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引き続き頑張ります。
「相手は少なくとも五隻…ですか。」
「はい、レーダーの電波と通信の電波を確認しました、通信電波は先日の物と同じです、深海棲艦で間違いありません、電波の方向は……。」
全員が海図に情報を書き込んでいく。
「左に三隻、正面に一隻、右に一隻...」
「このまま行くと…囲まれます。」
白雪ちゃんが呟きます。
「はぐろさん、ここは針路を変えた方がいいんじゃないですか?」
吹雪ちゃんが敵の少なそうな方、右側へ針路を取るように言います、確かに有効な手段ですが・・・。
「……ダメです、右へ行くと浅瀬です。」
海図に線を引いてみて、その先には浅瀬が広がっていることに気づきます。広い海ではなくてここは海峡近く、これほどの船団が行ける方向は限られています。それに浅瀬は通れたとしても喫水の深い船は座礁する危険があります。
「第30駆逐隊から連絡は?」
「龍鳳さん、さっきと変わりません、如月大破航行不能、潜水艦一隻撃沈、複数の潜水艦から攻撃を受けているようです。」
「早く助けに行かないと!」
「でも、こっちも手一杯です……。」
深雪ちゃんが焦ったように言います、全速力で駆けつけたいところですが船を振り分ける余裕はありません。
「……針路を変えましょう、左に!」
しばらく海図にプロットされた大勢図を真剣に眺めて、龍鳳が口を開いた。
「「「「「えぇ!」」」」」
「て、敵の真っ只中ですよ!」
「わかってます、でも、もしさっきのレーダーで私達の場所が知られていたら今頃ほくそ笑んで魚雷を調定しているはずです!」
龍鳳には既に今までの情報から襲撃の計画が頭の中に浮かんでいた。
「私達は見ての通り大船団です、針路上に魚雷を撒けば何発かは必ず当たります!それに……。」
「この天候で後ろに付かれたら厄介です!やっつけるしかありません!」
「やっつけるって、3隻をですか?」
「はい、この天気では潜航した潜水艦にすら追いつかれるかもしれません!」
海面は真っ白で露頂したスノーケルすら発見出来ないかもしれない、そして船団の後ろは護衛艦がいない。艦隊は騒音を出している商船のせいではぐろさんのセンサーでも船団の後ろまでは探せない。
そんな中で三隻の追尾を受けたら最悪です。
「……わかりました、全艦に通達します、取り舵、針路240度、船団は衝突に注意して下さい!」
海中では、複数の潜水艦型深海棲艦が息を潜めていた。最初のレーダー発射で船団の位置は掴めた、既に僚艦にも連絡済み、数日前に知らされた情報から、相手は約7ノット、多数の船団を連れている。
先に攻撃に出した二隻から連絡が無くなって二日、恐らく撃沈されたんだろう。この二隻で断続的に攻撃をかけて疲れさせ、この海峡で一気に襲うつもりだったが、少し計画が狂ったようだ。
でも、相手は今までに見たこともないほど大きな船団、その音ははるか遠くからでも聞くことが出来る。場所は分った、作戦も練った、針路も速力も分った、後は……。
「イマイマシイヤツラメ、シズメ…。」
深海棲艦は艦首の魚雷を発射した。
「パッシブ感あり、先ほどの針路上に魚雷航走音多数です、プロペラ回転数から低速に調定されたものと思われます。」
「……助かりましたね。」
何とか第1撃目はかわした、ホッと胸を撫で下ろす。龍鳳さんの読みどおり針路上に沢山の魚雷が走るのを探知します。低速の魚雷は命中させるのが難しい代わりに音が小さくて射程が長い、あのまま行っていたら船団の端にいる船に被害が出ていたかもしれない。
「前方の海域、パッシブ、アクティブ共に感ありません。」
「浅深度の残響と地形、海面の雑音で探知距離が短くなってる可能性があります、僚艦を前に出して船団の前でスクリーンを張った方がいいかもしれません!」
妖精さんの言う事も一理あります、もし正面にいる三隻のうち一隻でも見逃すような事があれば大変です。
「わかりました、吹雪ちゃん、白雪ちゃん、深雪ちゃん、船団の前に出て下さい、初雪ちゃんは今深雪ちゃんがいる場所まで進んで下さい、船団の前で哨戒線を張ります!」
「「「「了解!」」」」
船団の左側にいた吹雪と白雪ははぐろの左側に一直線に、深雪は右側に並ぶように速力を上げる。
「皆さん、海面が荒れて音が聞き取りづらくなっています、探知の予想は2割減で考えてください。」
「「「「はい!」」」」
「えっと、計算した探知距離が1500メートルだから……。」
「深雪ちゃん、1200メートルだよ。」
「あ、そっか、ありがとう白雪!」
「みんな、間隔は2000メートルで行きましょう。」
「わかったよ、吹雪ちゃん!」
みんな自分で効果が高い場所を選んで位置につきます。
「みんなちゃんと宿題をやってくれていたみたいですね…。」
技術が進歩しても対潜用のセンサー類が音を使っているのは同じです、水中での音は電波に比べて温度変化や水圧、その他多くの影響を受けます、ですから事前に潜水艦を見つけられる距離を計算するのはとても大切です。その計算のやり方を教えたのですがみんなしっかりやってきてくれたようです。
「ソーナー感あり、艦首方向6マイル、目標潜水艦らしい!」
「アスロック攻撃を行います、準備をして下さい!」
「了解、アスロック諸元入力開始、目標情報お願いします!」
「……目標情報、スタンバイ……。」
水測妖精が耳をすませる。
「目標情報入ります!240度5.5マイル、深度20メートル、推進音確認、反響音鋭い、目標潜水艦ほぼ間違いありません!」
「アスロックよし!射線方向クリアーです!」
「攻撃始めて下さい!」
「アスロック発射!」
CICの中では外の様子はほとんどわかりませんが妖精さんの攻撃の号令と一緒に前の甲板から振動と音が伝わってきます。
「アスロック正常に飛翔を開始!」
「5マイル先で発見した潜水艦を攻撃しました、他にもいるはずです、皆さん、注意して下さい!」
「今まで後手だったけど…先制は私達ですね!!」
「はい、でも吹雪ちゃん、当たるまで油断は出来ません。」
ですが敵にとっては離れた場所、しかも空からの攻撃です、相手は直前まで気づく事も出来ないでしょう。
「アスロック着水、航走開始しました!」
「お願いです、当たって下さい。」
あの魚雷が逃すはずはないと思いますが本物の武器はあまり撃ったことがないのですこし心配になります。
「…」
「……」
「……ちゃん!」
「…月ちゃん!!」
「如月ちゃん!!」
「……む…つ….き…ちゃん?」
耳に聞こえてくる聞きなれた声に少しづつ意識が戻ってくる。
そこかしこに鈍痛が走る体を何とか起して周りを見てみると、周りには色んな物が散らかっていて妖精さんが慌しく走り回っていた。
「あいたたた…。」
痛みを我慢して立ち上がる。
……そうだった、魚雷が当たったんだ・・・。
はっきりとしない頭でついさっきの事を思い出す、体が痛むのはそのせいで服が所々破れてしまったのもそのせいだ。睦月ちゃんの呼びかけをそのままに、近くで忙しく動き回っている妖精さんの一人を捕まえて聞いてみる。
「妖精さん、被害は?」
「はい!フレーム番号35番以降が断裂しました。スクリューシャフト、変速機が全損、機関の推進力、復旧の見込みありません!」
「浸水は?」
「何とか止まりました、艦尾トリム5度、左右傾斜無しで釣り合っています、魚雷は…投棄しました。」
「もう一発食らうと間違いなく沈みます。」
もう一人の妖精さんが悲痛な面持ちで言う。
駆逐艦は装甲が薄い、魚雷の二発にはさすがに耐えられないでしょう。
「敵の様子はどうですか?」
「それが……。」
妖精さんが外を指差して深刻な顔をする。
その方向には多摩さんがいる。ずいぶん近い、敵がいるのに何をやってるんだろう。
「魚雷、来ます、十時方向です!」
十時…、そっちには……多摩さんがいる、まさか……。
「何やってるんですか、多摩さん、逃げて下さい!」
「如月、やっと起きてくれた、今みんなが敵を攻撃中にゃ。」
「そんな事より、魚雷が来てます、早く逃げて!」
「分かってるにゃ。」
落ち着いた声で多摩さんは言う、やっぱり多摩さんは……私をかばうつもりだ。
「多摩さん、やめて!」
如月が叫ぶのと同時に多摩は大きな水柱に包まれた。その水柱は多摩の高いマストの上を越えて立ち上り、そして船全体を覆うように崩れ落ちる。近くにいた如月の甲板にもその水しぶきが少なからず降り注ぐ、その様子を見て如月は言葉を失っていた。
「どうにゃ如月、軽巡洋艦は頑丈にゃ!」
「睦月、望月、弥生、あっちにゃ、さっさと片付けてくるにゃあ!」
「「「はい!」」」
「多摩さん!もう、もうやめて下さい!」
「つれない事はいわないにゃあ如月、軽巡洋艦は駆逐艦を守るものにゃあ!」
「そんな事をして、一緒に沈む気ですか!」
「なに、そうとも限らないにゃ、こっちの後ろには強い味方がいるにゃ!」
多摩はそう言ったが状況は悪い、助けが来るなんて確信がある訳ではなかった。
潜水艦の情報が入ってから、はぐろの搭乗員の待機室では飛行科の妖精全員が集まっていた。天気が悪いといっても一応はすぐに出られる体制を取っているのだ。
「この天気だと、我々の出番はありませんね。」
一人の妖精が言った。
「ああ、こんなに揺れてると発艦できても帰ってこれませんからねぇ…。」
「もどかしいですね、こんなに敵に囲まれてるのに、何も出来ないなんて…。」
そう言って手を頭の後ろに回して椅子にふんぞり返った。
「あぁ…。」
待機室に重苦しい沈黙が流れる。
「オイ、何読んでるんだよ。」
一人が隣の妖精が呼んでいる雑誌を見て言った。
「あぁ、これっすか、面白いんすよ、こんな時はジタバタしても仕方ないっすからね。」
そう言った妖精が持っていたのは、未来の日本で毎月発刊されているらしい[軍事研究]という雑誌だ。
「全く、いずもの一隻でもいればいいんですけどね……。」
そう言って一枚のページを指差す。
海上自衛隊が持つヘリ搭載型護衛艦、大きな全通甲板を持ち、更に大きな船体である程度の悪天候でもヘリコプターの発着艦が行え、その気象制限は通常の護衛艦より、厳しい状態でも発着艦が可能になっている、らしい・・・。
「ああ……」
飛行科妖精のため息で、また重苦しい雰囲気が部屋を再び支配する、
「「「「「「それだ!!!!」」」」」」
「えっ、どうしたんすか、急に?」
雑誌を持っていた妖精は、突然バタバタと走り出した仲間を見てつぶやく。
「馬鹿野朗!!発艦準備だ!!急げ!!」
「えっ、でも帰って来られないっすよ、陸上にでも降りるんすか?」
「あるんだよ、降りられる場所が!」
「何言って……あああああ!!」
雑誌を読んでいた妖精は、雑誌を放り出して立ち上がった。
「分かったら行くぞ!!」
「「「「「「おう!」」」」」」
飛行科の妖精は勢い良く部屋を飛び出して格納庫に向かった。
とりあえず一区切りであげます。また追加していきます。
すぐには返せませんが感想等お待ちしております。