日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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デートへの協力

クィディッチの試合のあった次の週、まだまだスリザリンは勝利の余韻に浸っていた。スリザリン生がグリフィンドール生へ勝利の喜びをひけらかし、グリフィンドール生はそれを見て忌々し気にするという場面をそこら中で見かけた。

ドラコは絶好調だった。ポッターへ念願のリベンジを果たし、さらにはポッターが吸魂鬼によって気絶したという弱みを手に入れて上機嫌だった。また、スリザリン生の多くが試合中に気絶をしたポッターをネタにしていたこともあり、ドラコのポッター弄りがしばらくはスリザリンの風物詩と化していた。一方で不思議とスリザリンの中で俺が吸魂鬼で気絶したことをいじられる機会というのは少なかった。一部の上級生達から揶揄されるのみで、大々的に弄られることはなかった。これまたドラコが周囲へ牽制をしているようだった。ドラコは周囲へ、俺が吸魂鬼によって気絶させられることがないよう対策をすでに身に付けているようなことを言いふらしていた。

まだルーピン先生から対策を教えてもらう前なのだが、俺をかばう為にドラコは嘘をつくことに決めたらしい。もっとも、いつまでも嘘のままにしておく気はないみたいで、闇の魔術に対する防衛術の授業の前にドラコは俺に強く念押しをした。

 

「いいかい、すぐにでも吸魂鬼を克服するんだ。君だって、ポッターみたいに弱虫扱いは嫌だろう?」

 

そうドラコにけしかけられながら教室のドアを開ける。教室には復帰されたルーピン先生がいた。相変わらず体調は悪そうではあったが、授業に支障はないようであった。

ルーピン先生は授業を始めると、まず初めに言ったのはスネイプ先生の出した課題の免除だった。

 

「他のクラスでも同様の指示を出したが、人狼に関するレポートは提出しなくても結構。君達はまだ人狼について十分に学習をしていないからね。そんな課題を出すのはアンフェアだという意見が多かった」

 

課題の免除に多くの生徒がホッとした表情となった。まだ少し猶予があったとはいえ、課題に手を付けていた生徒はほとんどいなかったようだ。

俺も仕上げてしまったレポートは提出することなく、他の奴らに見せる必要もなくなったそれをカバンの奥へしまった。今後、人狼に関するレポートの提出があれば使いまわそうと思った。

それから、ルーピン先生から吸魂鬼の対策について教えてもらう約束はすんなりと取れた。

授業の終わりに吸魂鬼の影響でまた気絶することがあった旨を報告し、対策を教えて欲しいとお願いしたら、クリスマス後に時間を作ってくれるとのことだった。

どうやら、ポッターも同じように悩んでいたらしく、二人一緒に対策を教えてくれるとのことだった。クリスマス後にポッターと二人でルーピン先生の特別授業を受ける事となった。ルーピン先生との約束を取れたことで悩みの種が一つ消えそうだという安心があったが、それと同時に残念な出来事があった。

ハーマイオニーとクリスマス前に課題を一緒にする約束が延期になってしまったのだ。

闇の魔術に対する防衛術の授業の後、古代ルーン文字学の授業の中でハーマイオニーから小声で切り出された。

 

「その、前に話していたクリスマス前に課題を一緒にしようって話、ちょっと難しそうなの……」

 

「どうした、何かあったのか?」

 

少し驚きながら、授業を受けているふりをしつつ小声で返事をした。

 

「あのね、この間のクィディッチの試合でハリーの箒が暴れ柳にぶつかって粉々になっちゃったのよ。ハリー、それですごい落ち込んでて……。それに加えて、学期末最後の週末にホグズミード行きが許されるでしょう? ほら、ハリーはホグズミードに行けないから一人になっちゃうし……。しばらくは、ハリーに励ましが必要だと思うの……」

 

ポッターの箒が粉々になったのは知らなかった。加えてホグズミードの件もあり、確かにそんな中で俺達と一緒に課題をやるのは気が引けるというのはよく分った。特に、パンジーはポッターを毛嫌いしているし、隙あらばハーマイオニーをポッターから引き離そうとする。そんなパンジーとの会合を延期したいと思うのは、ポッターを励まそうと決めたハーマイオニーにとって自然なことだった。

幸いにも、まだパンジーにはハーマイオニーと課題をする約束の話をしていなかった。ここで延期になっても、話がややこしくなることもない。

申し訳なさそうにするハーマイオニーに、努めて明るく声をかける。

 

「分かった。まあ、仕方ない。箒が折れたポッターも気の毒だしな。パンジーにはまだ話をしてなかったし、問題ないよ。クリスマス休暇が明けて、落ち着いたらにしようか」

 

ハーマイオニーは終始、申し訳なさそうにして授業を終えた。

授業後、相も変わらずよく分らないタイミングで消えるハーマイオニーを見失うことに慣れつつ、ダフネと共にスリザリンの寮へ戻る。

ハーマイオニーとの約束が延期になってしまったことは残念だった。しかしクリスマス休暇が近いことやホグズミード行きを控えていることもあり、そんなには気落ちをしなかった。

スリザリンの談話室に戻ると、ブレーズとドラコ、パンジーが先に集まっていた。なにやらブレーズがすごく上機嫌な様子だった。

 

「よお、ブレーズ。何かいいことでもあったのか?」

 

そうブレーズに声をかけると、ブレーズ達は勢いよくこちらを振り返った。

ブレーズは上機嫌な様子のまま、俺達に声をかけた。

 

「ようよう、お二人さん。授業、お疲れさん。なに、ちょっくら俺にいい週末が舞い込んできただけさ」

 

「舞い込んできた? 私のお陰でしょう?」

 

ブレーズの返事に少しばかり不満げにパンジーが声をあげた。そんなパンジーにブレーズはへらへらと笑いながら同意をした。

 

「まあ、ちょっとはお前のお陰ではあるかな。ちょっとはな」

 

「……ブレーズ、これは貸しよ。今度、絶対返してもらうから」

 

あまり恩を感じていなさそうなブレーズに、パンジーはジト目でにらみながら釘を刺した。

しかし、ここまでの会話で話の内容が全く分からない俺とダフネは首をかしげるだけだった。そんな俺達を見て、ドラコが説明をしてくれた。

 

「ブレーズに、今度のホグズミード週末にデートの約束が入ったのさ。相手はパンジーが焚き付けてその気になった人だ。もっとも、相手からブレーズを誘ってきたから、相手はそもそもその気だったのかもしれないって話さ」

 

ドラコの簡潔な説明を聞いて、事態を把握した。ダフネは早速、楽し気にブレーズに質問を始めた。

 

「あら、よかったわね。お相手は誰かしら?」

 

「レイラ・フォートリア。ほれ、黒髪ロングの人。俺達の一つ上の学年だ。去年のハロウィンにも少しばかり話をしてた」

 

ブレーズは上機嫌なまま返事をする。ブレーズの返事を聞き、去年のハロウィンパーティーの時にブレーズが上級生の女性と一緒にいたのを思い出した。

 

「それじゃ、次回のホグズミード週末はお楽しみなわけだ。どこ行くかはもう決めたのか?」

 

「まあ、相手が行きたいカフェがあるらしくってな。まずはお昼をそこで済まして、後はクリスマスの飾りつけを楽しみながらブラブラするかな」

 

俺の質問に肩をすくめながらブレーズは返事をする。俺達はまだ一回しかホグズミードへ行ったことがなく、相手の方がホグズミードのことをよく知っていることもあるのだろう。デートコースは相手に任せるようだった。

ここでブレーズは残念そうな表情をした。

 

「まあ、お前らとホグズミードを回れないのは少しばかり残念だな。前回は一通り回れたけどよ、まだまだじっくり見たいところは多かったしな」

 

「おや、らしくないね。君はデートのお誘いにすぐさま飛びついていたようにも見えたが」

 

ドラコのからかいに対し、ブレーズはややムキになりながら答える。

 

「そりゃお前、クリスマスだぜ。いい思いをしたいってのは当たり前だろうが。それはお前だってそうだろう?」

 

「否定はしないさ。でも、君ほど露骨に食いつきもしないさ」

 

ドラコはブレーズの反論も涼し気な表情で受け流す。

そしてこの会話を聞いたパンジーが目を光らせた。俺とダフネはそんなパンジーに手招きされ、ドラコとブレーズから少し離れたところに呼び出された。

ドラコとブレーズがこちらの会話を聞こえないのを確認すると、パンジーはウキウキとした様子で俺とダフネに話を切り出した。

 

「ねえ、これってチャンスなんじゃない?」

 

「何がだ?」

 

唐突の話に少し困惑していると、パンジーは呆れたような表情で俺を見てため息をこぼした。

 

「あんた、ドラコの話聞いてた? クリスマスにデートしたいって、ハッキリと言ってたじゃない」

 

ドラコが言っていたのは、「否定はしない」の一言である。確かに、デートをしたいという風に解釈できるが、少々話が飛んでいるようにも感じた。

パンジーのセリフに俺も俺で呆れた表情となる。一方でダフネはすぐにパンジーの意図に気が付いていたようだ。クスクスと笑いながら俺とパンジーのやり取りを見ていた。

 

「パンジー、つまるところ、次のホグズミードに貴女とドラコが二人きりになるように協力して欲しいってことね?」

 

ダフネが未だクスクス笑いを引きずりながらパンジーに質問をした。

パンジーは呆れた表情から打って変わって、嬉しそうに頷いた。

 

「そうなの、流石はダフネ! この鈍い奴とは全然違うわ! ね、いいでしょう? 私、このチャンスを絶対ものにするから!」

 

パンジーは甘えるようにしながらダフネの腕に縋る。ダフネは面白がるようにしながら、じゃれてくるパンジーに返事をした。

 

「いいわ、パンジー。協力してあげる。ジン、貴方も構わないでしょう?」

 

「……まあ、俺も別に構わないが」

 

ダフネに投げかけられ、特に断る理由もないので了承の返答をする。

パンジーは俺達の返事を聞くと表情を輝かせ、ダフネに抱き着く。

 

「ありがとう、ダフネ! 頼りになるわ! ダフネに借りができちゃった!」

 

俺への借りはカウントする気はないらしい。そんなパンジーの様子にため息をつく。

ダフネはそんなパンジーの頭をなでながら、俺に話しかけてきた。

 

「パンジーとドラコを二人きりにする方法だけど、ホグズミードにいる途中で何か理由をつけて別れましょう。理由とかは私が考えておくから。貴方、こういうの苦手でしょう?」

 

少しからかうような口調であったが、図星であるため何も返せなかった。

無言でうなずき、ダフネの意見に従う意を示した。パンジーはそれを見て満足げな表情をすると、すぐに立ち上がってドラコとブレーズのもとへと戻っていった。

自由気ままなパンジーの態度に俺は呆れつつ、ダフネは面白がりながら、パンジーの後に続く。ドラコとブレーズは俺達が少し離れていたことを全く気にしていない様子であった。デートを楽しみにしているブレーズに、パンジーに絡まれてまんざらでもないドラコ。パンジーに頼まれた時は渋々といった姿勢になってしまったが、この二人にとってもいいクリスマスになるのであれば、多少の協力は惜しむ気にならないのは確かだった。

 

 

 

クリスマス休暇前のホグズミード週末まではあっという間であった。

ホグズミード週末当日、朝食を終えるとブレーズは例の女性と待ち合わせをしているらしく、直ぐに外出許可書を持って玄関口へと向かっていった。

残された俺達四人は前回の様に玄関口へ駆け込みはせず、ゆっくりと支度を済ませてホグズミードへと向かった。

天候は生憎の雪な上に風が強かったが、ホグズミード全体に飾られた飾りやキャンドルが美しく光り、建物に積もった雪を美しく照らしていた。そんな幻想的な景色がクリスマスの特別感をより強くしていた。

ホグズミードの景色を楽しみつつ、四人で前回は入れなかったお店を見て回った。雪と風に煽られながらもクリスマスに染まったホグズミードを堪能し、体が冷え切ってしまったところで、近くにあった少し洒落たカフェでお昼にすることにした。

温かい店内の空気にホッとしつつ、席についてそれぞれの注文を済ませる。そして運ばれてきた温かい紅茶を飲みながらダフネが話を切り出した。

 

「そう言えば私、みんなへのクリスマスプレゼントを買ってしまおうと思うのよ。ジン、ちょっと量が多くなりそうだから持つのを手伝ってもらってもいいかしら?」

 

「ああ、いいぞ。お安い御用だ」

 

ダフネのこの誘いが、パンジーとの約束を果たすためのものだとすぐに分かった。即答で了承をする。ダフネは俺の返答を聞いて満足げに笑いながら、ドラコとパンジーにさらに話を続ける。

 

「ねえ、ドラコにパンジー。あなた達へのクリスマスプレゼントも買おうと思うわ。渡す前にプレゼントの中身が知られてしまうのは興醒めだから、午後から別行動をしてもいいかしら?」

 

「ああ、まあ、僕は問題ない…」

 

「私も! ねえ、ドラコ! 午後にはどこに行こうかしら?」

 

ダフネの提案に、ドラコはどこか歯切れを悪くしながら了承し、パンジーは食いつき気味に賛同して午後から別行動をすることに決まった。

昼食中、午後の計画を楽し気に話すパンジーから少し逃れ、ドラコが俺に心配そうに声をかけてきた。

 

「ジン、女性の買い物の荷物持ちとは中々な重労働だと聞く……。君は大丈夫かい?」

 

どうやら、ダフネの俺に荷物持ちをさせるという大義名分がドラコに引っかかっていたらしい。

俺もそうだが、ドラコも女性の荷物持ちなどで買い物に付き合ったことはない。ブレーズは何度かあるようで、俺達に女性の買い物の荷物持ちは結構な重労働だと文句を漏らしていたのを聞いたことがある。ドラコは、折角のクリスマスをそんな重労働で潰してしまっていいのかと俺を心配してくれていたらしい。

ドラコの心配は嬉しいが、ダフネの提案がドラコとパンジーを二人きりにするもの。その心配が杞憂であることを俺は知っている。この状況をどこか可笑しく思い、俺は少しクツクツと笑いを漏らしながらドラコに返事をする。

 

「大丈夫だよ、心配しすぎだ。ダフネも流石に俺にそこまで重労働は課さないだろ。お前の方こそ、パンジーに振り回されるんだ。頑張れよ」

 

「……まあ、君がいいというなら。じゃあ、夕食で合流しよう」

 

ドラコは少し納得したようにしながら席に戻り、改めてパンジーと午後の計画づくりを始めた。

 

 

 

昼食を終えると、ドラコはパンジーに引きずられるようにしながら、二人で雪の中へと消えていった。

俺はそれを見送ってから、隣にいるダフネに話しかけた。

 

「ダフネ、この後はどうする? クリスマスプレゼントを買いに行くか?」

 

「そうね……。実はクリスマスプレゼント、もうほとんど用意してしまっているのよね」

 

「ああ、なら、さっきのはドラコとパンジーを二人きりにするための方便か?」

 

「いいえ、全部が嘘ってわけではないわ。ドラコとパンジーのクリスマスプレゼントを買うつもりなのは本当よ。とりあえず、魔法用具店ダービシュ・アンド・バングズへ行かない? ほら、あそこにはいろんなものがあるでしょう?」

 

ダフネは少し上機嫌にゆっくりと歩き始めた。そんなダフネの隣を歩きながら、何気ない話をする。

 

「俺はプレゼントとか、そういうの選ぶの苦手なんだ……。この間のアストリアへのお土産も、正直俺のだけ喜ばれていたかよく分からなかった」

 

「あら、アストリアは喜んでたわよ。便利だって言って、今も使っているみたい。……まあ、でも、確かに自動修正羽ペンは色気がなさすぎかしらね」

 

「色気ねぇ……。今度、ブレーズにでもプレゼントの選び方をご教授いただこうかな」

 

「あら、なら私が教えてあげるわ。それも、今度とは言わず今から」

 

ダフネはいいことを思いついた、というような表情で俺の方を見てにっこりと笑った。

 

「素敵なクリスマスプレゼント、一緒に選びましょう?」

 

そう言うと、ダフネは俺の手を引いて少し足早にダービシュ・アンド・バングズへと入っていった。

 

 

 

ダフネと一緒にダービシュ・アンド・バングズを回りながら、プレゼントの選び方を教えてもらった。女の子がどんな小物を使っているか、どんなデザインが良いか、そして参考にとダフネの好みも。

 

「そうね、例えば私はインク入れなら、ダイヤ型よりも丸形が好みよ。ほら、可愛いでしょう?」

 

そう言いながら、ダフネは薄く空色に発光をしている丸形のインク入れを手に持って微笑んだ。俺はなるほどと頷きながら、他の物も物色をしていく。

髪の長い子用に髪飾りもいいし、羽ペン入れや、手帳、鞄、手鏡にハンカチなどなど。自分じゃ思いつかないものが多く、すごく為になった。

それからダフネは、ダービシュ・アンド・バングズだけでは他の奴らへのクリスマスプレゼントを選びきれないと言い、近くの雑貨屋やアクセサリーショップ、服屋へと俺を連れて回った。

雑貨屋では、櫛や髪留め、化粧ケースなどを一緒に見た。ダフネはパンジーへのクリスマスプレゼントを、ピンクを基調としたデザインの化粧ケースにしたようだった。

次に行ったアクセサリーショップでは、ネックレスやブレスレッド、イヤリングといろいろなアクセサリーに興味を示していた。ダフネは普段あまりアクセサリー類をつけていないので意外であった。そう正直に伝えると、ダフネは少し笑いながら俺に言った。

 

「確かに普段は私もあまり付けないわ。でも、そうね……。特別な日にとか、少しでも自分を綺麗に見せたい時ってあるじゃない?」

 

「そういうものか……」

 

説明を受けて納得をしている俺に、ダフネは苦笑いであった。

それから服屋では、濃い緑色のマフラーに目を止めた。

 

「これ、ドラコにいいかもしれないわね」

 

「これか? 確かに、寮のローブと色も合うしな……」

 

「それにほら、ドラコって緑が特に好きでしょう? でも、パンジーとプレゼントが被らなければいいけど……」

 

悩まし気にしながらも、ダフネはマフラーをドラコのプレゼントとして決めた。

ドラコとパンジーへのクリスマスプレゼントを揃えると、ダフネはどうやら満足したようだった。

 

「クリスマスプレゼントはこんなものかしらね。それに、そろそろいい時間ね。そういえばジン、貴方は行きたいところとかなかった? もう一つくらいなら帰る前によれると思うけど……」

 

ダフネにそう聞かれ、少し考える。十分に楽しんだため、このまま帰ってもいいとは思っていた。しかし尋ねられて考えてみると、行きたい場所が一か所思い浮かんだ。

 

「ハニーデュークスに寄ってもいいか?」

 

「ハニーデュークス? 貴方がお菓子を欲しがるなんて珍しいわね」

 

ダフネはそう言いながらも、帰り道の途中にあるハニーデュークスへしっかりと立ち寄ってくれた。

ハニーデュークスでは相変わらず大量の試食品が配られており、甘くておいしそうなお菓子からゲテモノまで種類豊富に揃えられていた。

俺がハニーデュークスに寄りたいと思った理由は二つ。

一つは、先日の六人の祝勝会でドラコが多くのお菓子を持ってきてくれたことを思い出したから。俺は普段それほどお菓子を食べる方ではないが、お菓子をいくつか持っていることの魅力を確かに感じた。また同じようなことをしたいと思った時の為に、お菓子を持っているに越したことはない。

二つ目は今日一日、俺にプレゼントの選び方を教えてくれたダフネに何かお礼を買おうと思ったのだ。本人にそれを告げなかったのは、遠慮してしまうと思ったから。

店内を物色しながら、いくつかのお菓子を買いそろえる。その内の一つ、中にイチゴ味のクリームがたっぷりと入った小粒のチョコレートをプレゼント用にラッピングしてもらう。買い物はあっさりと終って余裕を持って店を出ることができた。

ホグワーツへの帰り道、雪道の中を荷物を抱えながらダフネと歩く。隣を歩くダフネに、先ほど購入したばかりのラッピングしてもらったチョコを差し出した。

 

「ダフネ、これは今日の授業料。プレゼントの話、参考になった。ありがとな」

 

そう言って渡されたチョコを、ダフネは目を丸くして受け取った。

ダフネはしばらく呆然と渡されたチョコを見つめていたが、ポツリと言葉を漏らした。

 

「……あなた、プレゼントは苦手って言ってたわよね?」

 

「うん? ああ、だから今日はすごい参考になったよ」

 

ダフネの質問の意図が分からずに言葉を返す。ダフネはそれを受けて、クスリと笑ってから俺に満面の笑顔でこう言った。

 

「このサプライズ、とっても素敵よ。これ、今までで一番素敵なプレゼント。ありがとう、嬉しいわ」

 

「そんなに喜んでもらえるとは思わなかった。そう言って貰えるなんて、買ってよかったよ」

 

サプライズのような渡し方がお気に召したようであった。お礼のプレゼントを渡してからのホグワーツまでの帰り道、ダフネはスキップしそうなほどに上機嫌であった。ここまで上機嫌なダフネは珍しく、サプライズの効果は偉大だと頭に刻みながら後を追うようにゆっくりと一緒にホグワーツへと向かった。

 

 

 

ホグワーツに着いて、ダフネは荷物を置きに自室へと戻った。夕食までのしばらくの間、俺は談話室で時間をつぶしていると、うなだれた人影が二つ、こちらに向かって歩いてきた。

ブレーズとパンジーであった。

デートをしていたはずの二人の落ち込んだ様子。何かあったのかと気になり、声をかける。

 

「ブレーズ、パンジー。お前らどうしたんだ? デートしてた割には、随分と暗い様子だが……」

 

そう言うと、二人は俺に気づいたようでこちらにやってきた。

まず先に話し始めたのはブレーズであった。

 

「よお、ジン……。まあ、見れば分かんだろ。俺達二人ともデートが上手くいかなかったってだけの話だ」

 

「そうか……。まあ、座れよ。話くらい聞くさ」

 

そう言って二人を向かいに座らせる。ブレーズはため息をつきながら話を続けた。

 

「レイラ、俺のデート相手だが、随分と悪趣味だった。行きたいって言われたカフェはピンクでハートがふわふわと浮いてるような装飾ばっかりだ。そして付き合っている訳でもないのに、一つのグラスからストローが二つ飛び出たやつを一緒に飲もうと誘ってくる。極めつけは、俺を可愛いブーちゃんと呼びやがる……。趣味が悪かったんだ。悪い奴ではなかったが、ことごとく趣味が悪かった。二度と付き合いたくねぇ……」

 

「……随分と疲れる一日だったんだな。お疲れさん」

 

恐らくブレーズが今言ったことは、今日で味わった苦痛の十分の一にも満たない内容であっただろうが、いかに厳しい一日を過ごしたか分かるには十分な内容であった。

一方で、同じように落ち込んでいるパンジー。こちらはドラコがデート相手なこともあって、ブレーズほどひどい一日を過ごしたとは思えなかった。

 

「パンジー、ドラコと何かあったのか?」

 

「……何もなかったのよ」

 

「……そうか」

 

こちらはこちらで根が深そうな話だと思った。

今度はパンジーが堰を切ったように話を始めた。

 

「……私、ドラコと一緒にクリスマスに定番のお店って言われてるカフェに向かったわ。……そこはブレーズと似た感じのお店で、ドラコはあまり気に入らなかったみたい。ひきつった顔をしてたからすぐに分かったわ。でもそれから、気を取り直すように外でクリスマスの飾りを見ましょうって誘ったの。一緒に外を歩いて回ったのだけど、ほら、この雪でしょ? あまり飾りも見れなくて……。ドラコが気を遣って雑貨屋に行こうとしたけど、途中でクラッブとゴイルを見かけたのよ。あいつら、この雪の中でも食べ歩きをしてた。で、ドラコがそれを見てられなくて、腹を壊す前にどこかに屋内に入れとか、世話を焼き始めて……。最後の方はもう、四人行動をしてたわ……」

 

「ああ……。まあ、不幸だったな……」

 

軽く聞いただけで分かるが、パンジーのデートも酷い失敗だったようだ。

パンジーは立ち直ることができないようで、暗い表情のまま俺に問いかけた。

 

「あなたはダフネと一緒に行動してたのよね? ダフネは、もう帰ってる?」

 

「ああ、自室に荷物を置いてくるそうだ。部屋に戻ったらいるんじゃないか?」

 

「分かった……。ダフネに会いに部屋に戻る……」

 

パンジーはそう言い残して、ゆらゆらと重い足取りで談話室から去っていった。

残ったブレーズはひたすらに今日の愚痴を俺に言い、俺はそれを聞きながらブレーズを慰めることに尽力をした。

落ち込むブレーズには悪いが話の内容自体は面白く、いつか傷が癒えたら笑い話にしたいと思いながら聞いていた。

親友の上手くいかないクリスマス。こんなクリスマスも一度くらいはいいかな、と思ってしまった。

 

 

 

 

 

ダフネは自室に戻って、荷物を片付けてからベッドの上で一息ついた。

それから、ポケットに入れていたジンからのプレゼントを取り出す。

ピンクの袋にリボンでラピングされたチョコレート。それを眺めて、思わず表情を緩める。

不意打ちで渡されたこれは、ダフネにとってこれ以上にないプレゼントだった。勿論、これを渡してきたジンの様子からプレゼントに深い意味はなく純粋なお礼として渡されたのは重々承知をしている。しかし、それでも嬉しいものは嬉しい。

勿体なくて、いつまでも食べられないかもしれない。そんなことを考えながら手の中にあるプレゼントを眺めていたら、突然部屋のドアが開いた。

驚いて思わずポケットの中にプレゼントをしまいドアの方を見ると、パンジーが落ち込んだ表情で立っていた。

パンジーはダフネが部屋にいるのを見ると、直ぐに飛びついてきた。

 

「ダフネ! 今日、すごいダメだった! 聞いてよぉ……」

 

ダフネはパンジーのその様子から、何があったのか大体のことを把握した。抱き着いてくる可愛らしいルームメイトの頭をなでながら、優しく声をかける。

 

「パンジー、何かあったの? ドラコが貴女を蔑ろにするとは思えないけど……。もしかして、邪魔が入った?」

 

「そう! クラッブとゴイル! あいつらのせいで後半はほとんど台無し!」

 

ヒートアップしたパンジーが、クラッブとゴイルへの文句、天候への不満、果てにはホグズミードのカフェにまで文句をつけて、ドラコとのデートが上手くいかなかったこと嘆いた。

流石にパンジーも今回の失敗は流石に堪えたのか、いつもよりも強い口調で愚痴が続いた。

しかし、ダフネはそれが長続きしないことを知っている。

 

「パンジー、今日はだめでもまたすぐにチャンスが来るわ。ほら、クリスマスが終わったら次はバレンタインがあるわよ」

 

「……そうね。うん、次があるわ! 去年はバレンタインに何もできなかったけど、今年は何かカードと一緒にプレゼントを送ってもいいかもしれないわね!」

 

散々愚痴を言い、ダフネの少しの励ましを受けて、パンジーはすぐに調子を戻した。早速、次のデートのことやドラコへのアピールの作戦を考え始める。

ダフネはそんなパンジーを眺め、やっぱりな、という気持ちになる。そして、少し羨ましいと思った。

ここまでまっすぐに相手に好意をぶつけることができて、それが上手くいかなくて落ち込んでも数日たてばケロッとしてまた好意をぶつける……。

普通、散々アピールして上手くいかなければ、多少なりとも気まずさや恥ずかしさを覚えるものだろうが、パンジーにはそれがない。そしてアピールを続けていれば、ドラコがいつかは自分に振り向いてくれると信じてやまないのだ。

ダフネとしては、パンジーが純粋なのか単純なのか判断に迷うところだが、一種の魅力があるのは確かであった。

ダフネは既に立ち直っているパンジーへ、夕食へ向かうべく声をかける。

 

「さあ、パンジー。そろそろ夕食に行きましょう。明日からクリスマス休暇ですもの。今学期、みんなとの最後の食事になるわ」

 

「そうね! うん、スッキリした! やっぱりダフネに話して正解だったわ!」

 

ニコニコと返事をするパンジーを見て、ダフネもつられて笑う。

二人で談話室へ向かう途中、パンジーがダフネに話しかけた。

 

「ねえ、ダフネ! ダフネの悩みも私に相談して! 今度は私がダフネの力になるわ!」

 

「あら、ありがとうパンジー。それじゃあ、私が悩んだら相談にのってね」

 

「今は何も悩んでないの?」

 

「ええ、嬉しいことに悩みはないわ」

 

パンジーからの申し出を、ダフネはやんわりとかわす。

悩みがないというダフネに、パンジーは少し不満げであった。そんなパンジーを横目に、ダフネは談話室で談笑しながら自分たちを待つジン達へと目を向ける。ジン達もダフネ達に気が付いて、手をあげて手招きをするのが分かった。

ダフネはその様子を見てから、パンジーに向き直り笑いかける。

 

「だって、毎日が楽しいわ。パンジーもそう思わない?」

 

そう言われたパンジーは少し納得したような表情をしてから、満面に笑みでダフネを引きずってジン達の方へと向かった。

こんな日がずっと続けばいいのに。陳腐ながら、ダフネはそう思った。

 

 

 


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