日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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ここまでが前話で書こうと思っていた話。
さりげなく久しぶりに主人公がフルで登場


決意

何とか声を振り絞って伝える。マクゴナガル先生はジッと俺の顔を見て、それから頷いた。

 

「分かりました。エトウ、貴方を校長室にお連れします。では、他の三人は寮へと戻りなさい。スネイプ先生、お願いします」

 

残りの三人はスネイプ先生に連れられて寮へと戻った。三人とも何か言いたそうで、聞きたそうな顔をしていたけど有無も言わさず、スネイプ先生が医療室から追い出した。

三人が出ていくと、マクゴナガル先生は移動をする前にマダム・ポンフリーに声をかけた。

 

「これから石化した人達は面会謝絶です。許可された人達以外の入室は禁じて下さい。トドメを刺しに継承者が現れるかもしれません。十分に警戒態勢を敷いてください」

 

それからようやくこちらに向き直り話しかけた。

 

「それでは、行きましょう」

 

それだけ言うと、マクゴナガル先生はスタスタと歩き始めた。てっきり何を話すのかを問いただされると思っていたものだから、拍子抜けだった。そのままマクゴナガル先生の後ろまで付いて行き、螺旋階段を上って、廊下を渡り、ガーゴイルのいる扉の前まで来た。

 

「フレア・チップス」

 

マクゴナガル先生がガーゴイルに触れながら言うと、まるで命を吹き込まれたかのようにガーゴイルが動きだし、ピョンと脇に飛んで扉を開けた。扉の先には、リドルの記憶で見た通りの部屋が広がっていた。

円形で美しく、本があちこちにあり、何やら小道具まで置いてある。しかし、校長が座っているべき場所は空白だった。

 

「校長先生は今、お客様がお見えになられているのでその対応をしています」

 

キビキビとマクゴナガル先生は言いながら椅子を持ってくる。

 

「どうぞ、お掛けなさい。ここで待っていればいずれ先生がお見えになるでしょう。それまでここで大人しくしていてください」

 

そう言うと、マクゴナガル先生はここから立ち去ろうとした。

 

「あの!」

 

あまりにスムーズに行き過ぎていることに違和感を覚え、思わずマクゴナガル先生を引き留めてしまう。

マクゴナガル先生は外へ行こうとする動きをピタリと止まると、こちらに向き直り問いかけた。

 

「何か質問ですか、ミスター・エトウ?」

 

「……何も聞かないんですか?」

 

何を伝えるのかも追求しない。何故今まで黙っていたのかも叱責しようとしない。それらを覚悟したうえで名乗り出たのに、なんというか、あっさり行き過ぎていて逆に怖い。

そう考えているのが伝わったのか、マクゴナガル先生は質問に答えてくれた。

 

「校長の指示です。校長先生は、貴方が何かを知っていると思っておられました。そして、それをいつか自分で話すとも。その際には、貴方に無理に問いただすことは無いと。自分に伝えたいのであれば、そのまま自分に通すようにと」

 

「……ダンブルドア先生の指示?」

 

思い当たるのは、医療室でのやり取り。何か言いたいことは無いか。そう言うダンブルドアに対し、黙秘を決め込んだ。ダンブルドアには、隠し事をしていたのはバレバレだったのだろう。

 

「ですから、私からあなたに聞くことは何もありません」

 

キッパリと断言するその声には迷いは無い。ダンブルドアにいかに絶対的な信頼を置いているかがよく伝わってきた。

 

「……引き留めてすみませんでした。質問は、もうありません」

 

そう謝罪すると、マクゴナガル先生は再び動き始めた。扉を開け、外へ踏み出す。それからこちらに振り向いた。

 

「貴方が何を迷っていたかは知りませんが」

 

既に外に踏み出し、閉まりかけの扉から早口で声をかけてくる。

 

「貴方は私が知る中で、最も優秀な生徒の一人です。もっと自分に自信を持ちなさい。少なくとも、校長先生は貴方を信頼しております」

 

それだけ言うと、今度こそ扉を閉めていなくなった。一人、静かな空間に取り残され、先生の先程の言葉を噛みしめる。

ダンブルドアは俺を信頼している。ならば、信頼していなかったのは俺の方だった。ダンブルドアが何を考えているかなんて知らない。それでも、俺が何か隠していることを知りながら尋問もしなかった。捕まえようとも、犯人と疑うことも、ダンブルドアはしていない。ただ、俺が事件と無関係だと知っていることをほのめかし、俺に質問しただけ。話すかも黙るかも、その選択肢さえ俺にくれた。

間に合うだろうか? 死人が出る前に、俺の持っている情報でダンブルドアは犯人までに辿り着くだろうか……?

かつてした決心を思い出す。自分が疑われても、犯人捜索に協力をする。ダンブルドアを目の前にしてあっさりと崩れたその決心を、もう一度固めなくてはならない。今度はどんなことが目の前に来ても崩れないように、だ。

目を閉じながら、深呼吸をする。もう後には引けないのだ。

こうして名乗り出てしまったし、何より、ハーマイオニーと、パンジーまで石となった。そうなると、ドラコがかつての考えに戻るかもしれない。マグル生まれと慣れあうことはできない、と継承者への恐怖から深く思い込んで抜け出せなくなるかもしれない。そうなってしまえば、今まで保ってきた危ういバランスが直せないほどに壊れてしまう。以前にパンジーへした質問が、今度は俺に返ってくるわけだ。ドラコとハーマイオニー、どちらを選ぶかという。そんなこと、出来るならばしたくない。

それにそれ以前の問題として、継承者を何とかしなければ、名乗り出ようと出まいと、先に待っているのは同じような末路だ。ホグワーツが閉校になれば俺は行き場を失う。身寄りなどないに等しい俺を引き受けてくれる先があるのかは、きっと絶望的だろう。

結局どんなに考えても、いつも通りの日常を取り戻すには継承者を何とかする他ないのだ。ならば、覚悟を決めるのも容易い。選択肢が一つしかないなら、迷いなど生まれない。

決心ともいえる心持ちになった時、校長室の扉が開いた。入ってきたのはダンブルドアだけではなかった。何故か、マルフォイさんと知らない人が一人、一緒にいた。

 

「あの、校長先生……。実は、話したいことがあるのですが……」

 

そう言いながら、チラリとマルフォイさん達を見る。言外に二人きりになりたいことを含ませても、二人は動く気配がない。どうやら用事というのは終わっていないらしい。

 

「用事が終わってからで構いません。以前に言わなかったことを、お伝えしようと思ったので……。よろしければこの場で待っていたいのですが、邪魔でしたら、その、一旦外で待っています。時間が空いたらお呼びください」

 

そう言いながら席を立つ。しかし、退室しようとする俺をダンブルドアはやんわりと引き止めた。

 

「どうやら、時間が無いようでのう。校長を退かねばならなくなったのじゃ」

 

そして、衝撃的な事実を発する。一瞬、何を言っているのか理解が出来なかった。

 

「あ、貴方が? 校長の座を?」

 

「その通り。理事会からの要求じゃ」

 

穏やかに微笑みながら言うダンブルドアの神経が理解できない。どうしてこのような事態に笑ってこの場を去ることが出来るのだろうか?

 

「貴方がいなければ、誰がこの事態を収められるって言うんだ!?」

 

熱くなって食い付くと、返事は他から来た。

 

「エトウ君。これは我々理事会の決定事項だ。変更は出来ないのだよ」

 

穏やかに、キッパリとマルフォイさんが俺に向けて言った。それだけで、この人がダンブルドアの排除に一役買っていることが分かる。そして、それを覆すには自分では絶望的であることも。怒りと失望が沸々と湧き出てきた。

 

「何も本当に去るのではない」

 

ダンブルドアは心を見透かしたように、俺が何か言おうとするのを遮って話し始めた。

 

「儂が本当にこの学校を離れるのは、儂に忠実な者がここに一人もいなくなった時だけじゃ。ホグワーツで助けを求める者には、必ずそれが与えられる」

 

呆気にとられた俺に、相変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま告げる。

 

「覚えておくがよい」

 

それを聞いたマルフォイさんは何処か苦々しげな表情を隠しきれないまま、無理に笑ってダンブルドアに話しかける。

 

「貴方の立派な理念も、幾度と繰り返せば陳腐に聞こえますよ。ここは黙って指示に従うことをお勧めしましょう」

 

このままでは本当にいなくなってしまう。ダンブルドアの言葉も意味深だが、それを考えている暇はない。知っていることを告げて、現状を打破できるものを出さなくてはならない。

 

「秘密の部屋についてです、先生!」

 

焦った考えと共に出た言葉は、この場の空気を凍らせた。ダンブルドアを追い出そうと必死なマルフォイさんでさえ、固まってこちらを見た。明らかに、今から話そうとしていることに意識が向いている。

このまま押し切れば、あわよくば、状況をいっぺんに変えられるかもしれない。そんな淡い希望と共に一気に話を進める。

 

「先生なら、きっと……」

 

「それは君がやるべきことじゃ、ジン」

 

ダンブルドアに向けた淡い希望は、ダンブルドアによって壊された。

犯人を捕まえることが出来る。そう言おうとしたら、それを否定した。綺麗な青い目が、真っ直ぐに俺を見る。

 

「君が望むものは、君自身がやらねば手に入らん。誰でもなく、君自身がやらねばならんのじゃ」

 

それは、俺にスリザリンの継承者を倒せと言うことだろうか? 犯人すら分からない俺に、何ができると言うのだろう?

この人は、本当に何が言いたいのか……。怒りや驚きや焦りなどで麻痺した頭でボンヤリと考える。意味深な発言といい、もうしっかりと頭を回すことも難しかった。それでも、ダンブルドアの話は終わらなかった。

 

「儂が以前に言ったことを、覚えておるかね?」

 

医療室でも、似た質問を受けた。あの時は闇の素質についての話だと思っていたが、今になって思うと少し違っていた気がする。

否定も肯定もせず、ただ沈黙を決め込むとダンブルドアから切り出した。

 

「君は去年、立ち向かうべき敵の姿を、ハッキリと見たはずじゃ」

 

去年、夜の廊下で話したこと。自分が闇の素質を持つからこそ、色々と教えられた。他と違うことを自覚し、それに立ち向かう。その時にハッキリ見えた敵は、継承者などではなかった。

 

「後は君の問題じゃ。勇気を出して立ち向かえば、助けが来る。ホグワーツでは、求めればそれが与えられるのじゃよ」

 

穏やかにダンブルドアが言い切って、会話はそこまでとなった。

マルフォイさんのわざとらしい咳払いを合図に、今まで黙っていた白髪頭の割と年を食った男性が口を開いた。

 

「あー、ダンブルドア。君がペットの不死鳥に餌をやりたいと言ったから、我々はこうしてここにいる訳だが……。我々も暇ではない。餌をやるなら早くして、早々にここを立ち去らねば」

 

「おお、コーネリウス。分かっておる」

 

そう言うと、ダンブルドアは部屋にいた不死鳥へと近づき、懐から何かを取り出して与え始めた。不死鳥がその何かを食べ終えるのを黙ってジッと見る。なんだか、ダンブルドアと不死鳥が内緒話をしているようにも見えた。食べ終えたのか、ダンブルドアは不死鳥から離れると俺の方に軽く顔を向けた。

 

「さあ、今日はもう自分の寮へお帰り。ゆっくりと休むとよい。迎えにはマクゴナガル先生がいらっしゃるじゃろう」

 

優しくそう言うと、三人でゾロゾロと退出した。再び一人となった校長室で、大人しく椅子に座る。マクゴナガル先生が来るまで何もしようがなかった。

周りを眺めると、歴代校長の絵画が飾ってあり、全員が寝息を立てていた。そう言えば魔法界の絵は動くのだった。絵が寝ているという、改めて見れば奇妙な景色も今は頭の中に入らなかった。きっとこれから入ることも出来ないであろう校長室にいながら、同じように寝てしまおうかともさえ思った。

マクゴナガル先生が来たのは直ぐだった。どこか焦った様子から、ダンブルドアの話を耳にしたことが分かる。

 

「これからは、危ないことは一切できません。貴方も心してくださいね」

 

部屋に来るや否や、俺にそう釘を刺した。他意は無いのかもしれないが、俺にはこれからの行動の牽制に聞こえた。しかし、マクゴナガル先生はダンブルドアに俺が何を頼まれたのか恐らく知らないのだろう。知っていたら、もっとあからさまに俺に釘を刺していたはずだ。

マクゴナガル先生は真っ直ぐと俺を寮まで送り、今日は大人しく寝るように指示して自分は直ぐに別の場所へと移動していった。疲れていた俺も直ぐにベッドに入るつもりだったが、そうはいかなかった。寮の扉をくぐり、談話室を通るとドラコ達三人が待っていた。時計を見ても、十二時前。談話室には三人以外いない。表情からも、相当心配かけてしまったことが分かる。無下になどできるはずもない。

 

「……教えてくれ、君は何を知っていたんだ?」

 

ドラコが代表するように話し始めた。慎重に、疑り深い声だった。どう聞き出すか、相当三人で話し合ったのだろう。結果、率直な質問が一番となった様だ。

 

「俺が継承者に襲われた理由、そして恐らく、ハーマイオニーとパンジーが襲われた理由だ」

 

こちらも返事を率直に返す。返事を聞いた途端、三人は驚いた顔をした。しかし、ドラコは驚いた次の瞬間には怒りの表情を露にした。

 

「なんで僕達には何も教えてくれなかった! 君が教えてくれれば、きっと……」

 

その後は怒りで言葉が出なかったのか、それとも自重したのかは分からない。しかし、言いたいことなど手に取る様に分かってしまう。

 

「パンジーもハーマイオニーも、襲われなかったかもしれない。そう言いたいのか?」

 

「……ッ! ああ、そうだ!」

 

問い詰めると、一瞬の躊躇いの後にあっさりと答えを吐いた。後ろの二人を見ても、戸惑いの表情を浮かべているだけ。俺が何も言わなかったのは不思議なようだ。少しだけ湧いた虚しさと共に溜め息を吐く。

 

「俺が教えなかったのは、これを知ればお前らも襲われると思ったからだ」

 

俺の回答に、ドラコは固まる。ショックを受けたような表情だった。

 

「現にハーマイオニーは、多分俺が襲われた理由を知った。それで、今日になって襲われたんだろうって思った。だから名乗り出たんだ」

 

「……でも、何で今更?」

 

ダフネが聞きにくそうに質問した。確かにこれはあまり答えたくない質問だった。

 

「……俺が犯人じゃないかって、疑われるのが怖かった」

 

話すと、三人は今度こそ驚いて固まった。さっきの回答より、この言葉の方が三人を驚かせた様だった。

 

「貴方が犯人だって、疑う訳ないじゃない。私達だって疑ったことは無いし……」

 

「まあお前が名乗り出た時は、もしやとは思ったが……。あ、ああ、一瞬だ! 一瞬だけだって!」

 

ブレーズがボソッと言うと、すかさずダフネが睨みつけた。慌てて否定するブレーズを見て、少しだけ笑えてきた。心なしか、少し気が楽になった。

 

「きっとダンブルドアだって、貴方を疑ったりしないでしょう? 最初の事件の時は貴方をすぐ解放したし、何より、貴方自身が襲われているんですもの」

 

ダフネが気遣ったように話すが、その気遣いが痛かった。ダンブルドアも疑っていない、そのことに気付かなかった自分が情けなくなる。

 

「それに、もうダンブルドアには伝えたんだろ? だったらいいじゃねぇか! お前が知ってたことは、事件の核心を突けるもんなんだろ? 解決も時間の問題だ!」

 

先程の言葉を気にしてか、元気づけるようにブレーズが俺を鼓舞する。しかし、それはある種のトドメだ。

 

「手遅れだった」

 

「……へ?」

 

「ダンブルドアは学校を去る。理事会の決定だそうだ」

 

先程のことを言うと、ブレーズは呆けて動かなくなった。ダフネは慌てた様に俺に質問する。

 

「待って! それじゃあ、今はここにダンブルドアはいないの?」

 

「ああ。さっき出て行った。マクゴナガルが危険な事は何もするなって釘を打つんだ。間違いないだろう」

 

ワナワナと口を震わせるダフネだが、言葉がでないようだった。ドラコの方を見ると、顔を青くさせていた。

 

「……もしかしてなんだが、父上は、その場にいたのか?」

 

か細い声での質問だった。ドラコに意識を向けていなければ、きっと聞き逃していただろう。青い顔のドラコには、なるべく事実を伝えたくはなかった。しかし、隠していてもすぐにバレることだ。

 

「……ああ、その場にいた」

 

「なら、それは父上の決定だ」

 

細い声で、キッパリと断言する。それから、ドラコは警告するように俺達三人に言った。

 

「父上が何かをなさろうとしているのは明確だ。手を出さない方がいい。僕も散々、継承者には手を出すなと言われていたんだ。巻き込まれるかもしれない。……パンジーのように」

 

俺達三人は、ドラコの何処か切羽詰った様子に何も言えなかった。全員が黙ったまま、しばらく時間だけが過ぎた。

 

「もう寝ましょう。もう、これ以上話すこともないでしょう? ジンが校長室から無事に返ってきた。それでいいじゃない。明日になれば、先生から何か報告があるもの。何か話すんだったら、それを聞いてからにしましょうよ」

 

ダフネが時計を見ながら言った。もう本当に遅い時間だった。誰も否定の声も上げず、それぞれ挨拶をしてから自室に戻った。

ドラコと俺は部屋に入ると、直ぐに寝る準備をした。寝巻に着替えて、ベッドに潜り込む。直ぐに眠りに落ちると思ったが、そうでもなかった。

 

「なあ、ジン」

 

暗闇の中、ドラコの声がした。

 

「なんだ?」

 

返事をすると、垂れ幕越しに向こうでモゾモゾと動いているのが分かった。

 

「……パンジーが襲われたのは、あのグレンジャーといたからなのだろうか?」

 

その言葉に、ヒヤリとしたものを感じた。一番心配していたことが、まさに現実となって身に降りかかりそうだった。

 

「そうだろうな。でも、ハーマイオニーが襲われたのだって、マグル生まれだからって訳じゃないだろう。知っちゃいけないことを、知っちまったんだ。俺が襲われたのと同じように」

 

「でも、君は石になっていない」

 

俺の言い訳じみた言葉もあっさりと切り捨てた。

 

「君が襲われてから、ずっと考えていた」

 

長くなるであろうドラコの独白を、止める気にはならなかった。今のドラコの本音は、眠気なんて吹っ飛ぶほど聞きたくてたまらなかった。

 

「やはり僕は、僕達は、スリザリンの教えを反するのはどうかと思う。君の考えは立派さ。今まで教えられてきたどんなことより、現実味を帯びていて、真剣で、将来が見えたって思えた。でも、それは逃げなんじゃないかって、思う様になったんだ。答えの難しい問いに、妥協で出した答えなんじゃないかって。……君を侮辱するつもりはない。でも、君の考えに従った結果があれさ。パンジーは石になった。父上に従っていればどうなったかって、そのことも考えたんだ。きっと、パンジーは石になっていない。君も、襲われていなかったんじゃないか? 純血なんだ、僕らは。なら、それにふさわしい考えを主張するのがその摂理だと思わないかい? 理想を語った結果はどうだい? 君は襲われた。君は間違っていると思う」

 

悩んだ末の答えだろう。何処か揺るぎ無い、決意の様なものを言葉の節々で感じた。しかし、だからこそ否定したかった。これを肯定してしまえば、ハーマイオニーとドラコは一生分かり合えない。あの選択は、したくなかった。

 

「なあ、お前がそう思うのは、継承者が現れたからか?」

 

確認するように問う。ドラコはしばらくの沈黙の後に答えた。

 

「ああ、そうさ。継承者が、僕に教えてくれた」

 

「教えてくれた、ねぇ……」

 

ドラコの言葉を考える。継承者さえいなければ。そんな思いが強くなる。

 

「じゃあ、継承者がいても、俺が襲われなくてパンジーが石にならずに済んだら、お前はその考えに至ったのか?」

 

俺の質問に、グッと息詰まった様な声を漏らしたが、返事はすぐに返ってきた。

 

「仮定の話をしてもしょうがないだろう? 君は襲われた。それを受け止めるべきだ。それが継承者からの教えじゃないか」

 

「継承者は、お前に何を教えてくれたんだ?」

 

「言っただろう!」

 

ドラコの声は段々と過激になってきた。

 

「マグル生まれの追放を、穢れた血の追放を、否定してはいけないことだ。その末路が、パンジーだってことをだ!」

 

「そんなもん、脅しと変わらない。逆らえば石にするぞって、言われたのと変わらない。教えでもなんでもない」

 

ドラコの言葉を真っ向から否定する。どうしても、ドラコの口から言わせたい言葉ができた。ドラコは少し面食らったのか、勢いがなくなった。そんなドラコに畳み掛けるように質問する。

 

「考えてみてくれ」

 

「……何をだい?」

 

「継承者がいなくて、マグル生まれの追放に反対しても誰も石にならない、殺されない。そんな中でも、お前は今みたいに考えを翻したか? 声高に俺にマグル生まれの追放を推して、考えを否定したか?」

 

ドラコはしばらく黙りこんだ。考えてくれているのだろう。もしかしたら、と。継承者がいなければ、と。自分の本当の考えは何なのか、見つめなおしてくれている。

 

「……僕は」

 

答えが出たようだった。震えた声で、沈黙を破った。

 

「君の考えを、否定なんてしなかっただろう。出来るなら、君と理想を目指すのも悪くないって、思っていたんだ」

 

勝った。思わず拳を握る。ドラコが考えを変えたのは、継承者への恐怖からだ。それをドラコの口から聞けた瞬間、ダンブルドアが俺に言った言葉の意味が一つだけ分かった。

俺は証明しなければならない。継承者にあらがっても、石化しない。自由に意見を述べても、咎める者はいない。継承者をぶちのめして、自分自身でそれを証明しなければならない。

考えを曲げない。曲げたくはなかった。マグル生まれの追放を声高に反対し、その上で継承者を倒す。ドラコを継承者の、純血主義の恐怖から解き放つにはそれ以上に効果のあることは無いだろう。

 

「なら良いんだ。それが聞ければ、俺は満足だ」

 

話を終わらせた。ドラコもこれ以上、何も言わなかった。何を言っても無駄だと、思ったのかもしれない。それでもいい。それが正しいのだ。

決意は固まった。きっと、この決意は崩れない。自分の理想のためにも、俺は継承者に抗おう。

 




秘密の部屋完結まであと三、四話といったところでしょうか?(何度目かの終わる終わる詐欺)

以前はこの辺で番外編を書いたのですが、今回はどうしましょう……
本編を進めようと思いつつ、日常編をあまり描写できていないので、書こうか迷っています。

活動報告にその旨を書くんで、よかったらご意見ください。

感想、評価などお待ちしております

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