日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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代表選手

ダームストラングとボーバトンの生徒達を招き入れ、大広間で歓迎会を兼ねた食事が開かれた。

ダームストラングはスリザリンの席に、ボーバトンはレイブンクローの席に座ることとなった。多くの者の視線が集中するビクトール・クラムがスリザリンの席に来て、スリザリンの多くが胸を張り、喜ばし気にしていた。女性だけでなく男性もそわそわとクラムの方を気にしており、多くの生徒が入れ代わり立ち代わりとクラムに話しかけようと躍起になっていた。

ドラコとブレーズもその一人で、隙を見ては食事中のクラムへと話しかけていた。当の本人であるクラムはむっつりとした表情をあまり変えることなく、不愛想ながらも返事はしっかりとしていた。サインや握手は食事をしたいと断っていたが、食事に邪魔にならない程度の受け答えは誰にでも平等に、不愛想に行っていた。

クラムに話しかけようとしない人間は少数派で、俺の周りではダフネくらいだった。

クラムから少し離れた席で、ダフネと話しながら食事をする。

 

「クラム、すごい人気ね。流石は世界的クィディッチ選手だわ……」

 

「気持ちは分かるがな。俺もワールドカップを見た後だし、話ができるならぜひしたいよ。……ダフネは、随分と興味なさげだな。世界的スター選手だぞ?」

 

「興味がないわけじゃないわ。あんな人ごみをかき分けてまで話したいとは思わないだけ。貴方もそう思ってるから、ここで静かに座っているのでしょう?」

 

クラムに群がる人を見て少し笑いながら、ダフネはそう言った。

俺はダフネの言葉に頷きながら、いつもと趣向が違う料理に舌鼓を打っていた。

ニシンの酢漬けやミートボール、アンチョビのきいたポテトグラタンなど、ダームストラングの生徒向けに用意されたであろう料理はどれもおいしかった。

 

「このポテトグラタン、美味しいな。ダフネ、これおすすめだぞ」

 

「クラムよりもグラタンを優先するのは、スリザリンじゃ貴方くらいよ。貴方だって、クラムに興味なさそうじゃない」

 

「興味あるよ。クラムだけじゃなくて、他のダームストラング生やボーバトン生にもね」

 

そう答えながら近くでミートボールを取ろうと躍起になっているダームストラングの小太りな男子生徒へ向けて、ミートボールの乗った大皿を近くへ寄せてやる。

大皿を寄せられた男子生徒は少し驚いた表情でこちらを見たが、人懐っこい笑顔で俺にお礼を言った。

 

「ありヴぁとう。ヴぉく、これヴぁ好きなんだ。ここの料理ヴぁどれも美味しい。いい所だ、ヴォグワーツ」

 

予想以上に人当たりが良く優しげな人物であった為、思わず会話を続ける。

 

「俺もこれ好きだよ。ああ、このポテトグラタンも、ダームストラングではよく食べる料理? すごく美味しいよ」

 

「それヴぁヤンソンの誘惑という料理。ヴぉくも、それ好きだ。よく食ヴぇるけど、ここの方がずっと美味しい」

 

小太りの男子生徒は訛りながらも朗らかにそう言った。

クラムが不愛想なので他のダームストラング生も不愛想に見えていたが、どうやらそれは誤解のようだった。

ダフネもこの人当たりが良いダームストラング生に興味を持ったようで、話しに混ざってきた。

 

「ダームストラングは随分と寒い所にあるのね? まだハロウィンだというのに、みんな分厚いコートを着ているし……。ねえ、今日はどこから来たの?」

 

話しかけられたダームストラング生はダフネを見て少し呆けた表情になった。それから、慌てたようにハンカチで口元を拭うと、ダフネに向き直って質問に答えた。

 

「言えない。ヴぉく達、どこから来たかを言うのヴぁ、禁止されてる。でも、そう、とてもさヴい所から来た。だガら、ここ、すヴぉくすヴぉしやすい」

 

先程よりも訛りがひどくなっており、緊張しているようだった。

ダフネはそんなダームストラング生の話をクスクスと笑いながら聞いていた。

ダームストラング生はダフネが笑うので、少し困ったような表情でこちらを見た。

 

「ヴぉく、話すの下手かな? あまり、伝わってないかな?」

 

「そんなことない。少し訛ってるが、よく分かる。話すの上手だよ」

 

俺がそう即答するとダームストラング生は少し安心したようにし、思い出したかのようにこちらに右手を差し出した。

 

「遅くなった。ヴぉく、ポリアコフ・ベック。よろしく」

 

「俺はジン・エトウ。よろしく」

 

ベックは俺と握手を交わすと、今度はダフネに向けて手を差し出した。ダフネは微笑みながらベックの手を握った。

 

「ダフネ・グリーングラス。よろしくね」

 

「ああ、よろしく……」

 

ダフネに手を握られて、ベックは顔を赤らめていた。ダフネはクスクスと笑っていた。

そんなベックに、俺は少し質問をした。

 

「ダームストラングでは、今日来た全員が代表選手に立候補するとは思うけど、本命は誰だ? やっぱり、クラム?」

 

ベックは俺の質問に肩をすくめながら答えた。

 

「うん。というより、もう決ヴぁってる。カルカロフは、クラムにする気だ。ヴぉく達はおまけさ」

 

ベックはそう言いながらため息をついて、ミートボールを口に押し込んだ。代表選手の話はダームストラングにとっては気持ちのいい話ではないのかもしれない。それでも詳しく話を聞きたく、ベックに質問を投げた。

 

「おまけ、とは言うが少なくともダームストラングから選抜されてきた人達だろう? 誰が代表になってもおかしくないんじゃないか? ベックだって、立候補するんだろう?」

 

「するよ。でも、ヴぉく達を連れてきたのヴぁ、カルカロフが船員を欲しがってたから。ヴぉく達は、船を動かす為によヴぁれたんだ。それに、ヴぉく達も思ってる。クラムがふさわしいって」

 

ベックがそう言うのを聞いて、改めてダームストラングの生徒達を見渡す。

よく見れば、多くのダームストラング生はリラックスして、まるで旅行に来ているかのようなお気楽さを感じる。食器や食事に興味を持ち、生徒同士で談笑もしている。緊張らしい緊張をしているのは、クラムだけだ。

一方でボーバトンの生徒達は、多くの者がまだ緊張しているようだった。ボーバトン生同士でも話は弾んでいるようには見えなかった。お互いをライバルだと思っているようだ。

こうして比べると、ベックの言っていることが本当なのだということが分かった。少なくとも、ダームストラング生のほとんどはクラムが代表選手となることを疑っていないようだ。

そしてボーバトン生は誰が代表選手になるか決まっておらず、全員が自分が選ばれようと意気込んでいることもよく分かった。

 

「成程、色々と納得がいった。ありがとうな、ベック」

 

「どういたしまして、エトー」

 

ベックはまた人懐っこい笑顔を浮かべた。

それからベックは、少しもじもじとしながらダフネの方へ話しかけ始めた。

 

「君ヴぁ、立候補できるのかい? 君も、その、とても素敵だ。ヴぉく、君が選手なら、ヴォグワーツも応援する」

 

「ありがとう、ベック。でも、私は立候補できないの。まだ十七歳じゃないから。ジンも、立候補できないわよ。私と同い年だから」

 

そんなベックに、ダフネは微笑みながら返事をした。ベックは驚いた表情で俺の方を見た。どうやら、ダフネはともかく俺が二つ以上年下であることを知って驚いたようだった。

そんなベックにダフネは声を上げて笑い、俺は苦笑いを返した。

ベックは失礼なことをしたと思ったようで、慌てて俺に弁解する。

 

「エトー、ヴぉく、勘違いした。でも、それヴぁ、君が凄い奴だとおヴぉったから……」

 

「気にしてないよ、ベック。俺はよく歳を間違えられる」

 

そう返事をすると、ベックはホッとしたように息をついた。それから、ベックはまたダフネに向き直って話を始めた。身を乗り出し、声に熱がこもっている。ダフネは微笑みながらも、俺の方へ少し近づいてベックから距離を取った。そんな様子を、俺は少し面白いと思ってしまった。

 

「君ヴぁ、その、好きな料理ヴぁ何かな? ヴぉく、君の好きな料理ヴぉ知りたい」

 

「私の好きな料理? そうね……私も、このポテトグラタンが気に入ったわ」

 

「ヴぉくも好きだ! あ、ねぇ、君の国の料理でヴぁ、何がおすすめ?」

 

「私の国の料理……。強いて言うなら、ローストビーフかしら……。ねえジン、ローストビーフって、イギリス料理よね?」

 

「……俺、日本人だからイギリス料理とか分からない」

 

「やめて。貴方、今までそんなこと言ったことないのに、急にそんなこと言うのはやめて」

 

「いや、イギリス料理の話は……荷が重い……」

 

「……イギリス料理ヴぁ、あまり美味しくないのかい? それなら、ヴぉくの国の料理の話を……」

 

「……あ、お菓子! 私、スコーンが好きよ! デザートに出たら食べてみて? ね、ジン、お茶菓子の話は、貴方でもできるわよね?」

 

「まあ、ハニーデュークスにもいいお菓子がたくさん売ってるからな……」

 

「ハニーデュークス……お菓子の店? それヴぁ、どこにあるの? 君も、よく行くのガい?」

 

「いつでも行けるわけではないの。ホグワーツの外出が許された時だけ、たまに行けるわ。ホグズミードという村にあるの」

 

「そっか……。今度、ヴぉくも行きたいな……。ヴぉグズミード、ヴぉくも行けるかな?」

 

ベックは熱心にダフネに話しかけ続けた。ダフネは、しきりに俺を会話に絡ませ、二人きりになるのを回避しているようだった。俺はたまに会話に混ざりながら、そんな二人の様子を楽しんでいた。

そうして話をしている中、フラフラとブレーズがこちらに歩いてくるのが見えた。少し疲れた様子で、どうやらクラムに話しかけるのでやっきになり力尽きたらしい。

ブレーズは俺達がベックと話しているのを見ると顔をしかめた。

 

「おいおい、ダームストラング生ってのは敵だろ? 随分と仲良くなって……」

 

どうやらクラムと話すことができず、ブレーズは不機嫌となっているようだった。八つ当たり気味に俺達にそう言った。流石のベックも、少し顔をしかめた。

 

「ベックはいい奴だ。それに、対抗試合は他校との交流も目的としてる。そう、邪険にするなよ」

 

「そうは言うがよ……。対戦相手ってのには変わりないだろう?」

 

ブレーズを窘めるが態度を改める様子はない。ブレーズはだいぶイラついているようだった。

少し険悪になりかけた空気を収める為か、あるいは熱く語りかけるベックから逃れる為か、ダフネがスッと前に出てブレーズの腕をつかんだ。

 

「ベックがいい人なのは、本当よ。失礼な態度は良くないわ。喧嘩するくらいなら、向こうに行きましょ? ちょうど、貴方に話したいこともあるし」

 

ダフネはそう言うと、ブレーズを連れて離れていった。

置いて行かれた俺は、同じく置いて行かれたベックの方へ視線を向ける。ベックは、先程より熱い眼差しでダフネが去って行った方を見つめていた。

 

「彼女、素敵だ。ヴぉく、彼女をデートに誘いたい。ヴぉく、本気だ」

 

ベックはそう熱に浮かれたように言った。それから少し真剣な声色で俺に質問をした。

 

「ねえ、彼女は誰かと付き合っているのかい? さっきの男ヴぁ、彼氏?」

 

「……いや、あいつらは親友同士だ。付き合ってはいないはずだ」

 

俺がそう返事をすると、ベックはとても嬉しそうにした。

 

「それなら、ヴぉくが彼女を誘ってもいいよね? 君も、彼氏じゃないよね?」

 

ベックにそう聞かれ、返事に困った。

ベックのダフネへの態度は露骨であった。ベックがダフネに一目惚れしているのは確実で、止めなければすぐにでも告白をしそうだ。

しかしダフネの態度も露骨であった。俺を盾にして、何度もベックから逃げようとしていた。ダフネがベックの好意に困っているのは一目瞭然であった。もっとも、ベックはダフネに夢中なわりにそのことに気づいてはいないようだ。

俺は先程までは少し楽しんでいたが、今のベックに変な後押しをして、ダフネを困らせてベックを傷つけるのは本意ではない。

そんな何も言えないでいる俺を無視するように、ベックは一人で話を続けた。

 

「……ヴぉく、止められても彼女を誘う。彼女、すごい素敵だ。君、好きな人ヴぁいるかい? いるなら分かるだろう? 何もせずにヴぁいられない。何もせず、クリスマスに好きな人が別の人といるのヴぉ、堪えられない」

 

ベックの言葉に、少し動揺した。共感できる部分があったのだ。

ベックはそんな俺に全く意識を払わず、鼻息を荒くさせ自分の皿を持ち直した。

 

「エトー、今日ヴぁありがとう。ヴぉくは戻るよ。素敵な人と会えた」

 

ベックはそう言うと、ダームストラング生が集まっている方へと歩いて行った。

一人残された俺はしばらくぼんやりとニシンの酢漬けを味わっていた。ベックが言っていたことを、考えてしまっていたのだ。

好きな人がいたら、何もせずにはいられない。何もせず、好きな人がクリスマスに別の人といるのは堪えられない。ベックのこの言葉に、少し共感したのだ。

 

ハーマイオニーをクリスマスパーティーに誘いたい。

それは、俺の中で確固たる思いとしてあった。

 

ただ、悲しいことに俺一人ではどうすればいいかなど全く分からなかった。女性の喜ばせ方など全く分からず、思うままに行動すればベックの様に相手に避けられてしまう可能性すらある。

先日までは恥ずかしくて誰にも言いたくなかったが、いざ一人で考えていると誰かに相談したくてたまらなくなった。そして、その相談をするにふさわしい奴に心当たりがあった。

 

ブレーズ。あいつは、俺の協力者になることを約束してくれた。ブレーズの根に持つ性格から、俺の相談内容を他の誰かに話すこともないとも確信していた。

 

ブレーズに相談してみよう。そう思い、ブレーズがダフネと去って行った方に目をやると、都合のいい事にブレーズがこちらに向かってきていた。それも、ダフネを連れずに一人で。

ブレーズは俺のところまで来ると、ベックがいないことにホッとしたようだった。

 

「ナンパ野郎はいなくなったのか。よかったよかった、話が早いな」

 

「そう言うなよ。さっきも言ったが、ベックは悪い奴じゃない。まあ、ダフネはベックの誘いに乗り気じゃなかったみたいだが……」

 

「ああ、それはお前もちゃんと分かってたのか。さっき、ダフネから直接聞いた。お前が助けてくれそうになかったって、ちょっと拗ねてたぞ?」

 

「それは悪いことをしたな。でも、ダフネが少し焦ってるのを見るのは面白かったんだ」

 

「いい性格してるな、お前」

 

ブレーズはそう言いながらにやにやと笑っていた。ブレーズの考えていることは、俺と大差ないようだった。

そんなブレーズに、唐突だが俺は相談を持ち掛けた。

 

「なあ、ブレーズ。丁度お前に相談しようと思ってたんだ。前に協力者になってくれるって言ってたろ? 今年のクリスマスパーティーに向けて、協力して欲しいんだ」

 

「あん? ……ああ、もしかして、誘いたい奴がいるのか? 前はいないって言ってたが……」

 

「実はいるんだ、誘いたい奴。前に聞かれた時は嘘を吐いてた。誘いたい奴がいるって言うのが、恥ずかしくてな」

 

「……お前、実は嘘が上手いんだな。全く気付かなかったぞ。で、誰だよそれは?」

 

ブレーズは感心したような声色であった。そして、俺がクリスマスパーティーに誘いたい相手がいるということを聞いて、少しそわそわしていた。

 

「ハーマイオニーだ。……あいつをクリスマスパーティーに誘うのに、アドバイスをくれないか?」

 

ブレーズは俺の言葉を聞いて完全に固まった。ブレーズの表情を見たが、何を考えているか分からなかった。驚いているようで、困っているようで、悩んでいるような、そんな表情だった。

ブレーズはしばらくしたら硬直から解けたようで、表情をしかめたまま俺に質問をした。

 

「……なんでグレンジャーなんだ? アイツじゃなくても、もっといい奴はいるだろ? そうだ、グレンジャーよりダフネの方が何倍もいいだろ? なんで、ダフネじゃなくてグレンジャーなんだ?」

 

「なんで、か……。なんでだろうな……」

 

何でハーマイオニーなのか。そう聞かれて、自分でも考えてみる。

一年生の頃には一緒にトロールに追いかけられ、二年生の頃にはバジリスクに石にされ、三年生の頃には吸魂鬼に襲われた。考えてみると、一緒にいてろくでもないことに巻き込まれていたりはする。

しかし、それでも一緒にいたいと思ったのだ。一緒にいて楽しいのだ。

頑張り屋で、強がりで、真っ直ぐなのに不器用で、正しいことをしているのにいつの間にか一人になっていて、寂しそうなのに頑固に自分の考えを曲げないで……。

そんな彼女を元気づけると、輝くような笑顔を返してくれる。自分が彼女の力になれていることを実感する。それが嬉しくて、もっとハーマイオニーの力になりたいと思う。

だから、吸魂鬼の群れを前にしてハーマイオニーから失望したような表情をされた時、そんなハーマイオニーが吸魂鬼の群れの中へ走って行った時、俺は自分の命を顧みずに行動したのだ。ハーマイオニーを失望させたくなかったから、死んでほしくなかったから。

つまるところ、ハーマイオニーと一緒に過ごすことが幸せだったのだ。スリザリンの親友達と過ごすのと同じくらいに。命を懸けてもいいと、思えるほどに。

 

「……ハーマイオニーから頼られるのが、力になれるのが、幸せだって思ったんだ。うん、それが大きいな」

 

俺は自分の想いの少しをブレーズに打ち明けた。

ブレーズはそれを聞いて頭痛を収めるようにしながら話を始めた。

 

「……お前が、極度の世話好きだってのはよく分かったよ。……よし、相談には乗ってやる。それで成功しなくても、何も言うなよ? そもそも、俺はグレンジャーとはそんなに仲良くはねぇんだからよ」

 

「ありがとな、ブレーズ。お前には、どうやって誘えばいいかとか、女性は何が喜ぶかとか、そんなことを聞きたくてな。何も分からずに動けば、ベックみたいに避けられそうな気がしてな……」

 

「それで今になって相談してきたのか……。合点がいった……。ああ、安心しろ。このことは誰にも言わないし、言う気もねぇからよ。……お前も、誰にも言わない方がいいぞ?」

 

「助かるよ、ブレーズ。それに、俺も誰にも言うつもりはない」

 

ブレーズは気が進んでいないのかもしれないが、協力を約束してくれた。そして、誰にも言わないことを。俺自身も誰にも言わないということを伝えると、なぜかブレーズは少し安心したように息を吐いた。

気が付けば机の上にはデザートが出されており、食事も終わりに差し掛かっていた。

ブレーズもそれに気が付いたようで、ため息を吐きながら近くのプディングに手を伸ばした。

 

「まあ、詳しい相談はまた今度聞くわ。誘い方とか、喜ばせ方とか、何が知りたいのかとかよ」

 

話は切り上げられ、俺も大人しくデザートを楽しむ。

ほどなくして、食事も終わりダンブルドアから対抗試合の正式な開始が発表された。

各校の校長に加えて、審査員として呼ばれた国際魔法協力部部長のバーテミウス・クラウチ氏、魔法ゲーム・スポーツ部部長のルード・バグマン氏の二名が紹介された。

そして、代表選手を選別する方法として『炎のゴブレット』を紹介され、その周りに年齢線を引くという対処法も説明がされた。そして、明日の同じ時間に代表選手が選ばれることも。

説明が終わると解散を言い渡されて、生徒達がそれぞれの寮と、各学校の寝処へと移動を始める。ここでもクラムは多くの者の視線を集めており、クラムは表情を一層不愛想にさせていた。

俺とブレーズもスリザリンの寮に戻り、互いにお休みとあいさつを交わし、それぞれの自室へと向かう。先に自室に戻っていたドラコは、対抗試合が始まったことやクラムと話せたことに興奮を隠せないようだった。

 

「ジン、とうとう対抗試合が始まったな……。ホグワーツから誰が出るかも気になる……。ああ、あと、クラムだ。ダームストラングからは絶対にクラムが出る。僕は、クラムと少し仲良くなれたと思うんだ」

 

「クラムと話せたのか、凄いな。あの人ごみの中、よく行けたな」

 

「苦労したがね……。それよりも、代表選手だ! 誰がゴブレットに名前を入れるか……。これは、朝早くから見張らないとな!」

 

「どのみち、明日の夜には分かるんだ。そう焦らなくてもいいだろ」

 

興奮するドラコを宥めながら、俺は自分のベッドに横たわる。

俺は対抗試合が始まる事よりも、ブレーズに自分のハーマイオニーへの想いを打ち明けたことの方が気になっていた。思い返す度に妙な高揚感にかられるのだ。

そんな熱を冷ますように布団をかぶり、無理やり眠る態勢に入る。明日もイベントが目白押しだと分かっている。

 

 

 

 

 

翌日、大広間の前には常に数人が見張るように立っていた。その為、ゴブレットに名前を入れる人は、必ず誰かの目につく場所で入れることとなる。

ドラコはすぐさま情報収集に入り、誰がいつ名前を入れたかをすぐに把握した。

スリザリンからはモンタギューが宣言通り入れたが、他にもペレグレン・デリックル、ルシアン・ボールといった七年生も名前を入れたとのことだ。

それからハッフルパフのセドリック・ディゴリー、グリフィンドールからアンジェリーナ・ジョンソンが有力どころだという。

ドラコはパンジーとブレーズを伴って情報収集に駆け回り、俺はスリザリンの談話室で本を読みながら、ダフネと共にその結果報告を聞くに留めていた。しばらくして情報収集を終えたドラコ達と合流してきて、話を聞きながら一緒にカードゲームやボードゲームをして代表選手の発表を待った。

そうして過ごしている内にあっという間に日は過ぎて、大広間でハロウィンパーティーと代表選手の発表が行われることとなった。

ハロウィンのご馳走も、昨夜の歓迎会の食事と引けを取らないほど素晴らしものだった。しかし、多くの生徒は代表選手が誰になるのかに心を奪われあまり食事が進んでいなかった。

そして随分と早く食事の時間が終わり、ダンブルドア先生が立ち上がって辺りが一気に静かになった。誰もが耳を澄まし、ダンブルドア先生からの言葉を心待ちにしていた。

ダンブルドア先生はそんな中で、ゆっくりと落ち着いた声で話を始めた。

 

「さて、ゴブレットはほとんど決定をしたようじゃ。代表選手の名前が呼ばれたら、その者達は大広間の一番前に来るがよい。そして、教職員テーブルに沿って進み、隣の部屋に入るように。そこで、最初の指示が与えられるじゃろう」

 

そう言うと、ダンブルドア先生は杖を振り大広間の灯りをほとんど消した。そのお陰で大広間の中央にある炎のゴブレットの輝きが一層強く感じ、その存在感を強めた。

どれくらいたっただろうか。静寂の中、キラキラと青く光るゴブレットが急に赤く色を変えた。バチバチと火花を散らしながら、焦げた羊皮紙が一枚、吐き出された。羊皮紙を吐き出したゴブレットは再び色を青く戻し、静かに火をともし続けた。

ダンブルドア先生が吐き出された羊皮紙を掴み、それを読み上げる。

 

「ダームストラングの代表選手は、ビクトール・クラム」

 

それを聞き、大広間が拍手と歓声の嵐に飲まれた。

クラムは立ち上がると言われた通りにダンブルドア先生の方へ歩いて行き、そのまま隣の部屋へと消えていった。

それからすぐに、ゴブレットが再び赤く光りはじめ、辺りは再び静かになった。

先程と同じように、羊皮紙が一枚吐き出され、それをダンブルドア先生が掴む。ゴブレットはまた青い色に戻っていた。

 

「ボーバトンの代表選手は、フラー・デラクール」

 

名前を呼ばれたボーバトン生が立ち上がり、優雅なしぐさでクラムと同じように隣の部屋へと消えていった。

残すはホグワーツの代表のみとなった。

ゴブレットが再び赤く光り、焦げた羊皮紙を吐き出す。ダンブルドア先生がそれを掴んで、中身を確認した。誰もが、ダンブルドア先生の言葉を待った。

しかし、ダンブルドア先生はすぐには発表をしなかった。羊皮紙を見つめ、固まってしまったのだ。

誰もが不審がった。何故、ダンブルドア先生がホグワーツの代表選手の発表をもったいぶっているのか。

ダンブルドア先生が固まった時間はわずかな時間であった。しかし、それでも全ての人間が不思議に思い、今まで以上に耳を澄ますには十分な時間であった。

ダンブルドア先生は羊皮紙を見つめ、いつもと変わらぬ静かな声で発表をした。

 

「ホグワーツの代表生徒は」

 

それから、気のせいかもしれないが、ダンブルドア先生がわずかにこちらを見たように感じた。

そしてとうとうホグワーツの代表選手の名前が呼ばれた。

 

「ジン・エトウ」

 

俺は、頭の中が真っ白になった。

 

 


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