「司令、第11駆逐隊が来たぴょん!」
「わかっとる、早く上がって来んか!」
「うわっ、司令が怒ってるぴょん、早くいくぴょん!」
「えっ、ええぇ!」
卯月ちゃんが今度は私の腕を取って走り始めます、確かにヘリコプターの風はすごく強いですが、まさかこんな事になるとは思いませんでした。
「うわぁ、怒られるのかなぁ……」
「深雪ちゃん、まだ怒られると決まったわけじゃ……」
深雪ちゃんと初雪ちゃんが不安そうに言います。もし怒られるようなら、旗艦の私が責任を取ります。
私達は、卯月ちゃんのされるがままに、少し立派な建物の入り口をくぐって、2階の司令室と立て札が掛けてある部屋にたどり着きます。
「司令官、連れてきたぴょん!」
「入り給え。」
「し、失礼します!」
威厳のある声が聞こえます、私達は緊張して部屋に入ります。
ほっそりとした顔に特徴的な口髭をした司令官でした。ちなみに髪の毛はありません。
「遠路はるばるご苦労様、と言いたい所だが、そうもいかん。」
司令官は窓を指さします、カーテンがレールから外れて、それと一緒に窓際に置いてあった花瓶が倒れて割れてしまったようです。そして、部屋には風で飛んだ書類が散乱していました。
「まずは、この片付けからやってもらおうか。」
「はい、ごめんなさい!」
「みんな、掃除用具はあっちぴょん!」
そうして、私達は掃除とカーテンの修理をすることになってしまいました。
「終わったようだな……」
「「「「はい!」」」」
大急ぎでカーテンと部屋を片付けた私達は、司令官に返事をします。
「掛けたまえ」
私達は言われるがままにソファーに座ります。
「未来から来たと佐世保の司令から聞いているが……」
司令官も反対側のソファーに座ります。
「君のいた未来の日本では、飛行機で司令官の部屋の目の前に降りてくるのが普通なのかね?」
じろりと私の方を見ます、頭と髭が相まって怖いです。
「あっあの……」
上手く声が出ません。
「すみません、いそいで来ないと、と思って飛行機で来ました!」
吹雪ちゃんがフォローしてくれました。
「そうか、我々も今後は、あの飛行機が下りられるような場所を作っておく、この建物の少し遠くにだがな……」
「司令官、ちょっと頑張りすぎぴょん!」
「何の事かね?そうだな、君たちの事は第二水雷戦隊から聞いている、第二水雷戦隊に代わって礼を言っておく、ありがとう。」
司令官はそう言って頭を下げます。
「そんな、きっと助けがなくても大丈夫だったと思いますよ!」
神通さん率いる艦隊の動きを思い出して思った事を言います。
「助けがなければもっと損害を受けていただろう、今彼女達は修理中だ、特に天津風は中破の損害を受けて早速浮きドックに入渠中だ。」
そう言って司令官はおもむろに立ち上がって、壁に貼ってある大きな海図に指し棒を持って説明を始めます。
「君たちはソロモン方面の作戦に参加してもらう事になる。」
「知っての通り、現在我が日本を含む、特に海洋国家である国は深海棲艦によって苦境に立たされている。」
司令官は私達がいるトラック諸島から、OS国までの地点を指します。
「特に、この地域だ、OS国とNZ国からは連日、支援要請が来ている。」
司令官は大きな島国と、その隣にある2つの島から出来ている国を指します。
「沿岸の都市が深海棲艦から攻撃を受けて、酷いことになっている状態らしいぴょん。」
「その通りだ、今はまだ砲撃で済んでいるが、機動部隊が定着してしまうと、内陸まで航空攻撃を受ける事となる、そうすればもはや国家の滅亡を覚悟せねばなるまい、事態は一刻を争う状況だ。」
司令官は深刻な顔で言います。
「確かに、数年前までは敵だったかもしれない、だが、そうも言ってられんのだ、君たち艦娘を養うにも、食糧だけでなく、燃料を含む膨大な資源が必要なのだ、そして、それはわが国内も同じなのだ。」
「OS国の牛肉のステーキは美味しかったぴょん!」
「ええっ!OS国は牛肉が有名なんですか?」
吹雪ちゃんが驚いて言います。
「少し前にOS国から航空機で牛肉が送られて来たのだ、OSビーフというらしい。」
「みんなで食べたぴょん、美味しかったぴょん!」
卯月ちゃんが嬉しそうに言います。確かに、今の日本は牛肉のような高級品は待遇の恵まれている私達艦娘にもそれほど多くは回ってきません。
「我々はここからまず、OS国との連絡線を確保することを目標としている。そのためには、ソロモン海域の制海権を獲得する必要がある。」
司令官は縮尺の小さい海図を広げます。
「しかし、前線航空基地のラバウルから基地航空隊を飛ばしているものの、海域が広すぎて、とても飛行機だけでは戦えんのだ。」
「そうぴょん、あの海域では敵の飛行機が多くて昼は動けないぴょん。」
「航空母艦を出してみたらどうですか?」
白雪ちゃんが言います。
「まだ敵の拠点も艦隊の規模も分からん、それに先日の潜水艦泊地の攻撃で少なからぬ被害を受けている、今出せる状態ではないのだ。」
司令官は言葉を続けます。
「今後の君たちの任務は、あの海域にいる深海棲艦の情報を少しでも得る事だ。」
「そうなると、任務は偵察ってことか!」
「そうだ、ただし、あの海域には艦隊の他に多数の魚雷艇が出没する。その上、島も多く死角が多い、敵の航空機と魚雷艇に妨害を受けて情報が収集出来ていないのが現状だ。つまり、強行偵察と言ったほうがいいだろう。君たちの出撃は明後日を計画している、それまでゆっくり休んでくれ。」
司令官はそう言うとソファーから立ち上がりました、そうして、司令官の机の上に置いてあったカードのような物を私達に渡してくれました。
「これは?」
「艦娘たちの島内パスだぴょん、島内のお店がタダで回れるぴょん!」
「わぁ、凄いですね!島内にはお店があるんですか?」
「沢山あるぴょん、よかったら一緒に回るぴょん!」
「明後日の朝0800に作戦室に集合してくれ、その時に、あの海域をよく知っている先導艦を紹介する予定だ、今後の話は以上だ。」
「「「「「了解しました!」」」」」
そうして、私達は司令官に返事をして部屋を出ました。
「はぁ~、緊張しましたね~」
吹雪ちゃんが大きく息を吐きます。
「はい、怒られるかと思いました……」
「凄い特徴的な髭の方でしたね。」
白雪ちゃんが思い出したように言います
「あれは、カイゼル髭って言うらしい……。」
「そうなんですか、初雪ちゃんは物知りですね。」
「ドイツの皇帝があんな髭をしていたからカイゼルって言う……」
「司令は少しでも威厳を出そうと、最近は髭の手入れをしているぴょん!」
「そうなんですか、威厳と言うより、ちょっと怖かったです。」
「司令は威厳は求めているけど、怖がらせないように頑張っているつもりぴょん、そんなことよりぴょん!」
卯月ちゃんは初めて会った時のように私の手を取ります。
「ささっ、町に繰り出すぴょん!」
「どうかね、少しは威厳が出てきたかね……」
「司令……はぁ、怖がらせてどうするんですか。」
部屋の中でこっそり隠れて様子を見守っていた妙高は大きなため息をついた。
「こ、怖がっていたのか!」
司令は世界が終わったような顔で崩れ落ちた。
「それはもう、これ以上ないくらいに。」
「わからん、どうすればいいのだ、あれくらいの娘の扱いとは……」
「とりあえず、その最近セットし始めた髭から直してみてはいかがですか?」
「せっかく伸ばしたのにか!」
「せっかく伸ばしたのにです。」
「むむむ……」
戦争から間もなく艦娘の運用を任せられるようになった提督の苦難は続く。
訓練で出てきていた鹿島を香椎にしようと思っていますが、いかがでしょうか?