「じゃあ、またね!この勝負、絶対に私達の駆逐隊が勝つんだからね!」
お店を出るとすぐに白露さんはぶんぶんと手を振って走り出していきました。
「元気な方でしたね。」
「あの娘は白露型の一番艦だから一番が好きなんだ。もちろん、ボクも一番が好きだけどね。」
「わっ、私も吹雪型の一番艦です!一番艦同士負けられません!」
「じゃあ、頑張らないといけませんね。このお店に来るには任務行動を終えた後じゃないと来られないみたいですし。」
ほとんどのお店は司令官から頂いた島内パスで無料で利用できるのですが、この甘味処伊良湖とライバル店の間宮は任務行動を終えた艦娘や隊でなければ利用できないようになっているそうです。つまり、私達はこの間の任務と明石さんの護衛をやったので、あと1回このお店を利用できる事になります。
「よっしゃあ、燃えてきたぜ、明々後日の任務、頑張るぞ!」
深雪ちゃんが拳をぐっと握ります。
「ボクの隊の次の任務は、到着する輸送船団の護衛だよ、明後日出港なんだ。今日帰って来たばかりなのに、人使い荒いよね。」
「皐月、頼んだぴょん、輸送船が来ないと勝負どころじゃなくなるぴょん!」
「あのねぇ、卯月、キミも一緒に行くんだよ!」
「そっ、そうだったぴょん、まだ準備が終わってないぴょん!」
「頼むよ卯月、ちゃんと出撃準備しないと!」
「すぐに帰るぴょん、補給の続きぴょん!」
「あの、よければ送りましょうか?」
「ええ、本当かぴょん、嬉しいぴょん!」
「やったね、卯月、ねえ、もしよかったらボクも送っていってくれない?」
「はい、大丈夫です!」
「やったぁ!」
皐月さんと卯月さんは嬉しそうにハイタッチします。
「あの、このあたりに広場はありませんか?」
「う~ん、ちょっと遠くに野球場があるから、そこが一番広いかなぁ?」
「わかりました、そこに飛行機を呼ぶので少し待っていて下さい。」
そして、近くの野球場へ艦載機を呼ぶことにしました。
「うわぁい、来た来た!!」
空からのヘリコプター独特の大きな音を聞いて、飛行機の来る方向を指さします。
それから、土煙を上げながらヘリコプターは野球場に着陸します。
「じゃあ、乗って下さい。」
「よっし、船に帰ろう!」
「今の時間なら空から夕焼けが見れそうですね。」
深雪ちゃんと白雪ちゃんが元気にキャビンドアから乗り込みます。
「あっ、あの、やっぱり卯月、やめとくぴょん!」
「何言ってるの、卯月、艦娘は度胸だよ!」
「大丈夫ですよ、安全ですから。」
吹雪ちゃんが言います。そうして皐月さんが卯月さんの手を引いて乗り込みます。
それから、皆さんが乗り込んだところでドアが閉まります。
「目的地は第22駆逐隊の泊地を経由して母艦に帰って下さい。」
「了解しました、離陸します!」
妖精さんが答えるとひときわローター音が大きくなり少しの浮遊感を感じてヘリコプターが上昇していきます。
「ふわぁ、ボク、初めて空飛んじゃった!」
「お尻の感覚が変だぴょん、むずむずするぴょん!」
着陸していた野球場がどんどん小さくなっていきます、そして……。
「「わぁ……」」
ちょうど夕暮れ時の赤く染まった泊地が窓いっぱいに広がります。
「すっごいぴょん、ほんとに空を飛んでるぴょん!」
「それより見て見て、すっごい綺麗だね!」
「こんな飛行機が駆逐艦に積んであるなんて、未来の船はやっぱりすごいぴょん!」
お二人とも喜んでくれてるようでよかったです。
「でも、どうやって降りるぴょん?」
「そりゃあ、ボクたちにも降りられるさ何たって未来の飛行機なんだから。」
「……」
お二人の会話を聞いてはっとします。海上自衛隊の護衛艦は全て飛行甲板を備えていますが……
「あの、妖精さん、お二人を船におろす方法を教えて下さい。」
「ええ、飛行甲板がないので前甲板にホイスト降下になりますが……」
「あはは……そうですよね……」
「ごめんなさい!これしか方法がないんです!ごめんなさい!!」
飛行甲板のない船に人をおろすには救助用のホイストを使うしかありません。卯月さんの前甲板の上にホバリングして、胴体のドアを開けます。そのドアの下数10メートルには駆逐艦卯月の前甲板があります。さらに、ヘリコプターの吹きおろしで潮が激しく舞っています。
「うわぁん!怖いぴょん!」
今まさに飛行機の外に吊り下げられそうになっている卯月ちゃんが涙目で訴えます。
「卯月、艦娘は度胸だよ!」
「他人事だと思って、怖いものは怖いぴょん~!」
妖精さんたちはそんな卯月ちゃんの叫びを背に、淡々と作業を進めていき、卯月さんを機外につり出します。
「ちょっ、ちょっと、足が宙に浮いてるぴょん!」
「妖精さんが暴れるとあぶないっつて言ってますよ!」
「うわぁ~ん、今度は船で帰るぴょん~~~~!」
そうして機外に吊り下げられた卯月さんはホイストに身を任せて前甲板目掛けてゆっくりと下がっていきます。
「ボクもあんな風に降ろされるのかな……」
卯月さんの様子を見て、何かを悟ったような遠い目をした皐月さんが言います。
「あの、すみません……」
「たはは……今度は明石さんにお願いして最上さんみたいに飛行甲板をつけてもらうよ。」
そうして、皐月さんを送り届けた後
「ねぇ、私達にも飛行甲板つけてもらおっか……」
「そうだね、主砲をおろすのも考えようかな……」
「……前向きに検討」
「ええ~楽しそうじゃん……」
はぐろの飛行甲板に戻るまでに雑音に紛れてこそこそ話をする四人だった。