日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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優しい罰則

テストの返却も終わり、いよいよ今年も終わりに近づいてきた。

テストの結果は、変わらず良好であった。そして変わらず、ハーマイオニーはいくつかの科目で百点満点を覆してきた。俺は永遠の次席になりそうだ。

ドラコもダフネも良い成績を残し、ハーマイオニーが断トツで一番の成績を取ったことを知ると軽く引いていた。

ブレーズは全体的にそこそこの成績であった。その中で占い学では満点の成績で、理由は親友が吸魂鬼に襲われると予言したかららしい。偶然、当たってしまったのだ。ブレーズはそんなことを言ったことすら忘れており、まぐれで取った満点に笑っていた。

パンジーは、何とか落第を避けることに成功した。ハーマイオニーと一緒に課題をした成果もあったらしく、パンジーはどこかでお礼を言おうと動いていたが中々会えないそうだ。逆転時計でいなくなるタイミングを掴んでいたはずが、いつもの場所と時間にいないらしい。パンジーは少し落ち込んでいた。

クラッブとゴイルは、奇跡的に来年も同じ学年となった。彼らの進学に一番頑張ったのはドラコだろう。ドラコのやつれた顔を見て、ドラコはもっと感謝されてもいいと思ってしまった。

 

 

そんな和やかに過ごしていた中で、不意打ちで嫌な出来事が発生した。

マクゴナガル先生から、俺とパンジーが名指しで呼び出されたのだ。

俺とパンジーが同時にマクゴナガル先生に呼び出されるなど、心当たりは一つしかない。

ハーマイオニーが逆転時計を使っていることを知り、秘密を守る為に契約書を作ったことだ。秘密を知ることも、契約書を作ることも、罰則に値する規則違反だ。

完全に怯えたパンジーと共にマクゴナガル先生の事務室へと行くと、予想通り、そこにはマクゴナガル先生だけでなくハーマイオニーもいた。そして、マクゴナガル先生の前には、確かに俺達が作った契約書が置いてあったのだ。

俺は言い逃れができない事を悟って諦め、パンジーは体の震えを大きくした。先にいたハーマイオニーは既に泣きそうであった。

俺達三人が並んで立ったのを確認してから、マクゴナガル先生は口を開いた。

 

「確認します。グレンジャー、あなたはこの二人に逆転時計について話をしましたね?」

 

「……はい。私から、話をしました。……その、私、とても辛くて、どうしても悩みを相談したかったんです。だから二人に話したいと、私から話をしました」

 

ハーマイオニーは事実を認めたが、かなり脚色されていた。ハーマイオニーは自分だけが責任を負うために、わざとそんな言い方をしているのが分かった。

俺は口を挟もうとしたが、それより先にパンジーが口を開いた。

 

「何言ってるの、ハーミー! 私達が秘密を聞き出したんじゃない! 契約書があるから大丈夫だって、そう言って話させたじゃない! ハーミーは最初、話せないって拒否したのよ!」

 

パンジーがそう言うと、ハーマイオニーは驚いた顔をした。それから泣きそうになり、マクゴナガル先生に食って掛かった。

 

「先生、本当に、本当に二人は悪くないんです! 私が、先生との約束を破ってしまったんです。二人は、ただ私を心配してくれていただけなんです。それに、パンジーは私に受ける授業を減らすように言ってくれました。そうするべきだったんです。……悪いのは、私なんです」

 

パンジーもパンジーで、マクゴナガル先生に食って掛かった。それも、かなり攻撃的に。

 

「ハーミーは大変だったの、知ってたでしょ? なのに誰も何もしようとしなかったじゃない! だから私が、ハーミーを手伝ってあげたの! それの何が悪いの?」

 

「私がお願いしたんです! 助けてって! パンジーは、私を助けてくれただけなんです!」

 

ハーマイオニーは何が何でも、自分で責任を負うつもりのようだった。パンジーがハーマイオニーを庇えば、同じくらい強くハーマイオニーがパンジーを庇った。

マクゴナガル先生は最初の問いかけ以降、黙ったままだった。

二人はお互いをかばい合いながら、マクゴナガル先生が黙ったままなのを見て次第に大人しくなっていった。

二人が大人しくなり、マクゴナガル先生がまだ話をしないのを確認してから俺も口を開いた。

 

「……先生、契約書を見てください。先生ならわかるでしょうが、それは俺が作ったものです。そして契約書を読めばわかるはずですが、秘密を守るには秘密を話す前にそれにサインをしなくてはなりません。ハーマイオニーの言っていることは、順番が逆です。秘密を話すから契約書を作ったのではありません。契約書を作ったから、秘密を話したんです。俺が、話させました」

 

「い、いいえ! 先生! 違うんです! ジンは――」

 

俺の話を聞いて、ハーマイオニーは俺のことも庇おうとした。

しかし、それをマクゴナガル先生が手を挙げて止めた。

マクゴナガル先生はハーマイオニーが口を噤むのを確認してから、俺達を見渡して話を始めた。

 

「あなた達がどんな主張をしようが、グレンジャーが話をしたのは事実です。ゆえに、グレンジャーを罰せねばなりません」

 

「このクソババア!」

 

パンジーは、とうとうマクゴナガル先生に暴言を吐いた。

俺は唖然とし、ハーマイオニーは息をのんだ。マクゴナガル先生は片眉を上げただけで表情に変わりはなかった。

パンジーは暴言を続けた。

 

「ハーミーが何をしたっていうのよ! 辛いから、私に助けてって言っただけじゃない! あんたが知らんぷりをしてたから、私が助けたんじゃない! 何で、あんたがハーミーを罰するのよ!」

 

パンジーは息を切らしながらそう言い切った。

沈黙が続いた。誰も何も言わず、パンジーが興奮して息を切らす音しか聞こえなかった。

そしてパンジーの息が整ってから、やっとマクゴナガル先生が口を開いた。

 

「パーキーソン。私の話を最後までよくお聞きなさい」

 

それは、暴言を吐いた生徒に向けるにしては優しい声色だった。

俺もハーマイオニーも、怒りに染まっていたパンジーも驚いて固まった。

固まった俺達に、マクゴナガル先生は話を続けた。

 

「グレンジャー。あなたは、逆転時計について二人に話をしました。あなたなら分かっているはずですが、これは大事故になりかねないとても重大な規則違反です。そして、パーキーソンにエトウ。あなた達は、その秘密を聞く為に呪いをかけた契約書を作成、使用しました。これもまた、大事故になりかねない重大な規則違反です」

 

俺達三人は、大人しくマクゴナガル先生の話を聞いていた。

全員に罪があるとハッキリと言われ、反論のしようもなかった。

そんな俺達に、マクゴナガル先生は厳しい口調で言った。

 

「あなた達はとても危険なことをした。見過ごすわけにはいきません。全員、罰則です。誰が何を言おうと、これは変わりません」

 

ハーマイオニーもパンジーも、うなだれて話を聞いていた。反論の余地を奪われ、先程の勢いもそがれ、ただ言われるがままになるしかないと諦めているようだった。

そんな二人に、マクゴナガル先生は先程よりも厳しい口調で話を続けた。

 

「そして、この全ての事態の責任は私にあります。あなた達に言い渡す罰則は、私自身も一緒に受けましょう。全員、罰則です」

 

驚いて、開いた口がふさがらなかった。ハーマイオニーとパンジーも、思わず顔を上げてマクゴナガル先生を見た。マクゴナガル先生は厳しい表情のままだった。

 

「グレンジャーに逆転時計を渡したのは私です。そして、そんなグレンジャーのケアを怠っていたのも私です。ええ、グレンジャーが秘密を話す事を防げなかった最大の責任は私にあるでしょう」

 

そう言い切ると、マクゴナガル先生は罰則の内容を伝えた。

 

「罰則の内容は書類、教材の整理です。……今年度も終わり、全科目、全学年の書類と教材が乱雑としています。あなた達は、それを家に帰るまでに終わらせなくてはなりません。いいですか? 今日これから、あなた達は学校が終わるまで自由時間などありません。全ての整理が終わるまで、家に帰ることも許しません。ええ、勿論、私もです」

 

罰則の内容はそれだけだった。先生を含めた四人で学校の大掃除。確かにきつい労働だが、肩透かしを食らった気分でもあった。

唖然とする俺達に、マクゴナガル先生は柔らかい口調となって話をした。

 

「グレンジャー。私は、あなたが全ての授業を受け続けられないと言えば、いつでも授業数を調整する準備ができていました。……なんでも一人でやろうとしてはいけません。一人で何でもできると思っている内は、何もできないものです。困ったら相談をする。あなたは、そのことをしっかりと覚えていなさい。……いいですね?」

 

「……はい、先生」

 

ハーマイオニーは恥じ入った表情で頷き、マクゴナガル先生へ返事をした。

それからマクゴナガル先生はパンジーの方へ向き直り、柔らかい口調のまま話をした。

 

「パーキーソン。あなたは危機管理に疎すぎます。自分がどんな危険なことをしたのか、しっかりと考えなさい。規則は無意味にあるものではありません。あなた達を守る為にあるものなのです。規則を守る以上に、自分の身を守ることもしっかりと考えなさい。……いいですね?」

 

「はい、先生!」

 

パンジーは元気よく返事をした。言われていることが分かっているのか不安になる返事だった。マクゴナガル先生は少し固まったが、そのまま何も言わずに俺の方へと向き直った。

 

「エトウ。あなたは、人に頼ることも危機管理についても、十分と心得ていたと思います。なのに、こうした行動にでたのはなぜなのか、自分でしっかりと考えなさい。慢心、プライド、私的な欲望……。あなたの判断を迷わせたものがあったはずです。そして、あなたもまた、自身の身を軽んじていますね。人の責任を負うには、まずは自分の事に責任を持ちなさい。それができて初めて、大人になれるのです。……いいですね?」

 

「はい、先生」

 

耳が痛い話であった。契約書を作った時、確かに俺の心の中に慢心があった。そして、何か起きれば俺が責任を取れるとも考えていた。今となっては、それはとても無責任なことだと感じる。

俺の返事を聞いて、マクゴナガル先生は深く頷いて話を終えた。

それから最後に、マクゴナガル先生はパンジーに声をかけた。

 

「パーキーソン。私は、あなたにお礼を言わなくてはなりませんね。グレンジャーが大変な時に、私がするべきだったことをあなたがしてくれました。……パーキーソン、あなたはとても友達思いの素晴らしい生徒です。あなたがそのままでいる事を、私は強く望んでいます」

 

恐らく、マクゴナガル先生がパンジーを褒めたのはこれが初めてだろう。

パンジーは褒められたことが嬉しいようで、満面の笑みだった。退出を言い渡されて事務室を出る時には、笑顔でマクゴナガル先生に手を振っていた。マクゴナガル先生はそんなパンジーに呆れたような表情であったが、口元は笑みを抑えるようにぴくぴくとしていた。

マクゴナガル先生はパンジーのことを、可愛い生徒だと思ったのかもしれない。

馬鹿な子ほど可愛い、というのはあながち間違いではないのだろう。

 

 

 

 

 

 

それから、マクゴナガル先生の宣言通りに俺達三人は学校が終わるまで自由時間などなかった。膨大な量の書類と資料の整理に身を費やした。それでも気落ちすることがなかったのは、三人で一緒に作業をできたからだろう。そして、たまにマクゴナガル先生が整理を引き受けて俺達に休憩時間をくれたことも不満がたまらなかった後押しとなった。

ハーマイオニーはずっと、俺とパンジーにお礼を言い続けた。

パンジーはお礼を言われるのを喜び、罰則中でもハーマイオニーにべったりであった。

俺もハーマイオニーのお礼を嬉しく思いながら、笑って返事をする。罰則なんて、いくらでも受けていいと思った。

そしてホグワーツ最終日になって、やっと書類と資料の整理が終わった。終わった時は歓声を上げたくなるほどの感動であった。パンジーは実際に歓声を上げて、はしたないとマクゴナガル先生に怒られていた。

ハーマイオニーに別れを告げ、パンジーと共に疲れた体を引きずって談話室に戻ると、ドラコ達が待っていた。

ドラコは驚いて固まる俺達に、少し笑った。

 

「君達、最終日までお疲れ様。まあ、今日は君達を労おうと思ってね。ほら、紅茶とお菓子。今日は最終日なんだ。夜更かしくらい、いいだろ?」

 

思わぬサプライズにパンジーは今日一番の歓声を上げてドラコへと飛びついた。

ドラコは受け止めることができずにそのまま押し倒され、痛みに悲鳴を上げた。

俺はそこまでの元気はなく、ありがたく席に座って紅茶とお菓子を堪能した。

 

「お前はつくづく残念だよなぁ。ホグズミード行きの次は学期末の自由時間を奪われてよ。ほれ、食った食った。今日くらいは自由にやれや」

 

ブレーズがケラケラ笑いながら俺をからかいつつも、お菓子と紅茶を勧めてくる。

ダフネもブレーズに乗っかって、俺をからかってきた。

 

「そう言えば、私達のホグズミード行きを台無しにしてから、まだ何もしてもらってないわね。ね、何をしてもらおうかしら?」

 

「俺を責めたら可哀想なんじゃなかったのか?」

 

「それとこれとは話が別よ。私達全員に、償いは必要でしょ?」

 

ダフネはくすくすと楽しそうに笑う。

ホグワーツ最終日は、こうして五人で語り明かして終えていった。

この五人でいる事が、俺にとってホグワーツでの生活なのだと改めて感じた。

 

そして翌日の汽車の中では全員が寝不足の為、寝て過ごすことなった。

駅に着いてアストリアに叩き起こされるまで、誰も起きることはなかった。

座席で寝ていた為にガチガチに凝った体で荷物を運び、駅で待ってくれているゴードンさんの所へ向かう。

ゴードンさんは俺から荷物を受け取ると、笑いながら話しかけてきた。

 

「さあ、今年は何をしたんだ? またも事件に巻き込まれたろう?」

 

「宿に着いてから、話をするよ。今年も、話が長くなりそうだから」

 

ゴードンさんは慣れたように頷くと俺を宿まで送ってくれた。

 

 

俺はこれから、いつになるのか分からないが、大きな決断を迫られることになるのだろう。

だが、ハーマイオニーがいて、ドラコ達がいて、帰りを待ってくれるゴードンさんがいる。

そう考えると、何とかなると思っていられた。

柄にもなく、楽観的だった。

きっと、自分のことを認められ、少しは胸を張れるようになったからだろう。

自室に着いた俺はあくびを噛み殺しながら、先に部屋に送られていた森フクロウのシファーを撫でた。

こうして、また一年が終わっていった。

 

 

 

 




アズカバンの囚人編 終了です
書き終えるのに七年以上かかりましたね。
読んでくださってる皆様に感謝です。

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