【完結】学園都市のナンバーズ   作:beatgazer

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(5/11) 後半の記述を大幅に改めました。


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「金属缶を使った連続爆破事件?」

 第七学区の学生街へと至る駅に降り立ったケイは、早足で歩きながら携帯電話で竜と会話していた。

 

『ああ。島崎からの情報によると、風紀委員(ジャッジメント)たちは、他にも何件か、そういう事件を掴んでいるらしい。で、決まって現場に残されているのは、空き缶やらスプレー缶の残骸。それらが起爆していると見ているようだ』

 

「それって、……言い方悪いけど、あたしらもよくやる手じゃない?」

『どうだろうな。例えば、空のアルミ缶にアルカリ性の洗剤なんかを入れて、化学反応を引き起こして、破裂させるやり方がある。それは俺らも使うやり口だが、あくまで破裂で中身が飛び散るだけで、周りを黒焦げにするような爆弾じゃあない。虚仮脅し程度のものさ。

 スプレー缶を素材にした件もあったみたいで、ガスを使った爆弾て線も、風紀委員は考えているようだが……目撃者の証言だと、引火させた時に起きるような燃焼が起きていない。とすると、考えられるのは、パイプ爆弾(キュウリ)のような花火もどきか、あるいは、俺たちには使えない手か……』

 

「使えない手って……」

 ケイは言葉を区切った。

「……それってもしかして」

 

『あぁ、俺らの想像が及ばないことを、簡単にやってのける奴らが、この街じゃあ少なくない』

「……能力者……ってことね」

 

『気を付けろ、ケイ』

 電話越しの竜の声は、普段と打って変わって、真剣なものだった。

『爆破事件は、七学区の学生街を中心に起きている。妙な金属缶を見つけたら、注意してくれ』

「厄介ね―――用心するわ」

『俺はもう現場に着いた―――白井がいるぞ。落ち着いた頃を見計らって、うまく声をかけてくれ』

「了解」

 電話を切ると、ケイは多くの人が行き交う通りを、更に歩みを速くして進んでいった。

 昨日までとは打って変わって、爽やかな街路風が吹き抜ける日だった。

 

 

 

 ―――第七学区、木の葉通り

 

「下がって!下がって!」

警備員(アンチスキル)の到着は!まだ!?大人は何やってんの!」

「あと3分程です!他にも駆り出されてるらしくて……」

 

「固法先輩!」

 風紀委員(ジャッジメント)の一七七支部から、固法と白井をはじめ数名が、爆発があったという喫茶店の現場へ駆け付けた。仲間が規制線を張って野次馬を遠ざけている中で、先に居合わせたらしい、男子高校生の風紀委員が固法に声をかけた。

「畠野君、負傷者は?」

「一般人に被害はありません……ただ、仲間が……半井が、やられました。応急処置はしましたが、ひとまずあっちに……」

 男子学生が指さす歩道の先には、テラスで使うテーブルや椅子を組み、そこにブルーシートをかけて作った、間に合わせのテントがあった。負傷した仲間は、そこで寝かされているようだった。

固法は、歯を食い縛った。

 

「救急車も、間もなく到着します」

「ありがとう―――白井さん、この店の責任者を呼んできてくれる?状況を聞き取らなきゃ」

「ハイ!」

 黒子に指示を出すと、固法は負傷した仲間の様子を見に、テントの中へ入って行く。

 

 黒子は、爆発があったという喫茶店の出入口に目を向ける。

 扉は完全にひしゃげて、残骸が店の内部に散らばっている。レトロな雰囲気を醸し出していたであろう木目調の外壁は、大部分が吹き飛び、焦げ付いたウレタンが露わになっていた。特に、破壊の後が生々しい場所は、アスファルトと砕石層が辺りに破片となってばら撒かれ、数m程離れた場所に、歪んだ電飾看板が転がっていた。

 

 黒子は、店長を務めているという男性を見つけると、テントの傍へ戻り、固法に声をかけた。

 

「先輩……怪我の具合は?」

「両足に金属片が……命に別状は無いけど、しばらくは立てそうにないわ」

 固法は深刻そうに言うと、首を振った。

 

「……先輩、こちらが、この店の」

 俯いている固法に、黒子が声をかける。固法はハッとして、顔を上げた。

「ごめんなさい……ここの店長さんですか?」

「は、ハイ」

 年は40代くらいだろうか、男性の店主が、不安そうな表情で答える。

 

「白井さん、レコーダーの準備を」

「はい」

「アンチスキルへの円滑な情報提供のため、録音させて頂きます。よろしいですか?」

 固法の問いに、店主が頷く。

 

「同僚から聞きました。2人組で巡回しているジャッジメントに、あなたから直接通報があったということですが」

「はい。今から20分程前でしたか……電話が来たんです。店内に爆弾を仕掛けたと」

「店内?」

 店主の答えに、黒子も固法も眉を顰める。

 

「あの、すいません。爆発は、外で起こったのでは?」

「ええ―――でも、電話では、はっきりと、店内だと。本当なんです」

 

「それで、二人のジャッジメントが到着した後は?」

「電話がかかった直後、ちょうどあの二人が店の前を通りかかったのを見て、声をかけたんです。二人は、まずお客様を、それから従業員を、私も含めて、外へと誘導してくれました。とにもかくにも、安全を確保してくださって……

 それから、店内を捜索された後でしょうか―――一人、女性の方が一度、外へ出て来た所で、そ、その時―――」

 店主は言葉を切り、沈痛な表情で下を向いた。

 

「……すみません……爆発は、店外の看板のところ、だったと思います。ちょうど、あの子が出て来た瞬間に―――くそっ、タイミングがなんて悪かったんだろう……」

 店主の言葉を聞いて、一同は押し黙り、爆発があったという現場を見つめた。

 仲間が規制線を張ったお陰で、野次馬は遠ざかり、警備員と救急車両が通れるように道が空けられていた。

 遠くから、サイレンが聞こえる。間もなく到着するのだろう。

 

「……よくも仲間を……」

 黒子が、レコーダーを握る手に力を込めた、その時だった。

 

 カランカランと、何かが不意に、遠巻きに見ていた野次馬の方から投げ込まれてきた。

それは、アスファルトの上軽い音を立てて転がる。

 

「あっ……」

 黒子は思わず声を漏らした。

「何だコレ……」

 規制線を張っていた数名の仲間が、転がって来た物に駆け寄り、その内の一人が拾い上げる。

 

 

 

(奴らは、アンタらも狙ってるぞ―――)

 脳裏にバイカーズの言葉が蘇った瞬間、黒子は考えるよりも先に駆け出していた。

 罠だ。

 

「離れて!!」

 ありったけの声を出して叫んだ。

 ジャッジメントの仲間が、驚いた表情でこちらを見る。咄嗟に動けない者もいる。

 仲間が密集しているせいで、自分の身をその場へ飛ばしたいが、上手く演算ができない。

 黒子は片腕を目一杯に伸ばして走った。爆発の前に触れさえすれば、どこか遠くへ飛ばせる。そう黒子は判断した。

 

 彼らの足元にある空き缶が、吸引クリーナーのような音を立てながら、メキメキと歪んでいく。

「間に合―――っ!?」

 黒子は、あと数歩のところで、飛散した砂利に足を取られ、急に体が前のめりになるのを感じた。

 

 辺りに、けたたましい爆音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 耳鳴りがする。

 

 黒子は、アスファルトに手をついて起き上がった。掌に痛みが走る。

 躓いた時に、手を擦りむいたようだ。しかし、立ち上がれる。

 

「みんな……!」

 周りで倒れている仲間に呼び掛けながら、黒子は最悪の事態を思い、背筋がぞくりとした。

 しかし、仲間は恐る恐る顔を上げた。皆、慄いた表情をしているが、一見して、目立った怪我はないようだ。

 

「大丈夫!?」

 黒子も、後から続いて固法も駆け寄る。

 

「あぁ―――俺、ダメかと思いました」

 一人の男子が大きく息をついて、立ち上がり、体に降りかかった金属片を払いながら、周りを見渡す。

「さっき、助けてくれた人が―――あの爆弾を何かで包んで、上へ投げ飛ばしてくれたんです」

「助けてくれた?」

 黒子が聞き返した時、風紀委員達の頭上から、何かが風に揺れながら落ちてきた。

 黒焦げになった布のぼろきれだ。

 

「これって……」

 黒子はゆっくりその布切れを取り上げた。微かに熱を帯びている。

 

 

 その時、俄かに遠巻きに見ていた野次馬が騒がしくなった。

 

「―――おい、あいつら、逃げてくぞ!」

 若者の声が聞こえ、黒子はそちらに目を凝らす。

 夏の盛りにしては目立つ、フード姿の人物が二人、遠くへと走っていくのが見えた。

 

「逃がしません!」

 黒子は布切れをポケットに突っ込むと、意識を二人の方へ集中し、今度こそ自分の体を飛ばす。

 次の瞬間、黒子の目の前には驚愕の表情を浮かべる二人の男がいた。

 

「なんだてめェ!」

 片方の男が凄んだ。

「そんなに慌ててどこへ行かれるのです?」

 黒子は、自分よりもずっと背の高い相手を睨みつけた。

 

「うるせえ!くされジャッジメントが!」

 もう一人の男が威圧するように黒子の前に近づいてきた。

 

「ほう?(わたくし)たちに対して随分とお怒りですね―――やましいことがあるから逃げるのですか?爆弾魔野郎、殿?」

「このチビが!!ナめんじゃねェ!」

 黒子が挑発すると、相手は黒子の予想通りに憤怒を露わにして殴りかかって来た。

 

「……分かりやすい」

 黒子は向かってくる拳を物ともせず、殴りかかって来た男の背後に瞬間移動する。

 

「え?」

 男が間の抜けた声を出している間に、黒子は身を屈め、男の膝の関節めがけて鋭い蹴りを放った。

 そして男が倒れ込んだのを見計らって、黒子はスカートの中に忍ばせておいた鉄釘を転移させる。男は衣服を地面に縫い付けられ、もがいた。

 

空間移動能力者(テレポーター)―――畜生ッ!」

 黒子が振り返った時に、もう一人の男は悪態をつきながら、手に持っていた小さな筒の蓋を開けた。

 途端に、筒から黄褐色の煙が噴き出て、辺りに立ち込めた。

 

「煙幕……改造した燻煙剤……!」

 甘ったるい匂いが鼻をツンと衝いた。黒子が煙を避けて引き下がる間に、大通りから外れて、裏路地へと駆けていく足音が、煙の奥から聞こえる。

 

「白井さん!」

 煙がやや晴れてきた所で、固法や、他のジャッジメントが駆けつけて来た。

「先輩!こいつの確保をお願いします!」

 黒子は、地面でもがく男を指差すと、駆け出した。

 

「え、待って!アンチスキルも来たわ!あなた一人で行っては―――」

「ダメです!―――絶対に、逃がしませんの!!」

 固法の制止を振り切り、黒子は逃げたもう一人を追って、建物の間隙の狭い路地へと走った。

 背後から、救急車かアンチスキルの車両だかのサイレンが聞こえる。

 

 

 

(出口を、タイミングを見計らって起こした1回目の爆発。それに、2回目の爆発……明らかに、風紀委員を狙った犯行……)

「『帝国』……許さない……!」

黒子は、歯を食い縛り、逃げた男の行方を追った。

 

 

 

 




空き缶に洗剤を入れて持ち運ぶのは、危険ですので、やめましょう。


畠野という風紀委員のキャラクターは、超電磁砲の第4話で、固法と一緒に爆破事件に駆け付け負傷した男子生徒をイメージしています。
もしこのキャラクターの名前をご存知の方がいましたら、教えて頂ければ幸いです。

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