日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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ドラコのリベンジ

とうとう、スリザリン対グリフィンドールのクィディッチの試合の日がやってきた。

天気は最悪。暴風雨の中で行われることとなった。それでも、多くの観客がスタンドで今か今かと選手の登場を待ち構えていた。

俺達は緊張した様子のドラコに対し、激励を飛ばしてから雨の中を走って競技場へ向かった。観客の多くが傘を風で吹き飛ばされたため、ローブを頭からすっぽりかぶって雨と風と寒さに耐えながら試合開始を待った。

 

「この雨の中だ……! 試合は相当もつれ込むだろうな……!」

 

ブレーズは風に声掛けされないようにいつもより大きめな声で俺達に話しかけた。

 

「あれだけ練習したんだもの! ドラコが負けるはずないわ! 私、ドラコの手助けをしに一番前の席に行ってくるわ!」

 

パンジーは意気揚々とそう宣言をし、雨の中を軽やかに走っていった。雨の中でも、ドラコの勝利を確信してか晴れたような笑顔であった。

一方でダフネは、風に髪を持っていかれそうになりながら、体を丸めて強風に何とか耐えており話す余力はあまりなさそうだった。一緒に来たアストリアは、そんな姉に寄り添いながらも、自分も飛ばされまいと踏ん張っていた。

そんな中で、とうとう試合が始まった。雨の中で視界は最悪だが、マダム・フーチの試合開始のホイッスルは全員が聞き取った。ドラコのリベンジが、幕を開けたのだ。

 

 

 

ドラコは激しい雨と風の中、凍えそうになりながらも手がかじかむ事はなかった。ブレーズがくれた防寒用のグローブが役に立っていた。視界は最悪だが、飛べないほどではない。しかし、スニッチを見つけるのは当然のことながらいつもよりずっと困難であった。

ドラコはスニッチを探して雨の中を飛び回るが、一向に成果はない。さらに試合展開は最悪だったと言っていい。グリフィンドールが点を決め続け、点差は六十点にも広がっていた。

たまらず途中でキャプテンのマーカス・フリントがタイムアウトを取った。ひどい暴風の中、大きな傘の中でスクラムを組むようにして、チームのミーティングを始めた。マーカス・フリントは怒鳴るようにドラコへ激励を飛ばした。

 

「こんな天気だ! 最悪だ! だがいいか、スニッチだ! スニッチを取れば我々の勝利だ! なんとしても、あのイカれポッティーよりも早く取るんだ!」

 

そんなこと、わざわざタイムアウトを取って言われなくてもドラコには分かっていた。だが、このタイムアウトは無意味ではなかった。タイムアウト中、パンジーが駆け寄ってきて乾いたタオルと温かい飲み物をくれた。一時とはいえ雨風をしのぎ、体を温められたことはドラコの戦意の後押しとなった。

試合が再開した後も、変わらず視界は悪い。そのせいで、いつもなら気になるポッターの姿も正直曖昧だ。最早スニッチを見つけられるかどうかは運次第だとすら思った。試合展開はタイムアウト後、硬直した。ドラコは点差が広がらなくとも、縮まりもしていないことを実況の声を頼りに何とか把握した。一方で天気はどんどん悪くなった。雷すらなり始めたのだ。

試合開始からゆうに三十分。ひときわ大きな雷が鳴り辺りを一瞬だけ照らした瞬間、ドラコはとうとう見つけた。金に輝くスニッチが、自分の上方を飛び回っていた。すぐさま箒を向け、スニッチに向けて飛びつく。視界の端に、こちらに飛んでくる赤い物体が見えた。恐らくポッターであろう。だが位置は自分の方が有利。勝てる自信があった。

旋回しているスニッチに、箒を飛ばしてどんどん近づく。何度も練習した動きだ。ミスすることも不思議と考えられなかった。集中しているからだろうか。周囲の音もドラコの耳には全く入らなくなった。そしてとうとうスニッチを、念願の勝利を手にしたのが分かった。握った手の中に、バタバタと暴れるスニッチの確かな感触がある。

ドラコは勝利の雄たけびを上げた。その叫びは、スタジアム全体に大きく響き渡った。

 

 

 

タイムアウト後の試合展開はグリフィンドール有利のまま、点差は広がらず、されど縮まりもせず、そのまま展開をつづけた。俺達は視界も悪い中でドラコに向けて、本人に届くいているかどうかも分からない声援を送り続けていた。

天気が悪くなるにつれ、観客のボルテージもどんどん上がっていった。天候が悪くなればなるほど、勝利した時の興奮が大きくなることを誰もが感じ取っていた。

そしてひときわ大きな雷が鳴った後、両チームのシーカーが全く同じ方向に向かって飛び始めた。どうやらスニッチを見つけたらしい。

両チームの点差は四十点でグリフィンドールがリード。スニッチを取った方の勝利となるのは明確であった。決着の瞬間が近づき、競技場の興奮が最高潮に達した。

それと同時に、二つの恐ろしい影が競技場に乗り込んだ。

その影が競技場に乗り込んでから、辺りの音が一斉に消えた。応援も、歓声も、怒号も……。誰もが二度と幸せになれないのではないかという感情に襲われた。その影の正体が吸魂鬼であることも、全員が悟った。

そして俺は吸魂鬼が近くを通った際、またも視界が暗転しその場に倒れこんでしまった。

 

 

 

――目の前で、女性がこちらに微笑みかけていた。前と同じ女性だ。女性が俺に向かって何かを言っている。相も変わらず聞き取れない。それから、俺は前と同じように女性に対して頷き返して杖を持ち上げた。そして、震える手で呪文を唱える。視界一面が緑の光でおおわれる。女性は崩れ落ち、俺は女性に手を伸ばして、崩れ落ちる女性を抱きかかえた。俺は泣いていた。そしてもう動かない女性を抱き寄せながら、俺は――

 

 

 

ここで、揺さぶられて目を覚ました。

体の震えが止まらなかった。寒さだけのせいではないだろう。

顔を上げ、辺りを確認する。俺を揺さぶっていたのはダフネだった。

ダフネはほとんど泣きながら、俺の肩を揺さぶっていた。俺が目を覚ましたことに気が付くと、安心したようで泣きながら抱きついてきた。体にうまく力が入らない俺は、されるがままだった。

 

「ああ、よかった……。貴方、急に倒れて……。そのまま死んでしまうかと……」

 

泣きながらダフネはそう言った。隣ではブレーズが心底心配そうにこちらを見ていた。

ブレーズとダフネは汽車の中で俺が倒れたことを知ってはいたが、実際には見ていなかった。なので余計に心配だったのだろう。一方、一度は見ていたアストリアは二人よりは少し冷静ではあった。しかし、それでも不安そうに体を震わせながら、事前に手に持って用意していたのであろうチョコを俺に差し出した。

 

「ジン、これ……。パンジーからのお土産、ポケットに入れてたの。チョコレートだよ。ほら、汽車の中で、チョコレートを食べたら元気になったから」

 

そう言いながら、俺にチョコを握らせた。俺は震える手でチョコの包み紙を開けようとしたがうまくできなかった。その様子を見てじれったいと思ったのかブレーズは俺からチョコを取り上げると乱雑に包み紙をむしり取り、包み紙から完全に出したチョコを俺の口の中に押し込んだ。

前回同様、チョコの効果は劇的であった。体温が急激に戻るのが分かり、体の震えが少し止まる。しかし相変わらず外は大雨で、ただでさえ気絶して弱った俺の体から容赦なく体力を奪っていた。

 

「だめ、完全に震えは止まらないわ。医務室に連れていきましょう。ね、ジン? 立てる?」

 

心配からか俺から離れようとしないダフネが、少し冷静さを取り戻したのか俺に気遣ったように声をかける。うなずいて返事をし、何とか立ち上がるとダフネとブレーズに肩を借りる形で医務室へと送り込まれた。

医務室には先客がいた。グリフィンドールのクィディッチ選手の女性三名が一つのベッドを囲いながら、心配そうにそこに倒れる人の様子を見ていた。名前は確か、アリシア・スピネット、アンジェリーナ・ジョンソン、ケイティ・ベルだったはずだ。

ベッドにはポッターが横たわっていた。どうやら、ポッターも俺と同じように吸魂鬼の影響で気絶をしたらしい。しかし、ポッターは俺と違い気絶をした時に箒に乗ってかなりの高度をかなりの速度で飛んでいた。空中に放り出される形になったのだろう。生きているのは奇跡ともいえるはずだ。

 

「マダム・ポンフリー、診て欲しい人がいるんです!」

 

そんな中ダフネは、人がたくさんいるのも関係ないとばかりに医務室の奥にある事務室に向かって声を張り上げた。ハリーのベッドを囲んでいた人達は驚いてこちらを振り向いた。俺達に今気づいたようだった。事務室のドアがぱっと開き、直ぐにマダム・ポンフリーは飛んできた。

マダム・ポンフリーは俺の様子を見て、すぐさま事態を把握したようだった。

マダム・ポンフリーは俺に向かって三回杖を振った。一回目でびしょ濡れだった服が乾き、二回目で俺の服についていた泥や汚れが落ち、三回目で俺自身がしっかりと乾かされ、そのままベッドに横たわっても何も支障がなくなった。それからマダム・ポンフリーは戸棚からマグカップを取り出し、中にたっぷりのチョコレートとミルク、それにいくつかの薬草を入れて杖で叩いた。たちまちマグカップの中身が混ざり、特製のホットチョコレートができあがった。俺をベッドに座らせ、特製のホットチョコレートを持たせるとせかすように声をかけた。

 

「さあさあ、これを全てお飲み。それから、ほんの少し診察をしますからね。無茶なんて、絶対させませんから」

 

それからポッターの方の様子を少し覗くと、まだ意識が戻っていないのを確認し、ベッドの周りの人達へポッターの目が覚めたら呼ぶように指示を出し、すぐさま事務室へ引き返した。

マダム・ポンフリーに渡されたホットチョコレートは、チョコの甘さだけでなく調合された薬草のお陰でスパイスに似た辛さも感じた。飲み干すと体は完全に温まり、気絶する前よりも調子が良くなったと思えるほどに回復した。

俺の体調が完全に復活したことを察したのだろう。一緒に来たダフネとブレーズ、アストリアはホッと息をついた。俺は三人に、何が起きたのかの確認をした。

 

「吸魂鬼の影響で俺がまた気絶したのは分かった。……競技場では、何があった?」

 

返事はブレーズから返ってきた。

 

「お前が気絶したすぐ後、ポッターも気絶して箒から落ちた。それから、ドラコがスニッチを取って試合は終了。で、ダンブルドアがすぐに出てきて吸魂鬼を追っ払った。起きたことといえばそれだけだ。お前は割とすぐに目を覚ましたからな。……まあ、試合結果がどうなるかは、審判と選手たちで協議をしてるみたいだな。それと、ドラコはお前が気絶したことは多分まだ知らん。ついでに、パンジーもまだ知らねぇだろうな」

 

それからブレーズはチラリとポッターが眠っているベッドの方を見た。

ベッドの周りを囲っている三人のグリフィンドール生がこちらの話に耳を澄ましているのが分かっているようだった。

ブレーズは舌打ちを一つ打つと、俺に急かすように話しかけた。

 

「元気になったんなら、医務室にいる必要はねぇだろ。ほれ、マダム・ポンフリーを呼んでさっさと診察してもらおう。そしたら、ここからおさらばだ」

 

グリフィンドール生の聞き耳や、先ほどの試合結果がまだ分からないことのストレスなど、ブレーズがここにいたくない理由は多そうだった。

ブレーズはそう言うと事務室にいるマダム・ポンフリーを呼びに行った。

一方でダフネとアストリアはそんなに焦ることはないのに、という態度であった。俺の体調の方が大事だと思ってくれているようだった。

ブレーズに呼ばれてきたマダム・ポンフリーの診察によればすぐに戻っても問題ないが、大事をとって医務室で安静にする為に泊まることを勧められた。俺は試合の結果が気になっていたこともあり、スリザリンの談話室へ戻ることを希望した。

俺の返答を聞いてマダム・ポンフリーはいい顔をしなかったが、俺がしっかりと自分の足で立ち、マグカップを丁寧に返したのを見て、マダム・ポンフリーは俺を強くは止めなかった。それよりも、未だに目を覚まさないポッターの方が気になっているようだった。

結局俺は体調も戻り、ブレーズに急かされたこともあってすぐにスリザリンの談話室へ戻ることとなった。

談話室への帰り道、ダフネから心配そうに声をかけられた。

 

「ジン、あまり無理しなくても……。医務室で寝ていてもいいと思うのだけど……」

 

「あの医務室にいろってのは酷だろ、ダフネ。あの後、ポッターの見舞いでグリフィンドールがわんさか来るんだぞ。マダム・ポンフリーも許可を出したんだ。そう心配しすぎんなよ」

 

ダフネの言葉にブレーズが反応したが、どこか刺々しい物言いであった。返事を受けたダフネは、少し眉をひそめた。少し険呑な雰囲気にたまらず口を挟む。

 

「ダフネ、俺は本当に大丈夫だ。マダム・ポンフリーからもらったホットチョコレートのお陰で、なんなら気絶する前よりも気分がいいくらいだ。それにブレーズの言う通り、対戦相手がたくさんいる医務室よりも自室の方が心が休まるよ」

 

「……そう、ならいいけど」

 

ダフネは俺の返事を聞いて、表情を戻した。

一方でブレーズは未だどこか刺々しかった。先ほどの試合結果が分からないことが相当ストレスなようだ。頭をガシガシと搔きながら、舌打ちをしている。

そんなブレーズの心情を察してか、アストリアがブレーズに話しかけた。

 

「ブレーズ、きっとスリザリンの勝ちで試合が決まってるよ。ほら、ドラコがスニッチを取ったのは間違いないんだし。きっと今頃、談話室でパーティーをしてるよ」

 

「……ああ、そうだな。それなら、さっさと談話室に行ってパーティーに参加すっか」

 

アストリアに心配そうに声をかけられ、流石にブレーズは自分の態度を反省したようだった。

ブレーズは少し表情をやわらげ、近くのアストリアの頭をガシガシと撫でてから、改めて談話室へと向かい始めた。

そして四人で医務室からの階段を降りたところで、曲がり角から二つの影が飛び出してきた。

ドラコとパンジーであった。

俺達四人は意外な人物の登場に驚き固まっているが、ドラコとパンジーは俺達を見つけると安心したようにほっと息を吐いた。それからドラコは、俺に声をかけた。

 

「ジン、他の奴から聞いたよ。また倒れたんだって……。もう、体は大丈夫なのかい?」

 

「あ、ああ……。もう大丈夫だ。マダム・ポンフリーに貰ったホットチョコレートのお陰で、気絶前よりも気分がいいくらいだ」

 

ドラコ達の驚きから回復しないまま、返事をする。

俺は試合に勝っていれば談話室で祝勝会をしている為、ドラコが俺の見舞いに来るのは先の話だとも思っていた。一方で試合が無効になれば荒れてちょっとした騒ぎになっているはずで、見舞いに来るとしてもこんな穏やかな表情をするとは思えなかった。ドラコが穏やかな表情でこの場にいる事に、試合結果がどちらになったのか予測がつかず戸惑ってしまったのだ。

俺と同じようなことを考えていたのであろうブレーズが、ドラコへ問いかける。

 

「おいドラコ、こんなところで何をしてるんだ? 試合の結果は、どうなったんだ?」

 

ブレーズの問いかけにドラコは少しキョトンとした顔をしたが、直ぐに満面の笑みを浮かべた。

 

「そうか、君達は医務室に行っていて試合の結果を知らないんだね。いいかい? 確かに吸魂鬼なんていうアクシデントはあった。でも僕がスニッチを取ったのは動かぬ事実だ。なら、試合の結果がどうなったかは言わずともわかるだろう?」

 

いつものドラコのもったいぶった物言い。しかし、表情と言い方から結果はよく分る。

ブレーズも顔に笑顔を浮かべ、軽くドラコの肩を殴りつけながらからかうような口調で話しかける。

 

「おいおい、こんな時でももったいぶった言い方しやがってよ……。おら、分かりやすく言えよ! 試合の結果をよ!」

 

ブレーズの拳と言葉を受けて、ドラコはニヤリと笑いながら改めて俺達に向き直りはっきりとした口調で俺達に告げた。

 

「ああ、そうだな、ハッキリと言おう……。僕達は勝った! スリザリンの勝利だ! 僕は、ポッターを打ち負かしたんだ!」

 

ドラコの言葉を受けて俺達は歓声を上げた。

嬉しかった。ドラコに協力したことが報われたということもあったが、それ以上に、ドラコが一年の頃から燃やしていたポッターへの対抗心を、そして昨年に惨敗を喫して刻まれたリベンジの執念が報われたことが嬉しかったのだ。

俺もドラコに駆け寄り、軽く肩を殴りつけて祝福の言葉をかける。

 

「おめでとう、ドラコ。やったじゃないか、念願のリベンジ達成。嬉しいよ」

 

「ああ、ジン。君には世話になったな。……ジンだけじゃないな。ブレーズもパンジーも、練習を手伝ってくれて、ダフネも練習できるように協力してくれた」

 

ドラコはどこか感慨深いような表情をして俺達を見まわした。

 

「……ありがとう。僕が勝てたのは、君達のお陰だ」

 

しみじみとしたドラコの素直なお礼。少し驚いて目を見開く。

ポッターへの勝利はドラコの念願で、目標であった。やっとつかめたそれを、ドラコが俺達のお陰と評することに驚きを隠せなかった。

ブレーズは呆然とし、隣でスリザリンの勝利を喜びあっていたパンジー達も固まった。

ブレーズはマジマジとドラコを見ると、少し心配そうに声をかけた。

 

「なあ、ドラコ。悪いものでも食ったのか?」

 

「何を言う! 失礼な奴だな、君は!」

 

ドラコはそんなブレーズに顔を赤らめて食いつく。ドラコはブレーズを少し睨みつけていたが、ため息を吐いてまた話し始めた。

 

「……雨の中、ブレーズ、君のくれたグローブが役に立った。パンジー、君のくれたタオルと飲み物、嬉しかった。ダフネにジン、君達が僕が練習に集中できるように手伝ってくれたことも忘れてなんかいない。ああ、アストリア。君はいつも、僕の練習前に応援をくれたね。……勝ったという話を聞いた時、君達に伝えたいと思ったんだ。変なのは分かっているが……」

 

ドラコは顔を赤らめたまま、俺達への想いを吐露した。

ドラコの想いを聞いて、ブレーズとダフネ、アストリアはより驚いた顔をし、パンジーはドラコの言葉に顔を輝かせた。感動を抑えられなかったのだろう、パンジーは満面の笑顔でドラコに飛びついた。

 

「ドラコ、そんなのお安い御用よ! これからいくらでもやってあげる! 練習の時も、いつでもタオルも飲み物も用意するわ!」

 

「あ、ああ……パンジー……。いや、別に毎回でなくてもいい……。ありがたいが……」

 

パンジーの飛びつきにドラコは面食らった様子だった。ドラコが戸惑いながらパンジーへ返事をする。そしてパンジーがドラコに飛びついた際、俺はパンジーが何か袋を持っているのに気が付いた。袋は揺れてガチャガチャと音を鳴らす。

気になって、つい声をかけた。

 

「なあ、パンジー。その袋はどうしたんだ?」

 

「袋? ……ああ、これ? そうだ、すっかり忘れてたわ」

 

パンジーは俺に声をかけられ、ドラコに飛びついたまま、思い出したかのように袋を持ち上げた。

 

「これ、ドラコからの餞別よ。ほら、あんたが医務室に行ったって聞いて、祝勝会ができないのを心配して見繕ってきたのよ。ドラコに感謝しなさいよ」

 

そう言いながら袋を広げて中身を見せてくる。中身はバタービールの瓶数本にお菓子が詰め込まれていた。

 

「どうする、ドラコ? ジン、元気そうだし、これ持って談話室戻る? でも祝勝会に誘うマーカスを振り切ってこっちに来ちゃったものね。ちょっと気まずいわよね」

 

「お前、祝勝会を蹴ってこっちに来たのかよ! 本当にどうしちまったんだ?」

 

ドラコが祝勝会にでもせずにこちらに来たというパンジーのセリフに、ブレーズは心底驚いたという感じで食いつく。そんなブレーズの様子に、ドラコはもう恥ずかしがるのを通り越してどこか達観したような表情で答えた。

 

「言ったろ、君達に勝利を伝えたかったって……。まあ、愚かなことをしたとは思うさ……。自分で、栄誉ある立場から抜け出してきたんだからさ」

 

そんなドラコの様子を見て、胸にこみ上げてくるものがあった。

ドラコが勝ったという報告を聞いた時と似ているが違う、感動にも近い感情。心の底から嬉しいと思ったのだ。ドラコが俺を、俺達を探して祝勝会を蹴ってまでここにいる。ドラコが俺達のことを、本当に大事な友人だと思っていてくれていることが伝わってきたのだ。

 

「さて、どうしたものか……。祝勝会に今から参加して、マーカスにやっぱりなって顔されるのも癪に障るのは確かだな……」

 

これからのことを考えて悩む様子のドラコを見て、一つ案が思い浮かんだ。

俺はパンジーからバタービールとお菓子の入った袋を受け取りながら、ドラコ達に向かって提案をする。

 

「なあ、お前らさえよければ、俺達六人で祝勝会をしないか? お菓子も飲み物もドラコのお陰でここにあるし、人気のない場所も知ってる」

 

「……それもいいね。うん、君達と祝勝会をするのも、悪くない」

 

ドラコは俺の提案にすぐに乗ってくれた。他の奴らも俺の提案に乗り気だった。

 

「お、いいねぇ。俺も、遅れて祝勝会に参加するってのは気が向いてなかったんだ。それに、俺達だけってのが気に入った」

 

「私も賛成! 今日のドラコの活躍について話しましょ!」

 

「私も、大勢より少人数の方が落ち着くし賛成よ。アストリアは大丈夫? 友達のところに帰ってもいいのよ?」

 

「ううん、私もこっちにいたい! こっちには皆もいるし、こっちの方が面白そう!」

 

満場一致で六人での祝勝会の実施が決まる。俺は五人を連れて、祝勝会をするべくある場所へと向かった。

 

 

 

向かった場所は天文台のある塔の最上階。階段が多く上るのが面倒なこともあり、普段あまり人が来ない。その為、今回のような人目を避けた密会などにはうってつけの場所である。最上階に着いた俺は、早速魔法で広げたハンカチをシート代わりに床に敷き、袋からバタービールとお菓子を取り出して配る。

全員にバタービールがいきわたったことを確認してから、ドラコは明るく乾杯の音頭をあげた。

 

「それじゃあ皆、祝勝会をするとしよう。……今日はとうとうポッターを、グリフィンドールを負かし、素晴らしい日になった! 祝おう、僕らの勝利を! さあ、乾杯だ!」

 

ドラコの乾杯を合図に、全員でバタービールの瓶をぶつけ合う。キンッと軽快な音を鳴らしてから全員でバタービールを飲み干す。

アストリアは初めてのバタービールに感動したようであった。しきりにバタービールのおいしさを俺達に伝えていた。

パンジーは今日のドラコのどこが素晴らしかったかを語り、ダフネはそれを聞いてたまにパンジーをからかいつつ楽しそうに笑っていた。

ドラコは今日の試合の内容を劇的に語ってみせ、俺とブレーズがところどころで感心したり、茶々を入れたりした。それを受けてドラコが仕返しにと、俺が吸魂鬼に気絶させられたことや、ブレーズのクィディッチチームの入団試験のことを引き合いに対抗してきて、じゃれ合いが始まった。

そうしてしばらく、祝勝会も盛り上がった後、袋の中身も完全になくなってしまってお開きとなった。

ハンカチを元のサイズに戻し、ごみも片付けて談話室に帰る準備をすませる。片づけを済ませ天文台を去ろうという時、ドラコが天文台から外を眺めて動く様子がないのに気が付いた。

 

「ドラコ、どうした? もう行こう。そろそろ、門限もある」

 

そうドラコに声をかけるが、ドラコは天文台の外を眺めたまま、去ろうという様子はなかった。

 

「……晴れていれば、きれいな夕焼けが見えただろうね」

 

ドラコにそう言われ、ドラコの隣に移動して同じように外を眺める。外は試合の時と同じように激し豪雨が降り注いでおり、いい景色とは言い難かった。

 

「まあ、そこは残念だったな。夕焼けが見えたら最高だったな。……また、天気がいい時にここで宴会をするか?」

 

そうドラコに声をかける。ドラコはクスリと笑って俺に返事をした。

 

「いや、いいんだ夕焼けは。……うん、この景色が気に入った」

 

「そうなのか? まあ、中々に趣があるとは思うが……」

 

ドラコを見るともう外に目線はやっておらず、後ろで談話室に帰る準備をする他の奴らを眺めていた。

ブレーズ、パンジー、ダフネ、アストリア。四人を眺めながら、ドラコは言った。

 

「この景色が、本当に気に入った。……いい景色だ」

 

そう言うドラコの顔は、とても穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「……俺も、この景色が好きだよ。また、いつでも見れる。今日はもう帰ろう」

 

俺はそう言いながらドラコの肩を叩いた。

それから、もう一度外を見る。天文台から見える外の様子は、豪雨に襲われていて暗く、いい景色とは言えない。でも、この景色を忘れることはないだろうと思えた。俺にとって、そして多分ドラコにとっても、今日が特別な日になった。

 

 


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