一方、はぐろのCICではミサイルが命中した後の成り行きをかたずをのんで見守っていた。
「……全目標消失を確認、敵艦隊殲滅です!」
「「「「やった!」」」」
画面のシンボルが全て消えたのを確認した所でCICは妖精たちの歓声につつまれる。
「ふぅ……、終わりました……。」
はぐろは汗をぬぐって椅子に座り込む、間に合うかどうかは本当に綱渡りだった。
もし誰かに弾が当たって深海棲艦に捕まって近接戦闘になっていたらとても対艦ミサイルなんかは使えなかった。
「神通さん…ですか、凄い艦です……。」
はぐろは神通が指揮をする艦隊を見ていた。そして、常に一番危険な場所で落ち着いて動く軽巡洋艦の姿を見て戦闘中というのを忘れて見とれてしまった。僚艦を手足のように操り、そして自分の操艦で深海棲艦の猛烈な攻撃を見事に避けきった。
自分にあんな事が出来るか、と言われるととても出来ないだろう。
「救援なんていらなかったかもしれませんね。」
対艦ミサイルが命中した後も、深海棲艦は戦闘力を完全には失わなかった、でもそれをものともせずにあの五隻は慣れた手つきで魚雷を叩き込んで全ての艦をあっという間に撃沈してしまった。
「そんな事ないわよ、救援を頼んだのはあっちなんだし、それにきっとトラックに着いたら大変よ。」
「艦隊、集結して東に向かい始めました、この針路はトラックです。」
妖精動き出した艦隊を見て言った。
「明石さん。」
「そうね、私達も目的地に行きましょう、さっさと行って沢山修理しないとね。」
明石さんが楽しそうに言います。
「艦隊、集まってください!」
「「「「了解!」」」」
一端バラバラになっていた私達は集まってトラックへの針路を取り始めた。
「合戦準備、用具収め!」
深海棲艦と戦ったあと、私達は順調に航海を続けてついにトラック環礁の近くにまでたどり着きました。入港前になって、今までいつでも戦えるようにしていた態勢を少し緩めます。
合図と一緒に妖精さんが今まで準備していた応急工作用の機材を片付けたり防水のために閉鎖していた区画の一部を開きます。
「やっぱり、いつ来ても大っきい環礁!」
「吹雪ちゃん、そんなこと言って油断してると座礁するよ、水深は浅いんだから気をつけないと。」
白雪ちゃんが言います、確かに環礁の中は水深が浅い場所もあるので気をつけないといけません、それに出入り口付近は船が多く通ります。
「はぐろさん、このあたりの詳しい情報は無いんですか?」
「えっと、あるにはあるんですが……すみません、70年後の情報では役に立ちませんよね……。」
「70年後のトラック泊地って、ちょっと見てみたいかも……」
吹雪ちゃんがほんの少し興味を持ったようです。
「じゃあ出航前に渡したS154の海図を出して下さい。」
「「「は~い!」」」
それから、しばらくみんなは海図を見ているのか、ほんの少し静かな時間が流れます。
「へぇ~、ここの水路は広くなったんだ、ここは通るのが狭くて大変だったんだ。」
「それよりこっち、橋がかかってるよ、渡るのにいつも船を出さないといけなかったのに!」
「大きな埠頭も出来てる……。」
「「「でも、飛行場の場所は変わってない!」」」
70年後の違いを探す3人は何だか楽しそうでした。
「みんな、いいなぁ、私なんか来るの初めてだよ。」
「あ、あの、私も始めてです!」
「入港水路に行きあい船、旗流信号より、艦隊の左舷を航過する、との事です!」
「十一時方向、艦影5、旗艦軽巡洋艦長良の第10駆逐隊です!」
「すれ違うときにあまり近づかないよう気をつけてください、潮流に注意して!」
第10駆逐隊とはちょうど環礁の狭くなっている場所ですれ違う事になりそうです、狭い場所は所々流れが読めない場所があるので注意しないといけません、佐世保からはるばる来てこんな場所で迷惑をかけるわけにはいきません。
「長良より発光信号[ハルバルオツカレサマ、ワタシタチハスコシソトヲハシツテキマス]」
「えっ……。」
少し外を走ってくる、まるで毎日やってるみたいな軽い言い方です、きっと哨戒任務に行くはずなのに。
「返信は何としましょう?」
「えっと…[交通事故には気をつけて]でいいでしょうか?」
「了解しました!」
「ああ!冗談です、待って下さい!」
私の言葉を聞いた妖精が止める間もなく探照灯にすっ飛んで行ってさっき言った言葉を打ち始めました。
しばらくして長良さんから了解の返事が来ます、変なことをいってしまったので笑われてないでしょうか?
「港長より入電、[第11駆逐隊はDラインのブイ、1番から5番に係留、停泊せよ。明石はE-5の岸壁に係留]。」
「じゃあ、私はここで降りるね、佐世保から送ってくれてありがとう。」
「えぇ、もう行っちゃうんですか!」
「うん、私の修理を待ってる娘が沢山いるんだから、一刻も早く行ってあげないとね。」
確かに私たちが係留する場所と明石さんがいる場所は全然違います。なのでここから別れるのが確かにいいのですが……。
「そんな寂しそうな顔しない、私がこの船に来なくなるなんてありえないんだから。」
そう言って明石さんは私の頭をぽんぽんと叩きます。
「じゃあ、またね!あと、私に修理させないように頑張って!」
「はい!頑張ります!」
明石さんは私の返事を聞くと満足そうに笑って艦橋後ろの階段から降りていきました。
「工作艦、明石さんが艦隊を離れます!」
明石さんが私の船を離れたあと、全艦に通信を流します。すると待っていましたとばかりにみんなの妖精さんたちが白い服を着て甲板の上に並んでいきます。
「明石が左舷を通過する、左帽振れ!」
その号令を合図に私たちと妖精さんが一斉に帽子か、持ってない子は手を振りはじめます。ずんぐりとした艦影の明石さんを見ると、ついさっきまでここにいたあの人が艦橋の外で手を振っています。
「じゃあ、先に行ってるわね~、トラックの提督には、私から到着のあいさつをしておくから、のんびりしていいわよ~」
一番近づいた時に明石さんが大声で話しかけてきます。
「はい!」
元気よく返事を返します、明石さんの妖精さんも、工作艦らしく、色々な服装をして、甲板上に並んでこちらに手を振ってきます。
「早く入港して頑張らないと!」
ついに私たちは、トラック諸島という最前線の基地に来ました。艤装を壊して明石さんのお世話にならないように、頑張っていきましょう。