学校が始まり暫く経ち先生も生徒もホグワーツでの日常になじんできた頃、ハーマイオニーが俺を訪ねてきた。
ハーマイオニーと会うのは、古代ルーン文字学での授業を除けば今学期始まって初めてであった。ハーマイオニーが訪ねてきたことは嬉しかったが、手に缶と羊皮紙を持ち毅然とした態度であったことから、あまり面白そうな話ではないことは察することができた。
例のごとく人気のないベンチへと移動をすると、ハーマイオニーは話を始めた。
「ジン、ホグワーツでは何百体もの屋敷しもべ妖精が不当な奴隷労働にあっているのを知っている?」
開口一番はそのような言葉。
ハーマイオニーの言葉の響きからは強い怒りが感じ取れたが、話の内容はすぐには理解できなかった。
「すまない、ハーマイオニー。俺は、屋敷しもべ妖精って生物がどんなものなのかもよく分かっていないんだ。……ホグワーツに何百体もいるなら、見たことないってのは不思議な話だよな」
そう言う俺に、ハーマイオニーは強い口調で説明をしてくれた。
屋敷しもべ妖精は学校の清掃から料理の提供、果ては部屋のシーツ替えや暖炉の火起こしまで、生徒や先生のホグワーツでの生活を支えている魔法生物だと。しかしその魔法生物は給料も休みも貰うことなく、まさに奴隷のように働かされており、黙ってそれを享受する俺達は奴隷労働の共謀者となっていると言うのだ。
ハーマイオニーは俺に屋敷しもべ妖精の説明をあらかたした後、手に持った缶と羊皮紙を俺に突き出した。
「私達はS・P・E・W、しもべ妖精福祉振興協会を立ち上げたわ。これは宣言文書。ね、あなたもこれに入って協力して欲しいの。何世紀も続いている不当な奴隷扱いを、私達が終わらせるの!」
「……その缶は?」
「これは活動資金の為の募金箱替わり。まずは一口二シックルから。それとこのバッジも渡しておくわ!」
そう意気込むハーマイオニーから宣言文書と空き缶とバッジを受け取る。半ば強引に押し付けられたと言ってもいい。
とりあえず渡された宣言文書を読み解いてく。
内容は、短期目標が屋敷しもべ妖精の正当な報酬と労働条件の確保。そして最終目的として屋敷しもべ妖精の社会的地位の確立とのことだ。例として、小鬼のようにその特技を生かした職と権利を確約することが書かれていた。
学生が描くにしては随分と壮大な夢物語であった。魔法生物の権利確約の為に、小鬼は戦争を起こしてケンタウルスは魔法使いへの制裁を行っている。魔法生物の権利確約とは、そこまでしてやっと認められるものなのだ。
宣言文書を読み解いてからチラリとハーマイオニーを見ると、一切の揺ぎ無い表情で俺を見つめていた。俺がこの活動を支持することを疑わない表情であった。
「ハーマイオニー、何で屋敷しもべ妖精の支援を始めようと思ったんだ? ホグワーツができてから千年以上、屋敷しもべ妖精は何一つ不満や反乱を起こしてこなかった。それなのに、何故?」
俺の問いかけに、ハーマイオニーは少しショックを受けたように返事をした。
「なぜって……。これは奴隷労働よ! 屋敷しもべ妖精たちは奴隷として洗脳をされて、社会的に虐げられているといっても過言ではないわ! とっても不当な扱いよ。彼らがこんな扱いを受けていいなんて、間違っているわ」
ハーマイオニーがそう言うのを聞いて、納得した気持ちになる。
もっとも、納得したのはハーマイオニーの活動内容ではなく、ハーマイオニーがこのような活動を始めた理由にだ。
ハーマイオニーは見過ごせないのだ。不当な扱いを受けている者達を、虐げられて苦しんでいるような者達を、そして倫理的に間違っているような事を。困っている者や助けを求めている者がいたら、手を差し伸べずにはいられない。間違っていることを見つけたら、声を上げずにはいられない。ハーマイオニーとは、そういう人間なのだ。
そんな彼女が屋敷しもべ妖精のことを知ってしまえば、何もしないでいられないのは想像に容易かった。
少し笑いながら俺は缶に二シックルを入れて宣言文書と共にハーマイオニーへ返した。
「いいよ、俺にできる事があれば協力するよ」
そう言われ、ハーマイオニーは満面の笑顔になった。ハーマイオニーが笑うのを見て、俺は少し肩の力を抜く。
「あなたなら、そう言ってくれると思ってたの! これから活動することがあれば、あなたも呼ぶわ! メンバーは、あなたを入れて四人。私とハリーとロンとあなたよ!」
予想通りではあったが、メンバーはほとんどいないも同然のようだった。
想像するに、ポッター達は嫌々での参加だろう。屋敷しもべ妖精の様に困ったものを助けることに賛成はすれど、屋敷しもべ妖精の社会的な地位の確立といったスケールの大きい話に嬉々として参加するような印象はない。
一方で俺もこの活動に参加をするのは、ハーマイオニーの活動に賛同する気持もなくはないが、それよりも大きいのはハーマイオニーと一緒に活動することへの下心だ。残念ながら、屋敷しもべ妖精の社会的地位の向上が実現するとは考えてはいなかった。
そんな俺の内心を知ることなく、ハーマイオニーは俺の参加を純粋に喜んでいた。
しかしそれから少しして、ハーマイオニーは落ち込んだ表情となった。
「……本当はパンジーやダフネにも協力してもらいたいけど、ハリー達と一緒って聞くと、絶対に協力はしてもらえなさそうだもの」
そう言いながら、ハーマイオニーは少し寂しそうにした。ハーマイオニーはパンジー達がポッター達と仲良くなることを望みながらも、それが難しいことだと分かっているようだった。
クィディッチ・ワールドカップの時ですら、ハーマイオニーはなるべくパンジー達と仲が良い事を周りにバレないように気を遣っていた。
俺は屋敷しもべ妖精のことから話をそらしたいこともあり、クィディッチ・ワールドカップの時ことを持ち出した。
「クィディッチ・ワールドカップの時も、ドラコ達とポッター達はにらみ合っていたからな。仲良くなるのは随分と先の話だろう……。そう言えば、ハーマイオニーもクィディッチ・ワールドカップの貴賓席にいたな。ウィーズリーのお父さんから招待を受けたのか?」
「ええ、そう。ロンのお父さんが是非って。あなたはマルフォイ家の招待でしょう?」
「ああ、そうだ。ルシウスさんとはなんだか気まずかったが、それ以外はいい時間だったよ。試合はどうだった? 俺はスポーツ観戦自体が初めてだったんだが、すごく感動したよ。あれを見て、俺もクィディッチをやりたいって思ったな」
「あなたがクィディッチを? 意外! あなたって、クィディッチ杯の行方にすら興味なさそうだったじゃない?」
「そんなことないぞ。ドラコがシーカーになってからずっと応援してる。去年だって、スリザリンが優勝を逃した時は本当に悔しかった」
そうして屋敷しもべ妖精から話をそらしたいという俺の目論見は成功し、それからしばらくはクィディッチ・ワールドカップの話や、夏休みでの出来事などを話し合った。
時間は直ぐに過ぎ、夕食前の時間になるとお互い寮に戻る為に解散することとなった。別れ際、ハーマイオニーはしっかりと俺に屋敷しもべ妖精の事を念押ししてきた。
「ジン、S・P・E・Wの活動は正直まだ何も決まってないの。でもね、近いうちに何かしようと思っているわ。その時また連絡するから待ってて!」
ハーマイオニーはそう言うと急ぎ足で自分の寮へと帰って行った。
残された俺は、ゆっくりと自分の寮へと戻りながらS・P・E・Wのバッジを手でもてあそぶ。
屋敷しもべ妖精のことは何も知らない。何も知らないが、千年も変わることのなかった屋敷しもべ妖精の立場がハーマイオニーの活動で変わっていく気はしていない。S・P・E・Wの活動は意義のあるものだろうが、意味のあるものになるかは確信がなかった。
そんなことを思いながら手の中にあるバッジを捨てないのも、S・P・E・Wの活動連絡を待ってしまっているのも、ハーマイオニーが関わっているからだ。
俺はどうやら、相当ハーマイオニーに入れ込んでいるらしい。
そんな自分に笑いながら、スリザリンの談話室にたどり着く。
夕食前ということもあって、ドラコ達も談話室に集まっていた。
俺はバッジをポケットにしまいながら、ドラコ達と合流し夕食に向かう。夕食に向かう途中、試しにとばかりに屋敷しもべ妖精の事をドラコ達に聞いてみた。
「なあ、お前らは屋敷しもべ妖精って知ってるか?」
俺のこの質問に、全員が不思議そうな顔をしたが答えてはくれた。
「ああ、まあ知っているが……。僕の家にもいたよ。でも、だいぶ前に解雇した。あまり、忠実なしもべ妖精じゃなかったから」
ドラコはそう苦々し気にそう言った。ドラコはどうやら、実物を知っているらしい。
そんなドラコの言葉を聞いて、ダフネが驚いたように反応した。
「あら、忠実じゃないしもべ妖精って珍しいわね。私の家にもいるけど……。彼らは一般的なしもべ妖精よ。しっかりと働いて、指示通り動く、まあ普通の屋敷しもべ妖精よ」
ダフネの家にも屋敷しもべ妖精はいるらしい。そしてどうやら、一般的な屋敷しもべ妖精というのは主人に忠実な働き者、というもののようだ
ブレーズとパンジーの認識も他の者達と大差はないようだった。
「屋敷しもべ妖精なんて、今度はまた随分と変なものを気にしてんだな。あいつらは、ほれ、働くことが生きがいの頭のおかしな生き物だ。自分から働かせてくれって、懇願してくるんだろ? 俺の家にはいないが、いたら便利だなとは思うな」
「私の家にはいるわよ! パーキーソン家に代々仕えてるっていう屋敷しもべ妖精。どう、凄いでしょう? きびきび働く便利な奴! あいつはパーキーソン家に仕えるのが最大の幸せだって、私のお父さんと話してるの聞いたことあるかも」
便利な奴ら、働くことが当たり前、それを本人達が望んでいる。一般的な屋敷しもべ妖精というのはそういうものらしい。千年もの間、なぜ彼らの地位が向上しなかったのか。その理由を垣間見た気がした。
「ホグワーツには百人位以上の屋敷しもべ妖精がいるらしい。ホグワーツの食事や清掃といった雑用は全て屋敷しもべ妖精が行っているらしいんだ」
「ああ、それで屋敷しもべ妖精の事を聞いてたのか。確かに、言われてみれば納得がいくね。そうか、屋敷しもべ妖精がホグワーツの雑務をね……」
俺がそう言うと、ドラコを始め他の奴らは少し納得をしたようだが、特別興味が引かれた様子はなかった。
そんな中で、ものは試しにと質問をぶつけてみる。
「屋敷しもべ妖精って、給料も休日もなく働いてるんだな。それって、どうなんだ?」
俺のこの質問に、他の奴ら全員が顔を見合わせた。心底、困惑していたようだった。
「屋敷しもべ妖精に給料や休日って……。そんなもの与えるなんて、屋敷しもべ妖精の意味がないだろう?」
「どうなんだって言われてもなぁ……。あいつらが、そんなもの望んでないというか……。お前、マジで屋敷しもべ妖精を見たことがないんだな」
ドラコとブレーズが俺に対してそう言う。
屋敷しもべ妖精に給与や休日といったものを与える、ということが一般的なものでないというのは十分に分かった。
「変なこと聞いたな。俺、屋敷しもべ妖精ってのを見たことがなかったから気になっただけなんだ」
俺がそう言うと、他の奴らはこれ以上屋敷しもべ妖精の話題に気に留めることもなく別の話題へと移っていった。
思うに、ハーマイオニーがパンジーやダフネを誘わなかったのは正解だった。
ハーマイオニーの思想を、少なくともスリザリンの親友達が共感することも理解することもないだろう。
ポケットに入れたバッジを手でいじりながら考える。
やはり屋敷しもべ妖精の地位向上というのはかなり現実的ではないのだろう。それでも、ハーマイオニーは諦めないのかもしれない。そんなハーマイオニーの手伝いをする、というのは悪くないかもしれない。
親友達と夕食を楽しみながら、どうやってホグワーツ生活を充実させようか考えを巡らせていた。今年は、随分と楽しくなりそうな予感があった。
時間が経つにつれ授業は難しくなり、課題も増えていった。
そんな中で、ムーディ先生の授業は特に過激さを増していった。ムーディ先生が服従の呪文を生徒達にかけ、それを解いて見せろと言うのだ。全員が、その過激な授業に興味と関心を強く惹かれていた。
誰もが服従の呪文にかけられると抵抗もできず、奇行に走った。ドラコは机の上で激しくタップダンスを踊り、ブレーズは片足飛びで教室を一周し、ダフネは猫の真似をしていた。クラッブとゴイルは普段の動きから想像もできないほど俊敏な動きをして見せ周囲を驚かせた。
そしてとうとう、俺の番となった。
「エトウ、お前の番だ。前に出ろ」
ムーディ先生はそう唸るようにして教室の中央に呼び出す。
ムーディ先生は俺に杖を向けながら、他の生徒の時の様に直ぐに呪文をかけるようなことはしなかった。その独特の唸るような声で俺に話しかけてきた。
「……お前は、アキラの息子だな? お前の両親は立派な戦士だった。わしが知る中でも、最も勇敢な者達の一人だ。お前がどこまでできるのか、楽しみにしている」
ムーディ先生はそう歯をむき出しながら言った。笑ったのかもしれない。
それから俺の方に杖を向き直すといよいよ呪文を唱えた。
「インペリオ(服従せよ)」
呪文に唱えられた途端、俺は心地よい感覚に包まれた。ふわふわとした幸福感に頭がボンヤリとし、思考が鈍っていく。そして頭の中にムーディ先生の声が響いた。
――その場で、歌を歌え
嗜好が定まらない中で口を開く。しかし、歌うことはしなかった。
何故、俺は歌う?
そう考えると、頭の隅で冷静な声が大きくなっていった。
そう、これは闇の魔術に対する防衛術の授業だ。そして、服従の呪文に抵抗をしなくてはならないはずだ。俺は今、服従の呪文にかかっているのだ。
――いますぐ歌え
そんな命令がもう一度響く。頭の冷静な部分が侵食されるような、判断力が奪われるような感覚に襲われる。これが服従の呪文かと、残った頭の冷静な部分で判断をする。
そうだ、ならば歌ってはいけない。
そんな意志で抵抗を続ける。
最後とばかりに、頭の中に大きな声が響く。
――歌え! 今すぐだ!
口から声が漏れた。しかし、歌声とは程遠いうめき声だった。
そこまでして、途端に意識がはっきりとした。どっと疲れが襲ってきて、思わずその場で膝をつく。
ムーディ先生はご満喫だった。
「見たか、お前達。そうだ、これだ。戦うとは、こういうことなのだ! エトウは見事に抵抗をしたぞ。もう一度やろう。こいつは、お前達にないものを持っている。よく見ておくのだ!」
それからしばらくは、俺がムーディ先生の呪文に抵抗をする時間が続いた。ムーディ先生は何度も俺に服従の呪文をかけ、俺が完全に抵抗をするまで繰り返した。
授業の大半はそれで終わり、多くの生徒達が授業後に呪いの後遺症を引きずりながら教室を出ていった。
俺も教室を出ようとしたが、ムーディ先生は俺を呼び止めた。
教室の隅の椅子に俺を座らせると、ムーディ先生は俺の向かいに椅子を持ってきてすぐ正面にどっかりと座った。
一体何なのか。そう思っていると、ムーディ先生が話を切り出した。
「ダンブルドアから聞いたぞ。お前には、素晴らしい闇の素質があるとな」
驚いて固まる。ダンブルドア先生は、ムーディ先生になぜその話をしたのだろうか?
そんな疑問の答えは、すぐにムーディ先生が話してくれた。
「ダンブルドアからわしにこの授業を任せた時、わしは生徒達に闇の呪文を直接見せる事を決めておった。しかし、お前に闇の魔術を見せる事をダンブルドアは危惧しておった。お前に、何か闇の魔術に魅せられるような予兆が現れないかとな」
そこまで言って、ムーディ先生は俺を観察するように眺めてから鼻で笑った。
「お前が闇の魔術に魅せられる、というのは杞憂だな。お前が闇の魔術を扱う気がないことは、見ればわかる」
ムーディ先生がそう言うのを聞いて、少し安心をする。ムーディ先生の目から見ても、俺が闇の魔術に惹かれているようなことがないのは心強い事実だった。
しかし、ムーディ先生の俺への興味は収まった様子はなかった。
「わしが気にしておるのはな、お前が闇の帝王の手から逃れたということだ。それも二年前に、ポッターと共にな。そうだろう、ええ?」
「……確かに、闇の帝王の手から逃れる機会はありました。しかし、それはポッターの助けがあって、俺達の運がよかったからです」
ムーディ先生は俺の返事に満足はしなかった。首を振って俺の答えを否定するようにしながら、唸るようにして話を続ける。
「わしが気になっておるのは、お前が逃れた方法ではない。お前が闇の帝王に狙われる理由の方だ。ポッターと共にお前が狙われた理由はなんだ? 闇の帝王は、お前の何を気にかけたのだ?」
「それは……」
そう言えば、俺はこの話をダンブルドア先生にしていただろうか? 闇の帝王が自身の復活の為に俺の魂に、闇の才能に目をつけていたことを。あの時は色々なことがありすぎて、忘れていたかもしれない。
言い淀んでしまったが、目の前に座るムーディ先生は俺が答えるまで逃がさないという態度であった為、正直に話をした
「俺に闇の才能があって、それを闇の帝王が自身の復活に利用しようとしていたからと……。闇の帝王自身が、そう言っていました」
「闇の帝王が復活に……。ふむ……」
ムーディー先生は俺の返事を聞くと考え込むようにして黙った。それから、突然立ち上がってごつごつとした指で出口を指した。
「わかった。聞きたいことはもうない。時間を取らせたな、エトウ。帰って良し」
そう言われて、俺はほっと息をついて席を立ちすぐに教室を出た。
談話室に戻ると、呪いの後遺症でまだぼんやりとしたままのドラコを夢見心地のパンジーが世話をしており、それを面白そうにアストリアが眺めていた。
俺が戻ったことに気が付いたブレーズは、まだピクピクと勝手に動く足を押さえながら俺に声をかけてきた。
「よう、ジン。あのマッドアイから何の話があったんだ?」
「ああ、大したことじゃない。俺の抵抗が上手くいったから、まあ、褒められてたような感じだ」
俺はそう言ってごまかす。
俺の闇の才能について、ひいては闇の帝王になるかもしれないということについてはダンブルドア先生から口止めされた。いつになれば話せるのか、話していいのか分からない。もしかしたら、一生話せないかもしれない
だが、それでもいいかもしれないと思った。
親友達のことを信用していないわけではない。そうではなく、俺が抱えている問題で心配をかけたくないのだ。
そう思いながら、ブレーズと話を続ける。
「そう言えば、ダフネは? アイツも呪いの影響が抜けてないのか?」
「ああ、ダフネな。あいつ、猫の真似させられてたろ? その影響かしばらく上手く口が回らなくて、恥ずかしいから部屋にこもるんだとさ。全く、酷い授業だぜ……。俺の足も、気を抜けばすぐに飛び跳ねようとする。お前はいいよな、上手く切り抜けられてよ」
「だが、五回も呪いにかけられた。めちゃくちゃ疲れたぞ」
「……どっちもどっちだな。ああ、実践的な授業だが、後遺症はいただけねぇな。一時間もすれば治るっていうけど、一時間このままなのはきついぞ」
ブレーズはそう舌打ちをしたが、少し面白がってはいるようだった。
話の通り一時間もすれば呪いの後遺症もなくなり、全員で夕食の為に大広間へと向かう。
闇の魔術ですら、親友達がいればちょっとした刺激になるのだから不思議だった。
それからもホグワーツでの生活が充実するような出来事は後を絶えなかった。
ダームストラングとボーバトンが来る日が決まったのだ。十月三十日の金曜日。ハロウィン前日である。その知らせを読んで、ダフネとパンジーはワクワクした様子であった。
「ダームストラングとボーバトンがとうとう来るのね。私、ホグワーツ以外の魔法学校と関わったことがないからすごく楽しみなのよ」
「ホグワーツ以外の生徒なんて、誰も見たことないと思うわ! ダフネ、ボーバトンとダームストラングってどこにあるの?」
「私もよく知らないわ。アストリアが言うには、ボーバトンはフランスにあるみたいだけど……」
そんなことを話しながら、どんな生徒がいるのか、どうやってくるのかということを二人で話しながら盛り上がっていた。
ブレーズはアストリアを捕まえて、ホグワーツに行くのが怖くてボーバトンへ逃げようとしたことをしばしばからかっていた。
ドラコはとうとう代表選手が選ばれることの方が気になっているようだった。自分達に立候補権はないが、自分よりもふさわしい代表者がスリザリンにはいないとヤキモキした様子であった。
そう思い思いに時間を過ごし、とうとう十月三十日の金曜日。ダームストラングとボーバトンを迎えに玄関ホールへと全校生徒で向かった。
全員が固唾を飲んで見守る中、まず現れたのはボーバトンであった。
ボーバトンは、十二頭の象よりも大きい天馬に引かれたパステルブルーの巨大な馬車に乗って現れた。馬車は大きな音を立てて着地をすると、中から巨大でありながら優雅な女性が生徒を引き連れて現れた。
「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ」
ダンブルドア先生がそうボーバトンの先生、マダム・マクシームと生徒達に声をかけた。
マダム・マクシームがダンブルドア先生からの歓迎を受け止めていると、直ぐにダームストラングも現れた。
大きな言いようのない不気味な音と共に湖の水面が渦巻き、渦の中から巨大な船が現れた。船はすぐに錨を下ろして停泊すると、乗員である生徒達が下りてきた。生徒達は黒く厚いコートを羽織っており、今まさに寒い土地から現れたといった様子であった。
乗員の中で、一人滑らかな銀のコートを羽織っている者がいた。これがダームストラングの先生なのだろう。銀色のコートの男はダンブルドアへ朗らかに挨拶をした。
「ダンブルドア! やあやあ、暫くだ。元気かね?」
「元気いっぱいじゃよ、カルカロフ校長」
そうダンブルドア先生が返事をし、カルカロフ達をホグワーツへ招き入れた。
カルカロフは生徒達をホグワーツへ入れる中、一人の生徒を自分の所へ招き寄せていた。
「ダンブルドア、彼を暖かい所へと案内してくれるかね? ビクトールは風邪気味なんだ……」
そうカルカロフが言いながら連れてきた生徒を見て、多くの者が息をのんで色めきだった。
ドラコも興奮した様子で俺の肩を叩いた。
「見ろ、クラムだ……。ビクトール・クラム、彼はダームストラングの生徒だったんだ!」
今年のホグワーツは、本当に充実しそうなことで満ちている。