合のいい相手を見つけることが難しく感じてきてしまった。そんなことをすること自体が失礼だ、と言われている気になってしまうのだ。
答えは出そうになく、深いため息が出る。それを見てブレーズも深い溜息を吐いた。こんな簡単な問題も解けないのか、と言っているようだった。
「あと、俺らからアドバイスが禁止されてるけど、ダフネを喜ばせる方法の目途は立ったのか?」
「それも、全く目途が立ってない。プレゼントを買って贈ろうにも、ホグズミード週末はまだ先だろ? それまで何もしないのもなぁ。……ああ、そうだ。クリスマス休暇の課題を一つ二つ、肩代わりするか」
「……これはアドバイスじゃなくて命令だからセーフな。課題の肩代わりはやめろ。それはマジでやめろ。だったら、ホグズミード週末まで待ってた方がマシだ」
「……分かった。課題の肩代わりはなしだな」
その場で思いついた課題の肩代わりは悪い案ではないと思ったが、ブレーズから禁止されたため提案することも許されなかった。俺は途方に暮れるだけだった。
贖罪の方法も思いつかなければ、クリスマスパーティーのパートナーもいない。そして、ずっと取り掛かっている金の卵の謎も解けていない。
せめてどれか一つだけでも解決してくれれば、少しは気が楽になるだろう。
「……時間も空いたし、俺はこの後、森に行って金の卵の謎を解きに行く。ブレーズ、お前はどうする?」
「あー……。まあ、俺も暇だし、謎解きに参加するわ。お前を一人にすると、ドラコとダフネがうるせぇんだわ」
「……まあ、俺も命が狙われているって言ったけどさ。事故に見せかけて殺したいから代表選手にされたと思ってる。よほどのことがない限り、試合じゃないところで殺されはしないと思うがな」
「そのよほどのことが起こるかもしれねえって言われてんだよ。……先に森に行ってろよ。俺も準備したら行くわ」
そう言って、お互い部屋に戻って準備をすることになった。
俺は卵を持つとすぐに森に向かった。授業が終わってクリスマス休暇に入ったばかり。多くの者が浮かれ、友達と楽しく時間を過ごしていた。そんな時に薄暗い森へと向かう者など、自分以外にいないだろう。
そう思っていたが、どうやら変わり者はどこにでもいるらしい。
ルーナが森にいた。生肉を持っているのを見ると、またセストラルに会いに来たのだろう。
「ルーナ、また会ったな。セストラルに会いに来たのか? ……何か嫌なことでもあったのか?」
声をかけると、ルーナは生肉を持ちながらこちらを振り向いた。ルーナは俺を確認すると、少し笑って返事をした。
「ジン、また会ったね。今日は寂しかったからじゃないよ。明日に家に帰る予定だから、この子達に挨拶に来たの。沢山お世話になったから、お礼がしたかったんだ」
沢山お世話になったということは、それだけ寂しかったということだろう。割と悲惨な状況にも聞こえるが、ルーナには不思議と悲壮感がない。どこまでも飄々としていた。
ルーナは生肉を足元に置くと、近くにいる何かを撫でるような仕草をした。どうやら、セストラルがそこにいるらしい。足元に置かれた生肉は、少しずつ齧られていた。
「セストラルの子どもがいるの。可愛いんだ。……ほら、凄い懐いてくれてる」
セストラルが見えたら随分と違うのだろうが、透明な何かとじゃれ合っているルーナは傍から見ると中々の変人だ。
本人が楽しそうなのでセストラルについては水を差さず、先程の発言で気になったことを聞くことにした。
「明日家に帰るって言ってたが……。ルーナは、クリスマス休暇はホグワーツに残らないのか? クリスマスパーティーもあるのに……」
俺がそう言うと、ルーナは不思議そうな表情で俺の方を見た。
「今年のクリスマスパーティーに出れるのは、四年生からだよ? 三年生以下は誰かに誘われないと出られないの。ジン、知らなかった?」
知らなかった。先生がどこかで説明をしていたかもしれないが、俺は最近まで授業にまともに出ておらず、親友との会話すら上の空だった。どこかで耳にしていたとしても、全く気に留めていなかっただろう。
失礼なことを言ってしまい謝ろうと思ったが、ふと思った。
ルーナならクリスマスパーティーのパートナーになることを了承してもらえるのではないだろうか、と。
帰る予定だったということは、クリスマスパーティーに誰にも誘われていないということだ。そして本人の性格から、へまをした代表選手のパートナーという立ち位置も気にしないかもしれない。それに俺も、下手なスリザリンの顔見知りよりもルーナの方がよっぽど気が楽だ。
加えて、ほんの少し悪戯心もあった。ルーナの様に行動が読めない者が代表選手のパートナーを務めているのを見たら、先生達はどんな表情をするだろうか。それは是非とも見てみたい。
そう考えて、俺はルーナを誘うことに決めた。
「それじゃあ、ルーナはまだ誰にも誘われてないってことだよな? なら、もしよければだけど、俺とクリスマスパーティーに行ってくれないか? ……俺は代表選手だから、パーティーの最初に全員の前で踊らなきゃならないが、それでも良ければ。一緒に行ってくれると、正直、すごい助かる」
俺の突然の誘いに、ルーナは目を丸くした。
「私が? あんたと?」
「……ああ、嫌じゃなければ。お前が一緒に行ってくれると、本当に助かるんだ」
驚いた様子のルーナに、少し弱気になる。会って二回目でクリスマスパーティーに誘っている。しかも一回目の出会いでは、俺は発狂していた。まともな奴なら、まず受け入れない誘いだ。
しかし、ルーナは良くも悪くもまともな奴ではなかった。
俺の誘いに驚いた顔をしていたが、少ししてルーナは嬉しそうに笑いながら返事をくれた。
「うん、嫌じゃない。ダンスは嫌いだけど、パーティーには行ってみたかったんだ。それに、あんたのことは嫌いじゃないもン」
俺はルーナが誘いを受けてくれたことにホッとした。それから、だいぶ気が楽になった。
心配事の一つが解決したのだ。
気が付けば、ルーナの足元の生肉はだいぶなくなっていた。ルーナもそれを見て、セストラルを一撫でするような仕草をしてから、ホグワーツに戻ることにしたらしい。
「お父さんに手紙書かないと。クリスマス、やっぱりホグワーツに残ることにしたって。クリスマスのホグワーツも初めてだなぁ。ナーグルが捕まえられるかも。じゃあね、ジン。パーティー、楽しみにしてる」
夢見心地にそう言うと、ルーナは軽やかにホグワーツへと去って行った。
途中、遅れてきたブレーズがルーナとすれ違ってこちらに来た。ブレーズは上機嫌に歩いていたルーナを珍しそうに眺めていた。
そして俺のところに来ると、やや驚いた様子でルーナの事を話題にした。
「……お前、ルーニー・ラブグッドと知り合いだったのか? 何かあいつ上機嫌だったな。なんか話でもしたのか?」
「ああ、クリスマスパーティーに誘った。一緒に行ってくれるらしい」
俺がそう言うと、ブレーズは固まった。それから、ひきつった表情で俺に確認をした。
「……お前が、ルーニーと? え? お前から誘ったのか?」
「ああ。ルーナには、まあ、借りがあってな。俺の恩人なんだ。それに、あいつならへまをした代表選手のパートナーってことも気にしないと思ってな」
ブレーズは完全に固まった。俺がルーナを誘ったことが相当な衝撃だったらしい。
俺は少し笑いながらブレーズに言った。
「本人には言えないけどさ、代表選手のパートナーとしてルーナを連れて行った時の、マクゴナガル先生の顔が見たくてな。ダンブルドア先生は面白がりそうだけど、マクゴナガル先生は気が気じゃなくなるだろうな。まあ、ちょっとしたご愛敬ってもんだろ」
俺は決してマクゴナガル先生を恨んではいないが、少しばかり悪戯をする資格はあると思っている。
俺はブレーズなら笑って同意してくれると思ったが、ブレーズの反応は思っていたものと違った。
ブレーズは、頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
「……お前、マジでいい加減にしてくれ」
ブレーズの声は、酷く絶望していた。俺はただただ、首をかしげる事しかできなかった。
暫くはコメディ回が続きます。
多くの感想ありがとうございます。
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