南雲盾一と不思議な神器   作:康頼

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いつもは静かで穏やかな村中に、悲鳴と怒声が響き渡る。

突然の惨劇に村人達は我先にと村中を逃げ回った。

だが、馬に乗った盗賊達から逃げることは不可能で、後ろから斬りつけられる者。首を刎ねられる者、鉄槍で串刺しにされる者、と大勢の村人達が命を奪われた。

若い娘達は盗賊達に捕まって、最悪の時が訪れようとしていた。

 

そんなときである。

彼らが現れたのは。

 

突然、村の柵を打ち砕いた彼らは、その勢いで盗賊達に襲い掛かった。

数は圧倒的に盗賊達が上、それに対し現れた者は二人だけだった。

だが、その姿はまさしく威風堂々。

見覚えはないが、間違いなく彼らは名が高き将のものだろう。

そんな彼らに盗賊達は一目散に飛び掛かった。

四方から襲い掛かる賊。

絶対絶命の危機に、将は焦ることなく腰の眩き宝剣を抜いた。

 

次の瞬間、周囲にいた賊達は二つに分かれて、呆然とした表情を浮かべたまま絶命した。

そして将達の剣舞が始まる。

 

片や流れるような剣捌きはまさしく眼にも止まらぬ神速の剣である。

賊達はその剣技を捉えることもなく、そのまま地に伏していく。

 

片やその一撃はまさしく豪剣の一言である。

容赦ない暴撃に巻き込まれた賊兵は原型を留めることなく砕け千切れ、その骨は後方に待機していた賊達に突き刺さっていく。

 

素人目でも実力差は歴然。

ゆえに賊達は理解した。

先ほどまで捕食者だった自分達が、今度は哀れな生贄と化したことを。

そして彼らはこの教示を後に生かすことなく、この地で命の幕を下ろした。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

武力100。

 

三国志のゲームで唯一、このステータスを持っているのは後漢末期の最強の将として名が高き、呂布一人のみである。

三国志の創作物として単騎で、三千の兵を全滅したりとか、たった一人で砦を落としたとか描かれる武力チート野郎である。

まあ、知力が低かったり、裏切りやすかったりという特性でバランスをとっていたキャラであったが、とりあえず俺が今言いたいことは一つである。

 

「やりすぎたな」

 

気分はまさしくテヘペロである。

とりあえず、村に向かったのはガウェンとランスロであるが、とりあえず彼らは強すぎた。

ランスロの剣は早すぎて、遠目からなら何をしているかわからないが、近づいた賊兵が細切れになっていた。

対するガウェンは、ランスロほど剣が早くないため、遠目から微かに見える。

しかし、それは刀身がというわけではなく、何やら凄まじい轟音により変なエファクトがついているように見えるのだ。

ちなみにランスロの剣がサイコロステーキなら、ガウェンの剣はミンチである。

とりあえず、今後当分肉が食えないと思う。

 

そして、もう一人のチートは隣にいるトリスタである。

彼はその自慢の弓で、村から逃げようとする賊を射殺している。

その威力は間違いなく、尋常ではないものであり、賊三人くらいを串刺しにして殺すこともできるようである。

速射性も、あれ? 弓ってこんなに軽快に引くものだっけと思うくらい矢を放っており、まるでガトリングのようである。

 

唯一、剣を抜いていないアーサーだが、間違いなく三人と同じレベルの強さを持っているのだろう。

そんなことを考えていると賊の数が明らかに少なくなっていることに気づく。

トリスタのいう話では、1000人近くいたようであるが、今のところ見当たるのは100人くらいである。

トリスタも弓を撃ち終え、ガウェンが討ち漏らしがいないかと村の外を馬で走っている。

ラストスパートと言わんばかりにランスロの剣は加速し、最後の一人をサイコロにした。

 

「終わったようですね」

「ああ、何っていうか呆気なかったな」

 

討ち漏らしがいなかったのか、こちらへ戻ってきたガウェンと一緒にランスロのいる村の中へと馬を進めた。

 

 

 

村に到着して待っていたのは、村人の礼であった。

 

「この度は、村の危機を救っていただき、誠にありがとうございます」

 

恐らく村長だろう老人の言葉と一緒に数人の村人が頭をこちらに下げた。

残りの村人は、死んだ村人や賊の遺体を村の隅へと運んでいた。

時折、あまりの惨劇に嘔吐する村人がいたが、流石にミンチとサイコロはキツイだろう。

俺も先ほどから喉元まできているアレを止めておくのに必死である。

 

「んぐ……気にするな、っていうのは少し言葉が悪いな、正直なんと言えばいいのかわからないが」

「いえ、貴方方が来なければ、被害はもっと大きくなっていたでしょう」

 

引き攣った笑みを浮かべる村長の周りには、沈痛な表情を浮かべた村人達が悲しみを堪えていた。

その姿を見ても、不思議なほどに俺の心に響くものがなかった。

自分自身に起こっている異常を見過ごすことができないが、それ以上に確認しておかなければならないことがある。

 

「こんな状況で聞くのが、悪いがここは何処なんだ」

 

「何処、とは?」

「実は俺達は旅人なんだが、地図を無くしてしまってな。 結構な距離を歩いてしまったため、場所がわからないんだ。 一番大きな都市って何処になるんだ?」

「そう、ですね……ここから北に行くと陳留と言われる都市があります」

 

陳留。

その言葉を聞いて、俺はある疑問が解けた。

何故、神さんが神器として手渡したゲームの中身が、かの時代のことだったのか。

そして、目の前で討ち果たした賊達に巻かれた黄色の布。

その二つと陳留の言葉を繋げて出る事実は。

 

「最後に確認しておきたいのだが、その都市の太守の名前は?」

「私も会ったことはありませんが、曹操様という方でございます。 聞いた話だとどうやらすごく素晴らしい方だと」

 

村長の言葉により、俺の考えた馬鹿げた考えを肯定した。

ああ、本当の曹操ならば、優秀に違いないだろう。

後に三国の一つ、魏の礎を作った大英雄になるのだから。

 

どうやら俺は三国志の世界に来たようである。

 

 

 

 

のちにこの出来事が、かの曹操の耳に入ることとなり興味を持たれることになるということを、この時の俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

 


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