イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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前話に1千字ほど追加しました、12月19日、4000字ほど追加しました。

気が付いたら連載から1年経過していました、我ながらよく続いていると思います。
感想を書いてくれる方々、マイリスをしてくれる方々、読んで下さっている方々、全ての人に感謝を申し上げます。


対水上戦です。

 神通が深海棲艦を振り切りにかかっていた頃、はぐろは部屋ですやすやと眠っていたのだが……。

「緊急入電、緊急入電です、起きて下さい!」

 慌てて部屋に入ってきた妖精がお腹の上でぴょんぴょん飛び跳ね、はぐろをたたき起こす。

 

「お、起きました、起きましたから!何事ですか!?」

 はぐろはさっきまで妖精さんに乗られていたお腹をさすりながら布団から出る。

「第二水雷戦隊旗艦神通より、一つ、[カンショウカイイキデテキノコウゲキヲウク、ワレハンゲキニテンズ]二つ、[テキカンタイワレヨリユウセイナリ、フキンカンテイノエンゴヲモトム]です!」

「えぇ、敵?」

「そうです、敵です、環礁海域は現在の艦位から推測して約250マイル、今から向かえば十時間後には到着できます!」

「わかりました、すぐに向かいましょう、針路をその方向へ!」

「了解!」

「哨戒機を緊急発艦させて海域の情報を手に入れて下さい!」

「了解しました、シーホーク、対艦攻撃装備、準備出来次第発艦せよ、艦内哨戒第2配備!」

 各艦に信号が飛び交い一気に艦隊内があわただしくなる。妖精にある程度指示を出したはぐろも慌てて寝間着からいつもの服に着替え始めた。

 

 

 

 

 神通は時計を確認する。夜の闇の中をひたすら東へ突き進んだ。感覚的にはもう何時間も経っているような気がするが日が昇るにはまだ1時間はある。しかし、それでも夜は白やんでくるのがわかる。

「全艦、周囲に警戒して下さい。特に水平線に注意して見張りなさい。」

「はいっ!」

「神通さん、深海棲艦の電探反応、30分前から消失中だよ、ちょっとはいい風吹いて来たぜ!」

「谷風、それ私のセリフ……。」

「へっへっ、やっとしゃべったな。」

 谷風が悪戯そうに天津風に言う。

「水平線上敵影ありません、雪風、そっちは!」

「こっちも同じです!」

 夜が明け始め鮮明になり始めた水平線には敵の影は見えなかった、上手く振り切れたのか。

「神通さん、振り切れたかも...」

「……天津風、いいえ、皆さん、安心するのはまだ早いです。」

 神通がいままで培ってきた勘が言っていた、まだ追われているのだと。

「ん?あれは……。」

 神通のマストに登って見張りをしていた妖精がそれを見つける。

「左70度、水平線上にマスト2、深海棲艦と思われる、距離不明!」

「くっ…。」

 神通は唇をかみ締める。

 軽巡洋艦と駆逐艦のほんの少しのマストの高さの違いが見えるか見えないかの境だった。私達は……まだ……追われている。

「このままトラックに向けて直進します、陣形を変更、先頭を天津風、次を初風、雪風谷風はそのまま、殿は私が務めます!」

「待って下さい、私も戦えます!」

 天津風は神通が殿を務める意味をすぐに察する。どうしても逃げられない時、反転して攻撃をかけるつもりなのだ。そして先頭に回された天津風は……

「……夜戦ではありません、足をやられた駆逐艦に何が出来ますか。」

「天津風、神通さんに逆らったら私みたいに首をもがれるわよ。」

「ひっ……」

 天津風は初風の言葉を聞いて言葉を飲み込んで小さくなった。

「初風......今の言葉覚えておきなさいよ、みんな、わかった?」

「がってん!」

「了解!」

 それを合図に神通は舵を取って単縦陣の一番後ろへ回り込む駆逐艦たちの順番は今のままだ。

 単縦陣の後ろに回りこみながら神通は考える。相手が諦めるか、救援が来るか、それとも切り込むか、これからはもう私達を隠してくれる環礁の島々も夜の闇もない、下手に距離を詰められたら私達より射程の長い重巡洋艦の砲撃で嬲り殺しだ、そうなる前に決断しなければいけない。

 

 

 

 

 一方、対艦ミサイル、ヘルファイヤーを一発搭載し、はぐろを緊急発艦したシーホークは全速で現場海域に進出していた。

「母艦から、ポップアップ、レーダー捜索のオーダーです!」

「了解、30秒後に急上昇、高度4000Ftでレーダーを回す!」

 シーホークは敵の対空レーダーの探知を避けるために極めて低高度で海の上を飛んでいた。

「了解、カウント初めます……20秒前……10秒前…5,4,3,2,1」

「POPPING UP…NOW!(急上昇、初め)」

 一気に機首を上げたシーホークはつい先ほど、東から明るくなり始めた空に舞い上がる。

「高度……2000ft……3000ft……3500……間もなく…4000ft!」

「レーダ送信初め、全周捜索!!」

 機長の妖精の合図でレーダー画面にはいくつかの船が映し出される。

「よし、見つけたぞ!識別のためもう少し近接する!」

「了解!」

 空高く上がる事で少し早めの日の出を迎えたシーホークだったが、再び敵の電波兵器を避けるために暗い海面へ急降下していった。

 

 

 

 

「これが……未来の戦闘……。」

 明石はCICの前にある一際大きな4つのディスプレイを見て呟く。

 狭い甲板からあっという間に航空機が飛び上がったのにも驚いたけど、それよりも更に驚いたのは、飛んでいった航空機と艦との一体感だった。航空機が今まさに見えているものがほとんどタイムラグなしに船に流れ込んでくる。その膨大な情報を妖精が整理して置かれている状況を分かりやすく画面に表示しているのだ。CICは窓もない真っ暗な部屋だが、これがあれば指揮艦は判断を下しやすいだろう。戦闘艦ではない自分がそう思ったのだから戦艦や空母の艦娘が見たらいったいどんな感想を言うのだろうか。

「追われてるのか、追ってるのか……」

 ついさっきシーホークと呼ばれている航空機が探知した目標を見て明石が言った。識別するにはもう少し近づかないとわからないそうだ。

「発見した艦隊、レーダー反応の大きさから、一方は重巡洋艦ないし駆逐艦クラスの4隻編成、もう一方は重巡洋艦ないし海防艦クラスの5隻編成です!当海域行動中の艦艇、金剛旗艦の第二遊撃艦隊、旗艦神通以下第16駆逐隊です、トラック方面へ退避中の艦隊が味方と思われます!」

「決めるには少し早いです、シーホークの識別を待ちましょう。」

「了解!」

「明石さん、白雪ちゃんと初雪ちゃんを護衛に残して私達は先行します。」

「わかったわ!足の遅い私がいてもしょうがないものね。」

 この艦が全力で力を出せば30ノット以上は出るそうだ。一万トンの艦艇としてはまずまずの快速と言っていいだろう。

「あの…明石さんは……。」

 何か言いたそうにこっちを見ているはぐろ。きっと戦闘に巻き込まれないように気を使ってくれているのだろう。

「もちろん乗ってくわよ、艤装を移る時間も惜しいしね!」

 護衛対象として心配してくれるのも嬉しいけど、たまには自分も艦娘として戦いの雰囲気を味わいたい、そしてなによりこの子がどんな戦闘をするのか余す所なく見てみたい。

「…はぁ、わかりました。」

 私の目を見て何かを悟ったのか、彼女は諦めるように少しため息をついて各艦に指示を出した。

「白雪ちゃん、初雪ちゃんは明石さんの艤装の護衛に残って下さい、吹雪ちゃんと深雪ちゃんは私と一緒に救援のために先行します!」

「よっし、来た来た、早く戦いたいぜぇ!」

「主砲良し!魚雷発射管良し!機関大丈夫!吹雪、全力発揮できます!」

「みんな、気をつけてね!」

「んっ...いってらっしゃい......」

「明石さ~ん、私達を置いて何処へ行かれるのですかぁ~!」

 最後の叫ぶような声は私の当直妖精だ。その声を聞いて少し笑いそうになってしまった。

「大丈夫大丈夫、ちょっと観戦武官っぽいことやってくるだけよ、心配しないで。」

 私の妖精になだめるように言う、艦娘が艤装を離れれば能力が下がるというのは妖精がこうなってしまうからだ。

「行きます、最大戦速!」

 指示を出したはぐろは凛とした声で指示を出す。それと同時に高い独特の周波数の機関音が一際大きくなった。艦の中にいてもわかるくらいに船は急速に加速していく。

「最大戦速での到達予想時間、7時間、SSM射程には約4時間後に入ります!」

「了解しました!」

「はぐろさん、私と深雪ちゃんをもっと先行させて下さい!」

 吹雪が言う、駆逐艦の取りえは何といってもその足にある。特型駆逐艦は世界に誇る足の速さを持っている。30ノット程度ではうずうずしてしまうのだろう。

「わかりました、進路上に水上目標はありません、2隻は先に先行してください!」

「おっしゃ、吹雪、行こうぜ!」

「うん、行こう、深雪ちゃん!」

 そう言って二人はさらに速度を上げた。二人の艦首が切る波がいっそう大きくなった。

「吹雪ちゃん、深雪ちゃん……すごい……。」

 二人にしだいに離されていくはぐろは感嘆の声を漏らした。

「ふっふっふ、ウチの駆逐艦は足が速くて、カッコいいのよ!」

「はい!」

 明石が誇らしそうに言った事場にはぐろは頷いた。そしてほんの少しうらやましそうな表情をして、大きな水しぶきを上げて走る二人の背中を追った。

 

 

 

 

「ESMコンタクト、対空もしくは対水上レーダーと思われます!」

「レーダー持ちか!」

 この世界に来て初めて水上艦からレーダー照射を受ける。

「射撃管制レーダの照射は現在の所ありません、まだ捕捉されていないものと思われます。」

「了解、このまま近接を続ける!」

 レーダー探知を避けるため、海面スレスレを這うように進むシーホーク、しかしそれではいつまで経っても識別はできない。

「もう一度ポップアップを行う、次で必ず識別しろ!」

「了解!」

「行くぞ……5,4,3,2,1、今!」

 妖精が言うのと同時に再び機体が青くなり始めた空へ急上昇する。1度目の上昇よりもかなり近づいた場所での急上昇、その分見つかる可能性は格段に高くなる。

「見えました!」

「よし!識別開始だ!」

 

 

 

 

「シーホークより、西に退避中の艦艇は味方、追撃中の艦艇は敵です!敵戦力、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦2隻!」

「味方は軽巡洋艦1隻、駆逐艦4隻です!」

「味方艦隊、速力20ノット、敵艦隊、速力、30ノット、これでは攻撃圏内に入る前に追いつかれます!」

 妖精たちが情報を分析する。

「敵の武器の射程は?」

「中距離装備です、砲撃戦になると分が悪そうです。」

 妖精さんの報告を整理すると、状況はあまりよくないのがわかる。重巡洋艦装備の8インチ砲は軽巡洋艦の艦砲の射程を上回る。味方の艦隊があの深海棲艦を振り切るには肉薄して倒すしか手段がありません。

「シーホークに対艦攻撃の命令を、足止めにはなるかもしれません!」

「了解しました!」

 とは言ったものの、シーホークの対艦ミサイルは元は戦車を攻撃するためのもの、今回のような大型の船にはどの程度の効果があるのか全く予想がつかない。一番射程が長い自分の対艦ミサイルは、まだ射程に入るには時間がかかる、上手く時間を稼がなければいけない。

 

 

 

 

「母艦から攻撃命令です!」

「えっ、マジで?」

 機長の妖精が動揺を隠さずに言う、それもそのはず、彼らの持っているミサイルは射程が短い、撃つためには敵の対空砲の射程圏内に侵入していかなければならないからだ。それに相手はレーダー装備している。

「マジです、足止めをしろって!!」

 機内の妖精が大声で言う。

「……わかった、東から、進入して出来るだけ砲火を避けるぞ!」

 敵艦隊の正面に回って攻撃すれば少しは砲火を抑制出来ると考え、シーホークは相変わらず海面スレスレを飛び、今度は敵艦隊の前に回りこむ。

 

 

 

 

「わわっ、神通さん、どんどん距離が詰まってます!」

 雪風が少し慌てた様子で言う。

「……わかっているわ、このまま針路速力を維持して。」

 神通は雪風に落ち着いた口調で答える。こんな時に指揮艦が焦ればそれこそ深海棲艦の思うつぼだ。

「全員いつでも突撃出来る体制を取っておきなさい、敵の弾が近くに落ちたら私の指示で全艦、一気に反転、反航戦に移ります!」

 最初はマストしか見えなかった敵がだんだん大きくなるのを見てもはや交戦は避けられないと考えた神通は命令を出した。

「よっし、来た!」

「雪風、いつでも行けます!」

「神通さん、私も……。」

「天津風、私は全艦と言いました、次は総力戦です。」

「はい!」

 神通の言葉を聞いた天津風は嬉しそうに返事をする。

「あんな敵、はっきり言って妙高姉さんのほうが私は怖いわ。」

「「「……」」」

 初風の言葉にどう返そうか、と少し考えてしまった駆逐艦の3人、しかし、その思考を吹き飛ばす事態が次に起こった。

 

「敵、先頭艦より光あり、発砲炎と思われる!」

「き、来た!」

「全艦、さっき指示したとおり、弾着が近くなったら反航戦に移ります!」

「続いて後続艦が発砲!」

 神通は少しの違和感を感じながらさっきの指示をもう一度言った。いくら重巡洋艦と言ってもこの距離からの射撃では遠すぎるし、追いつかれるにしても早すぎる。

 神通の艦隊は緊張した面持ちで弾が落ちてくるのを待つ、しかし一向にその気配は無かった。

「……弾、飛んでこないね。」

「そうね……おかしいわね……」

 谷風と天津風が言った。しかし見張り妖精は未だに敵の発砲炎を観測し続けている。

「ああっ、神通さん、あれを!」

 艦橋から頭を出した雪風が一番に異変に気付く、自分たちのいる場所とは全く違う場所に対空弾が炸裂する黒煙と水柱が上がり始めたのだ。

「味方の飛行機でも来たのかな……。」

 その方向を目をこらして見てみるが、飛行機の姿は見えない。

「妖精さん、何か見えますか?」

「う~ん……見たままを言います、信じてくれますか?」

「……構いません。」

 見張り妖精さんがこんな風に言うのは初めてだった。少しおかしいと思いながらも神通は妖精に言うように促す、今は何でもいいから情報が欲しい。

「見たことも無い空飛ぶモノが1機で敵に肉薄しようとしているみたいです。」

「……」

「ああっ、その目は信じてないですね!」

「……そんなことありません。」

 4隻を相手に単機で攻撃を挑むなんて自殺行為だ、でも自分の妖精がこんな状況で冗談を言うはずがない。

 それからしばらく敵の対空攻撃は続いた。そして対空砲火が止んだあと、再び深海棲艦との追いかけっこが再開されたのだが……。

「神通さん、深海棲艦、さっきより遅くなってないですか?」

 ほんの少しの異変に気が付いた雪風が言った。

「……気のせいではないみたいですね、ほんの少し突撃が後回しになったようです。」

 何が原因かは分からないが、ほんの少しだけ時間に余裕が出来たようだ。それにもし本当に航空機が来ていたなら少なくとも味方の艦が近くにいることになる。悪い状況の中でほんの少しだけい希望が見えてきた。

 

 

 

 

「高度…40Ft、射程まであと5Km……」

「了解……」

 機内は静かだった、既にシーホークは対空砲の射程に入っている、いつ攻撃を受けてもおかしくない状況だった。

 近づくたびに大きくなる敵のレーダーの反応、低高度だから探知をかわせているものの、このヘリコプターはステルス性とはほぼ無縁の乗り物だ。

 ふいに機内に警報音が鳴り響く。

「FCレーダー波探知、本機捕捉された模様です!」

「来たか、歯あ食いしばれ!」

「射点まであと1分!」

「ウワァ!」

 目の前に大きな水柱が立ち上る、それに驚いた妖精が声を上げる。

「機長、撃たれてますよ!!」

「バカヤロー!対空砲火が怖くて艦載機乗りが勤まるか!!」

 妖精が叫ぶが、正直に言うと今すぐにでも反転して帰りたい気分だった。

「手はずどおりに先頭の艦の艦首に必ず当てろ、そうすれば少しは足が止まるはずだ!」

「了解!ウワ!」

 大きな振動と共に、こんどは目の前に黒い雲が出来る、対空弾の炸裂だ。まだ距離あるせいか、弾着はまだ遠いが、それでも空気を振るわせる振動が伝わってくる。

「水柱が邪魔で目標をロックできません、上昇をお願いします!」

「了解、いつまでも持たんぞ、必ず掴めよ!」

 その言葉と同時にシーホークはほんの数十メートル高度を取る。

「掴んだ!」

 画面に敵の姿が映し出される、白黒画面で色は分からないが、こっちに主砲を向けて明確に敵意を持っているのがわかる。

「射点まであと十秒………5、4、3、2、1、今!」

「MISSIL AWAY!離脱する!」

 白煙を残して一本の小さな槍がシーホークの左舷から放たれる、だがその後を気にする余裕はない、自分は今まさに攻撃を受けているのだから。

「急速反転、降下、最大速度だ!」

「ウワァ!」

 また近くで敵の砲弾が炸裂する、妖精は「こんなのはもうゴメンだ!」と叫びたかった。




 ヘルファイヤーは対艦じゃないなんて文句は受け付けません。

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