日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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箒とネズミと喧嘩

夕食中、ドラコからクリスマスについて聞かれた。

 

「君は今年も、ホグワーツでクリスマスを過ごすのかい?」

 

「ああ、そのつもりだ。ホグワーツでクリスマスを過ごすのも、そう悪いものじゃない」

 

「……そうかい。まあ、君が良ければそれでいいさ。明日の朝にみんな帰省をする。次は新学期でだな」

 

毎年のこととなるが、俺はクリスマスにはいつもホグワーツに一人で残っており、ドラコはそんな俺を少し心配していた。それは全くの杞憂だと、三年目にしてなんとなく察してきたらしい。

現に俺はクリスマスにホグワーツに残って、後悔したことは一度もない。

一年生の頃はフレッドとジョージとの出会いのきっかけとなった。二年生の頃は秘密の部屋の事件の渦中にいて憔悴していた中、二人との研究に救われるところがあった。今年はまだ必要の部屋に訪れておらず、クリスマス休暇には行こうと考えていた。久しぶりに二人と会うのを、密かに楽しみにしていた。

 

 

 

翌日のクリスマス休暇初日、ドラコ達の帰省を見送った後、早速必要の部屋へと向かった。

必要の部屋では期待していた二人の姿はなく、中央の机の上に書置きが一つといくつかの新作らしきいたずらグッズが置いてあった。

書置きはフレッドとジョージから俺に宛てたものであった。二人はどうやら今年は実家の方で過ごすそうで、クリスマス休暇には会えないという旨の内容であった。そして、代わりに弟のロナルド・ウィーズリーとハーマイオニーがホグワーツに残ること、ロナルド・ウィーズリーにも気が向いたら仲良くしてやってくれという内容が記されていた。

フレッドとジョージに会えなかったのは残念だった。二人は会う機会が少ないものの、大事な友人であることは確かであった。昨年の事件の中、二人は俺に気を遣って努めて明るく接してくれたし、いたずらグッズの開発で俺の気を紛らわせてくれた。そのことをしっかりとお礼を言いたかったのだ。

しかし、二人がいないのではしょうがないと気を切り替え、机に置いてある新作のいたずらグッズに目をやる。

花火も随分と改良されていた。他にも食べたら体の色が変わったり、体の一部が大きくなったりするお菓子や、すれ違いざまに相手を転ばせるマントなど説明書きと共に置いてくれていた。相変わらず二人の高い技術力に驚かされつつ、それらを自分で試す気にはなれなかった為、いくつかをポケットに忍ばせて、グッズへのお礼と新学期に時間が合えば必要の部屋へ訪れることを書きおいて必要の部屋を出る。

必要の部屋を出て、途端にクリスマスが退屈に感じてしまった。今までのクリスマス、いかにフレッドとジョージによって楽しませてもらっていたかを実感した。今まで深くは考えていなかったが、あの二人と出会い、仲良くなれたことはとても幸運なことであった。

やはり、新学期には二人に会いに必要の部屋へ行こう。そう心に決めて窓から外の景色へ目をやる。積もった雪が日に照らされ、きらきらと美しく輝いていた。

今年のクリスマスには、ハリー・ポッターだけでなくロナルド・ウィーズリーとハーマイオニーもいるらしい。長い休みの時間だ。ポッターやウィーズリーと交流を深め、グリフィンドールの親友とスリザリンの親友の二つに板挟みとなっているハーマイオニーの悩みを少しでも解決してあげるのは悪くない考えだろう。

三人は今、どこで何をしているのだろうか……。

 

 

 

 

 

ハリーは怒りに燃えていた。

フレッドとジョージからもらった秘密の地図でホグズミードへ抜け出し、ロンとハーマイオニーとホグズミード週末を楽しむところまでは良かった。

しかし、そこでシリウス・ブラックが両親の仇であるという事実を知った。シリウス・ブラックは父の親友でありながら、「秘密の守り人」となりながら、両親を裏切り死に至らしめた人物だとも。

それを知ってじっとしていられるほど、ハリーは薄情ではないし、冷静でもなかった。

自分が今もダーズリーの家に住み苦しい思いをしているのも、自分が両親に抱きしめられることも抱きしめることも叶わないのも、吸魂鬼が近づくたびに聞こえる母の断末魔に苦しめられることも、全てシリウス・ブラックが原因なのだ。

今までハリーが背負ってきた苦しみのほとんど全てがシリウス・ブラックのせいであると知って、ハリーは居ても立っても居られなくなった。

ハリーと一緒にホグワーツに残ったロンとハーマイオニーは、何とかハリーの気を紛らわせようと躍起になっていた。

 

「ハリー……そうだ、チェスをしよう! うん、気晴らしになる。ハニーデュークスのお菓子を賭けて、どうだい?」

 

「ハリー、クリスマス休暇の課題、手伝ってあげるわ。課題を早く終わらせればその分、休暇ももっと楽しいものになるでしょう?」

 

二人の慰めも、ハリーの耳には入らなかった。かといって、二人にシリウス・ブラックへの怒りをぶつけることもできなかった。二人がクリスマス休暇にホグワーツに残っているのは、自分を心配してくれているからだとハリーはよく分っていた。

怒りを燃やし、しかしそれを解消できず、ハリーはモヤモヤとした気持ちを抱えたまま漫然とクリスマス休暇を過ごすことしかできなかった。

そんなハリーの転機は、クリスマスの朝に訪れた。

ロンに起こされたクリスマスの朝、ベッドの下にプレゼントが小山になっていた。ロンも、ハリーがプレゼントを見れば気を緩め、張り詰めた空気が少しでも和らぐと思い一緒になってプレゼントの包みを開けていった。

ウィーズリーおばさんからの手編みのセーターに、ミンスパイ、小さなクリスマスケーキにナッツ入りの砂糖菓子。ウィーズリーおばさんは手料理が上手く、プレゼントはどれも確かに魅力的であった。それでも、ハリーの気を完全には和らげることができなかった。

ウィーズリーおばさんのプレゼントを全てわきにやると、まだ一つ、長くて薄い包みが置いてあるのに気が付いた。

 

「それ、なんだい?」

 

「さあ……」

 

ロンに問われても、ハリーには心当たりがなかった。ハリーは気のない返事をしながら包みをひろげ、中を見て息をのんだ。

炎の雷 ファイアボルトであった。これを一目見るためにダイアゴン横丁に通い詰め、果てには夢にまで見た箒である。

ロンもファイアボルトに気が付いたらしい。驚きで口を開きながら、本物のファイアボルトが目の前にあることを感動して言葉も出ないようであった。

 

「これ、誰からだろう?」

 

ハリーのつぶやきを受けて、ロンがファイアボルトの包みを調べるもカードは入っていなかった。二人は送り主を想像で考えるしかなかった。

 

「ダンブルドアじゃないかな? ほら、透明マントも送ってくれたし」

 

「透明マントは父さんの持ち物を返してくれただけだし、ダンブルドアは生徒のために何百枚の金貨を使うようなことはしないよ」

 

「それじゃあ……ルーピンだ!」

 

「ルーピン? うーん……それだったら、新しいローブを買うと思うなぁ」

 

そんなことを話しながらも、二人はファイアボルトに夢中になった。

流石のハリーも、この時ばかりはシリウス・ブラックのことを忘れることができた。

そんな二人のもとへ、ハーマイオニーがやってきた。

ロンはハーマイオニーの抱えているクルックシャンクスを見て、顔をしかめた。

 

「おい、その猫をこっちに持ってくるなよ!」

 

ハーマイオニーはロンの話を気にも留めず、二人が大事そうに扱っている箒を見て驚いた表情をした。

 

「……ねえ、ハリー、この箒を一体誰が?」

 

「さあ? それを今、ロンと話してたんだ。カードも何もないんだから」

 

ハリーの気のない返事に、ハーマイオニーは表情を曇らせる。

 

「そう……。ねえ、この箒って相当いい箒なんでしょう?」

 

「そうさ! スリザリンの箒が束になっても、この箒には敵わないよ!」

 

ハーマイオニーの質問にロンが嬉しそうに答えた。

ハーマイオニーはますます不安そうな表情を強めた。

 

「そんな高価な箒をハリーに送って、しかも自分が送ったなんて話さない人なんて、一体誰なの?」

 

「いいじゃないか、誰だって。ねえ、ハリー! 僕も後で試しに乗ってみてもいいかな?」

 

「だめ! まだ誰もその箒に乗ってはいけないわ!」

 

ここにきて、ハリーとロンはハーマイオニーの異常に気が付いた。

二人はどうしたのか聞こうとしたが、そんな暇はなかった。クルックシャンクスがロンに――正確には、ロンのポケットに隠れているスキャバーズに襲い掛かって、話が中断された。

 

「やめろ、このくそ猫! ハーマイオニー、そいつをここから連れ出せよ!」

 

ロンがクルックシャンクスを蹴り上げるようにして追っ払った。流石のハーマイオニーもそれを見過ごすことはできずに、クルックシャンクスを抱き上げると、蹴り上げようとしたロンを睨んでから急いで部屋から出ていった。

それから、ロンとハーマイオニーの間のムードは険悪。ハリーは新しい箒を心のよりどころに平穏を取り戻し二人の仲を取り持つ側に回ろうとするも、箒を大事そうにするハリーもハーマイオニーは気に食わないようだった。とうとうハーマイオニーは談話室から出ていき、ハリーとロンはお昼まで二人で談話室で過ごすこととなった。箒を抱えながら、チェスに興じて――。

 

 

 

 

 

クリスマス、談話室で読書をしていたところ、談話室をノックする者が現れた。

フレッドとジョージとの出会いを思い出しながら談話室のドアを開けると、そこにはハーマイオニーがいた。

ハーマイオニーは息を切らしながら、すごく悩み、混乱していた様子であった。

 

「ジン……。私、貴方がクリスマスはホグワーツにいるって知ってて……。あの、私は、ハリーのことが心配で今年はホグワーツに残ったんだけど……。それで、どうしても相談したことがあって……」

 

ハーマイオニーのただならぬ様子に、とりあえず場所を変えて話をすることにした。今年のスリザリンでホグワーツに残っているのは自分の他に上級生がもう一人いる。その上級生は部屋にこもって出てくる様子はないが、流石に談話室に入れることは危険だと踏んだ。

仕方なく近場の空き教室に入り、そこで机を挟んで座ってハーマイオニーの話を聞くことにした。

移動中にハーマイオニーは少し落ち着いたようで、悩み事をポツリポツリと話し始めた。

 

「今朝、ハリーのもとにとっても高価な箒が届けられたの。あの、たしかファイアボルトっていう……。貴方は知ってる?」

 

「ああ、名前はな。ドラコもブレーズも随分と欲しがっていたが、あまりに高くて手が出ないようだった。……ポッターはそんな箒を手に入れたのか。これは、休暇明けのドラコの機嫌が怖いな」

 

「ええ、その箒で間違いないわ」

 

俺はポッターが新しい箒を手に入れたことを知り、ドラコの機嫌の心配をする。

そんな俺の様子を見て、ハーマイオニーは少し笑みをこぼした。しかしそれも束の間で、すぐにまた思い悩んだ様子で話を続けた。

 

「でもね、そのファイアボルトには差出人のカードもなく、誰が送ってきたのか全く分からないのよ。……ねえ、これってとても危険だと思わない? ハリーは今、あのシリウス・ブラックに狙われているのよ? ……その箒はシリウス・ブラックが呪いをかけて、ハリーに送ってきたものじゃないかって、私は思ってるの」

 

「ああ、成程なぁ……」

 

「ハリー、シリウス・ブラックのことですごい悩んでて……。その箒が、やっとハリーをシリウス・ブラックのことから引き離してくれたの……。でも、ハリーに身に何かあったらって思うと……」

 

ポッターは送られてきた箒に喜び、自分の箒を失ったことやシリウス・ブラックのことから立ち直ることができたのだろう。そんなポッターから箒を取り上げることは、折角立ち直ったポッターをまた落ち込ませることにもなるし、最悪友情にヒビを入れてしまうかもしれないと危惧している様だった。

 

「……シリウス・ブラックのことを考えたら、箒が危ないのは確かだろう。ウィーズリーは一緒になって箒を危ないと説得してくれるんじゃないのか?」

 

「……ロンは、箒のことをハリーと一緒に喜んでるの。箒を取り上げようって言ったら、きっと反対するわ。……それに、その、今はロンとは気まずいの」

 

箒の件ではウィーズリーはポッターの味方らしい。これはドラコとブレーズのことを考えると想像に容易い。ポッター、ウィーズリー、ドラコ、ブレーズの様にクィディッチに熱中している者からすればファイアボルトという箒がいかに魅力的かはなんとなく分かっているつもりだ。

ドラコやブレーズでも、多少の呪いがかかっていてもファイアボルトを手放したくないと言うだろう。

それに加えて、どうやらハーマイオニーにはウィーズリーと箒の件以外にも衝突することがあるようだった。

 

「箒の件以外にも、何か悩みがあるみたいだな。相談に乗るから、話してみないか?」

 

ハーマイオニーは俺の申し出に乗ることに躊躇した様子だったが、恐る恐るという感じで話を始めた。

衝突の原因は、ハーマイオニーとウィーズリーのお互いのペット。ハーマイオニーの猫がウィーズリーのネズミを執拗に襲い、ウィーズリーとの仲違いの原因になっているらしい。

今朝もウィーズリーのネズミを襲いかけて、話が中断されてしまったとのことだった。

ただハーマイオニーは自分の猫のことを悪いとは思っていないようで、話の端々に猫をかばう様な言葉が見受けられた。

ハーマイオニーはペットの話をし終えると、俺の様子を恐々と窺った。

そんなハーマイオニーの視線を受けて、少しため息を吐きながら返事をする。

 

「……まあ、猫はネズミを襲うものだからな。仕方ないとは思うが、その、危険と分かった上で猫を近づけるのは良くないと思うぞ?」

 

「……ええ、分かっているわ。今は、クルックシャンクスは私の部屋に入れてるの。折角のクリスマスだけど、今朝にあんなことがあった後だから……」

 

ペットの件は、ハーマイオニーも自身に非があるのは感じているらしい。それでも自分のペットへの可愛さのあまり、本当はペットを自室に閉じ込めるようなことをしたくないようだった。ペットのことはどうしたらいいか本当に分からないようで、ハーマイオニーは終始しおらしくなっていた。

ここでハーマイオニーの悩みの全貌が分かってきた。

ハーマイオニーの悩みは、安全の為にポッターから箒を取り上げたい。しかし、取り上げることでポッターと仲違いをすることは避けられない上に、ウィーズリーとは別のことで問題を抱えている。正しいことをすれば一人ぼっちになってしまうと、怖がっているのだ。

この問題は難しい、と正直に思った。

箒の件ではハーマイオニーは正しいが、ポッターへも同情するべき点はある。

事故で大事な箒を失った上に、普段はシリウス・ブラックなどという大量殺人犯に狙われているのだ。新しく手に入れた箒を心のよりどころにしたくなるのも、理解はできる。

一方で、ペットの件ではハーマイオニーは折れなければならない。

ウィーズリーの言い分を聞き入れて、自分のペットを檻にでも閉じ込めておく必要がある。それをせずに相手には箒を取り上げられても我慢しろというのは、いくら理が通っていても感情的に相手も納得はいかないだろう。

かといって、ハーマイオニーがペットを檻に閉じ込めたから貴方も箒を我慢しなさいと言っても、ポッターが納得するとは思えない。反発は少なからずあるだろう。

どうやっても、丸く収まる未来が見えないのだ。

考え込み、思わず黙り込んでしまう。そんな俺を見て、ハーマイオニーは少し怯えた表情になっているのに気が付いた。

ここで俺に責められれば、本当に一人になってしまうと思っているようだった。

そんなこと、できるはずもない。

安心させるように笑いかける。

 

「ハーマイオニー、箒の件はお前が正しいよ。……まあ、ポッターの箒を手放したくないっていう気持ちは理解できるけど、命の危険がある以上、箒は使うべきじゃない」

 

ハーマイオニーは俺の返事に安心したようで、やっと表情を明るくさせた。

そんなハーマイオニーを見て、俺は全面的にハーマイオニーの味方になることに決めた。

ハーマイオニーはもっとクリスマス休暇を楽しむべきだ、と思ったのだ。

最近ハーマイオニーは大量の授業と課題に追われて暗い表情をしていることが多かった。

そんな自分も余裕がない中で、ハーマイオニーはポッターのことを思ってクリスマスもホグワーツに残った。そして今度はポッターのことが心配で、自分が責められると分かった上で箒を取り上げようとしている。

報われて欲しいのだ。ここまで頑張っている彼女が、一人ぼっちでふさぎ込んでクリスマスを過ごすことを見過ごせないのだ。

 

「ハーマイオニー、箒の件は俺から先生に言おうか? 俺は元々ポッター達とは対立関係だ。関係が悪化しても、そこまで問題じゃない」

 

ハーマイオニーにそう申しでる。ハーマイオニーは俺の申し出に驚いたが、少し考え、首を横に振って断った。

 

「……先生に言ったのが貴方でも、貴方に教えたのは私だから、私が言ったも同然だわ。ハリー達が納得しないわよ。……それに貴方は、ハリーと仲が悪いってわけではないでしょう? 貴方とハリーの仲が悪くなるのも、その、あまりいい事だとは思えないの」

 

ハーマイオニーは悲しそうにそう言う。それはもっともな意見であった。

どうにかしてハーマイオニーがポッター達と仲違いをしないように事態を収めたかったが、いい案は思い浮かばない。答えが出ずに悩み考える。

そんな俺の様子を見て、ハーマイオニーは落ち着きを取り戻していった。

 

「……ありがとう。貴方に相談してよかったわ。箒の件、私からマクゴナガル先生に言うわ。ハリー達も、分かってくれるはずだもの」

 

ハーマイオニーは決心をしたようだった。たとえ自分が責められても、ポッターの安全を第一に考えようと。

心配そうにしながらも何も言えないでいる俺を見て、ハーマイオニーは少し微笑んだ。

 

「あのね、ジン。たとえ貴方に相談ができなくても、私はきっとマクゴナガル先生に箒の件を報告していたわ。……でもね、貴方がいてくれるから、ちょっと怖くないの」

 

「……そうか。何もできてないけど、力になれているならよかった」

 

ハーマイオニーは俺にお礼を言ってくれるが、笑った顔はどこか寂しそうだ。

それはそうだろう。クリスマスに親友との仲違いを喜ぶ人間など存在しない。

少しでもハーマイオニーの気持ちが晴れればと思い、話しかける。

 

「もし、箒の件でポッターと仲違いして寮で居心地が悪くなったらさ、図書館においでよ。俺は多分、クリスマス休暇は大体図書館にいる。……ほら、俺も一人でクリスマスを過ごすのは寂しくてさ。ハーマイオニー、お前が来てくれたら嬉しいよ」

 

ハーマイオニーはパッと明るい笑顔を見せてくれた。例えポッター達と仲違いをしても、クリスマスに一人で過ごすことがないと分かったようだった。

ハーマイオニーはクスクスと笑いながら、俺に返事をした。

 

「ありがとう、嬉しいわ。貴方がいてくれるの、本当に心強い!」

 

ハーマイオニーの悩みは解決できなかったが、不安は解消できたようだった。

そして気が付けば時間も経っており、いつの間にか昼食の時間であった。

二人で空き教室を出て一緒に昼食の為に広間へと向かう。

昼食へ向かう道中、ハーマイオニーは俺に期待を込めた声で話しかけた。

 

「……ねえ、もし、私がハリー達と喧嘩しないで済んだら、その、貴方も私達と一緒にクリスマスを過ごさない? ハリーもロンも貴方のことを知れば、絶対に仲良くなれると思うの。ね、きっと良いクリスマスになるわ」

 

ハーマイオニーがこの提案を、期待半分不安半分でしているのが分かった。

そもそも、ハーマイオニーがポッターから箒を取り上げても対立しない可能性は極めて低いと踏んでいる。それはハーマイオニーも思っているようだった。

それでもハーマイオニーがこういった提案をするのは、どこか期待をしているのだろう。

シリウス・ブラック、ウィーズリーとのペット、呪われているかもしれない箒。それらの問題がポッター達との対立無しで解決されるのではないかと。

 

「……ああ、そうだな。そしたら、グリフィンドールにお邪魔させてもらうよ」

 

ハーマイオニーの期待に乗っかるように返事をする。内心では、そんなことにはならないだろうと考えながら。

大広間に着き扉を開けると、使われているテーブルは一つだけであった。

ダンブルドア先生、マクゴナガル先生、スネイプ先生、スプラウト先生、フリットウィック先生、管理人のフィルチさん。加えて、緊張で固まっているハッフルパフの一年生が二人。今この場にいるのはそれで全員。まだポッターと、スリザリンの上級生は来ていないようであった。

 

「おお、メリークリスマス、二人とも! 今、ホグワーツにおる者は少なくてのう……。寮のテーブルを使うのは、大がかりすぎると思っての。ささ、席にお座り。みんなが来てから、食事を始めよう」

 

ダンブルドアは微笑みながら、俺とハーマイオニーを机に手招きをした。

俺とハーマイオニーは顔を見合わせた。

 

「俺は、あそこの席に座るよ。食事が終わったら図書館にいるから、何かあったらおいでよ」

 

ハーマイオニーは俺の言葉に頷き、俺の席の向かいの三席並んで空いている席の一つに腰かけた。

それからすぐにスリザリンの上級生が広間に来て、その後にポッターとウィーズリーがやってきた。これで全員のようで、ポッターとウィーズリーが席に着いたら食事が始まった。

昼食は豪華で、クリスマスらしいご馳走であった。ダンブルドアが一年生へ食事を勧め、一年生が緊張で震えあがったり、途中でトレローニー先生が来たりといったことがあったが、食事は楽しい雰囲気で終わった。

食事が終わると、ポッターとウィーズリーが真っ先に立ち上がり、大広間から出ていった。後を追うようにスリザリンの上級生はすぐに席を立って出ていった。談話室に戻ったのだろう。

ハッフルパフの一年生二人は緊張しながらも先生に挨拶をしてから大広間から出ていった。

そうして残ったのは先生方と俺とハーマイオニーのみ。

ハーマイオニーは緊張しているようであった。これから箒の件をマクゴナガル先生に報告することを。俺の方をチラリと見てから、意を決したようにマクゴナガル先生へと話しかけた。

 

「マクゴナガル先生、相談したいことがあるんです」

 

ハーマイオニーに話しかけられ、マクゴナガル先生はハーマイオニーに向き直った。それから周囲を確認し、まだ大広間にいる俺に声をかけた。

 

「エトウ、貴方もそろそろ談話室に戻られてはどうでしょう? 他の皆様も、もうお戻りになられるようですし」

 

マクゴナガル先生なりのハーマイオニーへの気遣いだろう。相談内容が他の者に聞かれないように。

ハーマイオニーの方に目をやると、俺に向かって頷いて見せた。大丈夫、という意味だろう。相談をする際に一緒にいようと考えたが、必要はなさそうであった。

俺は大広間から出ていき図書館へ向かう。ハーマイオニーには悪いが、十中八九、ポッター達との仲違いは発生するだろう。この後はハーマイオニーへの慰めが必要になりそうだ。

図書館に着いてからは、適当な本を読み漁る。内容はそこまで頭に入ってこない。ハーマイオニーが来るまでの時間つぶしだ。

 

 

 

「必ず守らせる契約の魔法」の本を読み流していると、予想通りにハーマイオニーが現れた。表情は暗い。どうやら、箒の件でポッターとの対立は避けられなかったようだった。そんなハーマイオニーを隣の席に招く。

クリスマス休暇の間、図書室の司書であるマダム・ピンスは不在である。多少、騒がしくしても注意する人はいない。普段はあり得ないが、図書館で話をすることにした。

 

「やっぱり、ポッターとは喧嘩になったか?」

 

「ええ……。ハリーもロンも、ファイアボルトを取り上げて調べるだなんて、とんでもないってことを言うの。呪いがかかっているかもしれないっていうのに……」

 

ハーマイオニーは、ポッターとウィーズリーの反応に少なからず怒りを覚えているようであった。ポッターを思っての行動が、ポッターによって批判をされているのだ。当然のことだと思う。

ハーマイオニーの愚痴は止まらなかった。

 

「そもそも、ハリーは危機感が足りないわ! だって、シリウス・ブラックはホグワーツへの侵入を成功させて、グリフィンドール寮に押し入ろうとしたのよ! それなのに、送り主不明の箒に乗ろうとするだなんて……。それも、クィディッチの試合中に吸魂鬼に襲われて死にかけたばかりだっていうのに……。箒に乗ること自体、注意しなきゃって思わない? それに、外出だって控えなきゃいけないのに……。ロンもロンよ! 箒にうつつを抜かして、ハリーより箒の方が大事だって言うの? それに、クルックシャンクスを目の敵にして……。ひどい偏見よ。猫がネズミを襲ったからって、当然のことなのに、まるでクルックシャンクスが狂っているかのように扱うのよ。……私だって、スキャバーズのことは気にはしているのよ」

 

ハーマイオニーは愚痴を言いながら、どんどん落ち込んでいった。ポッター達との対立は、本意ではないのだ。

愚痴を言い終わると、ハーマイオニーは怒りがとりあえず収まったようだった。しかし、スッキリしたというよりは、落ち込んだ表情をしている。無言になってうつむいてしまった。

なんでクリスマスにこんなことになってしまったのだろうか、と思っているようだった。

俺は本を閉じて立ち上がる。ハーマイオニーは驚いて顔を上げた。

 

「ハニーデュークスの、いいお菓子があるんだ。それを食べながら、ついでにクリスマス休暇の課題を済ませないか? 今日と、明日一日あれば大体終わるだろ。課題が終わったら、そうだな……ちょっとした魔法を使って、雪遊びでもしてみないか? 試してみたい魔法もある。折角ホグワーツにいるんだ。家にいたらできないようなことをしよう」

 

ハーマイオニーが来るまで、どうしたらクリスマスが楽しくなるかを考えていた。

ハニーデュークスのお菓子も、課題を一緒にするのも、魔法を使った雪遊びも、さっき思いついた提案だ。

ハーマイオニーは俺の突然の提案に呆けた顔をしたが、直ぐに顔を輝かせ始めた。

 

「ええ! 是非、やりましょう! ね、課題なんだけど、私、人より多くの授業を取っているから量も多くて……。貴方よりも時間がかかってしまうわ……。でも、その、雪遊びは一緒にやりたいの! ねえ、貴方の試したい魔法ってどんなもの? ああ、そうだ! ついでにハグリッドのところに行くのはどう? ハグリッド、貴方のことも気にしていたのよ? ほら、吸魂鬼で気絶しちゃったって話を聞いて」

 

「ああ、ハグリッドのところか。いいな、それ。俺はホグワーツに来てからほとんどハグリッドのところに行ってなかったからな」

 

「でしょ? ね、それなら課題に早速取り掛かりましょう? 私、早めに終わらせられるように頑張るわ!」

 

ハーマイオニーは本当に楽しそうに、クリスマス休暇の予定を提案してくれた。

それからお互い課題と俺は菓子と紅茶を持って、お昼前に話をした空き教室で一緒に課題をすることにした。

ハーマイオニーは、一緒に課題をしている間はポッター達との対立のことを忘れることができたらしい。表情が明るくなっていくハーマイオニーは、見ていて楽しかった。

質問をする度に、嬉しそうに返事をして教えてくれる。一息ついてお菓子を口にするたびに、美味しいと顔を輝かせる。ハニーデュークスのお菓子は、ハーマイオニーに好評だった。課題はハーマイオニーの助言もあり、スムーズにこなすことができた。クリスマス休暇一日目が終わるころには、課題が半分ほど終わらせることができた。

寮へ戻らなくてはならない時間になって、課題をまとめ、お菓子のごみを回収する。帰る準備をしているハーマイオニーは名残惜しそうであった。

 

「ハーマイオニー、明日もここでいいか? 朝食が終わったら、課題を終わらせようか」

 

そんなハーマイオニーに明日の約束を投げかけると、顔をあげて表情を明るくさせる。

 

「勿論よ! 明日には課題が終わらせられると思うわ。そしたら、ハグリッドのところに行きましょう!」

 

ハーマイオニーは、終始楽しそうにしてくれる。それが嬉しかった。

ハーマイオニーがポッター達と喧嘩をしたのは、もしかしたら俺にとっては良かったことなのかもしれない。

今朝に自分が想像していたクリスマスより、よっぽど楽しいクリスマスになりそうだと思うのだ。

 

 

 


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