イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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前話に3000字ほど追加しました。


この話も日本に帰るまでを追加したいと思います。


帰ります。

 あの夕食会が終わって、次の日は出航の準備が忙しくてあっという間に終わってしまって、もう出航日になってしまいました。

「司令官、短い間でしたがお世話になりました!」

「ええ、またいつでも来なさい、次はもっと歓迎できる基地にしておくわ。」

 岸壁で司令官にお別れのあいさつをします。

 司令官は私に答礼をして優しそうに微笑みます。

「そ、れ、と……」

「一昨日の夜はお楽しみだったそうじゃない、私も呼んでくれればよかったのに。」

 司令官が囁きます、あの会は司令官には秘密で進めていましたが、お見通しのようでした。

「あの、ごめんなさい!」

「いいのいいの、戦いで苦しいからって食事まで節約してたら元気も出ないでしょ?そんなんじゃいつまで経ってもダメよ。まぁウチはホントにお金がないだけなんだけど。」

 司令官があっけらかんと言います。

「あの、次は必ず呼びます!」

「そう、嬉しいわ。ほら、北上が出航するわよ。」

 大井さんと北上さんの2隻の軽巡洋艦が出航していきます。

「北上より、発光信号!伝文は[ハグロホテル、11カンタイ、オセワニナリマシタ。ツギハトラックヘノシュッチョウサービスヨロシク]です!」

「特務艦隊に返信を、喜んで、あとホテルじゃなくて護衛艦です!」

 北上さんに返信します。北上さんも大井さんも甲板に沢山のドラム缶や木箱を乗せていて、ずいぶん重そうです。

「はぐろさん、これをお土産に持って行ってほしいにゃ!」

 多摩さんと睦月ちゃんたちが木箱をたくさん持って来ています。

「あの、中に何が入ってるんですか?」

「南国の果物がたくさん入ってるにゃ、多摩たちじゃ鮮度を保てないから頼んだにゃ。」

「分かりました、任せてください!」

「さあ、資材は積んだ?燃料は忘れてない?」

 司令官に確認されます、これは何度もチェックしていたので大丈夫です。

「はい、大丈夫です!」

「そう、じゃあ行きなさい、また会えるといいわね。」

「はい!」

「世話になったにゃ、ピンチの時はまた頼むにゃ!」

 私が舷梯を登ろうとした時に多摩さんに言われます。

「ピンチにならない方がいいんじゃないの?」

「望月...いい事言う......」

「ふふっ…。ピンチになったら多摩さんが何とかしてくれるんでしょ?」

「如月、ピンチはもう遠慮しとくにゃ!」

「あの、出来る範囲で頑張ります!」

 私は多摩さんにそう言って自分の艤装に乗ります。

「司令官から要望事項、一つ!堂々と出航すること!」

 岸壁から司令官の大きな声が聞こえました。堂々と、私は気合を入れるために胸を張ります。

「出航準備!」

 艦隊へ号令をかける、日本に帰りましょう。

 

 

 

 

「そう、胸を張って、軍艦は国の誇り、俯いてる姿なんて見たくないわ。」

 司令官は港の外に消えていく8隻の艦娘の姿を見送りながら呟いた。来た時より少しでも元気になってくれてればよかったのだけど。

 私はあの子たちに資材や燃料以外に何か与えることが出来たのか、艦隊を持たない分遣隊司令官が艦隊を見送る時に思う事だ。

「でも、艦娘は強い、たいていの事は自分で何とかしちゃうんだから。」

 見た目は女の子でも我が国が誇った軍艦の生まれ変わり、強くないはずがない。今まで見てきた子も自分たちで迷って考えて踏ん張って強くなっていった。

 分遣隊の司令官になってから、一度会った艦娘にもう一度会うのが楽しみでしょうがない、どんな風に成長したのかが見られるからだ。

「次に会える日が楽しみね。」

 あの娘たちはどんな風に成長するんだろうか、また楽しみが増えた、と少し嬉しく思う。

「全く、こんな事考えるなんてお婆さんになった気分だわ。」

 オンボロな自分の建物の方に足を向けた司令官は自嘲気味に言う。だが、同時にこんな生活も悪くないと思うのだった。

 

 

 

 

 出航してから数日後、艦隊はのんびりと南シナ海を航海していた。

「吹雪より、定時連絡異常ありません。」

「白雪、異常ありません。」

「深雪も異常なし。」

「初雪...異常なし......」

「龍鳳異常ありません。」

 出航して何度目かの定時連絡をする。

「ねぇ、すっごい暇だね。」

 深雪ちゃんが言う。近くの棲地がなくなったためか、ここ数日は本当に何もない日が続いています。

「暇なのはいいことですよ、深雪ちゃん。」

「でも、こんなに暇なら...眠くなっちゃう......」

「ダメだよ、初雪ちゃん、真面目に護衛しないと!」

「だって...暇なんだもん......」

 初雪ちゃんの言う事ももっともです、こんなに何もないとついつい眠くなってしまいます。

「あの、じゃんけんしましょう!」

 吹雪ちゃんが突然変なことを言います。

「えぇっ!?」

「でも一回や二回だと時間つぶしにもならないよ。」

 白雪ちゃんが言います、たしかにじゃんけんだけではそんなに時間は潰せません。

「う~ん……そうだ!負けが一番多い人が帰ってからアイスをみんなにおごるんです。」

「でも、何回もやってたら飽きない?」

「ま、いいじゃん白雪、飽きたら別のこと考えようよ。」

「あの、私は…。」

 龍鳳さんが遠慮がちに言います。

「龍鳳さんもやろう!」

「行きます、合図は私がやります!」

 深雪ちゃんが龍鳳さんの言葉を遮って、吹雪ちゃんがじゃんけんを強引に始めてしまいます。

「じゃんけん……ほい!」

 

 

 同じ頃、各艦の妖精たちは……。

「行きは忙しかったのに帰りは穏やかなもんですね。」

「ああ、まあこっちは仕事がないほうがいいけどな。」

「おい、アイスじゃんけん始まったぞ!」

「暇だからな…こっちも応援するか!」

「そうっすね、このままだと交代までに寝ちまいますからね。」

「「「「うぉ~!がんばれ~!!」」」」

 どの艦娘の妖精も自分の乗っている艦娘を応援し始めた。

 

 

「ぐっ…負けた~!」

「深雪ちゃん、2敗目だね!」

「次は負けないよ、次やろうぜ、次!」

 勝負事は何でも一生懸命、艦娘は基本、負けず嫌いだ。五回勝負した結果、深雪が2敗、龍鳳と白雪、吹雪が一敗ずつだ。

「みんな、次、準備はいい?いくよ、じゃんけんほい!」

 最初はたいした暇つぶしにならにと思っていたじゃんけんもだんだん熱をおびてくる。

 

 

「よっし、今回ももらったぞ!」

「今のところ無敗ですね!」

「この調子だ、頑張れ!」

 はぐろのCICも例外なく妖精が盛り上がっていたが、一人の妖精がふいにレーダーに目を落とす。

「………330°30マイル!大型艦船多数!概略針路160°15ノット!」

 

 

「あいこでしょ!」

「あいこで…」

「待って下さい……水上レーダに感!330°30マイル!」

 はぐろはCICから上げられた情報を各艦に伝える。

「……このあたりに敵はいないはずですが…一応確認しましょう。」

 龍鳳はそう言って待機していた97式の妖精に発艦準備をさせる。

「偵察機、発艦!330°30マイル、船舶の情報を収集して下さい!」

 97式が翼を光らせて大空に舞い上がる。

 そして偵察機を発艦させて五分もたたないうちに偵察機から連絡が入った。

「艦隊は味方、戦艦2、空母2、重巡洋艦1、駆逐艦1隻。」

「皆さん、味方の艦隊のようです!」

 龍鳳の声で艦隊はほっと胸を撫で下ろす。

「編成は、戦艦2、空母2、重巡洋艦1、駆逐艦1隻、もうすぐ見える距離になります!」

 全員が外に出て味方の艦隊を人目見ようとする。

 そして水平線の向こうから高い艦橋が見え始めた。

「ああっ!あれ、扶桑さんですよ!」

 吹雪が興奮した声で言う。

「もしかして…もう一隻の戦艦って……。」

 吹雪は目を輝かせてもう一隻の戦艦が見えるのを待つ。

「やっぱり!山城さんだ!」

 水平線の向こうから独特の形をした高い艦橋が見えてきます。

「何だか面白そうな事してるわね、私達も混ぜてくれない?」

「は、はい!途中からですが、よければ一緒に!」

 旗艦のはぐろは旗艦らしい戦艦から通信を受けて少し緊張気味に答える。

「みんな、聞いての通りあの艦隊のじゃんけんに参加するわ!」

「扶桑お姉さま、止めておきましょう、きっと負けてしまうわ。」

 山城が不安そうに姉の扶桑に言う。

「大丈夫よ山城、それにただすれ違うだけ、というのも面白くないじゃない。」

「お姉さまがそう言うなら……。」

 山城はしぶしぶといった様子で姉の言った事に従う。

「決まりね!改めて私達の艦隊を紹介するわ。旗艦は私、扶桑、こっちは妹の山城、あと航空母艦の隼鷹と飛鷹、重巡洋艦の最上と駆逐艦の時雨よ。」

「扶桑型戦艦2番艦、山城です。」

「名前は出雲ま…じゃなかった、飛鷹です。航空母艦よ。」

「商船改装空母、隼鷹でーすっ!」

「重巡洋艦、最上、よろしくね。」

「僕は白露型駆逐艦、時雨。」

 

「お姉さま、じゃんけんは運の要素が大きいです、私達では……。」

「いいえ、山城、私に秘策があるの!」

「「「「「秘策!?」」」」」

 自信満々に勝つ気があると言った扶桑は自分の艦隊に秘策を教え始めた。

「お姉さま、天才です!!」

「待ってよ、じゃあ僕はどうなるの!」

「時雨……これも作戦のうちよ!」

 飛鷹が気が気ではない時雨をたしなめる。

「でも……相手が受け入れてくれるの?」

「最上、ここは私に任せて!」

「山城……大丈夫かなあ?」

 意気込む山城を不安そうに見る最上。

 

「あの!準備はいいですか?」

 吹雪が急にこそこそ話し始めた扶桑たちに呼びかける。

「ちょっと待って、あなた達の旗艦と話をさせて!」

「はっ、はい!」

 山城にそう言われてはぐろは慌てる、威圧感が比較にならない戦艦に呼ばれたのだからしょうがない。

「じゃんけんについて提案があえるんだけど、ちょっと二人でお話しましょう。」

 はぐろは言われるがままに山城と二人で話しができるようにする。

 

 

「今回のじゃんけん、勝った人がみんなに奢れるようにしましょう!」

「ええっ、どういうことですか!?」

「旗艦としてちょっと考えてみて、みんなにお菓子をあげる姿って格好よくない!?」

「かっこいい……ですか?」

「そうよ、今日はお疲れ様って感じて格好よくお菓子を渡すの、きっと僚艦は嬉しそうにするでしょうね。」

「かっこいい……嬉しそうに…。」

「そうよ、負けた人がみんなに奢るより率先してみんなに奢った方がかっこいいわよ!」

 山城の言葉にはぐろは考える。確かにジュースや食事を奢ってもらっている乗組員の顔は嬉しそうだった。それを進んでやろうとする人はきっとかっこいいに違いない。

「はい!かっこいいです!」

「そうよね!じゃあ決まりね!」

 山城は最後の一押しといったふうにはぐろに言う。

「(この子、ちょろい。)」

 

 

「みなさん!次のじゃんけんは勝った人がみんなにおごります!」

「「へ?」」

「あの、どういう事でしょうか!?」

 龍鳳が急な変更に声を上げる。

「あの、かっこいいんです!」

 はぐろはそう言ってさっき山城に言われた事をみんなに話した。

 

 

 はぐろの話を聴かされた龍鳳たちはそれぞれ違った反応をする。

「何だか騙されてる気がします……。」

「まぁいいじゃん、早くやろうぜ!」

 困惑気味の吹雪にやる気まんまんの深雪。

「やられた……」

 龍鳳は一人誰にも聞こえないように呟く、あの二つの戦艦の意図を素早く読み取ったからだ。龍鳳は知っている、あの二隻の戦艦がじゃんけんに弱い事を。かといって今さらじゃんけんのルールをわざわざ声を上げて変えるのもおかしな話だ。

 龍鳳は扶桑の艦隊の一番後ろの駆逐艦に目を移す。

「でも……、時雨はじゃんけん強かったから……」

 いつか一緒に艦隊を組んだ時雨は負け知らずだった、きっと今頃焦ってるんだろう、そう思うとこのルールも悪くないかもと思ってしまった。

「やりましょう、はぐろさん!」

 何となく悪いことをしているような気になったけど楽しければ何でもいいや、そう思った龍鳳は声を上げた。

「決まりね!」

 山城が嬉しそうに言う。

「ごほん、では、合図は私がやります!」

 さっきまで音頭を取っていた吹雪が言う、そうして艦隊じゃんけんが始まった。この時は扶桑、山城姉妹は勝利(敗北)を疑っていなかった。

「いくよ、じゃんけんほい!」

 

 

「お、お姉さま……。」

「山城、何も言わないで、ついにあなたも姉である私を超える日が来たのね……。」

「そんな、私がお姉さまを超えるなんて、そんなことありえません!お姉さまは私の目標です!」

「ふふっ、そう。でも妹はいつか姉を超えて行かなければならないの。」

「そんな……。」

「でも簡単には負けてあげられないわ!だって、まだ妹に負ける訳にはいかないもの!」

「それでこそお姉さまです!山城、全力で参ります!」

 しばらく二人の間に緊張した空気が流れる。

「山城……。」

「扶桑お姉さま……。」

「行きます!」

「行くわよ!」

 

「じゃんけん……ほい!」

 山城はチョキ、扶桑はグーを出した。

「「「「「……」」」」」

「……お姉さま、ごめんなさい、お姉さまを超える事は山城には出来ませんでした……。」

「山城、いいのよ……やっぱりまだ姉としてやるべき事が残っていたようね。」

「あの…扶桑……」

「時雨……注文を取ってちょうだい。」

 不安そうに呼びかける時雨に扶桑は凛とした声で言った。

「ぷっ…くっくっくっ……ごめん……」

「こら、隼鷹!」

 じゃんけんの行く末を見てこらえきれなくなり笑い出した隼鷹を飛鷹が叱る。

「ボクは扶桑秘蔵の間宮アイスがいいな。」

「最上、いいわよ、持っていきなさい!」

 それを尻目にちゃっかり注文をする最上。

「負けちゃった……」

 一方、はぐろはこっそり本気で悔しがっていた。

 

 

 

 

 あのジャンケン大会から数日後、艦隊は順調に航行を続け、日本近海にまでさしかかっていた。

「北東方向に屋久島、会合点は屋久島東6マイルの地点です!」

「第二駆逐隊の位置は?」

「探知中、会合地点に漂泊しています、目視でも間違いありません。」

 妖精がレーダーの情報を伝える。龍鳳が合流する第2駆逐隊は既に合流地点に到着していた。

「そう…ですか……」

 予定通り艦隊がいるということは、二ヶ月近くいっしょにいた龍鳳さんとも、もうすぐ別れなければならない、という事です。

「……もうすぐお別れですね。」

 そんな思いを察したのか、龍鳳が言う。

「不思議ですね、最初は頑張って終わらそうって思ってた任務も終わりそうになると……もっと、もっと続いてほしいって思うんですね。」

「吹雪ちゃん、任務が終わっても……航海はまだまだ続いていくんです。もう会えなくなる訳じゃありません。」

 寂しそうな吹雪の声を聞いた龍鳳は明るい声で答える。

「…そう、ですね、そうですよね!」

「ごはんおいしかった......ありがと......」

「あの、今度時間があればお料理のこと、色々教えてください!」

「はい!白雪ちゃん、喜んで!」

「あ~っあ~、11艦隊、感度ちぇっく、聞こえてるっぽい~?」

「へっ?は、はい、聞こえてます、どちらでしょうか?」

 突然聞き覚えのない声が聞こえてきます。

「はいはーい!第2駆逐隊で~す!旗艦の村雨、白露型駆逐艦3番艦だよ!」

「ちょっと、村雨、私が話してたっぽい!」

 最初の声が不機嫌そうに言います。

「夕立、こういうのは旗艦にゆずるものです!」

「ぶぅ~!」

「えっと、任務は軽空母龍鳳の護衛と積んである危ないブツを届けるんだったよね!」

「村雨姉さん、危ないブツなんて......」

 五月雨が変なことを言い出した村雨に文句を言う。

「えぇぇ!龍鳳さん、危ないブツって何、何!」

「ふふっ深雪ちゃん、乙女の秘密……です。」

 龍鳳がからかうように言う。

「ちぇっ、教えてくれてもいいのに。」

「乙女は秘密が多いほうが魅力的なんですよ。」

 龍鳳はいたずらっぽく言う。

「えぇ、じゃあ夕立は魅力的っぽい?」

 龍鳳と深雪のやりとりを聞いていた夕立が反応する。

「夕立姉さん、秘密って?」

「えっと~、お菓子の隠し場所に、こっそり持って帰る方法、お掃除の時間に隠れる場所でしょ、夜にこっそり海に出る方法、宿題を忘れた時の対処……、いっぱいあるっぽい!」

「姉さん、いつも掃除の時にいないのはサボってたんですね!」

 五月雨が怒る。

「ああっ、さっきのは秘密っぽい!」

「もう、真面目にして下さい、怒られるのは私達なんだから!」

「うぅ、春雨にも怒られたっぽい。」

 夕立という子がしょんぼりした声をあげる、それを聞いていた龍鳳はしばらくして口を開く。

「楽しそうな艦隊ですね、呉までの護衛、よろしくお願いします。」

「あ、はいは~い、スタンバイオーケーよ!五月雨お願い!」

「はい!各艦、基準針路070°速力9ノット、ダイヤモンド陣形を作ります。」

 五月雨が言うと4隻が一斉に動き出した。

 

「す、凄い……。」

「一糸乱れない動きです。」

 吹雪ちゃんと白雪ちゃんが感嘆の声をあげます。私達も頑張ってはいますが、勝ちか負けかと言うと完全に負けです。

「…大丈夫そうですね。」

 動きで錬度を示した第二駆逐隊を見た龍鳳は少し寂しそうに言った。

「みなさん、お別れです、はぐろさん、お願いします。」

「はい!妖精さん!」

「了解しました!」

「龍鳳へ、陣形を離れよ、先に指示されたとおり行動せよ!」

 妖精さんが龍鳳さんへ通信をします。それを合図に龍鳳さんは舵を取って速力を上げて艦隊から一人離れ、向こうに見える駆逐隊を目指していきます。

「あ、あの!龍鳳さん、よい航海を!」

「はい、皆さんも、よい航海を!」

 私の言葉に龍鳳さんは元気な声で答えてくれます。私達は4隻の駆逐艦に伴われて離れていく龍鳳さんを見送ります。

 

 

「さあ、私達も帰りましょう、母港に!」

「「「「はい!」」」」

 吹雪ちゃんたちは元気に返事をします。

「護衛任務はお任せください......です。」

 龍鳳を取り込んだ第2駆逐隊、春雨が言った。

「はい、よろしくお願いします!皆さん、針路北へ、単縦陣、佐世保に向かいます。」

 春雨さんの言葉に答えた私は吹雪ちゃんたちに言います。吹雪ちゃんたちは私が言う事が分かっていたみたいに素早く陣形を作っていきます。これもこの航海の成果かもしれません、龍鳳さんは見てくれていたでしょうか。

 

どんどん小さくなっていく龍鳳さんの姿を見ていると、なぜか頬に暖かいものを感じました。いつの間にか私は泣いていたようです。

 本当の別れみたいだから泣かないようにしようって思っていましたが私には難しかったみたいです。

「いつか静かな海で……。」

 SP国の夕食会で龍鳳さんに教えてもらった言葉、深海棲艦と戦う私達の合言葉みたいなもので、いつか戦いがない平和な海でみんなでせいいっぱいのお化粧をして観艦式が出来るように……。そんなふうな意味だそうです。

 この航海で本当に沢山のことを龍鳳さんに教えてもらいました。船だった時には何も感じなかったこんな小さな別れも艦娘になってからはこんなにも胸がいっぱいになるとは思いもよりませんでした。




感想ありがとうございます。

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