日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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ボガート

ホグワーツにきてからの最初の日の朝、今年の時間割が配られた。いつものメンバーで、それぞれの時間割を朝食を食べながら共有した。

選択授業によって少しずつ時間割が違っており、俺が選んだのは古代ルーン文字学と魔法生物学。古代ルーン文字学はダフネと一緒で、魔法生物学はドラコとブレーズとパンジーと一緒に受ける時間割であった。

ドラコと全ての授業を一緒に受けるパンジーは満足げな表情をしており、何度も時間割を見直してはニヤニヤをしていた。一人で占い学を受けるブレーズは、一人だけ違う科目を選んだことを少し後悔したようだ。しかしすぐに元の調子を戻し、授業後に俺達の未来を占ってやると軽口を叩いてきた。

そんないつものじゃれ合いをしていた初日の午後、早速魔法生物学の授業があった。ハグリッドの初授業。楽しいものになるといいな、という期待はあったが教科書を見ると何とも言えない気持ちになる。まるで生きているような、『怪物的な怪物の本』。この教科書のせいで、ドラコ達の魔法生物学への前評判は最悪であった。俺もこの本についてはいい印象はない。暴れださないように、縄で縛っている。とはいえ、授業を受けてみないことにはまだ何もわからない。魔法生物学を受けるメンバーで授業が行われる禁じられた森の近くへと向かった。

 

「なあ、あの森番が授業をするなんて正気と思えるか……?」

 

「僕も、こんなことになるならこの授業を取らなかったさ。見なよ、この教科書。本当に、どんな授業をするつもりなのか……」

 

ドラコとブレーズは移動をしながらも文句を言っている。その気持ちはわかるので、何も言えずに授業が行われるハグリッドの小屋の近くまで移動をした。

授業がグリフィンドールと合同授業であるのを、小屋の前に来て初めて知った。ハグリッドや教科書のことでうんざりしていたドラコ達の表情は、より一層険しくなった。

一方でハグリッドは授業をできるのが楽しみなようで、生徒たちが集まると、ワクワクしたような表情で授業を始めた。

 

「それじゃあ、お前さんたち、まず始めに教科書を開くんだ!」

 

楽しげな声でハグリッドが授業を始めるが、ドラコがそれに冷たい声で水を差す。

 

「どうやって? こんな本、どうやって開けっていうのですか?」

 

冷たい声に反応して、ハグリッドがこちらを見る。そして批判の声を上げたドラコだけでなく、グリフィンドールも含めた全員が教科書を開いていないことを確認すると愕然とした表情でつぶやいた。

 

「お、お前ら……教科書を誰も開いていなかったのか? ただ、こいつらは、撫でれば大人しくなるのに……」

 

ハグリッドの呆然としたつぶやきをフォローできる人は誰もいなかった。この教科書に対する不満はスリザリンは勿論、グリフィンドールにも溜まっていたらしい。

生徒たちの様子にすっかり意気消沈をしてしまったハグリッドは、モゴモゴと魔法生物を連れてくる、と言うと森の方へと入っていった。

教科書も使えないのではこの授業は普通に行われるのは難しいかもしれない。ドラコとブレーズとパンジーは授業への不満とハグリッドへの冷やかしを口にしていた。他のスリザリン生も多くがそんな感じだったし、大半のグリフィンドール生も言葉にはしないものの同じようなことを考えているのが分かった。そんな光景を見ながら諦めに近い感想を抱いていたが、ハグリッドが森から連れてきた生き物を見て吹き飛んだ。

ヒッポグリフだ。馬の胴体に鷲のような頭に羽と鋭い鉤爪。体表を覆う羽毛は日を浴びて美しく照っていた。その姿を見たグリフィンドールのラベンダー・ブラウンが甲高い悲鳴を上げた。

 

「ほれ、どうだ。美しかろう!」

 

生徒たちの反応を見て、少し自信を取り戻したらしいハグリッドは声を大きくしながら授業を再開させた。

ヒッポグリフを連れてきてからのハグリッドの授業は、結論から言うと、中々に良かった。冒頭でポッターがヒッポグリフの背中に乗り飛び回って見せた。それに感化された多くの生徒たちが、ヒッポグリフへの抵抗が薄れたらしい。ヒッポグリフと触れ合い、ハグリッドがヒッポグリフの生態から特徴、個々の性格まで話をして授業は終了となった。

とはいえ、一部のグリフィンドールと、半分近くのスリザリンはヒッポグリフに近づこうとはせず、柵の外で授業を終えた。ドラコはポッターへの対抗心から、ポッターが背中に乗っていたヒッポグリフへ向かおうとしていた。しかしブレーズが

 

「ほら、あの鉤爪を見ろよ。俺達の頭なんて、卵みたいに割れるんだろうな……」

 

とつぶやいたのを聞いて、パンジーと並んで柵の外で見学に移った。一緒に授業を受けたメンバーの中で、ヒッポグリフと触れ合ったのは俺だけだった。

上々の結果で終わった魔法生物学だが、ドラコは不満げな様子であった。パンジーに、そもそもヒッポグリフを三年生で扱うのは危険すぎると文句を言っていた。パンジーは話をよく分かっていないようだったが、ドラコの言うことは間違いない、というように相槌を打っていた。ドラコの魔法生物学への不満は、しばらく続きそうであった。

 

 

 

それから数日たった。変身術、魔法薬学、呪文学、薬草学に魔法史とおなじみの授業をこなし、とうとうルーピン先生の闇の魔術に対する防衛術の初授業を受ける日になった。

ルーピン先生のスリザリンでの評価は低い。みすぼらしい身なりに、不健康そうなやつれた顔。ふるまいは優しく紳士的だが、とても闇の魔術に防衛を教えられるほど強くは見えなかった。俺は汽車の中で助けてもらったこともありとても好意的には思っているが、周りの評価を跳ね返すほどの情報は持ち得ていなかった。

そんな中で始まった授業。初回から教科書をしまい、実施訓練をするようだった。相変わらず顔色の悪いルーピン先生に連れられた教員室には、ガタガタと動くタンスが一つ置かれていた。

多くの生徒が、不審に動くタンスを警戒していつもより真剣な表情になった。

 

「この中にはまね妖怪、ボガートが入っている」

 

ルーピン先生は杖を持って待機をする俺達に静かに話しかけた。

 

「誰か、ボガートについて説明できる子はいるかな?」

 

ルーピン先生はそう言いながら俺達を見渡した。ガタガタ動くタンスを前に委縮をしているのか、誰も手を上げそうになかった為、俺が手を挙げた。ルーピン先生には恩を感じている。授業を円滑に進める為の協力に抵抗はなかった。

ルーピン先生は少し嬉しそうに微笑むと、俺を指名した。

 

「それではジン。説明してくれるかい?」

 

「はい。……ボガートは形態模写妖怪。人の最も恐れるものに姿を変え、その恐怖の感情を糧にします。変身前の姿は、未だ確認がされていません」

 

「素晴らしい説明だね、ありがとう」

 

ルーピン先生は笑みを深め、そう言って褒めてくれた。それから丁寧な口調でボガートの撃退方法を生徒達に説明をする。そして自分の中で最も恐ろしいと思うものを思い浮かべ、それをどうすれば滑稽な姿にできるか考えるよう、生徒たちに指示を出した。

俺も真剣に課題に取り組もうとしているのだが、この課題は意外と難しい。まず、自分が最も恐ろしいと思っているのは何なのか分からなかった。考えすぎると泥沼にはまり、それらしい答えがどんどん出てこなくなった。

隣で考えているドラコをチラリと見る。怖いものは考えついているようで、それをどう滑稽にするかいくつかの候補を挙げているようだった。

そんなドラコを見て、ふと思い出した。吸魂鬼のこと。正確には、吸魂鬼に近づいて見えたあの不思議な光景のこと。見覚えのない女性に対し杖を振り上げ、そして緑の閃光が視界いっぱいに広がり、女性が崩れ落ちる。そんな光景。

説明はできないが、その光景を思い返す度に胸が締め付けられるように苦しくなる。俺が最も恐れているのは、この光景を見ることなのかもしれない。

 

「さあ、それではみんな考えはまとまったかな? では、名前を呼ばれたものは前に出て! ボガートと戦ってもらおう!」

 

ルーピン先生の合図で、時間切れであることを悟る。怖いものは思い浮かんだが、滑稽な姿へ変える想像はできていなかった。見知らぬ女性が崩れ落ちる光景を、どうやったら滑稽にできるのだろう……。

 

「では、ミリセント! 前へ!」

 

ルーピン先生に呼ばれたミリセント・ブロストロードは前に進み出る。

それを確認したルーピン先生はタンスを開け、ボガートを外に出す。

タンスから出てきたのは、三メートル近くある巨体のトロールであった。棍棒を持って、今にも襲い掛かってきそうな形相であった。

そんなトロールにミリセント・ブロストロードは杖を向け呪文を唱える。

 

「リディクラス(ばかばかしい)!」

 

呪文を受けたトロールは、フリルの付いた可愛らしいスカートを身にまとい、手に持ったこん棒は色鮮やかな花束になっていた。その確かに滑稽な姿に、多くのスリザリン生が声を上げて笑った。

 

「よし、いいぞ! よくできた! さあ次、パンジー!」

 

呼ばれたパンジーはビクッと体をはねさせたが、すぐに杖を構えて前に出た。

パンジーを認識したボガートは滑稽なトロールの姿から、皮膚が土色のゾンビへと変身をした。ゾンビは緩慢な動作でパンジーへにじり寄ったが、パンジーの呪文を受けて健康的な肌とふさふさの髪を手に入れて、怖さが一気になくなった。

それから数名、名前を呼ばれては呪文を唱えてそれぞれの恐怖の対象を見事に滑稽な姿へと変えていく。ドラコのヒッポグリフは羽をむしられほぼ焼き鳥に、ダフネのバンパイアは入れ歯のように牙が抜けて、ブレーズのケルベロスは三つの顔のチワワになった。

ほぼ全員がうまくやった後、ルーピン先生はとうとう俺を指名した。

 

「さあ、ジン! 次は君の番だ!」

 

ルーピン先生に言われて、とっさに前に出たが滑稽な姿のイメージがまだできていなかった。そしてボガートは俺を認識したようで、姿を変えた。その姿は、やはりというか、吸魂鬼の影響で目にした女性の姿をしていた。

周りには不審がった声が上がった。俺がどうしてこの女性を怖がっているのか分からないようだ。

吸魂鬼が見せた光景と同じように、女性は微笑みながらこちらに何かを話しかけている。聞き取れないその言葉が終わった瞬間、俺は自分が見たくない光景が再現されることが分かっていた。明確なイメージを持たぬまま、慌てたように呪文を唱える。

 

「リディクラス(ばかばかしい)!」

 

滑稽な姿を思い浮かべぬまま呪文を唱えるとどうなるか。ルーピン先生が教えなかったことの答えが分かった。――恐れていることが、少し形を変えて現れるだけであった。

俺の呪文を受けたボガートは、緑色の閃光へと姿を変えて周囲へと迸った。何人かの生徒が悲鳴を上げる。そして、光が収まった後、俺の目の前には地面に横たわった女性の姿があった。

 

「……死んでる?」

 

誰かがそうつぶやくのが聞こえた。それは、あえて自分が考えないようにしていたことだった。目の前の女性が死んでいる。俺はそのことを考えるのが、何よりも恐ろしくて目を背けていたのだ。

 

――つまり、吸魂鬼の影響で見た光景は、俺が誰かを殺した場面であるということ。

 

吐き気を覚え、反射で口を押さえる。そんな俺の前に、ルーピン先生は躍り出た。

 

「さあ、こっちだボガート!」

 

ルーピン先生の声に反応してか、ボガートは女性の死体から銀色の丸い物体へと変身した。

ルーピン先生が呪文を唱えると、それは風船へと姿を変え、空気を吐き出しながら宙を舞い、ポンと音を立てて消えた。それが、ボガートの最期となった。

少し落ち着かない生徒達に、ルーピン先生は明るく声をかけた。

 

「さあさあ、みんなよくやった! ボガートに立ち向かった子達には、一人五点をあげよう! ジン、君も五点だ。私の質問に、見事に答えてくれたからね」

 

それからレポートの宿題を出され、授業は終了。解散となった。

ぞろぞろと生徒たちが教室から出ていく中、ルーピン先生は俺を呼び止めた。優しく、それとない口調ではあったが、ボガートのことで俺を心配しているのは明らかだった。ドラコ達も俺と一緒に残ろうとしていたが、ルーピン先生が微笑みながら穏やかな口調でそれを止めた。

 

「友達の心配をするのは、素晴らしいことだ。……そうだね、君たちに一点ずつ、四点をスリザリンにあげよう。その優しさを評価して。でもみんな、次の授業に遅れてしまうからもう移動しなさい。遅刻で減点されてはせっかくの加点も意味がないからね」

 

点数をあげるから大人しく移動しなさい。ルーピン先生の言葉をドラコはそう捉えたようだった。ルーピン先生のことが気に食わない、とドラコの表情にありありとでていた。しかし結局、ドラコは不満げな表情をより強くしながらも黙ってルーピン先生に従った。他の奴らもドラコにならって大人しく教室から出ていった。

全員が教室を出たのを確認してから、ルーピン先生は机といすを用意すると俺に座るように促し、ルーピン先生も机をはさんで向かいに座った。

 

「ジン、すまなかったね。私の注意が足りていなかった。……もし、体調がすぐれないのなら次の授業は休んでも構わないよ。私から、先生へ連絡をしよう」

 

ルーピン先生は、俺とボガートの対面をもっと早く防げなかったことを本気で悔やんでいるようだった。

 

「いえ、大丈夫です……。確かに気分は悪くなりましたが、授業を休むほどではありません」

 

俺はそう返事をした。ボガートによって嫌な光景を目の前にしたが、吸魂鬼と対面した時と比べて体調はずっと良い。俺の返事を聞いて、ルーピン先生は少し考える様子を見せてから、了承したように頷いた。

 

「分かった。しかし、あまり無茶をしないように……。それから、もし答えられるなら、答えてもいいと思ってくれているなら、教えて欲しい。ボガートが君に見せた光景はなんなのか、君は分かるかい?」

 

ルーピン先生は踏み込みすぎないように細心の注意を払っているようだった。俺が言いたくないことならば言わなくて済むように。そんなルーピン先生だから、俺は隠さず話すことができた。

 

「……あの女性が崩れ落ちるのは、汽車の中で吸魂鬼が近くに来た時に見えた光景です。でもそれが何なのか、実は全く分からないんです。あの女性が誰なのかも……。俺が見た光景の中では……その……俺が彼女に杖を向けて魔法を使ったようでした。つまり……俺が……彼女を殺したようでした。なんでそんなことになったかも、分からないんです……」

 

俺の話を聞くと、ルーピン先生はなぜか少し悲しげな顔をした。それから、優しい口調で俺に話しかけた。

 

「言いにくいことを教えてくれてありがとう。……あまり深く考えすぎないようにね、ジン。吸魂鬼の影響で、奇妙な音や幻を見る人も少なくない。君が弱いわけでもなんでもない。誰しもに起こりうる、自然なことだ」

 

これが、ルーピン先生が俺にできる精一杯のフォローであるのが分かった。俺が見た光景に対して考えないように、気に病まないように。

そして、ルーピン先生はボガートが見せた光景に対して何か心当たりがあるのではないかとも思った。ルーピン先生はボガートが見せた光景に対し、『あれは何だったのか?』とは聞かなかった。『あれが何か分かるか?』という確認をしたのだ。そして俺が分からないと答えると悲しげな表情をし、深く考えないようにと釘を刺した。

踏み込みすぎないための配慮ともとれるが、意図的にあの光景から俺を遠ざけているようにも感じた。

 

「ルーピン先生は、ボガートが俺に見せた光景に心当たりがあるんですか?」

 

思わず質問すると、ルーピン先生は少し驚いた顔をした。

 

「どうしてそう思うんだい?」

 

「いえ、ただ、なんとなくそう思っただけです……。俺があの光景に対して、深く考えたりするのを止めさせたいようにも感じたので……」

 

ルーピン先生は俺の言葉に対して、すぐには何も言わなかった。こちらを見ながらしばらく考えるようにして、ゆっくりとした口調で答えた。

 

「残念だけど、あのボガートが見せたものが何なのか私にはわからない。しかし、あれが吸魂鬼の影響で見たものならば、それは君の恐怖の体験や感情に基づいているはずだ。それを無理に思い返したり、考えたりしてしまうのは君にとって良い事とは言えない。深く考えるのを止めさせたいと思ったのは、そういうことだよ」

 

ルーピン先生の返答に少しばかり落胆をした。あの光景について分かることがあれば、何でもいいから知りたかったのだ。そんな俺の様子をルーピン先生は可哀想に思ったのだろう。優しい口調でさらに話しをした。

 

「もし、吸魂鬼の影響でまたあの光景を見るようなことがあったら、きっと力になれるから教えておくれ。君が吸魂鬼の影響を受けないで済む方法を教えられるかもしれない」

 

そして話はそれで終わった。身に覚えのない、自分が誰かを殺したかのような光景。この光景が何なのか確かに気にはなっているが、思い返すと苦しさに襲われる。どんなに考えても答えが出ないのであれば、ルーピン先生に言われた通り深く考えず忘れてしまう方がいいのかもしれない。

ルーピン先生に促され、教室をでて足早に次の教室へ向かう。次の授業は古代ルーン文字学だった。教室に入ると、既に授業は始まっていた。古代ルーン文字学の教授であるバブリング教授はチラリとこちらを見ると、席に着くように一言だけ言って授業を再開させた。

座れる席を探すとダフネと、なんとハーマイオニーが席を空けてくれていた。どうやら古代ルーン文字学もグリフィンドールと合同授業らしい。手招きされて空けてくれている席に座りながら、二人に声をかける。

 

「ありがとな、席を空けてくれて。ハーマイオニーも、古代ルーン文字学を取ってるんだな」

 

「ええ、そうなの。嬉しいわ、ダフネとジンと一緒に、この授業を受けられて!」

 

ハーマイオニーは嬉しそうに答えた。スリザリンとグリフィンドールの合同授業では、ドラコ達とポッター達が対立するため、ハーマイオニーと話す機会はほとんどない。しかし、古代ルーン文字学ではドラコもいなければポッターもいない。気兼ねなくハーマイオニーと話せる、貴重な場ができた。もっとも、授業中の為しっかりと話すことは難しいが。

ダフネもそんなハーマイオニーに微笑みかけながら、一方で心配そうに俺に声をかける。

 

「ジン、ボガートが変身した姿について、聞いても大丈夫? その、心配なの……」

 

「ボガート? ルーピン先生の授業で何かあったの?」

 

二人は声を潜めながら俺に質問をするが、バブリング教授がこちらを意味ありげにチラリと見たのに気が付いて、すぐに口を閉ざした。授業に遅れた挙句、雑談までしていては目をつけられてもしょうがない。

 

「授業が終わったらな……。今日はこれで、授業は終わりだろ?」

 

ダフネは頷いたが、ハーマイオニーは少し難しそうな顔をした。しかし授業中であるためこれ以上の会話はできず、三人で並んで大人しく授業を受けることになった。

授業が終わり教室を出ながら話をしようと思っていたが、いつの間にかハーマイオニーがいなくなっていた。ダフネもハーマイオニーを見失ったようで、不思議そうにあたりを見渡している。

 

「おかしいわね。さっきまで隣を歩いていたはずなんだけど……」

 

廊下の人ごみに紛れてはぐれてしまったのだろうか。しかし、それにしては近くにいる気配もない。

仕方なくハーマイオニーを探すことを諦め、ダフネと共にスリザリンの談話室に戻りながらルーピン先生と話したことを教えた。ダフネは俺への心配を強めたようだった。

 

「あなたは吸魂鬼の影響で気絶しているわけだし……。先生も吸魂鬼の見せた光景をあまり思い返しても良い影響がないって言うのでしょう? ……吸魂鬼の影響を受けない方法、今度といわずにすぐに教えてもらったらどうかしら?」

 

「うーん、まあ、ルーピン先生も忙しいだろうからなぁ。新任であれだけの授業をするの、相当準備が必要だったろうし」

 

ルーピン先生の顔色が悪いのは、あまり休めていないからだとも思う。そんなルーピン先生の時間を奪うのも気が引けた。俺の言葉を聞いたダフネはなんとも言えない表情をした。

談話室に着いてからドラコ達と合流し、ダフネにした話をドラコ達にもした。話を聞いたドラコは顔をしかめた。どうも、ドラコにはルーピン先生が信用できる人と映っていないようだった。点数を餌にドラコ達を教室から追い出したこともその要因の一つのようだ。そしてとどめは、ルーピン先生のみすぼらしい格好だという。

 

「だって、ほら、あの服装を見なよ。ここに来る前、一体何をしていたのか……。まともな職に就いていたとは思えないだろう?」

 

「でも、教えるのは上手いし授業は面白いだろう?」

 

「それはそうだが……」

 

「それに、またあの光景で悩むようなことがあれば対策を教えてくれるって言ってくれた。汽車の中でも俺のことを助けてくれた。俺は、あの人のこと頼れると思うけどな」

 

俺がそう言うと、ドラコはまだ何か言いたげではあったがうまく言葉にはできないようだった。ブレーズとパンジーは、俺が今後気絶をしないのであればルーピン先生が前にどんな仕事をしていたかなど気にはしない様子であった。

いつまでも暗い話題ではと思い、俺は話を変えることにした。

 

「そういやドラコ、クィディッチの練習が来週には始まるんだろう? 今年は優勝してくれよ」

 

話題の変更に成功したようで、ドラコはルーピン先生への不満を忘れ、すぐさま熱意に燃えた表情となった。

 

「当然だとも! 今年こそ、ポッターを負かしてあの伸びた鼻をへし折ってやるさ」

 

「見ものだな、今年の試合は。去年は散々な負けっぷりだったからなぁ…」

 

「ブレーズ、君の鼻も明かしてやるからな! 見ていろよ、今年は勝つのは僕だ!」

 

「ドラコは夏休みも練習してたのよ! 負けるはずないわ!」

 

「……パンジー、それは内緒にしてくれと言ったじゃないか」

 

「あら、内緒にしてたの? 私との手紙でドラコがクィディッチの練習をしているのを随分と詳しく教えてくれていたけど」

 

「パンジー! 僕の手紙をよく読んでなかったのかい!? 誰にも言うなといったじゃないか!」

 

「ああ、ダフネ! 私、秘密にしてって言ったのに!」

 

ブレーズがドラコを挑発し、パンジーが馬鹿をやり、ダフネがそんなパンジーをからかう。いつものじゃれ合いが始まっていくその光景を見て、吸魂鬼への不安も薄れていくのが分かった。ルーピン先生に言われた通り、吸魂鬼の見せた訳の分からない光景について考えを巡らせるより、目の前の光景を見ている方がずっと健全だと、心の底から思った。

 

 

 


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