日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

31 / 87
やっと投稿できました。
待ってくださった方々、ありがとうございます


討議討論

ジニーは人気のない廊下を慎重に歩く。そして目的地であるマートルのトイレに着くと素早く個室に潜り込んだ。ポケットから震える手で日記を取り出すと、それを目の前のトイレへと投げ込み迷わず流す。その一連の動作を終えると、来た時と同じように慎重に来た道を帰る。

ジニーが日記を捨てようと決意したのは、ジンを襲って日記を取り返して割とすぐ後のことだ。二人、と言っても一人はゴーストだが、の犠牲者が出た時も今までのように記憶が無く、気が付けば知らない場所に立っていた。その場にいたはずの、日記であるトムに自分は何をしていたかを問いただしたが明確な答えは返ってこなかった。それどころか話をはぐらかしている様にすら思う。ジニーの意識が無い時は、いつも日記に何かを書き込んでいる時だった。何か知っていてもおかしくないのに、答えはいつも知らないの一点張りだった。日記を疑い始めた理由はこれだけではない。日記を手にしてから、学校に来てからずっと感じていた疲労感が蘇ったのだ。ジンが日記を手にしてから感じていた不安とは違い、力が抜けるような感覚がジニーを襲った。その脱力感はどうも安心からくるものとは違い、時間と共に否応なしにジニーを衰弱させていった。

日に日に痩せて、目の下にも隈ができた自分を心配する兄弟たちを見て、ふと父の言葉を思い出したのが決定打だった。

『脳みそが何処にあるか分からない物には気をつけなさい。闇の魔術がかかっているかもしれないからね』

それからは日記を手にしていることが、そして感じる疲労感が怖くて耐えられなくなった。日記が本当に闇の魔術がかかった物かどうかなんて、ジニーには判断のしようがなかった。かと言って、自分の秘密を詰め込んだ日記を誰かの手に渡すなんて考えたくもない。しかし、跡形もなく消してしまおうという考えは直ぐに消え去った。日記はどんな刃物でも貫けなかったし、暖炉の中に放り込んでも焦げ目一つさえつかなかったのだ。トイレに流すのだって、苦渋の選択だった。誰かに見つかれば、何と言っていいのか分からないし考える余裕もない。

しかし、全てを終えたジニーの気分は少しずつ晴れていった。グリフィンドールの寮に戻った頃には、安心感と共に肩の荷が下りたような解放感すら感じていた。もう日記には誰も手が出せまい。水道管を流れ、それこそ日の光すら浴びない様な場所に流れ着いているはずだ。そう考えると、安心感からか久しぶりに食欲が湧いてきた。もう夕食が終わってしまった時間だけれど、フレッドかジョージなら何か食べ物を持っているかもしれない。そう思い、何か食べるものが無いか尋ねてみることにした。自分から誰かに話しかけるのも、本当に久しぶりだ。

 

「ねえ、フレッド、ジョージ……」

 

何度も心配してくれた二人を無意識とはいえ無下に扱ってきたのだ。声をかけるのが少し躊躇われた。しかし、二人はそんなジニーの心配を吹き飛ばす様に、手に持っていた新作の悪戯グッズであろうものを机に投げ出して嬉しそうにジニーに笑いかけた。

 

「どうした、ジニー? 俺達に頼みごとか?」

 

「それとも、やっと相談する気になったのか? 何でもいいから話してみろよ。何でもするぜ?」

 

「ううん、大したことじゃないんだけど……」

 

今も変わらず親身になってくれる二人に、罪悪感に似たようなものを抱きつつお願いする。

 

「何か、食べるもの持ってない? その、お腹すいちゃって……」

 

二人は一瞬、呆気にとられたようだったが直ぐに大笑いすると立ち上がって、演技かかった口調で会話を始めた。

 

「何たることだ! 今日は記念日だぞ! 骸骨以外、何を目標にしているのか思い浮かばなかった妹のダイエットが幕を閉じたのだ!」

 

「そして、太るのも気にせずお夜食をお求めになられた! ああ、妹は気付いたのだ! 愛しの彼が、食べるなら骨より肉が好みだと!」

 

笑いあう二人に思わず赤面し言い返そうとするが、いきなりフレッドに頭を撫でられて完全にタイミングを失ってしまった。

 

「まあとにかく、食欲が戻ってよかったよ。最近、まともに食事をしてなかっただろ?」

 

声色から、本気で心配していたことが分かり口をつぐむ。言われてみれば、何かを食べた記憶がほとんどない。いつ倒れてもおかしくなかった。

 

「ちょっと待っていろよ。直ぐにご馳走を持ってくるからな」

 

ジョージはそう言うと、走って外へ行ってしまった。その間、フレッドが悪戯グッズの説明をしくれた。ここ最近の開発は謎の協力者のお蔭で随分と進んだのだと楽しげに教えてくれた。謎の協力者については教えてくれなかった。何でも物凄い恥ずかしがり屋で自分の正体は誰にも教えないでと頼まれたらしい。そんなことをふざけながら話していると、ジョージがパンやらチキンやらローストビーフやらが入った鍋を両手で抱えて持ってきた。こんなに食べ切れない、というと俺達も食べるからと言い張り三人でちょっとしたパーティーになった。パンに目一杯の肉を挟み頬張る。久しぶりに美味しい物を食べたお蔭か、思わず涙が出そうになる。

そして例のごとく、フレッドとジョージが騒いでいる所にパーシーが注意をしに来た。本当は三人で食べている物をどこから調達してきたのか尋問したくて堪らないような顔をしていたが、ジニーがパンを頬張っているのを見ると、直ぐにその勢いはなくなった。

 

「ああ、まあ、規則に違反していないなら、ウン、何も問題はない。二人とも、何もしていないよな?」

 

「当たり前だろ、パース?」

 

「俺達の日ごろの行いを見てないのか?」

 

パーシーは二人を無視して、ジニーを軽く撫でると何処かへ行ってしまった。自分がどれだけ周りに心配をかけていたか、この数分で嫌というほど伝わった。鍋の中身をあっという間に食べ終えると、二人に感謝の意を込めて抱きつき、お休みと挨拶をする。二人も抱き返してくれて、同じようにお休みと返してくれる。それから自室に戻ると、直ぐに眠りについた。入学前からずっと待ち望んでいた生活へ、一歩近づいた気がした。学校に来て初めて朝が来るのが待ち遠しいと思えたのだ。

ジニーは知らない。日記が今、一番渡したくない人の手にあることを。

 

 

 

 

 

パンジーが、ハーマイオニーがいないと騒ぎ始めた。クリスマス休暇が終わって自宅に帰っていた奴らが戻ってきて直ぐのことだった。魔法薬学の授業を休んでいたので体調不良かと思っていたらどうやら医務室にいるとのこと。聞いた時はまさかハーマイオニーまで石になったのかと焦ったものだが、何やら実験で怪我をしただけらしい。

 

「どうせ今回も裏でポッターが関わっているんでしょ? アイツがでしゃばるからハーミーにまで危険が及ぶのよ! そんなことも分かってないのかしら?」

 

談話室で珍しくパンジーと二人になった時、ハーマイオニーについての報告をしたらこう言ってきた。納得がいかない、と表情にまで出ている。確かにパンジーの考えが当たっている可能性は無視できないが、それはハーマイオニーが石化した時のみだ。あくまで医務室で治る程度の負傷なら、自己責任の可能性が高いだろう。今回の事件に巻き込まれたなら、石化してしまうのだから。

そう思いパンジーの意見に否定もせず賛同もせず、ただ聞き流していたら矛先がこちらに向いた。

 

「言っとくけど、あんたも容疑者なんだからね」

 

「何のだよ……」

 

「ハーミーを巻き込んだ犯人のよ!」

 

一体いつハーマイオニーが巻き込まれたのか、何に巻き込まれたのか、そもそも犯人とはなんなのか。疑問は山ほどあるが、暴走したパンジーに質問も追及も尋問も意味を成さないのは了承している。なるべく穏やかに会話を済ませるのが最善なのだ。

 

「俺は何もしてないぞ」

 

「嘘ばっかり! 去年のことをもう忘れたの?」

 

「去年?」

 

話が見えない方向へ飛んで行った。聞き返すと、ますます機嫌を悪くして食い付いてきた。

 

「賢者の石とかいう変な物のことよ! ハーミーが例のあの人に逆らうのを手伝ったんでしょ?」

 

そう言えばそうだった。パンジー達には内緒で、ハーマイオニーに協力をしていた。しかし、どちらかと言えばあれは俺も巻き込まれたものだ。どうやらパンジーの記憶の中で都合のいい改変が行われている様だった。

 

「前回だって、ハーミーを危険にさらしたくせに。あんたは今回も守れないってわけ?」

 

「まあ、守る以前に俺が襲われてるしなぁ……」

 

苦笑いと共に返事をするが、フッと疑問がわいた。パンジーは継承者についてどう思っているのだろうか?

話をするに、継承者については否定的に聞こえる。しかし、それでいてドラコが継承者に賛同的なのに反発や不満があるようには見えない。しかもブレーズやダフネのように継承者への不安を聞いた覚えもない。

 

「なあパンジー。お前はこの事件についてどう思ってるんだ?」

 

「はぁ? 何よいきなり」

 

「継承者について、どう思う?」

 

少し真面目な声色で聞くと、パンジーは呆けた顔をした後にそのまま答えた。

 

「……別に、どうでもいいと思ってるけど?」

 

肩すかしを食らった気分だった。あれだけハーマイオニーにべったりの割には、淡白な答えだ。

 

「ハーマイオニーも、マグル生まれだろう? そうなるとスリザリンの継承者に狙われていることになるんだが……」

 

「ああ、そのこと?」

 

パンジーは、まるでお前はこんな簡単な問題も解けないのかと馬鹿にするような目でこちらを見てきた。

 

「私達と一緒にいればそんなのどうってことないでしょ? 私達は純血よ? 襲われる訳がないじゃない」

 

単純だと言わんばかりの態度に思わず頭痛を覚える。

 

「あのなぁ……。そういう問題じゃねぇよ。現に、俺は襲われてるだろ」

 

「そんなの、あんたが悪いんでしょ? 知らない所で何か気に障る様なことでもしたんじゃない?」

 

確かに日記のことを考えると反論はできない。しかし、だからと言ってハーマイオニーにべったりのパンジーが襲われない理由にはならない。話の通じないことに若干の苛立ちを覚える。

 

「簡単に言うぞ? ハーマイオニーといることはスリザリンの継承者に反することだし、それは今のドラコに異を唱えるのと同じだ。逆に、ドラコが正しいというならハーマイオニーが襲われても文句は言えない。選択を迫られたら、お前はどっちを選ぶんだ?」

 

パンジーは質問に対し、唖然とした表情を見せる。やはり話が分かっていなかったのかと溜め息を吐きつつ、答えを待つ。しかし、パンジーの答えはすぐに返ってきた。

 

「言ってる意味が分かんない。何でハーミーとドラコの両方と一緒にいちゃいけないの?」

 

ここまで来ると、苛立ちを通り越して呆れる。

 

「あのな……。継承者がいれば、無理だって」

 

「何が? そりゃあ、ドラコはハーミーがあんまり好きじゃないけど、何も追い出そうだなんて考えていないわよ」

 

「ドラコはな。けど、スリザリンの継承者は違うだろ?」

 

「それが何? 私達は会ったことが無いどころか顔も知らないのよ? ドラコにもハーミーにも関係ないじゃない」

 

返事に詰まった。確かに、顔も知らなければ名前も知らない人間に振り回されているのが現状だ。それを真っ向から認識させられた。そんな俺に構わず、パンジーはなおも話を続けていく。

 

「さっきから話を聞いてれば、訳の分からないことでピーピー騒いで。何を考えてるのよ? ハーミーが危ないんなら守ればいいじゃない! それだけでしょ?」

 

そう、現状の解決法など簡単に思いつく。スリザリンの継承者をぶちのめして、ドラコを説得して、ハーマイオニーと仲良くやっていればいい。そうすれば、スリザリンの継承者がいなくなったドラコは一つの呪縛から放たれるし、ハーマイオニーと上手くやってればその内ドラコも感化される。ドラコ自身は、既に追放なんて考えていないのだから。要はドラコがまた以前の様な考えを持たないようにすればよいのだ。

尤も、それが到底出来るようなものではないから困っているのだが。しかし、最善な状況とは何かと問われれば間違いなくパンジーの意見が通るだろう。

何も返せない俺にパンジーは勝ち誇った顔をして言い放つ。

 

「大丈夫! あなたの言いたいことも、十分に分かったから。あなたはこう言いたいんでしょう?」

 

「……言ってみろ」

 

確実に伝わっていない。そんな確信と共に問い返す。

 

「詰まる所、あなたはハーミーが心配なのよね? 分かるわよ、ええ。無様にノックアウトされた自分じゃ、守れないものね。ああ、頼りないわぁ」

 

ニヨニヨと嫌らしい笑みを浮かべながら煽ってくる。しかも言っていることが当たらずとも遠からずなのが凄く苛立つ。少し睨むと、ますます笑みを深くする。

 

「なぁに? 言いたいことがあるなら、どうぞ? いくらでも聞いてあげるわ」

 

「……別に。ただ、お前が純血主義者じゃないことに驚いただけだ。あれだけドラコにくっついてたんだ。お前もマグル追放に賛成かと思ってたからな」

 

継承者云々の話から少し遠ざける。少なくとも、パンジーがハーマイオニーを避けることが無いと分かっただけで十分な情報だった。

 

「何を言ってるの? 私はドラコと同じ純血主義者よ?」

 

ホッと安心している俺に、爆弾を投下してきた。いよいよ、コイツが何を言っているか分からなくなってきた。

 

「お前が何を言ってるんだ。継承者からハーマイオニーを守るんだろ?」

 

さっきから矛盾ばっかりが出てくる。ハーマイオニーを贔屓するかと思えば、ドラコのことも贔屓をする。守ると言えば、追放に賛同だとも言う。こいつは何を考えているのだろうか?

 

「ええ。だから、純血主義者の私がいれば、ハーミーは安全でしょ?」

 

ここに来て、ようやくことの真意をつかんだ。

パンジーは、目の前の馬鹿は、純血主義も継承者も何もわかっていないのだ。要は自分の都合のいい物だけを並べて、それ以外には目を向けない。ハーマイオニーとも一緒にいたいし、ドラコとも一緒にいたい。純血主義も、継承者も、パンジーの中では何の意味もない。ただ自分の好きな相手といられるようにと、好きなように捻じ曲げられる都合のいい理屈でしかない。

 

「……なあ、もしマグル生まれの追放が唱えられて、ハーマイオニーがどこかに行かなきゃならないとしたら、お前はどうするよ?」

 

試しに聞いてみた。何を馬鹿な事を、という態度を崩すことなくパンジーは即答する。

 

「私達がいれば、追放なんてされないでしょ? 私達が純血主義者なんだから!」

 

もはやそれは純血主義者ではない。しかし、そんな考え方があったかとどこか思い知らされる気分だった。純血主義とか、マグル生まれとか、そんなもの関係なしに仲良くできる。自分がどうするべきかではなく、どうしたいかを第一優先。今まで聞いた考えの中で、それこそ好きなように振る舞うと言っていたブレーズなんかより、身勝手だけど自由で縛られない、真っ直ぐな考えだった。もしかしたら、どんな状況でもハーマイオニーを味方だと言い張れるのは俺なんかじゃなくてパンジーなのかもしれない。今までパンジーの馬鹿さ加減には頭を痛めていたが、馬鹿ゆえの考えというのも中々捨てたものではないと思った。

 

「ハーミーが危険だって言うなら、私が会いに行くのがいいわね! 私がいれば襲われないし、ハーミーも嬉しいし、一石二鳥ね!」

 

そう浮かれるパンジーは、何というか、ある種の魅力があった。

 

「羨ましいな、お前」

 

「さっきから何? あんただってハーミーと仲良いじゃない?」

 

相変わらずポイントがどこかずれている。けれど、これだけ身勝手なコイツは自分のやりたいことを見失うことなどないのだろう。対して俺は、自分から色んなものに縛られにいっている。本当に羨ましい。

 

「いや、何というか……。初めてお前が魅力的に見えた」

 

褒め言葉のつもりでそう言ってやる。するとパンジーはまるで寒気がしたかのように身を震わせ、両手でしっかりと体を抱きかかえて少し俺から身を引いた。

 

「気持ち悪い……。言っとくけど、私にはドラコがいるし、あんたは私にとって付き合うのはNGな人間よ? 爺くさいし、考えてること訳わかんないし」

 

「……もういい。何でもない」

 

俺がパンジーを心から見直す日は、きっと永久に来ないように思えた。

 

 

 

それから数週間、何事もない新学期を送ることが出来た。継承者はなりを潜め、日に日に生徒たちは表情を明るくさせて行った。典型的な人間はロックハートだった。まるで自分が事件を解決したかのような振る舞いで、今の学校に足りないものは警戒ではなく生徒を明るくさせるイベントだと言い張り始めた。

そんなロックハートの思惑を知ったのは、二月十四日、バレンタインの朝だった。いつも通り朝食を取るために大広間へと向かうと、そこはもはや別の空間となっていた。

壁一面は目に優しくないピンク色で覆われていて、あたり一面に色鮮やかな紙吹雪が飛んでいる。それも全てがハート型。一緒に入ってきたドラコは顔をしかめてウザったそうにロックハートを睨み、ブレーズは笑いと呆れが同時に半分ずつ来たような顔をしていた。席に座り、何とか朝食を取ろうとする。後から来たパンジーとダフネも、大体の反応が周りと同じで呆然としていた。

 

「これ、どういうこと?」

 

パンジーが呟くと、俺達三人は無言でロックハートを指さした。本人は自慢げにこの惨状を解説している所だった。

 

「バレンタイン、おめでとう! そうです、私が皆さんを驚かせようと計画させていただいたのです! しかも、これだけではありませんよ!」

 

長々と、しかも他の先生も巻き込んでバレンタインの雰囲気で学校を染め上げようという恐ろしい計画を話し始めた。しかもわざわざキューピッドの格好をさせた小人達を連れて、他人のバレンタインカードをばら撒くというのだ。

 

「パンジー、バレンタインカードをドラコに渡すなら手渡しにしろ。もし小人の手に渡ったら、訪れるのは破局だ」

 

ブレーズが面白半分で、真面目な声色をしてパンジーを脅しにかかった。パンジーは顔を真っ青にしてポケットを両手で押さえるとブンブンと首を縦に振った。カードは持っているらしい。

キューピッド達は授業中だろうと構わず目的の人物を見つけると、捕まえてバレンタインの手紙を読みはじめた。不幸なことに捕まってしまった生徒は公衆の面前で愛の歌を叫ばれるのだ。皆が小人から逃げるようになった。こうして午後の授業に差し掛かる頃、廊下で新たな犠牲者が出た。

 

「オー、アリー・ポッター! あなたにです」

 

ポッターという名が聞こえたら、ドラコが脊髄反射でそこに向かうのはもはやお約束。声がする方へと向かうと、丁度、小人が抵抗するポッターを取り押さえて無理やり歌を聞かせている所だった。歌を聴くなり、その場にいた全員が爆笑し、涙を浮かべている者さえいた。

 

「恐らく、あそこにいるウィーズリーの妹の歌だな。いい気味だぜ」

 

ブレーズが面白そうに指をさしながら呟いた。指を差された方向には、確かに顔を真っ赤にして俯くウィーズリー妹がいた。嘲笑うブレーズの様子から、列車でのことをまだ気にしているだろうことが分かる。ウィーズリー妹も勇気を出して書いたバレンタインカードがこんなことになるとは夢にも思っていなかったのだろう。その光景の可笑しさに少し笑いつつ、散らばったポッターの荷物を見て思考が停止した。

明らかに、見覚えのあるものが一つ混じっていた。恐る恐るそれに近づき、拾い上げると思った通りの物だった。トム・リドルの日記。何故ポッターが持っているのだろうか?

 

「それを返してくれ。僕のなんだ」

 

顔を上げるといつの間にか小人から解放され、こちらに手を伸ばしているポッターがいた。そう言えば、ポッターにはパーセルマウスでスリザリンの継承者だという噂が流れている。本当にコイツが犯人なのだろうか? それとも、俺と同じように偶然にこの日記を拾ったんだろうか?

鎌をかけよう。咄嗟にそう思って、少し大きめの声で話す。

 

「T・M・リドルって書いてあるけど、本当にお前のなのか? 拾ったんだろ?」

 

そう聞くと、ポッターは動揺した様子を見せた。そして日記を取るかどうか迷うような素振りを見せ、手を下した。それから俺の顔をジッと見る。それだけで十分だった。

コイツは白。多分、拾っただけ。

少なくとも、日記を取り返すために人を襲うような奴がこんな質問で動揺して取り返すのを止める訳がない。古道具で買っただの何だのいくらでも理由がつけられる。それにポッターの顔を見れば、何となくわかる。襲ってでも取り返そうという様な激しい気持ちではなく、どこか不思議そうに、そして疑わしげにしている顔だった。恐らく、どうして拾い物だと分かったのかが疑問なのだろう。

ポッターが白だと分かった瞬間、周りに素早く目を向ける。日記を見て、奪おうと目を光らせるような奴を探してみる。しかし、誰も日記に注意を向けている奴はいない。皆が日記ではなく俺とポッターのやり取りに目を向けている。

 

「おい、君もさっさと教室に戻りたまえ」

 

その場にいた監督生に注意される。時間がないが、ここで俺に一つの選択が生まれた。ポッターにそれとなく言って、これをポッターの手で先生の元へ届けさせること。もしこれが成功したら、俺は疑われることなく、事件は解決へと向かわせることが出来るかもしれない。やってみる価値はある。周りが聞く分に不自然でない会話で、ポッターが日記の特異性に気づかせて、真っ先に俺の言ったことが理解できるような言葉。必死に頭を回転させて捻り出す。

 

「もし拾い物なら、そうだな、ダンブルドア先生に届けるのをお勧めするよ。落し物の管理ぐらい、やってくれるだろうさ」

 

日記をゆっくりと差し出しつつ、まだ考える。これでは足りない。もっと、核心を突いた言葉で言わなくては。戸惑いつつ日記を受け取ろうとするポッターにさらに言葉をかける。

 

「中身が白紙なら使ってみろよ。書いて分かることもあるだろうし。ああ、誰かが使った物だって分かったらすぐに先生に届けろよ? 窃盗になっちまうからな」

 

ポッターは俺の顔をジッと見ながら一歩踏み出し、とうとう日記を掴んだ。あと少し、もう少しだけ。

 

「他人の記憶が封じ込められているなら、しかるべき場所に渡すべきだと思わないか?」

 

これが限界。日記を受け取ったポッターが不思議そうにこちらを見る。もし継承者がここにいるなら、恐らくポッターも危ないだろう。ポッターにだけ聞こえるように、口早に小声で囁く。

 

「襲われない様に気を付けろよ」

 

ギョッとした目でこちらを見るポッターに対して、最後に皮肉を交ぜた言葉を浴びせる。

 

「お前が日記を渡したら、先生も喜ぶぜ? やっと自白してくれたのかって。安全なホグワーツが帰ってくるってな」

 

そこでスリザリンの先輩が何人か笑い始める。念のための予防線。しかしこれも、日記の特異性に気がつけば意味を分かってくれるだろう。

ここで皮肉の一つでも言わなかったら、不審がる奴も出てくる。事実、俺が何を言ってるんだとヒソヒソと相談し始めている奴がいた。スリザリンとグリフィンドールが何もなく会話をするなんて、周りからしたら不自然極まりない光景。この場にハーマイオニーがいればもっと楽だったのだが……。ハーマイオニーと俺の仲が良いのは一部の人は既に知っている。しかし、ポッターとなれば話は別だ。ポッターとスリザリンが犬猿の仲なのは、もはや学校の共通認識と言っていい。ただでさえ俺は意味深ギリギリな発言をしているのだ。不信と思われる点は一つでも多く潰しておくべきだ。

やるべきことを終えて、ドラコ達と一緒にその場を離れる。そこで緊張が解けてドッと汗が噴き出てきた。今になって思うと、随分と無謀な賭けに出たものだ。それも、自分の尻拭いを他人に押し付けるために。

 

「珍しいな、お前があんなこと言うなんてよ」

 

流石にいつも一緒にいるドラコ達には不審がられていた。ブレーズが俺にそう聞いてきた。

 

「深い意味は無いさ。あの日記がポッターの物とは思えなかったからな。皮肉はまあ、周りの視線が痛かったからつい口に出ただけだ」

 

そう弁解すると、あっそう、とあっさりした答えが返ってきた。それよりもポッターに送られた歌の方が気になっているのだろう。ブレーズがウィーズリー妹役、ドラコがポッター役で寸劇の様なものをして周りを笑わせていた。それを横目に、日記のことを思う。どうか無事にダンブルドアにでも届けて欲しい。

 

 

 

 

 

その日の夜、インクを被ったはずなのに以前と変わらない姿の日記に不審を抱いたハリーは日記の特異性に気がついた。トム・リドルと話して、記憶を見せてもらった。そして、ロンとハーマイオニーを集めて話し合いが行われている。

 

「犯人はハグリッドだったんだ。五十年前に扉を開いたのはハグリッドだったんだよ!」

 

見たばかりの記憶を話しながらハリーは推測を重ねていく。ジンの言わんとしていることにも薄々ながら勘付いていた。

 

「エトウは知ってたんだよ! この日記に何が書かれているか。だから僕に言ったんだ。日記の中を見て、誰かの記憶を『封じ込めている』なら、先生に渡すべきだって!」

 

「でも、エトウは何で知っていたんだい? 知ってたなら、どうしてそのことを先生に報告したりしないんだ?」

 

ロンの疑問に、ハリーは頭の中を整理しながら答えていく。

 

「きっと、僕と同じように、以前にこの日記を拾ったんだ……。だから、僕が拾ったっていうのも直ぐに分かったんだ。先生に報告しなかったのは……」

 

「実物が、手元になかったから」

 

ハリーの後を、ハーマイオニーが請け負って話し始める。

 

「記憶を物に封じ込めるなんて、とても普通の学生にはできない技術よ! そんな物が学校に存在するって、実物もなしに言ったって誰も信じるはずがないじゃない。しかも、内容が内容よ。下手すれば、ジンがハグリッドを貶めようとしてるとしか思えないわ」

 

ロンは話を聞きながらも、どこか納得のいかない様子だった。

 

「その日記が、エトウの作り物っていう可能性は? 自分の罪を、ハグリッドになすりつけるための」

 

ロンのジンに対する疑いはなおも続いている。確かに三人の手元にはジンが白だと考えられるだけの情報はあった。しかし、だからと言ってジンが信用できる証拠があるかと言えばそれは依然とハーマイオニーの証言以外にめぼしいものなどなかった。

 

「でも、この日記が事実だとしたら辻褄が合う。ハグリッドがホグワーツを追放されたっていうのは僕達も知っているし、トム・リドルが表彰されている証拠は君自身が見つけたはずだよ。それにあの時のエトウの表情も少しおかしかった。上手く言えないけど、僕に何かを伝えようと必死だったんだ……」

 

少し事実とズレながらも、ハリーにとっては納得のいく考えだった。

 

「オーケー、分かった。この際だからハッキリとさせよう。エトウは信用できるかどうかだ」

 

ロンの提示した問題は、三人の中でたびたび話題になることだった。ホグワーツに来る前からの友人であり信用できるというハーマイオニーと、スリザリンであるということで受け入れられないロン、二人の間で揺れ続けるハリーの全員が意見を一致させたことは無い。一年生の時の賢者の石の騒動だって、スネイプの監視にジンを付けたのはほとんどハーマイオニーの独断だった。比較的中立であるハリーですら、これには文句を言われても仕方がないことだと思っている。ハリーとロンの二人はジンとまともに会話をしたことが無いし、いつもドラコが傍らにいるため印象は良いとは言えない。

 

「スリザリン生で、マルフォイの親友、純血主義者の優等生の何処が信用できるってことになるんだい?」

 

ロンの言葉にハーマイオニーが反論するのも、この話をする度に見る光景である。

 

「あなたは勉強ができる人が嫌いなだけでしょ? 何度言ったら分かるのよ。ジンは少なくとも、血で人を差別するような人じゃないわ」

 

「そんな人間が穢れた血って言葉を使うものか」

 

クィディッチ競技場でのやり取りを引き合いに出すのもお約束。ロンの頭の中にはそれが強く残っている。躊躇いもなく穢れた血という言葉を使うドラコと、それを悪びれた様子もなく擁護するジン。どうしても、ハーマイオニーの言っているように血で人を差別しない人間のやることには見えないのだ。

 

「でも私には親切だし、ネビルとハグリッドだって彼の友達じゃない。他にそんな人いる?」

 

「さあ? でも、もしかしたらアイツは仲が良い振りをして君を利用しようと思っているのかもしれないよ」

 

ポリジュース薬を使って潜入した時に聞いた会話。それはハリーにも勿論、ロンにはあまりに衝撃的だった。ハリーですら、たまに勘違いか何かだったのではと疑ってしまうこともある程だ。

そんなロンが唯一ハッキリと事実と言えるのは、ドラコが言っていた、ジンがマグル生まれを利用するべきだと主張しているということだった。それにすがって、ロンは今まで通りの考えを何とか貫き通している。そんなロンにハーマイオニーは苛立ちが隠せなかった。

 

「言っておきますけど、あの人は次席ですからね! あなたと違って、私に頼ることなんてほとんどないわ。あなたはジンの何が気に入らないのよ!」

 

「何がって、アイツはスリザリンじゃないか! 信用なんて、出来る訳ないだろ!」

 

「あなたの方が、よっぽど差別してるじゃない!」

 

強烈な反撃に、ロンは言葉に詰まった。いつもならこんな事態になる前にハリーが仲介役となるのだが白黒つけようと言った手前、ハリーは割り込むかどうか躊躇われた。

 

「……ああ、分かったよ。君は分かってないんだ」

 

ようやく絞り出す様に言ったロンの言葉は、ハーマイオニーを満足させる物では無かった。

 

「私が何を分かってないっていうのよ!」

 

より熱くなるハーマイオニーに対し、ロンは何処か達観した様子を見せていた。

 

「例のあの人と、その仲間が何をしてきたかをさ……。実際の傷跡なんて、見たことないんだ」

 

「貴方は見たことあるって言うの?」

 

「ああ、あるさ。僕がまだ、多分六歳ぐらいの頃さ。未だによく覚えている」

 

今までにないロンのハッキリとした主張に気圧され、ハーマイオニーも口を閉じて耳を傾ける。ようやく落ち着いた雰囲気に、ハリーもホッとしながらロンの話しを聞いた。

 

「ある日、パパが突然僕達を連れて何処かへ行くって言ったんだ。ほら、僕の家って、その、貧乏だからさ……。旅行なんてまず無理だし、そんな遠くない所まで家族で遊びに行くことも珍しいんだ。だからどこかに行くって聞いた時、僕達は嬉しくてはしゃいでたんだけど、パパとママはあまり嬉しくなさそうだった。それで翌日、約束通り家族全員で出かけた。いつもはいないはずのビルも、わざわざ家に帰ってきてさ。それで行先は何処だったと思う?」

 

返事を期待しての言葉ではないのは確かだった。ロンは何も言わずに話の続きを待つ二人を見て、少し溜め息を吐きながら続けた。

 

「墓場さ。例のあの人やその仲間に殺された人達のね。しかも、そこにいたのは僕達だけじゃない。パパの友人や遺族の人達がたくさん集まってさ。皆で祈りを捧げるんだ。この時ばかりは、フレッドもジョージも黙ってて……。祈りが終わってからパパが言うんだ。仲間に自分達は幸せだって、彼らのお蔭だって、伝えたいから、今日は僕達を連れてきたって。それから墓の前に立たされてお祈りさせられるんだ。何を祈ったかなんて覚えちゃいないけど、遺族の人達の様子は覚えてるよ。泣いてる人もいた。悲しそうに笑いながら、墓石を撫でて話しかけている人もいた。僕達によく来てくれたって、死んだ人に顔を見せてあげてって言う人もいた。ああそう、ネビルもいたっけ? おばあちゃんに連れられて、一つ一つの墓に御祈りを捧げてた。顔をグシャグシャにして泣いてたけど、僕もそんな気持ちだったさ。うん、多分、泣いてた」

 

ロンの話に重たい空気になって、ハーマイオニーは鎮火した様に大人しくなった。ハリーもロンの口からこんな話を聞かされるとは思ってもいなかった。ロンは、今度はハッキリとした疑問を二人にぶつけてくる。

 

「知っているだろう、スリザリンの大半が例のあの人に加担していたって。今でも、あんな光景を見ても、腹心として潜んでいる奴だっているくらいなんだ。そんな奴等を、僕はどうしたって信用できないよ。どう信用しろって言うんだい?」

 

ハーマイオニーは反論しなかった。できなかったのだろう、とハリーはハーマイオニーの様子を見ながら思った。口を開き何かを言いかけたが、結局、言葉は何も出てこなかった。俯いたまま、動かなくなった。

しかし、言葉にしなくても分かる。ハーマイオニーは未だにジンを信用できると思っていた。ハリーにもロンにも、それが伝わった。

 

「ハーマイオニー、エトウのこと、教えてよ」

 

その様子を見ていられずにハリーがそう促すと、驚いたように顔を上げた。

 

「どうしてエトウが信用できると思うのかさ。僕達、エトウとまともに話したことないんだ」

 

ハリーの言葉に、ロンは口出ししなかった。言いたい事を言えて、それが伝わって、余裕が出来たのだろう。

 

「……勝手に言っちゃいけないことだとは思うの」

 

しばらくの沈黙から、ポツリポツリと話し始めた。

 

「詳しい話は、私も知らないわ。あのね、ジンの両親って、ジンが幼い頃に亡くなっているの。両親のことは、何も覚えてないって……。ハグリッドに聞いたら、ずっとマグルの親戚に育てられていたんですって。それも、あまり良い環境じゃなかったみたい」

 

ハリーは驚いたように目を見開いた。自分と全く同じ境遇だったのを、初めて知った。

 

「列車の中では、両親はグリフィンドールだったから自分もそうなるだろうって言ってたの。私もネビルも、ジンは絶対にグリフィンドールだって疑わなかったわ。組み分け帽子は彼をスリザリンにした時は、思わず聞き間違いだと思ったもの。それから、少し不安になったの。ジンがスリザリンに行っても仲良くやっていけるかしらって。最初は寮も違って少し壁を感じたけど、話してみると相変わらずのジンで、色々あったけど、今も彼は列車の中と、スリザリンに入る前と同じ態度で私達に接してくれるの」

 

そこで言葉を切って、気まずそうにロンの方を見た。

 

「だから、私はジンがスリザリンだって、実感が湧かないの。だって、ジンの周りにいる人達だって、パンジーやダフネも、とってもいい人よ? 少なくとも、私には優しいの。確かにスリザリンの連中は嫌な奴が多いわ。でも、全部がそうじゃないはずよ。スリザリンの全員が例のあの人に加担した訳じゃないんでしょう?」

 

「それでもパパ達と一緒に肩を並べて、例のあの人に立ち向かった人はいないんだ。僕は聞いたことは無い」

 

ハーマイオニーは今度こそ何も言えなくなり、話も終わると思われたが、ハリーが思わぬ言葉をかけた。

 

「ロン、ハーマイオニーの言うエトウのこと、少し信用してみない?」

 

ロンの主張ももっともだ、とハリーは思っていた。もしもハリーがロンの立場なら、ジンのことは決して信用しようとはしないだろう。しかし、それは飽く迄もロンの立場での話だ。

ハリーの立場なら、ジンを信用してもいいかもしれないと思えてきた。幼くして両親のことを知らず親戚に育てられたという、全く自分と同じ境遇にいたことがどうしてもハリーには他人事と思えなかった。もしかしたら自分が今のジンの立場にいたかもしれないし、その逆だってあり得たのだ。

自分と同じという考えから、どうしても無下にはできなかった。スリザリンに入れられたことに同情もした。もし自分が組み分け帽子に「スリザリンは嫌だ」と言っていなければ、ロンと出会ってなければ、ハリーはまさにジンと同じ立場だったのだから。

 

「エトウも僕と同じで、どこぞのいい血統なのに何も知らずにホグワーツに来たなら、スリザリンに入れられたっておかしくないんだ」

 

「……でも君はグリフィンドールにいるじゃないか」

 

「それは、僕には君がいたから。でもエトウには誰もいなかっただろう? スリザリンなんか行かない方がいいって教えてくれるような人がさ」

 

ハリーの擁護もあってしばらくロンは黙っていたが、溜め息を吐くと諦めた様に声を上げた。

 

「分かったよ。エトウは白。これでいい?」

 

「ありがとう、ロン、ハリー」

 

渋々と言った感じだが、ようやく三人の意見がまとまった。ハーマイオニーが感謝を述べて、張りつめた空気も緩み改めて話が進んでいく。

 

「……それじゃあ、話を戻すわ。ジンはハリーより以前に日記を拾って、どんな物かも知っていた。でもそれはジンの手元から紛失して、今度はハリーが女子トイレで拾った。こんなところかしら?」

 

「……それじゃあエトウが日記を女子トイレに捨てたってことになるだろ? 日記が勝手にトイレに行くわけがないし、その日記の前の持ち主がエトウってことなんだから」

 

ロンがそう聞くと、ハリーは反論した。

 

「多分違う……。日記は、誰かがエトウから奪って、それから女子トイレに捨てたんだ」

 

「どうしてそう思うんだい?」

 

「エトウは僕にこう言ったんだ。『襲われない様、気を付けろよ』って……。そうだ! 誰かがエトウを襲ったのも、この日記を取り戻すためだったんだ!」

 

徐々にジンの求める結論へと届きそうだったが、そこで待ったがかかった。

 

「ねえ、ジンを襲ったのって、もしかして……」

 

ハーマイオニーの呟きに、三人の思考が固まる。日記の記憶を読まれたら都合の悪い人物は、一人しかいない。三人とも何と言っていいか分からなくなった。

 

「本当に、その、日記の記憶は正しいのかしら?」

 

「何が言いたいんだい? 作り物じゃないってことは、最初の会話で済んだだろ? ご丁寧に君が解説までつけてくれた」

 

「ううん、そうじゃないの。皆を襲った怪物って、他の生き物なんじゃないかしらって……」

 

「ホグワーツに、一体何匹の怪物がいれば気が済むんだい?」

 

ハーマイオニーとロンが堂々巡りの議論に陥りながら、ある決断で落ち着いた。

 

「とにかく、次に誰かが襲われるまで様子を見よう。もしかしたら、日記の勘違いかもしれない。それに、もう四か月近くも誰も襲われていないし。怪物だって、もういなくなってる可能性だってあるんだ」

 

ハリーが出したものは楽観的な意見だったが、ロンとハーマイオニーも賛成だった。大好きなハグリッドを疑うのも尋問するのは考えたくもないのだ。それから、ハーマイオニーが言った。

 

「ジンにも、話を聞くべきよ。もしかしたら何か知ってるかもしれないし」

 

「いつ話をするんだい?」

 

「直ぐにはダメ。大勢の前で、日記のことをペラペラしゃべったんですもの。ここで私達がジンに接触したのが犯人にばれたら、警戒されるわ」

 

ハリーの問いにハーマイオニーはじれったそうに答える。一番話を聞きたいのは、恐らくハーマイオニー自身なのだ。

 

「失敗すれば、最悪、四人ともノックアウトか石化だね……」

 

ロンの呟きが、妙に響いた。

 

「……私が、時期を見てジンと話をするわ。それまで、この話はお預け。いいわね?」

 

ハーマイオニーがそう言って話を終わらせた。ジンの望みもかなわず、話は余計に拗れていく一方だった

 

 

 




次は早めの更新めざします。
そろそろ秘密の部屋もラストに差し掛かっているんで。仕上げてしまいたい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。