南雲盾一と不思議な神器   作:康頼

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天幕内に戻った俺達は、すぐに二十万の兵達を編成し直す。

その際、汜水関に間者を飛ばし、地形に将、兵力と調べることができるすべての情報を集めて、攻略を考える。

途中、曹操と劉備が来たみたいだったが、会うつもりはなかった。

曹操には、先陣準備のため会うことはできないと伝えた。

その際、曹操の連れが激怒していたようだったが、曹操自身が止めてくれたようである。

劉備は、先陣の戦略についての話し合いだったが、二千の兵力に何ができるのか? と思ったため、各自奮闘すべしと伝え、話し合いを行わなかった。

そうしているうちに夜が明けて、俺達は汜水関の前陣へと躍り出た。

 

「さて、そろそろやろうか。 先陣のガウェンに伝えろ」

「はっ!」

 

俺の言葉にベディアが鐘を鳴らす。

先陣のガウェンへの合図だ。

先陣にはガウェンの他にも、ケイやパーシーという新人の将を入れている。

その背後にはランスロの第二陣、そしてトリスタとアーサーの第三陣が控えている。

 

「実際は、そこまで使う気はないのだがな」

 

俺は先陣に設置された秘密兵器を見る。

蒼悟の地から苦労して持ってきた兵器が役に立つ時がきた。

関攻めを初めからわかっていたのだから、用意するのは当たり前である。

二十万の兵力は持っているが、無駄な犠牲は避けるべきだろう。

 

「さあ、始めようか」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

合従軍が結成された。

袁紹を総大将とする中華の豪傑達が集まった軍勢が、洛陽に迫ろうとしている報告は董卓軍の耳にも届いていた。

その勢いを挫くべく董卓達は、最初の戦場となるだろう汜水関に、猛将の華雄と張遼を送り込んだのである。

 

「軟弱どもを討つべきだ」

 

と気勢を上げていた華雄を、止めるために張遼はこの汜水関に来たといっても過言ではなかった。

だが、その華雄も目の前の光景に完全に飲まれようとしていた。

目の前には一面、敵兵。

それは途切れることなく、遥か後方まで続いている。

当初の話では十万にも満たないと言われていた。

それでも六万の董卓軍には脅威であったし、それゆえに汜水関で籠城をするつもりであった。

だが、その考えは目の前の光景により、甘い考えだったと否定された。

 

「なんや……これ? 十万どころか、その三倍以上はいるやないか?」

 

叫ぶことも喚くことも許されない絶望的な数。

それは間違いなく、先の乱で用いた官軍の兵数を遥かに超えるものであった。

この光景は、張遼、いや董卓軍の誰もが想像していなかったことである。

だが、それも無理のない話である。

中華全土の兵達を集めても届くか届かないか、というほどの数である。

 

「旗は『南雲』? あかん、聞いたことも無いわ」

 

そしてその軍勢は皆、南雲と文字を描かれた旗を持っていた。

つまり前方にいる大軍はすべて、同じ勢力のものであるということである。

それはどう考えてもあり得ないことであった。

名も知らぬ無名の軍勢が、漢の全勢力の中で圧倒的な軍勢を持っているということに。

 

「張遼、お前は洛陽に向かえ。 私が時間を稼ぐ」

「は? 何言ってんねん!? 困難お前ひとりで止められるはずがないやろ!?」

 

この光景を見て頭が可笑しくなったんか、そう言った張遼の言葉に、華雄は淡々と言った様子で答えた。

 

「それはこっちの台詞だ。 まさか、お前はこの汜水関でアレを止めることができると思っているのか」

 

華雄の言葉に、張遼は唾を呑み込む。

確かに華雄の言う通り、いくら汜水関と言えど、これほどの勢力差がついていれば容易に落とされることになるだろう。

 

「はっきり言って、私達に勝ち目は無い。 こちらに飛将軍と呼ばれた呂布がいるだろう。 あいつの武は間違いなく天下最強だ、だがこの数には固の武は無意味である」

 

董卓軍には、華雄や張遼の他に董卓軍最強の呂布という隠し玉がいる。

三万の兵すら敗走に追い込んだと言われる逸話の持ち主だが、今度はその十倍の数である。

どうあがいても不可能であった。

 

「だから、我々にできることはひとつ。 お前がこの情報を伝え、この地から落ちのびる。 それしかあるまい」

「華雄、アンタは……」

 

逃げないのか、そう続けようとした張遼の言葉に、華雄はゆっくりと首を横に振った。

 

「私は残る。 どのみち、ここで董卓様が逃げる時間を稼がなければならないからな」

 

その姿に悲壮感はなかった。

穏やか。

張遼は、華雄のそんな顔みたことはなかった。

 

「わかった……言っとくけど、華々しくとか考えんなよ? 恥を晒してもええ、命を繋いでまた会うんや、わかったな?」

「わかっている、さすがの私も出ようとは思わん」

 

その言葉を聞いた張遼は、その場を後にしようと華雄に背を向けた。

 

「じゃあな、華雄」

「ああ、また後で、だ。 霞」

 

走り始めた張遼———霞を見送り、華雄は、再び眼前の光景を見る。

 

「打って出るな、か……相手が許してくれればいいのだがな」

 


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