日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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杖、宿、確保

銀行を出たすぐに他の物を買いに行くことにした。買い物が終われば、丁度、お昼時になるそうだ。最初は制服の調達となった。制服は「マダムマルキンの洋装店」で買うらしく、近くにあるその店に入った。マダム・マルキンは俺を見ると少し驚いた顔をしたが、すぐににっこりと笑って俺に話しかけた。

 

「坊ちゃんもホグワーツだね?中国人かい? 珍しいね! 全部ここで揃いますからね。今、丁度、二人の若いお方達が丈を合わせているところよ」

 

そう言って俺を店の奥に連れて行った。そこには背の低い少しオドオドした少年と栗色のふさふさした毛をした少女がいた。少女はこちらに気が付くと笑いかけながら話しかけてきた。

 

「あら、東洋人よね? 珍しいわね! あなたもホグワーツかしら?」

 

「ああ、そうだよ。君達も?」

 

「私達もなの! ああ、ホグワーツに入学できるなんて、本当に嬉しくてたまらないわ! 最高の魔法学校って言うじゃない? そんな所でこれから魔法を学べると思うと楽しみで仕方ないわ! あ、私はハーマイオニー・グレンジャー。で、こっちは……」

 

栗色の髪の少女は明るい表情でそうまくしたてた後、後ろの方でオドオドしている少年へと話題を振った。

少年は一瞬、ビクリとこわばった様子を見せたが、何とか自己紹介ができたようだった。

 

「は、初めまして……。僕は、ネビル・ロングボトム……」

 

「ああ、初めまして。俺はジン エトウ。ついでに日本人だ。よろしく頼むよ」

 

「あら、日本人だったの? 私、一度は日本に行ってみたいと思っていたのよ! ねえ、日本ってどんなところか教えてくれない?」

 

「うん?そうだなぁ……。じゃあ、俺の住んでた所について話すか。俺が住んでた所は…………」

 

そんな感じで、グレンジャーとロングボトムに日本について話していると、二人は寸法が終わったようで、話を切り上げ、「また会えるといいね」なんて挨拶を交わしながら、ロングボトムは割と切実に言っていたが、二人は出て行った。

ほどなくして俺も寸法が終わり、外にいるハグリッドに合流した。その後は教科書など一通りそろえ、最後に杖を買いに向かった。杖は「オリバンダーの店」で購入することになった。ハグリッドは何やら他に買いたいものがあるらしく、店には俺だけが入った。

 

「いらっしゃいませ」

 

そう柔らかい声が聞こえ、その方向を見ると、老人が立っていた。

 

「杖をお求めかな? ふむ、見たところ東洋人のようだが……。もしや、君は日本人かい?」

 

「ええ。ジン エトウと言います」

 

「おお、あの人たちのご子息か。なるほど、よく似ている」

 

「あなたも両親をご存じで?」

 

「ええ。よく覚えてますよ。私は誰がどんな杖を買ったかは決して忘れません。お二人とも、自分にぴったりの立派な杖を買っていきました。亡くなってしまったのが少々残念ですね。いや、申し訳ない。不謹慎でしたな。それでは、あなたの杖を選びましょう」

 

そう言って、俺の腕やらを測ると、箱から杖を持ってきた。何本か俺が握って試したのだが、あまりしっくりくる物が無いのか、オリバンダーさんはすぐに取り変えてしまう。そして、そろそろ十本目を超えるか?という時に、俺の杖は決まった。

 

「では、これはどうでしょう?桜に龍(たつ)のヒゲ。二十五センチ。固い」

 

そう言われて持った杖は、俺の手にしっくりとおさまった。試に振ると、杖からは綺麗な光の球が溢れる様に出てきて、店を照らし、宙に舞い、そして消えて行った。どうやら、これが俺の杖の様だ。

 

「ブラボー! 素晴らしい! いやいや、まさか、その杖がここまで合うとは……」

 

「この杖、何か問題でも?」

 

「いやいや、君には何の問題はないでしょう。ただ、この杖は少し気難しいのでね。恐らく、君にしか扱えまい……。いやはや、私が生きているうちにその杖の持ち主に会えるとは……。素晴らしい杖なのだが、今まで使い手が見当たらなかったんですよ……」

 

オリバンダーは満足そうに俺の杖を見つめた。何やら杖が生き物のような話し方をする。そこに職人の気質というものを感じながら、自分の杖を一撫でし、杖の料金を払って外に出た。するとハグリッドが丁度、向こうから出てきた。何やら荷物を持ているようだ。あれがさっき言っていた買いたい物だろう。

 

「ハグリッド、何を買ったんだい?」

 

「おお、そこにいたのか、ジン!いや、何、少し俺のペットの餌をな……」

 

そう言ってハグリッドが持っている袋は、何やらもぞもぞ動いている。

是非、ペットを見てみたいものだ。恐れ半分興味半分。そんな感じでハグリッドの荷物を眺めた。

これで、買う物は全て揃ったわけで、昼飯にしよう、ということになった。

昼飯は、周りの異様さを考えたらまともなもので、かえって異様に見えた。俺はミートパイにサラダ、かぼちゃのスープを頼み、とりあえずハグリッドと話すことにした。

 

「ハグリッド。そういえば、マグル出身の奴ってどれくらいくるんだ?」

 

「うん? ああ、お前さんが思ってるよりも多いと思うぞ。大体、えーー、三分の一位がマグル生まれだな。なんだ、どうかしたのか?」

 

「いや、ちょっとね。今日、ホグワーツに行くって奴らに会ったんだけど、ホグワーツに行くのが楽しみだって言うからね……。そういった奴らばっかりなのかなって気になって。なんだか、俺が場違いな気がするし……」

 

「何?お前さんはホグワーツに行きたくないのか?」

 

驚きと、不審そうなハグリッドの声に慌てて弁明する。

 

「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、俺の場合は行くしかない状況だったから……。うまくやっていけるか不安なんだ」

 

そう言うと、ハグリッドは納得したような表情をした後、すぐに申し訳なさそうな顔で俺から目をそらし、何か考え始めた。恐らく、俺の気にさわるようなことを言ってしまったのを気にしているのだろう。

会って間もないが、ハグリッドが優しい人だというのがなんとなく分かった。ただ、考えるのは苦手な様で、今回みたいに言ってから後悔することが多そうだった。隠し事も向いてなさそうだな。

そんなどこか自分を棚に上げる感じでハグリッドの評価を下していたら、何か思いついたのか、俺の方に向き直り話し始めた。

 

「まあ、お前さんなら大丈夫だろ。両親も立派な魔法使いだったから、お前さんも立派な魔法使いに違いない。それに、お前さんと同じように両親が魔法使いでマグルに育てられちょるのを俺はもう一人知っとる。その子も今年、ホグワーツに来ることになっとる」

 

「へえ、俺と同じような子がもう一人いるんだ……。どんな奴なの?」

 

「ああ、その子は魔法界じゃちょっとしたスターみたいなやつでな、誰でも知ってる。なんでも、例のあの人から唯一、生き残った奴だからな。それだけじゃない。その子を襲ってから、あの人はいなくなっちまったんだ! だからお前さんの年頃の子は皆、その名前を聞いて育ったはずだ。」

 

「なんていう名前?」

 

「いいか? よく聞いとくんだぞ?その子の名前は……ハリーポッターだ!」

 

「……へえ、そう」

 

正直、名前だけ聞いてもなんもわからない。いや、通称「例のあの人」から生き残ったていうのがすごいのだろう。「例のあの人」に関しても両親の敵(かたき)以外は知らないに等しい。それに、今年にホグワーツに入学なら俺と同い年はずだ。ダンブルドアからは例のあの人がいなくなったのは十年近く前と聞いている。俺がまだ赤ん坊の時だ。それなら、「例のあの人」がいなくなったのにポッターが直接の原因なのは考えにくい。ハグリッドの言い方からすると、魔法界ではポッターが例のあの人を殺したことになっているのだろうが、俺からするとポッターはその場に居合わせただけという可能性の方が高そうだ。

しかし、ポッターにあってから「例のあの人」が姿を現さなくなったというのは事実らしく、ポッターに何かがあってもおかしくはないとも思えた。

 

「とりあえず、ポッターは例のあの人を倒した英雄ってことでいいのかな?」

 

とりあえずで出した結論に、ハグリッドは嬉しそうに大きく頷いた。

 

「ああ、そうだ」

 

「なら、なんでポッターはマグルに育てられてるの?」

 

「ああ……。まあ、お前さんと同じ理由だな」

 

「……そっか。ごめん」

 

ハグリッドは落ち込んだ様子でポッターの境遇のことについて声を漏らす。ハグリッドはポッターに思い入れが強いようで、まるで自分のことの様に意気消沈している。思わず謝ってしまった。

 

「いや、まあ、お前さんは悪くない。とりあえず、俺が言いたかったのは、お前さんと同じ境遇の子がいるってことだ。だからそう落ちこむな」

 

「……ああ、ありがとうハグリッド」

 

やはり、俺もハグリッドのこと言えないな、なんて苦笑いしていたら昼飯が来たので話をいったん置いといて飯を食べるのに集中した。食べ終えたら、この後、何をするかをハグリッドに聞くことにした。

 

「なあ、ハグリッド。この後は何かすることあるの?」

 

「いや、今日はこれで終わりだな。あとはお前さんが泊まる宿まで行くだけだ。あ、あと、これを渡しておかんとな」

 

「これは?」

 

「ホグワーツ行きの切符だ。詳しいことは切符に書いてある。さて、宿まで行くとするか」

 

俺が泊まる宿はもう決まっているらしく、「ゴードンの宿泊所」というところが俺の宿泊所になるらしい。ホグワーツ行きの列車が来る九月一日、今から約二か月はそこで生活するわけだ。時間はたっぷりあるし、両親が残したホグワーツについての本を読み切ることができそうだ。しばらく歩くと、建物も少なくなり、だいぶ静かなところに来た。ハグリッドがふと一つの建物の前で立ち止まった。

 

「ここが、お前さんの泊まるところだ」

 

そう言って俺を連れて宿に入っていった。宿に入ると、しかめっ面のおっさんが一人、カウンターに座っていた。おっさんはハグリッドを見ると、少し表情を和らげ話しかけてきた。

 

「おお、ハグリッドか。久しぶりだな。何の用だ?」

 

「ああ、ゴードン。アキラの息子を連れてきたんだ。ほれ、こいつだ」

 

そう言って俺をしかめっ面のおっさん、ゴードンさんの前に持ってきた。正直、しかめっ面のゴードンさんは中々の迫力があって怖い。ゴードンさんはカウンターから立ち上がり、俺をしばらく見ると、ポケットから鍵を取り出し、渡してきた。

 

「これは?」

 

「お前の両親がお前のために残した部屋の鍵だ。部屋は三階の一番奥だ。行ってくるといい」

 

それだけ言って、ゴードンさんはカウンターに戻った。とりあえず、俺はハグリッドにお礼と別れを告げて部屋に向かった。

部屋は両親が残したという割には普通の部屋だった。ベッド、机、タンスに棚にクローゼットと、家具一式は揃っており、生活には困らないだろう。俺が荷物を整理していると、部屋のノックが聞こえ、返事をするとゴードンさんが入ってきた。

 

「ここがお前の部屋だ。生活のことは気にするな。お前の親父と約束してある。飯は毎日、朝は六時から八時、昼は十一時から二時、夜は午後の六時から九時だ。シャワーは何時でも浴びていい。何か質問は?」

 

「いえ、特には」

 

「そうか……。何かあったら遠慮なく俺に言え。下のカウンターにいる」

 

そう言って、ゴードンは下に行った。ぶっきらぼうだけど、優しいと思えるような人だった。少し安心した俺は、とりあえず、夕食まで両親の本を読むことにした。

初めての一人部屋には違和感を感じながらも、初めての自由を感じていた。あと二か月、きっといい時間を過ごせそうだ。

 




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