戦に勝つには何が必要か?
それは武であり、智であったり、その答えは人によってそれぞれだろう。
力の弱い者が、力の強い者に勝つために武器は生まれた。
武器を持つ強者に勝つために、武術は生まれた。
武術の達人に勝つために、人は集団となり、集団を生かすために戦術は生まれた。
こうして人は次々に進化を遂げてきたのである。
何故、今このようなことを確認しているのかというと、特に意味はない。
ただ、目の前の光景を生み出したものとして思うのだ。
「戦いって恐ろしいな」
俺こと、南雲盾一の視線の先には、巨大な岩の雨が空を舞い、そして標的となっている汜水関に降り注いだ。
矢の雨ではなく、岩の雨である。
盾如きで防げるものではなかった。
汜水関の上では悲鳴が上がり、最初の頃はこちらに向かって放たれていた矢も今では完全に止まっていた。
投石器百台からの投石である。
実験で岩を飛ばしてみたら、想像以上に飛んだので用意してみたのだが、これは間違いなく籠城殺しとなるだろう。
こちらの20万の兵も先ほどから投石の準備で忙しく、動き回っているが被害は皆無と言っていい。
「そろそろ痺れを切らして出てくるかもな」
「……出てこなかったらどうしますか?」
「出てこなかったら梯子と衝車で破ればいい」
どのみち、初戦は間違いなくこちらの勝ちだ。
後は油断なくことを進めればいい。
隣のベディアに指示を送っていると、遂に前方の汜水関から門が開いた。
現れた敵兵の数は3千程。
あの逃げ場のない関の中で、よく岩の雨から逃げれたものである。
「あの旗は「華」? なるほど華雄ね」
まさしく演義通りである。
ただ討つ相手が、関羽からこちらに変わっただけである。
「ガウェンに伝えろ。 お前が華雄を討て、と。 ケイとパーシーは共に一万づつ率いて華雄軍を全滅させろ。
あとアーサーとトリスタで汜水関を落とせ」
俺の指示が前軍に渡り、ガウェン達に伝わり、ガウェン軍二万が華雄軍に向かった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「すまんな、霞。 私はやはり武人だったらしい」
汜水関を飛び出し、相棒の金剛爆斧を担いで、最後の特攻を仕掛けようとしていた。
当初は、汜水関で籠城をするつもりであったが、あの投石車の一斉投石により、一気に汜水関は窮地に立たされた。
射程距離外からの攻撃で一方的に攻撃された時、逃げ場のない籠城では全滅は時間の問題であった。
岩から逃げようとする部下達を一喝し、軍としての役割を果たすことはできそうだが、それでも半数は犠牲になった。
後方に下がることは、奴らを洛陽へと引き入れることになり、ならばここで籠城していても、投石、そして梯子でも掛けられれば一息で落とされることになるだろう。
ならば相手の隙を突き、一撃を喰らわした後、再び籠城し時間を稼ぐしかなかった。
故に、私自ら先頭に立って仕掛けたのだが、
「くそ、20万という大軍だからこそ、動きが鈍いと思ったのだが、まさかここまで反応が良いとは」
ならば、一度と敵と戦って、下がるしかあるまい。
そう覚悟を決めた華雄は、金剛爆斧を握りしめた。
そして両軍はぶつかり合う。
華雄は襲い掛かる敵兵の首を落とすと、そのまま直進を開始する。
その決断は、今までの華雄の華雄軍の戦歴からの自信であったが、それが悪手となった。
「こいつら、強いっ!!」
目の前の敵は烏合の衆でなかった。
間違いなく、訓練と実践を重ねた精鋭部隊であった。
華雄軍と、いや華雄軍以上の練度に華雄は慌てて指示を出そうとするが、目の前に現れた男により、足が止まる。
「お前がこの軍の将か?」
目の前の全身鎧で固めた重装備の将に、華雄は金剛爆斧を向ける。
そんな華雄に対し、男は何も言わずに剣を抜くと、手綱を引いた。
迫りくる敵将に、華雄は金剛爆斧を振り下ろそうとした瞬間、すでに男の剣が華雄に向かって振り下ろされていた。
咄嗟にその一撃を受け止めた華雄は流石と言っていい。
だが、華雄にできたのはそこまでだった。
(馬鹿なっ!! 私が完全に力負けしている!! それにこの男いつの間に剣を振り抜いた!?)
じりじりと迫る刃に、華雄は必死に堪えていたが、
「終わりだ」
目の前の男から発せられた言葉に、金剛爆斧の柄は切られ、華雄はそのまま肩口から斜めに切り落とされた。
「……無……念」
ただ男にそう言い残して、華雄は地面へと倒れ伏せた。
そんな華雄に構うことなく、男———ガウェンは動きが完全に止まった華雄軍へと、ケイとパーシーが率いる軍勢と共に襲い掛かった。
いくら精強の華雄軍も六倍以上の兵力差に、圧倒的な強さなガウェンの前に打つ手はなかった。
数分で全滅した華雄軍をそのままに、ガウェン軍はそのままアーサー軍と連携し、汜水関に襲い掛かった。
こうして汜水関はたった一日で合従軍のモノとなったのである。