日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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春休み中にできるだけ書いてしまおうと決心した。


亀裂

昨夜の出来事を深く考える前にベッドでそのまま寝てしまった。しかし、朝になって考えるとそこまで深刻な事でもない気がしてきた。デマなど放っておけば無くなる。そりゃ、最初の方は何かと言われるかもしれないが普通に過ごしていれば問題などないはずだ。

少々、思考が後ろ向きだった。それだけ疲れていたのだろう。グッスリ寝たおかげか、思考もハッキリしてきたし気分もいい。

上機嫌でドラコと途中で一緒になったブレーズ達と朝食の大広間に行く。今日は学校の初日。ということは郵便物が半端なく多いというのを去年に学んだ。ベーコンとトーストを摘まんでいたら、窓が開き予想通り大量のフクロウがなだれ込んできた。すぐさま皿とカップを持ち上げ、飛んでくる荷物とフクロウを回避する。一通り配達が終わって、何の被害もなく過ごせたことに満足しながら皿とカップを戻そうとしたが、

 

「車を盗み出すなんて、退校処分になっても当たり前です! 首を洗って待ってらっしゃい。承知しませんからね。車がなくなっているのを見て、私とお父さんがどんな思いだったか、お前はちょっとでも考えたんですか……」

 

という物凄い怒鳴り声が大広間に響き渡り、そのせいでカップを倒してしまいミルクをぶちまけた。

ゲラゲラと笑うブレーズをよそに未だに怒鳴り続ける者のいる方へと顔を向けると、そこには可笑しな光景が広がっていた。

怒鳴っていたのは人ではなかった。何やら一通の手紙のようなものがいつの間にか学校に来ていたウィーズリーに怒鳴り散らし、それをポッターと二人で肩身狭そうに聞いている。手紙の大声は近くにあるものは軽く振動させ、中身の入っていないゴブレットなどは倒れてしまっていた。

どうしてそのようなことになっているのか。それに対する説明は求めるまでもなく、ご親切に手紙がベラベラと公表してくれている。

 

「まったく愛想が尽きました。お父さんは役所で尋問を受けたのですよ。みんなお前のせいです。今度ちょっとでも規則を破ってごらん。私がお前をすぐに家まで引っ張って帰ります」

 

お陰様で、怒鳴り声がやむ頃にはポッター達の遅刻の理由も何をやらかしたかも全生徒が知ることとなった。

手紙の終了と共に何人かが笑い声をあげ、徐々にいつも通りへと戻っていった。

 

「最高だったな、今のは」

 

口笛を吹きながら、ブレーズが呟く。

 

「いいネタが入ったよ。それにしても、ここまでしてポッター達は退学にならないだなんて裏で何かあるとしか思えないんだけどね……」

 

同意しつつも、相変わらず甘く見えるポッターへの処罰に不満を漏らすドラコ。

俺はどうかというと、

 

「……やっぱ碌なことが無いな」

 

あんなことがいつか我が身に降りかかるのかと想像し、ゾッとしていた。

 

 

 

その日の午前の授業も終わり次の授業へと向かうためドラコと一緒に廊下を歩いていると、後ろから走ってきた人にぶつかった。衝撃はそこまで強くなかったが、急であったこととぶつかってきた人の重心が低かったことが合わさって思わず躓いてしまった。

 

「おい、どこに目をつけているんだ! 気を付けろ!」

 

すかさずドラコが後ろの人物に叱咤を飛ばす。すると直ぐに謝罪の声が聞こえてきた。

 

「ごめんなさい、急いでたんで。でも、わざとじゃないんです。とにかくごめんなさい」

 

声の主を見ると、薄茶色の髪をした背の低い少年だった。服装を見るにグリフィンドール。そしてなにより特徴的なのは小さな両手で抱えるように持つ少し不思議な形のカメラだった。それは全体的に大きめで、レンズの部分は大きく、そして前に長く飛び出しており、上部には小さなスポットライトのようなものが付いていた。

 

「……君、それはカメラかい?」

 

少々興味が湧いて、尋ねてみる。少年はまさか質問されるとは思っていなかったのか、キョトンとした顔をして不思議そうに答えた。

 

「え、ええ。そうです。魔法製の」

 

「へえ、しっかりと見るのは初めてだ。マグルの製品には見られない部品もあるな。機械類はホグワーツではダメになるとは聞いていたけど、魔法製は別なのかな?」

 

「はい、しっかり起動します。……あの、あなたは本当にスリザリンなんですか?」

 

「? ああ、まあ、少し訳ありのね」

 

確かにマグルのカメラを知っていて魔法製のカメラを知らないスリザリン生なんて後にも先にも俺ぐらいなものだ。不思議に思われても仕方ない。

 

「……あの、それじゃあ僕はもう行きますね」

 

少し控えめながらも、ハッキリとそういうと恐る恐る俺達から離れて行った。

 

「ああ、急いでたんだね。引き留めて悪かった。気を付けろよ」

 

そう言うと、今度こそ背を向けて走って行った。

 

「おい、良いのかい? そんなにあっさりと逃がしてしまって」

 

少し苦々しげに言うドラコだが、別にそこまで気にすることは無いと思う。しっかりと謝罪を受けたし珍しい物を見せてもらった。カメラ自体は何度か目にしたことはあったが、意識して見ると俺の知っている物と違っていて面白い。

 

「お前が叱ってくれたからもういいだろ」

 

「そうじゃなくてだな、こう、尊厳というか気品というか……。あんまり人がいいと舐められるぞ?」

 

ドラコの心配も、どうやら俺の思っていたものよりもズレていた。

 

「別に俺は名家ではないんだ。それに親切にしただけで舐められるなんてことはそうそうないぞ」

 

「君は名家でなくとも、僕等はそうなんだ。困るよ、しっかりして貰わなくちゃ。それに親切と甘いのは違う。どうも君はそこら辺をはき違えていそうで怖いよ」

 

溜め息と共に俺への愚痴を言われてしまい、少々反省する。

確かに俺は名家ではなくても周りがそうなのだ。ならば、しっかりと周りに合わせなくては。少々身勝手だったと反省しよう。

 

「まあ、何だ。すまなかった。お前らに対する配慮が足りなかったな」

 

「……まあ、分かったらいいさ。それに、君はその態度でも未だに舐められてはいないのだから杞憂かもしれないしね」

 

話はこれで終わりとばかりに少し歩調を早めるドラコ。それに付いていきながら、やはり配慮が足りなかったと反省する。

中庭に差し掛かると、急にドラコが立ち止まった。中庭にはポッターとウィーズリーが立ち話をしていた。近くの石段ではハーマイオニーが腰を掛けて本を読んでいる。

ハーマイオニーには確かに声をかけたいものだが、近くにポッター達がいるのではそう軽はずみに行動するのも考え物だ。今まさに威厳がどうとか指摘されたばかりではないか。

何もせずにそのまま通り過ぎようとすると、ポッターの方で何やら動きがあった。先ほどぶつかってきた少年だ。

 

「ハリー、元気? 僕、僕――コリン・クリービーっていいます」

 

クリービーはそう言うと、オズオズとポッターへと近づき話し始めた。

 

「あの、もし構わなかったら、写真を撮ってもいいですか? 僕、あなたに会ったことを証明したいんです」

 

戸惑いがちのポッターになおも近づき、熱く語り始めた。その変化をドラコが見逃すはずがなかった。素早くポッターの近くで、尚且つ視界に入らない位置に立つと耳を澄ませて会話を聞き始めた。

その様子が先ほど威厳がどうとか話していた人物とは思えず、思わず苦笑いしながらドラコのすぐ近くで同じように耳を澄ませる。

 

「あなたの友達に撮ってもらえるなら、僕とあなたが並んで立ってもいいですか? それから、写真にサインしてくれますか?」

 

「サイン入り写真!? ポッター、君はサイン入り写真を配っているのかい?」

 

からかいのネタとなる言葉を聞くや否や、待っていましたとばかりに大声を出して素早くクリービーの後ろに移動する。その際あたかも今通りかかりましたという雰囲気を出すあたり、ある意味だが威厳を感じる。最も、後ろで一部始終を見ていた先輩方は既にニヤニヤ笑いを抑えられていないが……。

ドラコが出て行ったのだから俺も、と少し遅れてドラコの近くへ移動する。

 

「みんな、並べよ! ポッターがサイン入り写真を配るそうだ!」

 

「僕はそんなことしないぞ。マルフォイ、黙れ!」

 

いつもの過激な口げんかが始まったところで、巻き添えを食らわないよう石段に座るハーマイオニーの方へ移動する。というより、ドラコと一緒に出てきたのも折角だからハーマイオニーに声をかけたかったからというのが大きい。他寮の生徒と話す機会というのは思いのほか少ないのだ。ハーマイオニーはロックハートの本を読んでいる真っ最中だった。

 

「よお、ハーマイオニー。それは勉強で読んでるのか? それとも娯楽?」

 

「あら、ジン? あなたもここにいたの?」

 

声をかけられてようやく本から顔を上げ、状況を確認する。ドラコ達の声は聞こえていた様だが、本に集中するあまり誰がその場にいるかなどは確認していなかったようだ。そういえば、いつもなら口げんかが始まった時点で無視をしろとポッター達に釘を刺しているはずだ。今日はそれがない。

 

「それ、そんなに面白いか?」

 

「あら、最高よ? あなたならこの面白さが分かると思っていたのだけれど……」

 

『バンパイアとばっちり船旅』を見ながら、少し悲しげに溜め息を吐く。どうやらあまり理解者がいないようだ。

 

「別につまらないとは言ってないさ。読み物としては十分面白い。教科書としては何とも言えないけど」

 

「そうかしら? でも彼って凄く素敵だと思わない? ほら、この本だって――」

 

いかに彼が素晴らしいか、勇敢かを嬉々として語るハーマイオニーに少し置いていけぼりにされる感覚を持ちながら何とか聞いていたのだが……

 

「今度ちょっとでも規則を破ってごらん!」

 

とドラコの甲高い声真似が聞こえてきて思わず俺が吹き出してしまったことで終わりを告げた。言っては何だが、少し似ていた。

思わず笑いながら俺が、会話を邪魔されて不機嫌にハーマイオニーが声をする方へと向いた。

 

「ポッター、ウィーズリーが君のサイン入り写真が欲しいってさ。彼の家一軒分よりもっと価値があるかもしれないな」

 

それを聞いて激怒したウィーズリーが杖――あまりにボロボロなので杖じゃないかもしれないが――を取り出してドラコに詰め寄った時、後ろからロックハートが現れた。ハーマイオニーは目ざとくそれに気が付き、本をパチンと閉じるとウィーズリー達に「気を付けて!」と囁いた。その顔が嬉しさ満点なのは見間違いではあるまい。

 

「一体何事かね? 一体どうしたのかね?」

 

ロックハートは大股でこちらに近づくと、少し演技かかった口調で話し始めた。

 

「サイン入りの写真を配っていたのは誰かな?」

 

そう言うが否や、口を開きかけたポッターを有無も言わさず自分の方に引き寄せると陽気な大声を響かせた。

 

「聞くまでもなかった! ハリー、また逢ったね!」

 

登場と同時に物凄い勢いで状況を(ポッターにとってだが)悪化させていくロックハートに堪えきれず、またも吹き出してしまう。流石にこの混沌とした状況に長居は無用と、ハーマイオニーに一言別れを告げ、人混みへと消えていくドラコの後を追った。後ろの方で「二人でサインしよう」という言葉にまた笑いの波が襲ってきた。

何とかドラコに追いつくと、ドラコも堪えきれずに笑っていた。二人で顔を合わせてお互いが笑いを堪えきれていないことが分かると、もう限界だった。二人して声を出して大笑いをした。

 

「見たかい、あのポッターの顔! 先生が来たと安心した瞬間、どん底に落とされた時の顔!」

 

「その先生も中々ギャグセンが高いもんだ! サインを嫌がるポッターに二人でサインしようだとさ。自信満々に何を仰る」

 

「そんなことを言っていたのかい? ああ、残念だ。あと少しでポッターのサイン入り写真が見れたというのに」

 

二人でひとしきり笑うと、少し落ち着いてようやく次の授業へと向かう。確か次は薬草学だ。笑いの余韻に浸りながら、授業の行われる温室へと向かった。

 

 

 

 

 

薬草学の授業はレイブンクローとの合同授業で行われた。マンドレイクの世話が内容だったが、クラッブとゴイルが倒れたお蔭で半分は授業を聞けずに終わった。

授業も終わり、夕食も食べ、談話室でドラコ、ブレーズと集まって話をしていた。すると、ドラコがわざとらしく咳払いをし、注目を集めた。

 

「そういえば、言っていなかったことがある。ジン、ブレーズ。君たちにビッグニュースだ」

 

「ああ、列車の中でも言っていたな」

 

すっかり忘れていた。もう一度咳払いをして、例のごとくもったいぶった話し方をする。

 

「さて、その前に君たちに質問だ……」

 

「その前にニュースが何かを教えろ」

 

「うるさいぞ、ブレーズ! 今話しているじゃないか!」

 

「もったいぶらずに教えろってことだよ」

 

「いいから質問を聞け! まったく……。さて、質問だ。明後日の昼、僕たちにとって重大なイベントがある。そうだな……。ジン、何があるか分かるかい?」

 

急に質問の的を俺に絞ってきた。何か裏があるのかと周りを見渡すと、全員がなんとなく思い当たる表情をしている。どうやら、ただ単に俺だけが何もわからない間抜け面だっただけの様だ。

 

「明後日だろ……? ……分からん、何かあったのか?」

 

「そんなことではいけないぞ、ジン!」

 

言葉とは裏腹に何処か嬉しそうに話すドラコ。ブレーズが後ろで溜め息を吐いているのは情報に疎い俺に対するものか嬉しそうなドラコに対するものか分からない。

 

「いいかい、明後日はクィディッチ選手の選抜試験だろう!」

 

そう言われて、去年にクィディッチの選手を目指す約束をしたのを思い出した。

 

「ビッグニュースってのはそのことか? それなら、俺以外はもう知ってたみたいだけど」

 

「甘いよ、ジン。僕が言いたいのはここからだ」

 

疑問をドラコにぶつけると、すかさず用意していたであろう言葉で俺の疑問に返事を返してきた。

すると、ブレーズが痺れを切らしてドラコに食いかかった。

 

「もう十分だ。随分と焦らされた。さっさとそのビッグニュースを教えてくれ」

 

「ここからが良い所なのに……。ハァ、分かったよ、随分とせっかちだな」

 

「誰のせいだ、誰の!」

 

ブレーズの苛立った様子に渋々とドラコがもったいぶった話し方を止めた。

 

「よし、単刀直入に言おう。君たちの競技用箒を僕の父上が一緒に用意してくれたんだ!」

 

「おい、マジかよそりゃ!」

 

ブレーズは一瞬前まで焦らされて苛立っていた様子が嘘のように一気にハイテンションになり、ドラコに問い詰めた。

 

「勿論。こんなことでは嘘を言う訳ないだろう」

 

「それで、機種は何だ? コメットの最新型か? それともまさか……」

 

何かを期待するように、含みを持った質問をドラコへとぶつけるブレーズ。それに対し、ドラコはニヤッと笑ってその期待へと答える。

 

「そのまさかさ! 先月出たばかりのニンバス2001、最新型さ!」

 

「おいおい、マジかよ! 最っ高だぜ、ドラコ!」

 

そう言って大笑いしながら抱き合う二人。正直ついていけない。

 

「どうしたんだ、ジン? あんま嬉しそうじゃないな?」

 

少し落ち着いたのか、椅子に座りなおすブレーズに聞かれた。

 

「いや、そんなことないさ」

 

慌てて否定の意を告げる。しかし、ドラコ達ほど嬉しいかと問われれば微妙だ。

 

「そんなにすごい箒なのか? ニンバスってのは」

 

「現存する箒の中でもトップクラスさ」

 

誤魔化す様にドラコに質問する。誇らしげに語るドラコの様子からその箒がトップの中でも一位、二位を争うレベルであることが覗える。

 

「そしてポッターの箒よりも優れたものなんだ!」

 

きっとドラコにとってこれが何よりも重要な要素なのだろう。

 

「という訳で、明日はその箒が届く。そして、そのまま選抜試験だ」

 

落ち着いたとはいえ、二人はまだ箒が届くという熱が冷めない。どんな試験が出るか、選手としては誰が上手いか等を夢中で話し合っている。俺は側で耳を傾けているだけだった。

嬉しそうに語り合っているが、俺は選手になれそうにない。去年の飛行訓練が上手くいかなかった訳ではない。むしろ初めてにしては上出来だった。筋がいい、ともマダム・フーチに褒められもした。しかし、クィディッチの選手になれるレベルには到底、達してはいないだろう。ドラコやブレーズの様にここに来る前から乗りこなしていたら可能性は十分あるだろうが、去年に初めて乗った俺には無いに等しい。

まあ、だからと言って何の対策もしなかった訳ではない。

 

「そうだ、君たちはどのポジションを狙っているんだ?」

 

思い出したかのようにドラコが聞いてくる。それに対し、ブレーズは待ってましたとばかりに答える。

 

「俺はキーパーだ。こう見えて、反射神経には自信があんだよ。お前は、聞くまでもなくシーカーだろ?」

 

「当然だ。ポッターに目に物を見せてやる」

 

「お前はそればっかだな」

 

胸を張るドラコにクスクス笑いながら言うと、質問の矛先はこっちに向いた。

 

「ジン、君が狙っているのはチェイサーかい?」

 

「いや、ビーター」

 

既に決めていた答えを返すと、少し意外そうな顔をされた。

 

「へえ、何故だい? チェイサーの方がやりがいありそうだが?」

 

「ああ、ビーターってポジション的に一番地味だしなぁ」

 

ブレーズも同じ様に不思議そうな顔をして俺を見る。

 

「一番、技術が要らないんだよビーターって。まあ上手い奴はそれなりに技術はあるが、素人で一番やりやすいのはビーターなんだ」

 

そう、調べて分かったのは俺が狙えるのはビーターだけだということだ。

チェイサーはパスやシュート、キーパーはシュートブロックや他のメンバーへの指示をする場合があるしシーカーは言わずともスニッチを捕まえるのには相当の飛行技術が必要だ。対し、ビーターは大げさに言ってしまえばブラッジャーを味方のいない方に打ち返すだけでいい。そしたら勝手に敵を襲ってくれる。

 

「まあ、何はともあれ三人ともポジションが被っていないんだ。思い切って試験ができる」

 

「ああ、そうだな」

 

満足げな二人を見て、とりあえず明日の試験は全力で挑もうと決めた。

 

 

 

試験は授業の終わった夕方、夕食前に行われる。

試験を控えた今日は、二人とも授業に身が入っていなかった。変身術の授業中、先生から注意を受けたのも一回や二回ではなかった。四回目にはマクゴナガル先生に医務室に行くかどうかを真剣に聞かれるドラコとブレーズがいた。

試験の時間はあっという間に訪れ、今はドラコから手渡された箒を手にグランドに立っている。俺ら以外に受ける人は数人で、全部で十人ほど。

試験は実技をやり、現レギュラーとの面接の後に結果報告。一人ずつやっていく。

実技はポジションごとに違っていて、ビーターはブラッジャーの打ち合い。飛んでくるブラッジャーを素早く、強く、正確に返すこと。ビーター志望は俺を含めて三人。時間ギリギリまでひたすらに打ち合っていた。

やれるだけのことはやったのだ。これで落ちたらしょうがない。

実技が終わって、面接へと移る。更衣室を少し改造してやるそうだ。面接はポジションが関係ないようで、適当に並んで一人ずつ受けていく。ブレーズは三人の中で一番初めで、その三人後に俺、ドラコは全体でも最後だった。

ブレーズの番になり、前の奴と入れ替わりに更衣室へと入っていく。前に入った奴はどうやら落ちた様だ。苛立った様子でスタスタと帰っていく。ここまで受かった様子の奴は一人もいない。全員、怒ったり苛立ったりして帰っていく。

しばらくして扉が開き、ブレーズが姿を現した。結果はやはりというか、落ちたようでふて腐れた顔で出てきた。

 

「最悪だぜ。受けない方が良かった」

 

こちらに来て吐き出すように言う。ただ落ちただけにしては随分と荒れている。

 

「何かあったのか?」

 

「……行きゃ分かる。俺は先に帰るぞ。胸糞悪い」

 

何か嫌な予感を感じながら、順番を待つ。よく見れば、出てくる奴は多少なりともブレーズと似たりよったりの様子だ。本当に何があるんだろうか。

考えているとあっさりと自分の番になり、入れ替わりに更衣室へと入っていく。更衣室の中は意外と広く、ロッカーは脇に寄せられていて長机の奥に先輩が六人、その前に椅子が一つ置いてあった。

 

「いいぞ、座りたまえ」

 

随分と気取った感じでキャプテンのマーカス・フリントが言ってくる。他の五人はニヤニヤ笑いをして俺を見る。とりあえず、警戒しながらも椅子に座る。俺が椅子に座ると、面接が開始された。

 

「君の実技を見たよ。まあまあと言ったところだね。しかし、君の強みが見つからないね」

 

事実である点、反論のしようがない。黙ったまま聞いている。

 

「どうだろうか? ここで君の強みというのをアピールしてくれないかい?」

 

「強みですか……」

 

「ああ、君の長所だ。君はチームにどのような貢献をしてくれるつもりだい?」

 

いわば自己紹介の様なものか。私の長所はこうでチームのために何をしますという。少し考えて、思いついたことを口にする。

 

「俺の長所は冷静なところですね。あと、視野が広いことでしょうか。どこに敵がいて、どこにブラッジャーを打てばいいかの判断ならそれなりに自信があります」

 

実際、実技中にブラッジャーを打ち返した回数なら俺が一番多いはずだ。箒の性能に頼った部分もあるが、これは長所として挙げても問題ないだろう。

 

「ふむ、それだけかい?」

 

即興にしては割としっかりとした意見だと思ったのだが、キャプテンには響かなかったようだ。あっさりと流すと、更に追及してくる。

 

「……ええ、それだけです」

 

残念ながら、他に思いつかない。手応え的にも落ちたと思うしこのまま終わりか。

 

「それでは、君の試験結果だね」

 

何故か満足そうにフリントが言う。気のせいか、他の五人も急にワクワクしだしたように見えた。

 

「君は失格だ」

 

まあ、予想通り。そのまま帰ろうとしたのだが、まだ話が続いた。

 

「君への講評を言おう。先輩からの有り難い言葉だ」

 

フリントがそう言うと、待ってましたとばかり右端のデカい奴が口を開いた。

 

「君は全然力がないね。何故、ビーターをやろうと思ったんだい?」

 

「……技術的に、一番向いていそうだったから」

 

「ほうほう、そうか」

 

右端の奴に反論すると、今度はその隣の奴が口を開いた。

 

「それじゃあ、君は僕達よりも断然上手い技術を持ってここに来たつもりなのか。レギュラーを奪いに来たんだ、自信満々だったんだろ?」

 

馬鹿にするような口調で言われ、ようやく気が付いた。

 

――ああ、これ、出来レースか

 

何のことは無い。最初から受かる奴はいないのだ。そもそも目の前に六人いる時点で、レギュラーに入れる可能性がある奴は一人ということだ。その一人も、既に決まっている可能性は大きい。

毎年試験があるということは、恒例行事だろうか? 伝統的な後輩いびりと言ったところだろう。だからブレーズはあんなに荒れていたのだ。そりゃ、張り切って試験を受けた後に、実は落ちることが最初から確定していたと言われたらああなる。何ともまあ、スリザリンらしいことで。

 

「おい、聞いているのか?」

 

何の反応もしない俺が癇に障ったのか、少しいらだった様子で誰かが俺に問い詰めた。

 

「ああ、はい、聞いていますよ、先輩の有り難いお言葉」

 

心にもないことを平然と言うと、舌打ちをして引き下がる。全く聞いていなかったが、ただの後輩いびりでは聞く価値もないだろう。聞き流して終わりを待つ。そんな様子が気に食わないのか、フリントがいやらしい笑顔で俺に言ってきた。

 

「いいのか、そんな舐めた態度で? 僕らは五年生。来年もこの試験の監督を務めるんだ」

 

暗に来年も試験に出たら落とすと脅された。これには何人か堪えたのだろうが、俺にとってはどうということは無い。

 

「では、来年もこのチームなんですね」

 

こちらもメンバーを変える気なんてないんだろ? と言ってやる。どうせ、クィディッチ以外では何もない奴らなのだろう、と心の中で毒づく。

 

「……もう君は終わりだ。さっさと出ていけ」

 

俺が考え事をしている間にあらかたの悪態は吐き終えていたのだろう。何を言っても無駄だと判断したフリントは追い出す様に手を振る。素直にそれに従って席を立ち、更衣室を出る。とんだ時間の無駄だった。

出ると、ドラコが期待半分、不安半分といった表情でこちらを見ていた。苦笑いをしながら、首を横に振ってダメだったと告げる。途端に、少し落ち込んだ表情を見せる。

 

「今回は厳しいかもな。来年も同じメンバーの様だし、本格的に狙えるのは四年からだな」

 

「そうなのかい? 毎年あるもんだから、簡単に空きがでるのかと思っていたんだが……」

 

「そう甘くはなさそうだ」

 

「……ブレーズも落ちた。残るは僕だけか」

 

そう言うドラコに出来レースであることを告げようとしたのだが

 

「父上に協力までしてもらったんだ。何もなしに引き下がれない。絶対にレギュラー陣に僕のことを認めさせてやる」

 

と息巻く様子に下手に忠告することを躊躇った。それでも、何とか警告じみたことは言おうとしたのだが

 

「安心してくれ、ジン。僕が受かったら、次は君たちを優先的に入れるよ! さあ、先に帰っていてくれ」

 

期待に満ちた顔をされて、結局何も言えずじまいだった。どうやら俺は純粋な顔というのに弱いらしい。壊すのをどうしても躊躇ってしまう。

そのままズコズコと引き換えし、寮の談話室へと向かう。談話室には既にブレーズの愚痴にパンジーとダフネが付き合っていた。ブレーズは俺に気付くと、近くの椅子に手招きした。

 

「よう、どうだった……って聞くのも野暮か」

 

「まあな。見事な出来レースだった」

 

椅子に座ると、分かりきった感じで質問された。俺も肩をすくめながら返事をする。

 

「あら、ジンまでそういうってことは本当に酷かったのね」

 

ダフネが意外そうに呟いたのを、ブレーズはすかさず突っ込む。

 

「さっきから言ってんだろ? 出来レースもいいとこだって。実技が終わって顔を合わせりゃ『失格』の言葉と悪態の応酬だ。試験なんて大層なもんじゃねえよ」

 

「間違ってないな」

 

「これが全てだよ」

 

相当頭に来ていたのだろう。俺の同意も物足りんと訂正する。一体、何を言われたのか。疑問に思っていると、パンジーが耳打ちしてきた。

 

「ブレーズ、『君は格好つけたくて受けたんだね? 残念、君は失格だ』って件が相当ムカついてるんだって」

 

「おい聞こえてるぞ、パンジー。その話はもうすんな!」

 

ブレーズはパンジーを睨みながら威圧してから、紅茶を一口飲んでため息を吐いた。そしておもむろに

 

「ドラコも、あの様子じゃ失格かねぇ」

 

と呟くと、今度はパンジーが食い付く。

 

「ちょっと、まだ結果は分からないじゃない! 」

 

「何だよ? 話、聞いてたか? 出来レースだったんだよ」

 

「それでも受かるかもしれないでしょ、あんたと違って!」

 

「……お前、馬鹿だろ」

 

「何よ、関係ないじゃない! この格好つけ!」

 

「んだと、テメェ。やんのか?」

 

「おい、もう止めろ。結果はドラコが来たら分かるだろ。それとパンジー、俺達は一応だが試験に落ちたばっかだ。そう傷をえぐる様なことは言わないでくれ」

 

本格的に口喧嘩を始めた二人の止めに入る。少しブレーズに肩を持ってしまうのは同じ被害者として仕方ないだろう。

 

「でも……」

 

「ほら、パンジー。ドラコが落ちたら慰めるんでしょ? そんなにピリピリしてたら難しいわよ?」

 

未だ納得がいかないというパンジーにダフネがフォローをする。何とも言えない雰囲気が場に広がる。すると、それをぶち壊すかのように談話室の扉が開き

 

「ここにいたか、皆!」

 

上機嫌なドラコが入ってきた。

 

「……おい、どうしたんだ、お前?」

 

あの試験の後に上機嫌なのはどう考えておかしい。そう思ったのかブレーズが探る様にドラコに質問した。すると、ドラコは

 

「受かったんだ、試験に! 僕が新しいシーカーだ!」

 

上機嫌にそう言った。一瞬、状況が把握できなくて固まる。全員そうだったようだ。だが、パンジーがいち早く硬直が解けると

 

「やった、流石ドラコ! 試験合格、おめでとう!」

 

と嬉しそうにドラコに飛びついた。続いて硬直の溶けたダフネが

 

「それじゃあ、お祝いでもしましょうか? クッキーなら、家から送られたのがあったはずよ」

 

と、祝福する雰囲気を作っていった。あの試験を知っている分、混乱が少し酷かった俺も何とか状況を理解する。

要するに、足りなかった一人がシーカーだったのだろう。そしてドラコが受かった。それだけだ。そう決めて同じようにドラコを祝福しようとしたのだが

 

「……ああ、そうか。テメェもグルか、ドラコ」

 

ブレーズが吐いた冷たい言葉が雰囲気をぶち壊した。

 

 

 

 




忙しい方が筆が進む。何なんでしょうかね、これ。
春休み中に書けるところまで一気に書こうと思います。

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