バーサス~再び交錯する平行世界~   作:アズマオウ

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まず、警告します。シルバークロウはメタトロンにあってません。それは一応作中で明かすつもりですが。まあこじつけでしかないので気にせずに。

では、《Kirito》とシルバークロウの対峙をご覧ください!


第2話:Gamestart~開幕~

 僕は、学校から早退してきた。アパートにある家のドアを静かにあけて、電気をつける。制服を乱暴に風呂場に脱ぎ捨てて、ベッドへと転がり沈んだ。いつもなら、冷蔵庫にある冷凍ピザを漁るのだが、今はそんな気分になれない。僕はただ、ぼーっと天井を見上げつづけていた。

 いつもなら、スリルあふれるあのゲームが待っているはずなのだ。というより、遊んでいたはずなのだ。けれど今日はやる気にならない。何故なら、あの人がいないから。

 

「はあ~……」

 

 僕は、ため息を吐いた。もう、つまらなかった。何もしたくなかった。学校を抜けてきたはいいけど、それから何するかは何も考えていなかった。そう、もう先輩の中に僕はいないんだ。それは僕にとって耐えがたいものだった。

 

 

 僕は、これ以上何かを想うことを止めるべく、眠りへと落ちようとした。視界が黒く閉ざされ、眠気に身を任せて意識を投げ出そうとしたとき。どこからか、懐かしい声が聞こえた。

 

『レベル10になったバーストリンカーは、プログラム製作者と邂逅し、ブレインバーストが存在する理由、その目指す究極が知らされる』

 

 誰かはすぐわかった。黒雪姫先輩だ。あれは、1年以上前に、近くの喫茶店で言われた言葉だ。先輩は僕にそれを話してくれた時、もの凄く燃えていた。穏やかな口調とは裏腹に、知りたいという欲求があふれ出ていた。

 

――そういえば、僕はまだ会ってない。レベル10になってから一日たつのに、製作者と会ってない。先輩の言葉が本当なら、会えるはずだ。何故このプログラムを作ったのか。

 

 僕は、ゆっくりとソファーから起き上がる。一息吐いて、窓を見る。窓の近くの棚には、Black Lotus(黒いスイレン)が活けてある。その花をじっと見つめ続けて、僕は言った。

 

「先輩、確かめてきます。このプログラムの存在の理由を。そして、世界の果てを……」

 

 僕は、それだけいうと、すうっと息を吸う。そして、叫んだ。

 

 

 

「バースト・リンク!」

 

 

 バシィッ!という効果音とともに、僕の意識は、現実とは遠く離れた異世界へと飛ばされていった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 ≪初期加速空間≫へと僕はついた。全てがブルーで覆われているVR空間で、自身以外すべてが制止したように見える。実際は何千分の一のスピードで動いているのだがそんなことはどうでもいい。

 僕はメニューを開き、適当に対戦を挑もうと、デュエルモードボタンを探す。スクロールしていくと、僕はあることに気づいた。

 視界の右上にある手紙マークが点滅している。僕は気になってそれをクリックする。すると、それがグイッとこちらへと巨大化して現れた。

 僕は送り主の名前を読んだ。

 

「K、i、r、i、t、o……きりと……?」

 

 どこかで聞いたことがある気がする。いつくらいだっただろうか。あれはたしか、2047年の夏くらいだった気がする。が、はっきりとは覚えていない。

 

 それはともかく、見慣れない名前形式だ。こんな名前は、バーストリンカーにはいない。バーストリンカーの名前の前の句がすべて色に関係するものなのだ。例えば、僕のアバター≪シルバー・クロウ≫は前の句が銀をあらわす単語だ。だから、≪Kirito≫なんていう名前は存在しない。ありえないのだ。

 だったら、考えられる可能性はたった一つしかない。

 

 

 

 彼は、このブレインバーストの、ゲームマスターだということだ。

 

 

 

 僕はその可能性を頭に置きながら、手紙を開封する。

 

『Silver Crow へ

 

レベル10到達おめでとう。俺はアンタの活躍を褒め称えたい。ということで、≪初期加速空間≫内で、こう叫んでくれ。≪リンク・スタート≫と

 

すぐに会おう、シルバー・クロウ』

 

 僕は唇を噛み締めた。これがゲームクリア後のエンディングなのか。これで、全てが終わるのか。恐らくすべてを告げるのだろう。この世界の存在意義を。

 ならばとことん問い詰めよう。先輩は、知りたがっていたのだから。この世界の果てを、終わりを。僕は息を飲み込み、拳を握りしめて叫んだ。

 

「リンク・スタート!」

 

 その瞬間、僕の体は浮遊感に襲われていく。そして青い景色は崩れていき、白へと塗り替えられた。僕が辺りを見渡していると、奥の一点から、7色の光が差し込み、僕を照らしていく。僕はそれを見続けていたが、からだが優しく引き込まれていき、やがて意識を失った。

 

 

 

***

 

 

(ここは……どこだ?)

 

 僕は、目を開ける。すると視界に色彩が戻る。僕は状況を確認しようと、辺りを見回す。周りは黒に覆われていて、耳鳴りがする。それほど静かなのだ。

 

(一体、何が起こるんだろう……)

 

 僕がそう思った時だった。

 突然、僕の前方がブンという音とともに、青色のモニターが現れたのだ。僕はハッとそちらを見る。画面にはしばらく何も映らなかったが、やがてリストみたいなものが現れた。僕は、それを細かく調べるために、モニターへと歩み寄る。名前、レベル、累計バーストポイント、所属レギオン……その他もろもろの情報が書き連なっていた。なんでこんなものが……と僕は疑問に思ったが、ふと何かがひらめいた。

 ここは、ブレインバーストのメインサーバーであると。これほどのデータが集結しているということは、そう見て間違いない。

 僕がその結論に至り、モニターを改めてみた瞬間。

 

 

 

 

「ようこそ、≪ブレインバースト≫の中央サーバー、≪メイン・ビジュアライザー≫へ」

 

 突然、柔和な声が後ろから聞こえた。男の声だが、どこか大人しそうだった。僕はそちらを振り返る。まったく、僕は振り回されっぱなしだなと微かに思いつつ。

 声をかけてきた男は、覆面をかぶっていた。黄の王≪イエローレディオ≫が被っているやつにそっくりだ。釣り目で白の肌、歪んだ口元はどこかうす気味悪さを覚えさせる。

 覆面から下は、全て黒で統一されていた。コートは漆黒に覆われていて、ロングパンツも黒だ。おまけにスパイク付きのブーツも黒だ。そして背中には、二本の剣が吊るされている。恐らくこれはアバター姿だろう。

 

 男は、にっと笑ったような気がした。僕は警戒を解かずに、話しかけた。

 

「お前が……≪ブレイン・バースト≫の開発者、≪Kirito≫か?」

 

 僕の質問を受けた男は、しばし動きもしなかったが、やがて首肯した。

 

「僕の名前は……言わなくてもわかるか」

 

「ああ、シルバークロウだな。わからないはずがないよ」

 

 今度はすぐ答えた。やはり、秘匿され続けていた正体を知られるのにはそれなりの抵抗があるのだろう。

 

「シルバークロウ。ここに来たのは、何か理由があるんじゃないのか?」

 

 男、キリトは覆面づらのまま答えた。僕は、皮肉めいた笑みを浮かべながら返す。

 

「お前から教えてくれるんじゃないのか?」

 

 僕の言葉に、キリトは頭を書きながら苦笑する。

 

「そういうことになっているのかよ……何言い触らしてくれてんだよ、≪絶対切断(ワールドエンド)≫は……」

 

「ワールド、エンド……せんぱい、ブラックロータスの二つ名を知っているのか!?」

 

 いくら管理者でも、二つ名を知っているはずがない。それを知ることが出来るのは、日々戦い続けた猛者しかわからないのだ。

 

「まあ、聞いたことはあるな。度々シルバークロウたちをモニタリングさせてもらったんだよ。もちろんシルバークロウの二つ名も知っている。≪銀翼の鴉≫だろ?」

 

「……なるほどな。わかったぜ」

 

 僕は、二つ名についてはスルーした。はっきり言うがどうでもいい。今は聞かなければいけないのだ。

 

「で、どうするんだ?聞きたいことがあるんじゃないのか?」

 

「わかったよ。僕から言う」

 

 僕は観念した。これ以上無限後退な議論はしたくない。今はとっとと先輩の目指していた答えにたどり着くことが先だ。僕は、文章を練って、言葉にした。

 

「なんでブレインバーストを作ったかだ。教えてほしい」

 

「はは、やっぱりその質問から来るか」

 

 キリトは、落ち着いた笑い声を上げる。そして、こちらへと顔を向き直る。

 

「いいよ、答える。シルバークロウ、≪心意システム≫って知っているよな?」

 

 心意システム。

 それは、≪ブレインバースト≫独自のシステムだ。簡単に言えば、思いを込めれば想像以上の力を発揮できるというものだ。無論、相当な修練と深いイメージが要求されるが、使いこなせればかなり強い。僕自身もいくつかの心意技を使うことが出来る。ただ心意技は、己の心にいろいろなイメージを加えていくため、当然心のダークサイドにも引き込まれやすい。よって、よほどのことがない限り、使ってはいけないという暗黙の了解があった。

 

「ああ、知っている」

 

「その技術はこのブレインバースト、そのほかにも≪アクセル・アサルト≫、≪コスモスコラプト≫にも使われていた。けどな……」

 

「ちょっとまってくれ。なんだその、≪アクセルアサルト≫や、≪コスモスコラプト≫って……」

 

 僕はそこで質問を挟む。だが、その二つのゲームは聞いたことが……。

 いや、アクセルアサルトのほうはどこかで聞いたことがある。

 あれは、能美政二ことダスクテイカーが僕の通っている中学校、梅里中学校に襲撃してくる前の話だ。突如学校のローカルネットに何者かが侵入してきた。侵入してきたのは、その、≪アクセルアサルト≫のプレイヤーだったのだ。それを教えてくれたのは、侵入者だった。

 

「ああ、そうか。確かにバーストリンカーは、その世界を知る術はないもんな。簡単に言ってしまえば、ブレインバーストと同じ、秘匿されたプログラムさ。その3つの世界は重複しているから、それぞれの世界同士では永遠に気づくことはない。まあ、そもそもその二つの世界は、もうないから気づくもなにもないけどな」

 

 僕はあっけにとられてなにも言えなかった。もう消えてしまったと言われても、そもそも知らない存在だからなにも感じることすらできない。アクセルアサルトが消えてしまったのもとっくに知っている。

 そのなかでたった人居続けた侵入者は寂しそうな顔をしていたのを覚えている。僕はその時、誰もいないゲームで挑戦者を待ち続けていたからだと推測した。だが、黒雪姫先輩はゲームクリアに辿り着いた寂しさを感じていたと否定する。だが、その時の僕たちは憶測を並べることしかできなかった。

 

「どうして、消えてしまったんだ?」

 

「アクセルアサルトは対立が激しくなったからだ。一方コスモスコラプトは完全な停滞に陥った。そのせいだよ」

 

 先輩の憶測は間違っていた。この世界は終わりを見ないまま終わってしまったのだ。しかし侵入者は納得がいかず、戦いを求めていた。だから寂しかったんだ。けれどこんな憶測、誰ができまい。

 

「じゃあ、このブレインバーストもそうなる恐れがあったのか?」

 

 僕は疑問に思って質問した。キリトはまっすぐたてに首を降った。

 

「王たちが休戦協定みたいなものを組んだときは冷や汗をかいたよ。この世界も停滞して終わるのかって。でもまあ、黒の王がそれを打破してくれたんだけどな。そういう意味ではすごく感謝している」

 

「そうか……。おっと話がそれちゃった。心意システムの話だったな」

 

「ああそうだったな。でだ、えーっとそうだ。アクセルアサルトとかの辺りだな」

 

 話を軌道修正し、どうにか本題へと移る。

 

「で、心意システムは3つのゲームに組み込まれているんだ。はっきり言えば、2048年現在、心意システムを使ったVRゲームは存在しない」

 

 たしかにそうだ。心意システムなんて本来はあり得ないのだ。自己暗示などはあったけれどそれが本当にゲームの運命を左右するかは怪しいところだ。でも、この世界では実現してしまうのだ。その思い込みが、形となって。

 キリトは不意に面白そうな顔をした。

 

「でもな、心意システムを導入したゲームが過去にもあったんだ。それも、20年以上前にだ」

 

 キリトは力強くそのフレーズを言い放つ。まるで黒雪姫のような気迫をもって。僕は思わずたじろぐ。けれどどうにか、銀のマスクごしから声を出した。

 

「20年前って……VR技術の黎明期じゃないか! それなのに……」

 

「そうだ。2022年のことだ。生まれていないと思うけど、その年に起きた事件については知っているだろう?」

 

 キリトの、謎めいた含みを持つ言葉に僕は息を飲む。同時に何が言いたいのかすぐにわかってしまった。

 

「《SAO事件》か……?」

 

 恐る恐る聞いた回答は正解していたらしく、キリトはコクッと頷いた。そして同時に声を出した。

 

「そう。君も知っての通りだと思うけどね。何せ教科書に載っているくらいだからな」

 

 《SAO事件》とは、僕が生まれる13年前、つまり2022年に起こった事件だ。VRゲームの創世記に発売されたゲーム、《ソードアート・オンライン》が1万人のプレイヤーを、ヘッドギア型のフルダイブゲーム機《ナーヴギア》を通して監禁させたという恐ろしい事件で、死者は約4000人にも昇った。首謀者の名前は茅場晶彦で、世界的な犯罪者の一人として語り継がれている。

 現在ではナーヴギア以上のバッテリーは積まれておらず、あの事件の再発防止は万全だ。あの事件のことを忘れないようにと教科書にも載り、テストにも出た。

 

 だが、黎明期に発売されたゲームソフトに、20年以上あとの技術が採用されているなど、にわかには信じられない。だから質問をぶつけた。

 

「それは本当なのか? ブレインバーストと同じように使えるのか?」

 

 キリトは、うーんと顎に手を添えて考えるそぶりを見せる。やがて言葉を発した。

 

「いや、使えないさ。でもな、俺はその世界で奇妙な体験をしたんだよ。ちなみに俺はSAO事件に巻き込まれた人の一人さ」

 

「え、ええっ!?」

 

 僕は思わず大声をあげる。SAO事件の被害者など、僕はあったことがない。好奇の目で見るのは失礼だったが、どうしても気になってしまう。

 キリトはそんなのお構いなしに語り始めた。

 

「その時はただの中学生だったんだけどな。まあ、そんなのはどうでもいい。俺は、どんな運命の巡り合わせか、ラスボスと戦うことが出来たんだ。けれどかなり絶望的な状況だったんだ。攻撃は全部ガードされ、結局は負けた。でも、俺は怒りを感じたんだよ。ラスボスにね。そうしたら、何故か停止していた俺のからだが動いたんだ。その一撃で、ラスボスは死んだんだ。当時は何が起こったかまるでわからなかった。でも今ならこう言える。これは、VRゲームが起こす心意の力だとな」

 

 途方もない話だ。キリトの口ーー実際は見えないがーーから紡がれた言葉は、僕には半分も理解できなかった。何故ラスボスに怒りを感じたのかすら。ただ、いま落ち着きを払ってたっている男が怒りを示したというのだから、相当のことだったのかもしれない。ただラスボスの強さに発狂しただけとは考えられないだろう。

 

 キリトは息をはいて言葉を続ける。

 

「その基礎を作ったのは茅場晶彦だ。まあこれは本人が意図したものじゃなかったが。要するに俺が言いたいのは、20年前にあったはずの技術が、いまだに公開されていないことなんだ。いまだに進歩せず、ただ停滞しているんだ。このVR環境は」

 

 キリトの声は怒りをはらんでいるように思えた。僕にはわからなかった。今のVRゲームは革新的だと思う。それがブレインバーストじゃなく、市販のオンラインFPSフルダイブゲームでもだ。クリアな映像、少ないラグ、圧倒的な爽快感。何もかもが今の方がいいと僕は思っている。

 けれどこの男はそれを否定している。今は停滞していると。昔とまるで変わらないと。納得がいかない。僕は反論した。

 

「確かにその心意システムはあったかもしれない。でも、今はVR環境はゲームだけじゃない。医療や、生活にも密着しているじゃないか。昔は、ゲームだけじゃなかったのか? だったらそれは進歩と呼ぶべきだ!」

 

「確かに技術が進歩したという意味では進歩さ。だが、VR技術的にはなにも変わらない。ただの互換だ。ゲームが医療福祉になり変わっただけにすぎないよ。一昔前のスマートフォンとまるで変わらないんだ」

 

 キリトは冷静に返す。僕はなにかを言おうと口を動かすが、言葉がでない。納得してしまっているからだ。いくらニューロリンカーがあっても、知識を与えてくれる機械には代わりがないのだ。コンピューターというのは、規定のプログラム通りの動きしかせず、それ以上のことはしてくれない。VRゲームでもそうだ。NPCは決まったワードにしか反応せず、それ以上の行動は行えない。

 

 キリトはそんな僕を厳しい目で見つめ、言い放つ。

 

「いいか、コンピューターは一定のルーチンでしか動けないんだ。でも、《SAO》にはそうじゃないものだってあった。メンタルケアをするプログラムとかな」

 

「……はっ、なんだよ。ただの過去の自慢かよ。そんなことよりさ、さっさと質問の本題に入ってくれよ!」

 

 僕は頭が熱くなった。この男は否定しかしない。まるでかつての、背中を丸めた僕を見ている気分だった。前を見ろ、後ろを振り返ってはいけないんだ。そう、先輩から教わったんだ。だからなおさら怒りが巻き起こる。

 

「いまからはいるところだったよ。じゃあもう言うな? 俺がブレインバーストを作った理由はただひとつ」

 

 

 

 

 

 

 

「VR環境の集大成にするためだ。そしてそれを形作っているのが、心意だ。それも、20年以上前に作られていた技術だが」

 

 

 

 

 思いきり言いはなったキリトを見て、僕はあっけにとられた。そして、かすれた笑いが出てきた。

 

「は、はは、はははは……そういう、理由なのかよ……」

 

「ああそうだ。あまりにも進歩がなかったからな。だから俺は、造り上げたんだ。あの男が目指していた世界を」

 

 あの男が誰を指しているかは知らないしどうでもよかった。ただ、震えていた。

 それも、怒りで。

 

 

「ふざ……けるなぁっ!!!!」

 

 僕の足はいつのまにか地面を蹴っていた。高速で迫る僕の拳は、キリトの覆面に向かっていく。しかしキリトはそれをただ見つめるだけだった。だが、僕はなんとしてもこの男を殴り倒す。もう、抑えられない。

 

ーー集大成だと? ふざけやがって! 僕は、先輩は、じゃあなんのためにやって来たと思っているんだよ……! すべてを犠牲にして、思いを犠牲にして来たあげく、なんだよこの結末は……!!

 

 怒りがもうマグマのごとく噴き上がっていく。拳は血が出るほど握りしめられ、視界は怒りで赤く染まっている。僕は渾身の力をこめて、奴の顔面を殴った。

 

 キリトは避けるのでも、迎撃するのでもなく、ただその一撃を受けた。覆面に凄まじい衝撃が加わる。ピキピキっと、ヒビが割れ始めていき、やがて広がって、ついに割れた。

 

 飛び散るポリゴンの破片のなか、顔が見えた。黒髪で整った形をしており、中性的な印象を思わせる。まるで女の子だ。僕は一瞬怒りを忘れ、その顔に見いってしまう。

 

 だが、それがいけなかった。素顔を表したキリトはがら空きになった僕の懐を蹴った。痛みはないが、鈍い感覚を味わっている。

 

「理由が気にくわないとはわかっていたよ。まあただ、暴力まではないぜ」

 

「悪いな、あまりにも頭が来たもんで」

 

 怒りが再燃した僕はうわべだけの謝罪を送った。キリトもそれを理解していたようだった。

 

「そいつは悪かったな。シルバークロウ。けど、あんたはたぶん俺と戦うつもりなんだろ?」

 

 キリトはそういいながら挑発的な笑みを浮かべてくる。よほど自信があるのだろう。だけど、僕だって長い間戦い続けていたんだ。この、いつ落ちるかわからない厳しい戦いを、続けていたんだ。だったらーー。

 

「望むところだ!」

 

「わかったよ。こいよ、シルバークロウ。デュエルを始めよう!!」

 

 キリトは笑みを浮かべながら叫ぶ。僕はその面をにらみ続けていた。けれどキリトはそれすらも、戦いにおける楽しみのひとつとしか考えていないように見えるくらい、余裕そうな表情をしていた。

 だが、不意にキリトは上空へと叫んだ。

 

「システムコール! ステージチェンジ、《メインビジュアライザー》から《世紀末》にチェンジ!!」

 声が上空にいるなにかに届いたのか両者ともに青の光に包まれていく。数秒の転移感覚のあと弾けた光から見えたのは、赤焼けの空に草木一本も生えていない、赤茶色の土だった。つまり、《世紀末》ステージだ。ステージの移動も、管理者だからこそできることということかと、僕は苦笑する。

 このステージの特徴は、ドラム缶を爆発させるとダメージを受けるくらいだ。それ以外では、フェアな条件で戦える唯一のステージと言えよう。

 両者が微妙な距離を取って立つと、上空にHPゲージと必殺技ゲージ、それにタイム表示が現れた。僕のスイッチは対戦モードへと変わった。どくどくするワクワク感、どのように戦うかの互いの駆け引き、そして、その戦いに挑む上での感情。すべてが混ざりあい、僕を高揚させていく。

 

 目の前に、READY?と書かれた炎文字が映った。キリトはフッと笑い背に納められている黒い剣を抜いた。それを中段に構えて足を引く。僕もグッと腰を落とし、構えた。だが、僕は不思議なことに、キリトの構えが放つ、そのプレッシャーにどこか見覚えがあった。確か一度にたようなプレッシャーを持つアバターと本気のバトルをしたんだ。それも、心が踊る、楽しいバトルを。

 

 

ーー先輩。あなたの戦いは残念ながら無駄だったようです。いや、全バーストリンカーにとっても。でも、そんなの僕、どうしても認められないんです。だから、だから僕のすべての力を使って……。

 

 

 緊迫感が上がっていくこの数秒間。僕は、今はこの世界にいない恩師に、言葉を吐いた。

 

 

 

 

「アイツを、倒す!!」

 

 その言葉は矢のようにキリトへと届く。キリトは大声で応えた。

 

 

 

 

 

 

「来いっ!!」

 

 

 

 

 

 キリトの掛け声と共に、FIGHT!の文字が浮かび上がった。両者ともそれを降りきるように、地面を蹴った。

 

 

 

 

 




いきなり戦い来ちゃった!?と思う方もいますでしょうが、ぶっちゃけここやりたいんだよねw

次回からはキリトくんとハルユキ君のバトルが始まります。全力をぶつけ合うバトルにご期待ください!

では感想、お気に入り登録、評価などお待ちしております。

それとシルバークロウの性質はまあ皆さん知っていると思いますが、次回にまとめて説明しますのでご安心ください。

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