では、どうぞ。あと、アリシゼーションのちょっとしたネタバレありますが……ネタバレとは言えないだろというレベルなんで。
時間は、感覚は加速していく。
一つの剣を所持したキリトと、信念を込めた拳を振るう僕は、ただただ戦い続けた。
彼の繰り出す剣の動きを見切り、かわす。その隙にストレートをいれる。それをキリトがかわす。そして剣を突きいれる。これの繰り返しだ。僅かにダメージが積もる程度でキリトは残り3割、僕は5割弱ほどになった。
――これでは……キリがない!
よくない膠着状態だ。両者の実力が互角だからこそ生まれる状況だが、バトルとしては何の価値もない。何か、この状況を打破し、ボクに有利な展開に持ち込める手はないのか……?
だが、僕がそれを思いつく前に、キリトが動いた。キリトは、空いている左拳を僕の腹へと突き出す。ダメージはないが、僅かに間が空いた。よろけた僕は、態勢を整えようとした。しかし、それよりも早くキリトの剣が僕の肩へと届いた。
「ぐっ……!」
チクッと痛覚が生じた。だが、キリトはまだそこでは終わらなかった。キリトは左手を背に伸ばし、何かを掴む仕草をする。すると、キリトの背中に、素早く光が走った。まるで稲妻のように落ちた光は、すぐに形を作り、実体化した。キリトはそれを掴み、抜きはらう。
――二本目の……剣か!?
僕は心の中で叫ぶ。彼は今、二刀流状態でいる。二刀流は圧倒的な手数で攻めるスタイルで、バーストリンカーにも二刀流使いはいた。しかし、左右の剣を同時に操るのはかなり難しいものだ。
だが、彼は何のぎこちなくない動作で左の剣を振るった。それは僕の腹を切り裂き、大きくノックバックした。
そこから先はキリトの流れだった。先程よりも約二倍の手数となれば、押されるのも当然だが、それはかなりきつい。僕は、とりあえず形成を整えるため、後ろに大きく飛ぶ。キリトはそれを高速で追う。彼の剣はすでに僕の体を捉えていて、どんなに遠く離れていても切られてしまいそうだった。後ろに下がっていくうちに、僕は壁際に追い詰められていった。
――ま、まずい!!
僕は、翼で屋上に逃げようとした。こうでもしないと、フルボッコにされる。そこから逃げ出して僕の流れに持ち込むしか――!
だが、それはかなわなかった。キリトの結構溜まっていた必殺技ゲージが一気に8割も減少したからだ。これは、まさか大技なのか?
そう僕が考えた矢先、彼の姿がまたも変化した。彼の上半身を包む服が激しく光り、変わった。そう、最初に見たキリトの、漆黒のコートに。
そして、彼の両手が持つ二本の剣が青く光り、僕の意識を吹き飛ばした。
***
――これで、終わりだシルバー・クロウ!!
俺は二刀流状態になり、一気にラッシュした。正直俺は二刀流が好きではない。それにはいろいろ複雑な理由がある。二刀流を習得したのは、今から20年以上近く前に存在していた≪SAO≫のゲームの中でだ。プレイヤーにたった一人しか習得できない、ユニークスキルに分類されるそれを手に入れた二刀流を、俺が修得できたのは幸運以外何者でもないはずだ。しかし、それには開発者である、茅場晶彦の意図があった。二刀流を所持しているプレイヤーは、魔王たるヒースクリフに立ち向かう役目があったのだ。とはいっても義務つけられているわけではなかったが。
それはかなわなかった。俺が途中でゲームをエンドさせてしまったからだ。攻略組の中に潜むラスボスの正体をカンパし、死闘を繰り広げて勝利し、ゲームをクリアしたのだ。これ自体は後悔してはいない。だが、本来の終わり方をすべきだったのではないかと思ってしまう自分もいる。単なるエゴだが、そう考えてしまう原因が、二刀流にあるのだと考えている俺は、それを使うのをためらってしまう。
だが、今回くらいはいいだろう。何故なら今は全力のデュエルなのだから。出し惜しみなどできない。だから俺は、ここですべてを出し切る。過去に封印した、≪黒の剣士≫キリトのとっておきの技も、解放する。そう、アインクラッド第74層でボスの≪グリームアイズ≫を撃破した時に、はたまた、アンダーワールドでガブリエル・ミラーと戦った時に使った技を。
俺はシルバー・クロウが羽根を展開した時を狙って、技を発動した。その際、俺の中に宿る≪黒の剣士≫のイメージが呼び起された。象徴的な装備、≪コートオブミッドナイト≫が出現し、制服から塗り替えられていく。
右手には俺の愛剣≪エリュシデータ≫、左手にはユージオの血と汗と涙が詰まった命にも等しい剣≪赤薔薇の剣≫を持ち、俺はそれらを青く光らせ、呼気とともに技名を叫んだ。
「スターバースト……ストリーム!!」
青く光る二本の剣が唸り、銀翼の鴉を攻撃する。剣と化した星屑が嵐のごとく、鴉に叩きつけられる。剣風が巻き起こり、意識も加速していく。シルバー・クロウの翼が砕け、深い傷があちこちにできる。
ラストの16撃目へと入った。スパークを起こし、ボロボロになっているシルバー・クロウに最後の一撃を与えるべく、俺はグッと踏み込んだ。
ーーこれで、終わらせてやるっ!!
目をカッと開いて左の剣を突き出した。一段と煌めいたその剣は凄まじい唸りをあげて鋼鉄の体を貫いた。
一秒後、シルバー・クロウの体は、高く、高く舞い上がっていた。
***
ーーあれが……二刀流の強さ……かよ。
二刀流はうまく使いこなせるわけがない。層思い込んでいた。実際にいた二刀流バーストリンカーもろくに使いこなせなかった。また、剣道を極めている友人の黛 拓武も二刀流は無理だと苦笑いしてのべていた。
だが、先ほどのキリトは違った。自由自在に操れていた。的確な狙い、隙を見せない動き、見当たらないぎこちなさ。ここまでになるのにどのくらいかかるのか、想像もつかない。一刀流ではタクには勝てないけれど、二刀流では勝ててしまうかもしれないというほどだ。
だから僕は諦めかけていた。彼の見せる二刀流には勝てない。そういえば、前にキリトと戦ったときも彼の二刀流の強さは半端じゃなかった。そのときは先ほど僕に見せた技を使っていなかったけれど、そこからも類推できたのだ。彼が二刀流を使ったときは警戒し、一刻も早く剣を奪わなければいけないということを。
ーー僕には……もう……無理だ。翼も壊れた、痛みが激しい、足も切れた。もう……戦えない。
ボクのアバターは相当なダメージを受けた。翼は両方壊れ、右足がちぎれた。今僕は打ち上げられて宙にいるが、そこから翼を展開して攻めることができない。また、足がなければ攻撃できない。もう……戦う手段が存在しない。諦めて負けよう。あがける状況でもないのだから。不意に僕らしくないなと感じたが、同時に昔に戻ったまでだよとも聞こえる。よくわからない葛藤が巻き起こっていたが、もう、どうでもいい。僕は負ける。たったそれだけの真実は、覆せない。
ーー本当にそうか?
「ーーーー!?」
誰かの声が聞こえる。優しく、それでいて頼もしく感じる声。そんな声の持ち主と言えば、あの人しかいない。
ーーせん……ぱい……? 先輩!?
僕は叫ぶ。痛みと共に打ち上げられているまま。仰向けになって浮いている僕のちょうど真上に、制服姿の先輩はいた。
幻想だ。加速世界から消え去った先輩なのだ、いるはずがない。必死に頭で否定するも、それを受け入れようとしていないようだ。僕は、ただじっと見つめる。
ーー君らしくもないな。途中で勝負を投げ出すなんてな。あの二刀流使いに恐れ入ったのか?
ーーええ……。あいつには……勝てる自信がないです。強すぎます……。
僕はすがるような口調で先輩に返す。先輩はにっこりと笑った。
ーー確かに、今までみたどんなバーストリンカーよりも強いだろうな。はっきりいうが、あのアバターは、私以上の強さだろう。
ーーそう、ですか……。
ーーだが、だからといって君が諦めてもよいとは言っていない。君は勝てる。まだ勝負は終わっていないんだ。
最もだと感じた。だが、それは綺麗事だ。そう叫びたかった。だけどそういうわけにもいかず、僕は代わりになる言葉を言った。
ーーで、でも僕の翼も、足も壊れてしまった。もう、戦えないんだ……。あいつには、勝てないんだ。
ーー……なあ、ハルユキ君。君の翼はどうして生まれたんだ?
ーーは、はあ?
ーー質問の意味がわからないか。なら変えよう。シアン・パイルと戦ったとき、君は諦めたか?
ーーは、はい。一度は諦めました。けれど諦めず戦いました。
ーーそうだろ? 諦めなかった結果、君は何を産み出したか?
ーーあっ……!
ーーそう、翼だ。その翼で君は最高の頂へと飛んでいった。しかもその間に君は様々な可能性を導き出していったんだ。
ーーで、でも今回ばかりは……。
ーー諦めるな! そうすれば、君は勝てる!! 君は翼がなくても飛べるんだ! ダスク・テイカーに翼をもがれたときだって、君はいつも上を見ていた。だから今回だって勝機はまだある!
ーーで、ですが……!
ーー自分の、無限に広がる可能性を信じろ!
ーーですがどうすればあいつに勝てるんですか!?
ーーふむ……信じろというしかない。が、それだけでは不親切だろうな。だから私はヒントをやろう。
ーーひ、ヒントって……?
ーー君の勝利への可能性を広げるヒントだ。そのヒントは、もう一人の私だ。
ーーもう一人の……私……? それって……!
ーーそう、あの者だ。この世界で私たりえたあの姿だ。
ーーでも、僕には……。
ーー大丈夫だ。君なら、どんな高みまでも行ける。さあ行け! もう時間は残されてなどいないぞ!
非常に短く感じたやり取りだった。いつのまにか、戦おうとする意思が再燃した。僕は、¨あの者¨の姿を、勇姿を思い浮かべる。
ーー先輩……僕は戦います!
ーーああ、行って来い! ハルユキ君!!
僕は、きっと空をにらむ。その後、逆上がりの要領でからだの向きを変えて地面を見下ろす。徐々に落下していくが、それはゆっくり感じられた。僕はただイメージした。それにともない、右腕が変化していった。少しでもイメージを緩めると切れてしまいそうだった。だから全力でイメージし続ける。どんなものでも貫く鋭利な剣、しかしそれは儚く脆いもの。そのイメージが合致したとき、右腕は変わった。同時に左の腕も。
ーー先輩、あなたの技を、《ブラック・ロータス》の技を借ります!
「喰らえっ! 《
キリトは、こちらを見上げながら驚きに満ちた顔を浮かべている。距離は相当離れていて、僕の腕だけじゃきっと届かない。だが。
この技はあの黒の王が開発した心意技。しかも加速世界最強と言われるエネミーのひとつである《スザク》に大きなダメージを与えたのだ。だからこの技が届かない訳がない。意味がないわけが、ない。
「うおおおおおっっ!!」
僕は腕を思いきり伸ばす。すると、目が霞むほどのスピードで腕が突き出された。同時に腕から光が延び、キリトを襲う。それはキリトを簡単に突き、ダメージを与えた。それはまるで、一瞬に煌めく流星群だ。
そのまま左の腕も突きだす。さらに右、左、右。目にも止まらぬ速さで打ち出される二つの腕はキリトを突き続け、HPを大きく減らした。ラスト16発目、すべての力を込めた左腕が、キリトを吹き飛ばした。
キリトはどこまでも転がっていき、ついには見えなくなった。僕のアバターは力を使い果たしたかのように地面へと崩れ落ちた。落下ダメージでHPがさらに減ったが、残り1割弱に留まっている。キリトのHPも同様だった。
ーー次で……すべてが決まるな……。立たないと。立たなければ、僕は先輩の想いには答えられない!
僕は、唯一ある左足をたたせ、右手を地面につける。歩くことはできない。だが、背中にある発進器でいざとなれば飛び込める。キリトがどう出るかはわからないが、僕はもうそうするしかないだろう。
しばらくすると、遥か遠くからキリトが歩いてきた。日は落ちている世紀末ステージだが、彼の姿がなぜかくっきりと見える。視界が悪いのに、何故かだ。
彼は二本の剣を携えていない。そういえば先ほどの僕の《星光連流撃》で当たってしまったのだと、今さら気づいた。
だんだんとキリトの顔が見えてくる。キリトの目は、闘志に満ちていた。
ーー次で決着をつけようと、お前も思っているのか……。なら、受けて立つよ。
僕は目線に力を込めた。彼が近づくのを待ちながら。
キリトは、一度止まった。そして剣をグッと腰まで引く。何かの技か? だとしたら、僕も技を構えよう。
そう僕が決定したとき、キリトはばっと飛び出した。剣には紅い光が宿り、僕めがけて突き出されていく。あれで決着をつけるのだろう。
ーー今しかない!
僕も飛び出した。背中の発進器を全出力で起動させ、ロケットのごとく飛び出す。残された必殺技ゲージを全消費する勢いで。その後、右手にイメージをする。先程とは似て異なるイメージを呼び起こし、腕に光を宿していく。あの人がよく使っていた技の心意を。
ーーこれは、僕と先輩の想いを込めた一撃だ! くらえっ……!!
「《
***
ーーこれが、ラストバトルか……。
俺はようやく止まった横転から回復し、立ち上がった。ユージオの意思がこもった《赤薔薇の剣》はシルバー・クロウの技によって飛ばされてしまった。だが、まだ俺には剣がある。だからまだ、戦える。
俺は歩き始めた。互いのHPは残り1割もない。これで全てが決着する。
シルバー・クロウの姿が見えた。彼はひざまついているため、戦う意思がないのかとも捉えられる。だが、俺はそれは違うと否定する。彼は待っているのだ、俺が来るのを。なくなってしまった右足では歩くこともままならない。
ーーやっぱりあいつも、そう思っているんだな。
俺は、シルバー・クロウがはっきり見える位置に立ち止まった。その後俺は剣を腰まで引く。この構えはもう体が馴染んでいる。片手剣ソードスキルであり、俺がもっとも愛用している技だ。
俺は十分にためた剣を一気に突きだす。すると、右手にある《エリュシデータ》が紅く光り、光芒を引きながらシルバー・クロウへと接近する。
ーーいくぞシルバー・クロウ! 俺はこの一撃に全てを託すぞ! くらえっ!!
「ヴォーパル・ストライク!!」
藍色の光と紅の光が、この密閉された加速空間で、ぶつかり合った。
ひとの技を使うワルユキ君です、はい。だって、同じ技同士でやりたいじゃん!はい、言い訳すいません。あと、キリトのアンダーワールド姿にチェンジした意味。あれは、ユージオの剣を使わせたかっただけです。あとは心意の象徴だからというのもある。
あと、web版みたけど……キリトって小説版とは違う将来の夢を抱いていたんですね……。web版見ると、キリトはブレインバーストを作りそうにはないですね……。彼の夢はいえんけど。これ以上のネタバレは不味い。まあひねくれた解釈をすれば行ける、かあ?
次回で、ラストバトルです。