イージス護衛艦「はぐろ」、がんばります。   作:gotsu

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洋上補給です。

 昨日の見張り妖精さんで潜望鏡を探す訓練では、吹雪ちゃんたちがすごく強かったです。電探を使ってしまうと、ズルをしている気がして、私も見張り妖精さんだけでやってみましたが、とても敵いませんでした。

 夜の訓練が終わると、私たち6人は集まって漂泊しました。その時に、イクさんから佐世保以外の鎮守府にいる艦娘さんのことを教えていただきました。

 まだ佐世保のことしか知らない私たちにはとても新鮮で、わくわくするお話しでした。

 怖そうな人もいるそうですが、色んな艦娘さんに会ってみたいです。

 夜が明けて、私たちの訓練も、残り2日になりました、ほぼ丸一日訓練に付き合って下さったイクさんともお別れです。イクさんの母港は横須賀で、呉に寄ってから帰るそうです。

 たった1日だけだったかもしれませんが、一緒に模擬戦をしたり、私の魚雷を探してもらったり、夜遅くまで私たちの訓練に付き合ってもらったりと、私たちが練成を終えられるよう、いっぱい協力して下さいました。

「じゃあ、イクはもうそろそろ帰るのね。」

「そうですか...もう帰っちゃうんですね。」

 イクさんが朝早くに帰るのは昨日から分かっていたことですが、やっぱり寂しいです。そんな思いが顔に出てしまったのか、イクさんが私たちに話しかけます。

「そんな寂しそうな顔をしないのね、毎回そんな顔をしていたらこれから大変なのね。」

「はい...」

 イクさんの言うとおりですが、でもやっぱり別れるのは寂しいです。

「それに...」

 イクさんが私たちに笑顔を向けます。

「これからいっぱい素敵な仲間に会えるのね、そんな寂しい顔をする暇なんかないのね。」

 素敵な仲間、ですか。その通りです、人見知りな私ですが、ここに来て新しい仲間がたくさん出来ました。これからの事を考えると、怖い所もありますが、色んな仲間に会えると思うと、やっぱりわくわくします。

「訓練の結果は、イクを倒したんだから自信を持っていいのね。」

 そう言って船の舳先を帰るための方角に向けます。

「じゃあ、また今度なのね。第11駆逐隊、帰ったらしっかり宣伝しておくのね。」

 イクさんは悪戯そうに笑って、手をふりながら私たちから離れていきました。私たちは汽笛を鳴らしてイクさんを見送ります。

 私たちに、また素敵な仲間が出来ました。

「行ってしまいましたね。」

「潜水艦って...忙しそう......」

 白雪ちゃんと初雪ちゃんがつぶやきます、イクさんは、横須賀に帰ると、またすぐにどこかに行かなければいけないそうです。

 本当はイクさんとは昨日の夕方にお別れする予定だったのですが、魚雷を探したせいで今日の朝になってしまいました、でも、そのおかげで仲良くなることができました。不謹慎かもしれませんが、すぐには見つからなかった魚雷に感謝しなければいけませんね。

 

 

 イクさんと別れて、訓練に頭を切り替えます。今日は洋上補給の訓練です。

 洋上補給は、私たち航続距離の短い船が大きな船と一緒に長い距離を走るには絶対に必要なものです。

 補給といっても、もらうのは燃料だけです。普通に航行しながら、細いワイヤーを頼りに、すごく重い魚雷や大砲の弾を送るのは、危険ですし、そんな物を積むより燃料を積もう、というのが理由です。

 やり方は出発前に聞いていましたが、相手は専用の補給艦ではなくて、ただの輸送船を改造したものだそうです。そして、艦娘ではなく、海軍の方が操船しているそうです。私が海上自衛隊だった頃の補給の方法と大きく違う所は、補給を受ける船との間隔がとても狭いことです。相手の船が専用の補給艦でない、というのが、大きな原因のようです。

 お昼頃に私たちの所に一隻の船が現れました。色は灰色ですが、私が横浜港に停泊した時に見た氷川丸のような形の船です。

「補給船から発光信号!」

「内容は、[マイヅルノアブラヲモッテマイリマシタ、ホキュウシンロ250ド、ソクリョク12ノットデカイゴウトサレタイ]です。」

 東の水平線から現れた補給船が、西に進路を取るように言います、私たちが少しでも母港に近い方に行けるように、といった配慮でしょう。

「わかりました、しばらく待ちましょう。」

 補給船の進路上にいる私たちはしばらくこの場で待つことにしました。補給といっても、ただ並んで燃料をもらうだけではありません、補給中の船は、ほとんど無防備になってしまうので、補給の順番を待っている船が守ってあげないといけません。今回は、攻撃されることもないので、補給待ちの船が補給船を囲むだけですが。

 補給船が近づくのを見計らって、動き出します、今回、吹雪ちゃんたちは補給艦の右弦と左弦で2隻同時に補給を受けます。大きい私は安全のために一番最後に一隻だけで補給を受けます。

 訓練の流れは、補給の順番が遅い2隻が警戒艦として、補給船の右前と左前を航行します。そして順番が一番近い船は、補給船の後ろで準備をします。補給が終わった船から警戒艦を変わっていき、警戒艦を交代した船は補給船の後ろについて準備をする、といった流れです。

 陣形が整うと、補給船の右後ろの準備位置から、白雪ちゃんが速力を上げて補給船に近づきます。右前から見ている私にはあまりよく見えませんが、上手く近づけたようです。

 しばらくして、吹雪ちゃんが補給船の左弦に近づきます、補給船と吹雪ちゃん、白雪ちゃんの3隻が並んで、補給船から、黒くて細い管を通して燃料をもらっています。

 補給は順調なようです、しばらくして、補給船の左舷で補給を受けていた吹雪ちゃんが給油を終えたようです、補給船から離れて、私のほうに来ます。

「はぐろさん、交代です。はぁ~疲れましたぁ。」

 補給を終えた吹雪ちゃんが私の所に交代にきました。大きな船より時間は短いといっても、ぶつからないようにするにはやっぱり集中力を使います。

「お疲れさまです、では、行ってきますね。」

「頑張ってくださいね。大きいと大変ですよ。」

「はい、がんばります。」

 吹雪ちゃんが大きいと大変、と言ったのは、大きいと補給を受ける時間が長くなることと、舵が効きにくい、といった事を心配してくれているのでしょう。気を引き締めていかないといけません。

 

「レーダー送信やめ、5番ステーション、洋上補給用意して下さい。」

 補給の準備位置に行く間に補給の準備をします。補給船の後ろの準備位置で、深雪ちゃんが補給を受けているのを見ます。事前に教えてもらっていはいましたが、やっぱり近いです、船と船の間は20から30メートルしかありません、大きな船同士が近づく距離ではありません。

 後ろでしばらく見学していると、深雪ちゃんも補給を終えたようです、補給船から離れていきます。いよいよ私の番です。

 

「補給船、準備完了の模様!」

 見張り妖精さんに知らされます。

「補給船に近接します、第一戦速です!」

 速力を上げて、相手との距離を計りながら慎重に相手の左舷に滑り込みます。

「両舷前進原速!」

 補給船と上手く並べるタイミングを見計らって速度を落とします。ここまでは順調です。

「投射索を送る!」

 補給船の拡声器から声が聞こえます、花火を打ち上げたような音と同時に、細いロープが飛んで来ます、これを私がどんどんたぐりよせれば、船につなげるための頑丈なワイヤーが繋がっている、といった仕組みです。相手の船では、甲板で男の人がせわしなく動いています、ある人はロープを引っ張ったり、ある人は機械を操作しています。

「ワイヤー取り付け完了しました。」

「わかりました、合図を送って下さい、準備完了です。」

 準備完了を相手に知らせます。

「了解、蛇管を送る、燃料、軽油、移送量40キロリットル」

 拡声器から再び声が聞こえ、黒い管がワイヤーを伝って送られてきます、燃料は軽油で間違いありません。

相手から送られてきた黒い管を甲板にある給油口につなげ、合図を送ります。

「給油開始!」

 給油船の合図と同時に燃料が送られてきます、ぺしゃんこだった管が、燃料が送られる圧力で丸く膨らみます。一瞬も気が抜けません、大きな船同士がたった数10メートルで並走しているんです、こんな危険な事はありません。

「250.5度ヨーソロー、赤3。」

 ただ平行に走っていくだけでは、だんだん相手に近づいていってしまうので、慎重に距離をはかって進路を修正します、補給が終わるまで1時間近くかかりますが、その間ずっとこれの繰り返しです、単純な作業に見えますが、少しでも失敗してしまうと、衝突してしまいます。

 相手との距離を慎重に見定めながら給油を受けます、この技術に古い、新しいはありません。張り詰めた空気の中、時間がゆっくりと過ぎていきます。

 私は引き続き、進路と速力を微調整しながら、相手との距離を保ちます。

 

 

 

「船が現れたので、いったん進路220度とする。」

 給油もあと少しで終わり、といった時に、ふいにそんな声が聞こえます、補給船からのようです。

 水平線を見てみると、一隻の輸送船がこっちに来ているみたいです、集中していたので分かりませんでした。

「3度ずつ変針します、247度よそろー、赤5。」

 補給船とゆっくり、息を合わせて小刻みに変針して、速力を調整します。補給中は、合わせるのは左右位置だけではなく、前後の位置もしっかりあわせないといけません。

 

「220度ヨーソロー、赤黒なし。」

 補給船と息を合わせて小刻みに変針して、ようやく目的の進路になりました、緊張で少し汗をかいてしまいました。そして、変針が終わって、もうすぐ補給も終わり、そんな事を考えてしまって少しのあいだぼーっとしてしまいました、その時、ガツン、という音と共に、船が揺れます、慌てて前を見ると、右弦の艦首が相手の船にこすっています。

「両舷停止!取舵5度、緊急離脱してください!」

 油をもらうための管や、それを支えているワイヤーが私の艤装からいっせいに取り外されます。こういう時に慌てて大きな舵を取ればもっとひどいことになります、ゆっくりと、慎重に、それでいて急いで補給船から離れます。

「どうしたんだ、何かあったのか?」

 私が補給艦から急に離れたのを変に思ったのでしょう、深雪ちゃんに声をかけられます。

「ど、ど、どうしよう、深雪ちゃん、ぶつけてしまいました。」

「ええぇぇぇ!!!」

「と、とりあえず謝りに行ったほうがいいですよ、はぐろさん!」

やってしまいました、緊急離脱したあとに、ぶつけた船にもう一度近寄ります。相手は艦娘ではありません、怪我人が出ていたら大変です。

 遠目で見てみると、ほとんど壊れていないようですが、ぶつかった場所が少し凹んで色もはがれてしまっています。私も少し艦首の右側の手すりが折れてしまいましたが、ぶつけたのは私です、早く謝らなければいけません。

「補給船から発光信号!」

 案の定、相手から信号が送られてきました、きっと怒られてしまいます。

 

 ・・・ずいぶんと長い文章です、きっとすごく怒っているんでしょう、信号を紙に書いた妖精さんが私のほうに来ます、ずいぶん悔しそうな顔をしています、でもぶつけてしまったのは私です、しかたありません。

「伝文は......[オキニナサラズ、ミゴトナキンキュウリダツナリ、ワレワレヲマモル、ホマレタカキカンムスノ、セツプンヲイタダキコウエイニオモイマス]です...チクショー!!」

 妖精さんが悔しそうに読み上げます、私はしばらく長い伝文の意味を考えます。

 セツプンヲイタダキ・・・セップン・・・接吻・・・

 伝文の意味を理解したはぐろは呟く。

「キス・・・してしまいました・・・・・・。」

 自分が言ったセリフに顔が赤くなります、いいえ、キスをした訳ではありません、私の艤装がちょっと隣の船にこすっただけです、それもよくない事ですが。

「はぐろさん、接吻ってどういうことですか!!」

 この声は吹雪ちゃんです、内容を見て驚いたのでしょう。

「...後で詳しく話しを聞かせてもらいますよ?」

 白雪ちゃんはいつもと同じような口調ですが、何だか少し怖いです。

「お、なんだなんだぁ、誰にキスしたの?」

「接吻...上手い言い方......」

 初雪ちゃんは内容を察したんでしょう、でも私たちのやりとりが面白いのか、助け舟を出してくれません。

「い、いいえ、ちょっとぶつかってしまって、キスなんてしてません!!」

 そんなことを言っていると、補給船の艦橋から、海軍の作業服を着た男の人が出てきました、そして拡声器のマイクを持って話します。

「補習をやるので、もう一度近接されたし、繰り返す・・・・・・。」

 低い渋い声で呼びかけられます、前まで乗っていた艦長や、乗組員の声を思い出します。給油はほとんど終わっていますが、ぶつかった事に怒るでもなく、補習をしてくださるそうです。相手の好意を無駄にする訳にはいきません。

「もう一度近接します、妖精さん、準備してください。」

 

 そして、最後にもう少しだけ訓練をしました、相手からは、油の代わりに少し大きめの木箱が移送用のワイヤーに吊るされて、送られてきました。

 今度は無事に作業を終わる事ができました。私の補習が終わると、補給船はすぐに艦隊から離れていきました。

 ここで大事なことに気がつきます、まだ私は謝っていません。でも離れていく補給船を見ると、何となく追いかけないように、と言われているような気がします。

 私は追いかけるのを諦めて、もらった木箱を開けてみます。

 移送にたえられるように頑丈に作られた木箱の中には、沢山のお菓子と日用品が入っていました、母港に帰ったらみんなで分けましょう。あと手紙もいっぱい入っています、帰ったらみんなで読んでみましょう。

「あと、これは......」

 日本酒です、任務中にお酒はいけません、未成年にお酒もいけません、吹雪ちゃんたちが間違えて飲んでしまったら大変です。しっかりと冷蔵庫に隠しておきましょう。

 お酒は怖い飲み物です、飲んだ人が失敗するのをよく見てきました。

 

 

 お酒を片付けて、艦橋に上がると、私はいつの間にか吹雪ちゃんたちに囲まれていました。

「はぐろさん、しっかり説明していただきますよ?」

「接吻ってどういうことですか!!!」

 白雪ちゃんと吹雪ちゃんの声が聞こえます、私は何も、とは言いませんが、悪い事はしていません。深雪ちゃんと初雪ちゃんはきっとわかっているのでしょう、でも私たちのやりとりを楽しんでいるのか、助け舟をだしてくれません。

 その後、少し時間がかかりましたが、さっきあったことを少しづつ説明して、二人に何とか納得してもらいました。そしてもらった木箱のことも話しました。みんな喜んでくれて、港に帰るのがもっと楽しみになりました。

 

 でも......

「はぁ......」

 はぐろは、自分の右弦の艦首を見てため息をつく。

「少し壊れてしまいました、帰ったら明石さんに怒られるかもしれません......」

 少し凹んだくらいだが、壊れた部分を見て少し憂鬱な気持ちになったはぐろであった。

 

 

 

 

 

 

「くちゅん!」

「風邪ですか?」

 くしゃみをした明石を心配そうに妖精が見上げる。

「心配してくれてありがとう、大丈夫よ。」

 妖精さんに笑顔で答える。

 体調が悪い、なんて事はない、もしかすると故障してしまった艦娘が私の噂をしているのかも。そんな事を考えていると。

「明石さん、電話です、呉鎮守府からです。」

 妖精さんが言う、呉鎮守府から電話?何だろう?

「どんな用事?」

「何でも新型の魚雷について聞きたい、という事らしいのですが......」

「新型魚雷?何それ?」

 身に覚えのない話だったが、とりあえず受話器の方へ歩いていく明石だった。




 一週間に一回ペース堅守が最近の目標になってきました、妥協してはいけません。
 感想などお待ちしています。書いて下さると嬉しいです。

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