南雲盾一と不思議な神器   作:康頼

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人生とは一度きりの大切なものである。

悲しいことや楽しいことが、待っているそんな未来を後悔なく生きてほしい。

それが私の願いである。

 

南雲盾一。

 

 

 

っていうより、私は二度目の人生に突入です。

 

眼を開くとそこは真っ青な空が広がっていた。

白い雲は殆どなく、照りつけるような暑い陽射しが瞼の奥を刺激する。

そこは、間違いなく一面真っ白な妙な場所ではなかった。

 

体を起こして周りを見渡す。

どうやらここは荒野地帯のようである。

視界の届く遥か向こうに見える山々に見覚えはなかった。

別の世界に送ったといっていたので、俺が知っているところでは間違いないが、せめて俺の常識が通じる場所であってほしいと願う。

 

「その願いはすぐに破られることになるのでした」

 

周囲を見渡して、明らかにその願いは難しいと理解した。

道もなく、当てもない。

空を飛んでいるのは、鳥くらいで飛行機が飛んでいるということはない。

というよりも、科学を感じさせるところがかけらも存在しなかった。

唯一の科学と言えば、今手に持っているゲーム機くらいだろう。

 

とりあえずゲーム機に電源を入れてみる。

程なくして、音楽が流れ、画面にグラフィックが現れる。

その聞き覚えのある音や映像に思わず、声をだしてしまう。

 

「あーこれか。 昔よくやったよ」

 

そのゲームとは戦略シュミレーションゲームで、古代中華の三国志を題材にした超人気ゲームである。

自分自身が、国の君主になって軍勢を大きくしていくのは、何度やっても飽きないくらいで、よくプレーした覚えがある。

人によれば、縛りプレーと呼ばれるもので、より難易度を上げて挑戦する者がいたが、俺がハマっていたのは逆のプレースタイルである。

俗にチート全開の最強軍団で中華を蹂躙するプレーである。

ステータスオール100の超人達を百人作って、原作キャラを蹂躙するプレーをやったのを思い出す。

最終的に、斬首ばかりやってしまい、だいぶ昔とはいえ中々残酷なプレーをしたものである。

 

「そうそう、なんか劉の性とか曹の性のキャラも作ったけど、こういう三国志関係ない名前とか登録したよな」

 

例えば、と俺はゲームを操作し、オール100のキャラクターに『アーサー』なんてつけてみる。

明らかに中華の顔に西洋の名前というミスマッチに、より懐かしさを感じた。

 

「アーサーってそう言えば同時に円卓の騎士とかにもハマったよなー」

 

なんて、過去を懐かしんでいると、突然俺の背後から。

 

「お呼びでしょうか?」

 

声が聞こえた。

その声に思わず振り返ってみると、そこには。

 

「え?」

 

ゲームのグラフィックをそのまま再現した人間がその場にいた。

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

「おお、マジか」

 

とりあえず、実験の意味も込めて思わずオール100のキャラを作ってみた。

 

「お呼びでしょうか主様」

 

イケメンのグラフィックで作ったキャラ『ランスロ』

 

「我々がいる限り」

 

髭もじゃのグラフィックで作ったキャラ『ガウェン』

 

「主様には敵はいませぬ」

 

イケメン2のグラフィックで作ったキャラ『トリスタ』

 

の三人である。

名前の通り、彼らは円卓の騎士から名を取っているが、名前入力は四文字までだったのでこうなった。

そしておまけと言わんばかりに、

 

エクスカリバー武力10

アロンダイト 武力10

ガラティン  武力10

フェイルノート武力10

 

の最強武器をエディットし、最高の馬や兜、鎧なども装備した。

最強の戦士の誕生である。

やってしまった……されど後悔はない。

 

なんて馬鹿なことを考えていたが、実際問題、神さんが神器といっていたのは強ち間違いではないかもしれない。

神さん、ありがとう。

そんな風に感謝しようと思っていたが、冷静に考えるとそんな神器を渡さないといけないほどの場所なのかと思い、感謝の気持ちは忘れた。

 

「主様?」

「いや、何でもない、です」

 

アーサーの言葉に返事を返しながら、とりあえず良い護衛ができたので、とりあえず動こうとしたその時、トリスタが何かに気が付いたかのように眼を細める。

 

「砂埃、馬……あれは村」

 

眼を細めるトリスタに習って、俺もそちらの方を向いてみる。

しかし、馬や村なんて見えない。

ただ同じように山々が続いているように見えるだけである。

 

他の三人も恐らく見えていないのだろう。

眼を細める俺達に対して、トリスタは指をさす。

 

「とりあえずは向かってみませんか? あそこがこのあたりで一番近い村のようですし」

 

トリスタの言葉に全員が乗馬を行う。

俺自身の馬を出すことを忘れていたため、アーサーに乗せてもらい、馬を走らせていく。

 

「しかし、本当に村なんてあるのか?」

 

馬を走らせど、まったく馬が見えてこないことに対し、思わずトリスタのいうこと疑っ

てしまうと、トリスタは何でもないように笑みを浮かべる。

 

「こう見えて、私は眼には自身がありますので」

 

自信に満ちたその言葉に、そう言えばトリスタは弓使いの設定だったな、と先ほどの設定を忘れていた。

程なくしてトリスタの言った通り、前方に村と思わしき建物が現れた。

村からは煙が上がっており、微かにだが遠く離れたこの場所にも悲鳴が聞こえた。

村に賊。

現代社会に生まれ、このような状況には今まで出会ったことはなかった。

間違いなく、目の前広がるのは命が刈り取られ続ける地獄絵図。

そんな惨劇を目の前にして、俺はランスロ達を見る。

彼らはその光景を顔色一つ変えることなく、眺めていた。

彼らは、英雄の名を借りただけの虚構の存在。

感情というものは存在しないのかもしれない。

ならば、俺はどうなのか?

道徳というものを習い、感情というものを抱えた人間として生を全うした。

なのに何故なのだろうか?

ここまで目の前の惨劇が心に響かないのは?

 

「生きていた頃は、もう少し感情豊だった気がするけどな」

 

クールが売りになっていた俺だが、それでも悲しいことに泣き、理不尽なことに怒りを覚え、友といることで笑い、生きることに楽しさを見出していた。

これは神さんが言ってた死に様を知らないことに関係があるのだろうか?

それにこの地に俺を送った理由は何なのだろうか?

 

「主様、行かないのですか?」

 

アーサーの言葉に俺は後ろに振り返る。

彼らはこの光景を耐え難いものだと思ったのだろうか?

そんな俺の疑問をアーサーの次の言葉で的外れだったということがわかる。

 

「村人に話を聞かないと、ここが何処かわかりませんよ?」

 

まるで人の命をどうとも思っていない発言に、俺は彼らはやはりそういう存在なのだと実感した。

だが、その言葉はこれからの俺達の行動にとっての大きな理由になる。

勿論、盗賊側に混ざるという選択肢もあったが、そちらへ混ざるべき理由も無いため、俺はアーサー達に指示を出した。

 

「では、行くとするか」

 

ランスロとガウェンの二人を先頭に俺達は村へと馬を走らせた。

 

 

 

 

 


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