日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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さっさと終わらせたいと思う反面、執筆スピードは下がるばかり
ちょっと困ってる



夏休み編・アストリア・グリーングラス

長い廊下を案内されながらリビングへと通される。そこでは既にドラコとパンジーがソファーに座って待っていた。そしてその向かいにはダフネに似た少女が座っていた。これが妹なのだろう。

 

「やあ、ジン! 早かったな。父上が直々に迎えに行ったから話でもしているのかと思っていたが……」

 

ドラコが俺に気付いて挨拶がてらに手を振る。手を振り返し、荷物を足元に置きドラコの近くに腰を掛ける。

 

「歩きながらで済む話だったからな。ブレーズはまだなのか?」

 

「アイツはもうじき来るって。まあ、一番遠いからしょうがないと思うわ」

 

パンジーが肩をすくめながら俺の質問に返事をした。それを聞いてから、目の前の少女へと視線を移す。金髪に碧眼とダフネに似ていると言えば似ているが、雰囲気が違った。ダフネが堂々とした態度なのに対し、妹の方は明らかに気が弱そうな、控えめな印象を受ける。ダフネが妹の隣に移動して、軽く妹の肩を叩いて俺に紹介をする。

 

「ジン、紹介するわ。この子が妹のアストリア。手紙で話したから予想はついていたと思うけど。……アストリア、ご挨拶は?」

 

ダフネに促され、アストリアが俺に挨拶をする。

 

「初めまして。アストリア・グリーングラスです」

 

そう言ってアストリアは握手をしようと手をこちらに差しだす。感じた雰囲気とは違ってハッキリとした声だった。握手に応えながら、こちらも自分の名前を言う。

 

「初めまして。ジン・エトウだ」

 

握手をしながら、アストリアが興味深げに俺を見るのが分かった。自分が東洋人で初対面、加えて聞いたこともない家名と好奇心を刺激するには十分すぎるのは分かっているので気にはならなかった。ホグワーツでもほとんどの者達が同じような反応だ。

握手を解き、ソファーに座りなおす。同時に、ドアがノックされる音がした。

 

「ブレーズが来たみたい」

 

ダフネが立ち上がり、迎えに行った。ダフネがいなくなってから、まだ興味深げに俺を観察するアストリアに話しかける。

 

「ドラコやパンジーとは面識はあるのかな? スリザリンは入学前から大半が知り合いだっていうのは聞いたことがあるけど」

 

「あ、はい……。パーティーで皆さんと何度か顔合わせを……」

 

急に話しかけられて驚いたのか、顔を強張らせ若干声に不安を混ぜながら答えた。それをフォローするように、ドラコが会話に加わった。

 

「会ったことがあるのは今日で四回目だ。初めて顔を合わせたのは、我が家主催のクリスマスパーティーを開いた時だったかな? 四年前の話だ」

 

「私もそれ覚えてる! アストリアは隅っこでダフネにくっついてたのよね!」

 

ドラコの話題に嬉々とパンジーが食らいつく。アストリアも覚えているのか、表情を緩め少し笑みを漏らしながら返事をする。

 

「はい。ダンスが出来ない私に、気を遣ってくれました」

 

「ああ、あの様子は見ていられなかったからね。断られても誘っている連中が見苦しかった」

 

思い出す様にドラコが話していると、ダフネがブレーズを連れて帰ってきた。俺達を見て、ブレーズは嬉しそうに声をかけてきた。

 

「よお! もう揃ってたか。久しぶりだな……って程でもねぇや。っと、こっちは久しぶりか。よお、アストリア」

 

ブレーズとも面識があるらしいアストリアだが、ドラコと話す時とは違い若干緊張した様子で返事をした。

 

「こんにちは。お久しぶりです」

 

「……相変わらずだねぇ」

 

それを見て苦笑いを漏らしながらブレーズは俺の隣にドカッと荷物を下ろす。ダフネがアストリアの近くに移動して、俺達と向き合う形を取った。

 

「とりあえず、挨拶はこの辺にしましょうか。部屋に案内するわ。男性陣はこっち。パンジーはアストリアが案内してくれるわ」

 

ダフネがそう言うと、アストリアがパンジーを連れて二階の方へと向かった。例のごとくパンジーが嬉々としてアストリアに構うので、パンジーがアストリアを引きずっているようにも見える。

それを見届けてから、ダフネが俺達に話しかけた。

 

「三人同じ部屋がいいかしら? それとも別々が良い?」

 

「俺は三人一緒を希望。お前らは?」

 

ブレーズが真っ先に答え、俺とドラコもそれに賛同する。

 

「俺も三人部屋だとありがたい」

 

「僕もそれでいい」

 

満場一致で三人部屋に決まり、ダフネに案内されて三階の広い部屋に案内された。ベッドだけでなく棚やクローゼットまで人数分完備されており、綺麗に装飾もされている。部屋は三人部屋だと言っていたが、六人以上が寝泊まりしても何ら問題が無さそうだった。

 

「荷物は好きなように置いて。荷物が整理出来たら下に降りてきてね。全員が下に集まったらお昼にするから」

 

そう言うと、ダフネは部屋を出て行った。時計を見ると一時半。確かに昼飯時だ。

ブレーズは荷物を持ったまま真っ直ぐに三つあるベッドの真ん中に配置されている所まで行って腰を掛けた。

 

「じゃ、俺はここにするぜ」

 

「それじゃ、僕はこっち」

 

ドラコは左に位置するベッドへ向かっていった。残った俺は自然と右側のベッドへ移動する。荷物の整理には時間はかからなかった。各々が着替えをまとめるだけで、直ぐに三人そろって一階へと降りてゆく。

一階には既にパンジーとアストリアがおり、ソファーに座ってじゃれ合っていた。もう打ち解けているらしい。

 

「あー、やっぱり可愛い! 私、妹が欲しかったの!」

 

そう言われながらパンジーに撫でまわされているアストリアは、クスクスと笑いながら答える。

 

「お姉ちゃんから聞いたよ。パンジー、年下扱いなんでしょ?」

 

「そんなことないわよ! ……たまにダフネに頭撫でられるけど」

 

「私も撫でられるわ。やっぱり同じ!」

 

「もう君達も下にいたのか。ダフネはどこだい?」

 

「あ、ドラコ! ダフネなら食堂に行ってるわ。準備が出来たら呼びに来るって!」

 

二人にドラコが声をかけ、パンジーが気付いたように返事をする。

俺達も空いているソファーに腰を掛け、各々で適当に時間を潰す。ダフネは直ぐに来た。

 

「お待たせ。昼ご飯にしましょう」

 

案内された食堂には縦長のテーブルに人数分の椅子と食事が置かれていた。そして、先客が一人だけ。席には座らずテーブルの横に立っている女性がいた。一目で、それがダフネたちの母親だと分かる。ダフネにもアストリアにも似ていた。俺達に向かって微笑むと、歓迎の言葉を投げかける。

 

「いらっしゃい。ゆっくりしていってね。私は用事があるから食事は一緒に取らないけれど、是非、楽しんで頂戴」

 

「いえ、お気遣いありがとうございます」

 

そのままドラコが前に進み出て二、三言返事をし、挨拶はあっさりと終わった。グリーングラスさんはそのままいなくなり、食堂には俺達だけになった。

 

「さ、好きな席について。早く食べないと、料理が冷めるわ」

 

ダフネに促され、ドラコが端に座る。すぐさまその隣をパンジーがキープして、パンジーの隣にダフネが腰を掛ける。アストリアがドラコの正面に座り、その隣に俺、次にブレーズと全員が席について食事が始まった。

料理はスープとサラダ、肉料理と魚料理、加えてパンという高級レストランのフルコースの様だった。見た目もよく、美味しいもので直ぐに料理に夢中になる。目の前の料理に舌鼓を打ちながら、話をする。

 

「この後、何するか決めてるのか?」

 

「別段、そんなことは無いわね。気ままに過ごしましょ」

 

俺が質問するとダフネが答え、ブレーズがそれに反応した。

 

「なあ、箒ってあるか? 軽く飛びてぇんだが……。ほら、俺とジンはクィディッチやってねぇからよ。ボール持って軽くフリースローだけでもやりてぇんだ」

 

「ああ、それはいい! 僕もやりたいね!」

 

ドラコがブレーズの提案に乗っかると、パンジーも乗り気になる。

 

「それじゃ、私も! ねえダフネ、いいでしょ?」

 

「勿論よ。確か、箒なら予備が結構な数であったはず。移動用だから、競技用ほどスピードは出ないでしょうけど」

 

食後はクィディッチをやろうという話で盛り上がっていく。盛り上がっているのはいいのだが……っと隣で料理を頬張っているアストリアに目を向ける。

ここに集まったのは、アストリアの不安を拭うのが目的だったはずだ。確かにまだ打ち解けてもいない状態では悩みも聞くに聞けないが、周りの盛り上がり様を見て忘れているんじゃないかと危惧してしまう。

 

「アストリアは何かやりたいことはあるか?」

 

そう声をかけると、アストリアはちょっとだけビクリッと体を震わせてから答えた。

 

「あ……いえ、特には……」

 

随分と警戒されたものだと苦笑いしながら、もう少しだけ会話を続ける。

 

「クィディッチは得意? ダフネがクィディッチについて話すのは聞いたことないけど……。やったことはあるか?」

 

「……いえ、ないです。箒も、乗るのは苦手なんです。だからクィディッチは……その……見ているだけにします」

 

アストリアはちょっと恥じ入ったようにそう言う。箒が一つの移動手段となり得る魔法使いにとっては、箒が苦手というのは確かに恥ずかしい事なのかもしれない。だが正直、そこの感覚はよく分からない。自分も箒なんて数えるほどしか乗っていないので、苦手だと言われても特に驚くこともなかった。

 

「俺も箒なんて授業でしか乗ったことないしなぁ。正直、クィディッチはちょっと苦手かもな」

 

「え? そうなんですか?」

 

驚いたようにこっちを見るアストリアに苦笑いで頷く。

 

「ダフネから聞いてない? 俺、マグル育ちなんだ」

 

「あ、いえ……知ってます」

 

アストリアは納得した様子を見せ、頷く。緊張や不安も薄れたのか、先程の様なあからさまな警戒心は無かった。そのまま、見ているだけにすると言っていたクィディッチを誘ってみる。

 

「じゃあ、箒の練習がてら一緒にクィディッチをやるか。見てるだけじゃつまんないだろ? ドラコとブレーズ以外、飛行技術なんて似たり寄ったりだしな。遠慮することはないさ」

 

「え? いいの?」

 

少しだけ目を輝かせながら聞いてきた。口調も、無意識だろうが丁寧なものから素のものに変わっている。実はやりたかったのであろうことは明白だ。

 

「ああ、勿論。パンジーも参加するんだ。足を引っ張るなんてことはあり得ない」

 

「ちょっと! 聞いてるわよ!」

 

笑いながら答えると、パンジーが前の方から突っかかってくる。

 

「言っとくけど、私の方があんたより絶対に上手いわよ! あんたなんて、クィディッチに関してはクズもいいところよ!」

 

「……酷い言い様だな。なんなら、勝負するか?」

 

「いいわ! 賭けましょ! 負けた方が今日一日中、相手の言うことに従う!」

 

「いいよ、やってやる」

 

徐々にヒートアップしてゆく俺とパンジーのやり取りに、ドラコが口を挟む。

 

「ジン、ちょっと言いにくいが……」

 

「何だ?」

 

「パンジー、結構なやり手だぞ?」

 

「……マジで?」

 

「もう遅いわよ! 止めたなんて聞かないから!」

 

俺とパンジーのやり取りを、アストリアはクスクスと笑いながら聞いている。だいぶ、打ち解けることが出来た様だった。

そのまま昼食を終えると、ダフネが人数分の箒を用意して庭でクィディッチをやる。アストリアの飛行の手伝いをしたり、三対三に分かれてミニゲームをしたりで盛り上がってゆく。ブレーズとドラコの上手さは言わずもがなだが、パンジーと俺はまさに同レベルと言ったところだった。パンジーは勢いがあるが正確さは無く、逆に俺は正確な方だがスピードはさほど出ない。ダフネはあまり飛ぶのは得意じゃないらしく、アストリアと一緒に軽く飛び回る練習から始めていた。

日が暮れるまで全員で飛び回り、最後に俺とパンジーの一騎打ちでシメとなった。

五回づつのフリースロー対決。お互いがキーパーとフリースローを行い、多く取った方の勝ち。四人のギャラリーに下から煽られながらの真剣勝負。賭けの内容もあって、パンジーはギラギラと闘志で目を輝かせ、俺も俺で負けたくないと必死だった。一回一回にキャーだのオォーだの歓声が起こる。そして、勝負がついた。

 

 

 

 

 

「まあ、予想通りだな。気分はどうだ?」

 

「……うるせぇ」

 

「ちょっとー、力弱いんだけどぉ?」

 

「……想像以上に屈辱的だな、ちくしょう」

 

肩が凝っただのほざくパンジーの命令に従って、自棄になりながら肩を揉む。ブレーズが爆笑しながらそれを見ていた。

結果は敗北。あと一歩という所で負けた。ダフネ曰く、勝つか負けるかの緊迫感はここ最近の最高の見世物だったらしい。

クィディッチの汗を流すために夕食より先にシャワーを済ませることになった。今はシャワーを終えて、ダフネとアストリアが夕食に呼びに来るのを待っているのが、のんびりさせてもらえない。

 

「しっかし、最高の見世物だったな。なあドラコ、明日は俺達が勝負すっか?」

 

「いいのかい? 今のジンを見てそれが言えるとはたいしたものだけどね」

 

「負ける気がしねぇしな」

 

「……いいだろう。明日は、僕とブレーズだ」

 

「ああ、是非ともやってくれ。負けた方は笑い飛ばしてやる」

 

明日の楽しみが出来た所に、ダフネが夕食だと呼びに来た。夕食にはグリーングラス夫人も同席した。昼と同じように挨拶を簡単に済まし、料理へと取り掛かる。

あれだけ運動した後なので、全員が言葉少なめに料理に集中していた。それでも、いくらか腹具合が落ち着くと会話が飛び交う様になる。今日の出来事や、この後どうするかといったこと、明日に控えるドラコとブレーズの対決の話もした。俺の負け試合の話もパンジーが嬉々として語り、場を盛り上げる。アストリアがグリーングラス夫人に今日のことを楽しげに話し、グリーングラス夫人が微笑みながら相槌を打つのがいかにも親子という感じで微笑ましかった。

夕食は和やかに終わり、その後は男部屋に集まってカードゲームやボードゲームで遊ぶこととなった。カードゲームで一通り遊び散らかして、飽きたらボードゲームに移る。

そのボードゲームは自分が知っているのとは違っていた。人生ゲームと言われていたものなのだが、集めるものが金だけでなく地位や名声もあり、それがなくては進めないルートがあるなどかなり凝っているゲームだった。そして、何よりの違いはゲーム中盤で発覚した。

 

「……あ、死んじゃった」

 

アストリアがそう呟くと、サイコロの数だけ進んだアストリアの駒が粉々になった。何事かと止まった駒の説明を見ると、確かに「人違いで暗殺されました。この駒に止まった人は死ぬ」と書かれていた。

 

「……すげぇな、死ぬのか」

 

そう呟くと、隣にいたブレーズがちょっと驚いたように言った。

 

「何言ってんだ? 人生ゲームだ。死ぬに決まってんだろ?」

 

そこまで再現しなくてもいいだろうに。そう思っていたが、口には出さずにゲームを進める。暇になったアストリアはダフネと一緒にゲームを続けることとなった。

しばらくして、今度は俺の駒が死んだ。先程と同じように、駒が粉々になりゲームの終了を告げる。

 

「今日のお前はついてねぇな。死亡マスなんて、ほんとは滅多に止まんないんだぜ?」

 

「まったくだ。パンジーにも負けるしな」

 

ケラケラ笑うブレーズに肩をすくめながら返し、立ち上がって散らかしたカードゲームを片付けに向かう。

 

「あ、やらなくていいわよ? 後で私もやるから」

 

「いや、暇なんだ。気にすんな」

 

「そうそう! 気にしない気にしない! どの道、後で私がやらせるつもりだったもん!」

 

ダフネの気遣いを何故かパンジーが遠慮させる。苦笑いと共にそのまま片づけに取り掛かれば、アストリアがこちらに協力に来た。

 

「パンジーもああ言ってたし、本当に気にしなくていいんだぞ?」

 

「大丈夫だよ。私も暇だもん」

 

クィディッチを一緒にやったお蔭か、アストリアもここにいるメンバーにはだいぶ打ち解けて話し方も随分と堅苦しさが抜けてきた。一緒に片付けながら、話をする。

 

「お姉ちゃんからね、皆の話をよく聞くんだ」

 

「へぇ、成程ね。道理でパンジーの扱い方を知ってる訳だ」

 

種類ごとにカードをまとめながらそう返すと、声を出して笑いながらアストリアが答えた。

 

「そういう訳じゃないよ! でも、パンジーって話通り面白い人だよね」

 

「ダフネは、他にはなんて言ってるんだ?」

 

興味が湧いて聞いてみると、アストリアは考えるようにしながら楽しそうに話してくれる。

 

「うーん……。ドラコはね、ちょっと捻くれてるけど優しくて純情だって。でも親切なのは知ってたよ。パーティーで会ったことあるから」

 

「ああ、言ってたな。助けてくれたんだって?」

 

「うん。ちょっと困ってるところをね」

 

だから俺とブレーズが警戒されている中、ドラコには多少打ち解けていたのだろう。納得しながら話の続きを促す。

 

「他には?」

 

「うん、ブレーズはね……気を付けなさいって。引っかからないようにしなさいって言われた」

 

どこか申し訳なさそうに、声を潜めて言うアストリアの言葉に、今度は俺が声を出して笑う。

 

「ああ、そうだな。ブレーズには気を付けた方がいい。特に甘言にはな」

 

そう言うと、ボードゲームの駒が飛来して頬をかすめた。

 

「聞こえてんだよ、馬鹿野郎! 何を吹き込んでんだ!」

 

「わるいな、冗談だ」

 

怒鳴ったブレーズに笑いながら離れた所に落ちた駒を拾い投げ返す。舌打ちしながらブレーズは駒を受け取ってゲームを再開する。アストリアはやはり申し訳なさそうに、けれど少しだけクスリと笑った。

 

「それと、ジンの話もよく聞くよ」

 

「俺については、何て言ってるんだ?」

 

今度は邪魔されないように、こちらも少し声を潜めて聞いてみる。アストリアはちょっと悩むようにしてから答えた。

 

「うーん……。ジンはね……一言で表すなら、複雑だって言ってた」

 

「……ああ、まあ、そうなのかもな」

 

家庭事情、立場、内面などなど。確かに自分にはほぼ全てを通して複雑という言葉は当てはまるような気がした。納得してでた俺の同意の言葉が、マイナスな言葉に聞こえたのだろう。取り繕う様にアストリアが話を続ける。

 

「でもね、凄い人だってこともよく聞くんだ。成績もいいし、魔法も上手いんでしょ?」

 

「まあ、確かに上手い方ではあるな」

 

「うん。それにね、学校が楽しくなったのはジンのお陰だって言ってた」

 

「俺のお陰?」

 

カードの最後の束を箱に入れながら意外な言葉につい聞き返す。アストリアは頷いてそれを肯定した。

 

「ジンと仲良くなってから、退屈した例がないって。見ていても面白いし、話しても面白いって。友達が出来たのもジンのお陰って言ってたよ」

 

「……そう言ってもらえるのは嬉しいが、友達が出来たのは俺のお陰じゃないだろう」

 

随分とオーバーな評価に苦笑いと共に否定をすると、アストリアは首を横に振る。

 

「ううん、そうじゃなくてね。なんて言えばいいのかな……。本当に打ち解けられたのは、ジンのお陰って」

 

それを聞いて少しだけ言いたいことが分かった。確かに、スリザリンにとって自分は割と異様な存在だった。家柄に縛られず、名家とかに対する引け目や遠慮というものが自分には欠けていたのだ。そのお蔭でいざこざもあったが、結果的にはここにいる奴等とは打ち解けることとなったのだと思う。仲良くなる切っ掛けは、確かに俺にあったかもしれない。

 

「ダフネが本当にそう言ってたのなら、嬉しいね」

 

「私、嘘は吐いてないよ?」

 

「いや、疑ってるんじゃなくてだな……。少し気恥ずかしいんだ。そんなこと、言われたことなかったから」

 

少し笑いながら答えると、アストリアは意外そうな顔をしていた。アストリアからしてみれば、よく聞くはずの話なのかもしれない。それを本人が知らないのだから、おかしな話に聞こえるのだろう。カードを全てしまい終え、ホッと一息を吐く。

 

「ねえ、ジンは皆のことをどう思ってるの?」

 

今度はアストリアの方から質問された。どう答えたものか、一瞬躊躇したがまだボードゲームが終わりそうにないのを見て、正直に答えることにした。

 

「パンジーは……馬鹿だと思ってる」

 

「うん、知ってるよ」

 

クスクス笑いながら、アストリアは相槌を打つ。

 

「でも、憎めない奴でもあるな。何だかんだ言って、見てて面白い。ヒヤヒヤする時も多々あるがな……」

 

「じゃあ、ドラコは?」

 

「ドラコは、そうだな……。色々と手がかかる。でもその分、こっちも教えられることが多いな。遠慮もいらないし、一緒に馬鹿もやれるし、いい友達だ」

 

アストリアはへぇ、と納得した様な声を漏らしてから次の質問へと移る。

 

「ブレーズは?」

 

「アイツは、遊びたい時にはもってこいの人材だな。ホグワーツでのドンチャン騒ぎには、大体がアイツを中心に行われてたりするんだ。アイツがいるといないじゃ、場の盛り上がりが違うしな。良い奴だと思うよ。さっきはああ言ったけどな」

 

先程の発言もフォローするつもりで言うと、アストリアはそれを了承しているかのように軽く頷く。それから、最後にちょっとワクワクした様子で質問してきた。

 

「ねえ、お姉ちゃんはどう思ってる?」

 

これが一番聞きたかった質問なのはアストリアの態度で明白だった。今日一日の様子を見て、アストリアにとってダフネが自慢の姉なのはよく分かったつもりだ。本当に仲の良い姉妹だと何度も思わされた。

 

「ダフネはな……」

 

ちょっと考えながら答えると、アストリアは期待しているように頷きながら先を促す。苦笑いと共に答える。

 

「真面目で頼りになるな。いざこざが起きた時も、よく助けられてるよ。そうだな……俺が一番、信頼している相手だ」

 

俺の回答に、アストリアは満足そうに頷く。自慢の姉への褒め言葉が嬉しいのだろう。

ここでゲームが終了したらしく、向こうからお呼びがかかる。新しく別のゲームを始めるらしい。話を打ち切って、アストリアと共にまたボードゲームに参加する。

ボードゲームも遊び散らかすと、だいぶ遅い時間になっていた。アストリアがウトウトし始めたのを機に今日はお開きとなった。遊び足りないと駄々をこねるパンジーをダフネが説得して、三人とも部屋に戻ってゆく。

ブレーズもドラコも、さっさと寝る準備をしてベッドに腰掛ける。かなりの疲れがたまっている上に、既に遅い時間だからこのまま起きているつもりはないようだ。かといって、直ぐに寝るつもりもないらしい。

 

「おい、アストリアと何を話してたんだ?」

 

「大したことじゃない。アストリアに、俺がお前らをどう思っているかを聞かれただけだ」

 

ブレーズの質問に答えると、それが二人の興味を引いたらしい。

 

「君は何て答えたんだ?」

 

「まさかお前、あれ以上に変な事を吹き込んでねぇだろうな?」

 

「そんなことしねぇよ。……明日、アストリアに聞いてくれ。というか、今回のこの集まりってアストリアの不安を解消するためのものじゃなかったのか? 普通に遊んじまってるけど」

 

追求が面倒臭くなる前に切り捨てる。そして新たに提示した質問に、二人が一瞬固まる。忘れていたらしい。溜め息を吐くとドラコが言い訳を始めた。

 

「いや、まあ、良いじゃないか。今日で随分と打ち解けただろう? 結果オーライさ! その問題は明日だ明日!」

 

「んじゃ、明日の予定はアストリアの不安解消でいいか?」

 

ブレーズがそう言い、ドラコが力強く頷く。俺もボンヤリと話していた時のことを振り返る。あの様子だと、悩み位だったら話してはくれそうだ。

そのまま灯りを消せば直ぐに全員が眠りに落ちた。一日目がアッサリと終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

眠たそうにしているアストリアの手を引きながら、ダフネはどうにか部屋に着く。パンジーとアストリアのお願いもあって、三人一緒の部屋で寝ることになった。部屋に着くと、パンジーがアストリアを巻き添えにベッドに飛び込んだ。それからダフネに向かって手招きをする。

 

「ほら、今日は皆でこのベッドに寝ましょ! ね、アストリアもそうしたいでしょ?」

 

パンジーがアストリアに問いかけると、アストリアは笑いながら頷く。アステリアの様子に、ダフネは随分と皆に懐いたなと少し感動した。アストリアの人見知りは、ブレーズが呆れるくらいに酷かったのだ。

パンジーに言われるまま大人しく同じベッドに入る。大きめのサイズとはいえ、やはり三人はちょっと窮屈だった。体をくっつけながら布団にもぐりこむ。疲れが溜まっているのもあって、直ぐに眠りにおちそうだった。パンジーはそうはさせまいとしてか、アストリアの頬をつついて話しかける。

 

「ねえ、さっきはジンと何を話し込んでたの?」

 

それはちょっと興味がある。ダフネもそう思い、同じようにアストリアに話しかけた。

 

「私も知りたいわ。何を話してたの?」

 

そう言うと、アストリアはだいぶ眠たそうにしながらも答えてくれた。

 

「ジンが、皆をどう思ってるか聞いてたの……」

 

それを聞いて、思わずダフネとパンジーは目を合わせる。パンジーの眼が光るのを、ダフネは見た。

これは使える! とパンジーが思ったのは明白だった。アストリアをダシにジンの本音を聞きだすことが出来そうだとでも考えたのだろう。ジンの弱みを、パンジーはいつも密かに探していた。

 

「それで、ジンは何て言ってた?」

 

パンジーがどこかウキウキしながら聞いた。アストリアは寝ぼけている調子で答える。

 

「パンジーはね……馬鹿だって」

 

眠気が邪魔してか、だいぶ省略しての答えだった。ダフネにはそれが分かったが、パンジーは言葉そのままに受け取った。

 

「……あー、ダメ! やっぱアイツはムカつくわ! 今日、もっと痛い目に遭わせればよかった!」

 

「まあまあ、落ち着いて。……アストリア、私については何だって?」

 

もう眠る直前だろう。それを察して、最後にとばかりに質問を投げかける。アストリアはやはり眠そうだが、こちらに笑いかけながら答える。

 

「うん、お姉ちゃんにはね、色々と言ってくれたんだ……」

 

嬉しそうに答える妹を少しだけ可愛く思いながら、質問の回答を得られなかったのを少し残念に思う。もうアステリアは限界だろうと思い、まだ追求しようとするパンジーを抑えて灯りを消す。それから、アストリアが呟くように答えるのを聞いた。

 

「ジンはね……俺が一番、信頼している相手だって、言ってたよ」

 

いきなり投下された答えにダフネは思わず硬直する。自分との扱いの差に文句を言うパンジーをよそに、アストリアは眠りについたらしい。静まった空間で、ダフネはどうにも火照った顔を枕に押し付けて冷静さを保つ。灯りを消しておいてよかったと密かに思った。

 

 

 




修 羅 場 確 定


次回の投稿は結構、遅くなるかも
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