南雲盾一と不思議な神器   作:康頼

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「ふむ、汜水関は少しやり過ぎたかもしれないな」

 

馬の背の上で揺られながら盾一は、先頭に視線を向ける。

現在合従軍は、洛陽を守る最後の難所とされる虎牢関へと向かっていた。

南雲軍はというと、先陣から少し離された場所で先頭の曹操軍と公孫賛軍を眺めていた。

汜水関の戦い後の軍議で、再び先陣を志願したが袁紹と曹操の手により却下とされた。

合従軍として戦う以上、南雲軍だけで戦うわけにはいかないと言って、曹操軍が先陣となったのだが、間違いなく警戒しているのだろう。

この中軍に南雲軍を配置したということは、後方の袁紹、袁術軍と前方の公孫賛、曹操軍で囲むようになっている。

最も、二十万の南雲軍ならばこの程度の包囲など無いに等しいものだが、それでも被害は大きくなるだろう。

それにその油断こそが、命取りになるに違いない。

石橋を叩いて渡るどころか、石橋を爆破して新しく橋を作って渡るほどの慎重さが、この乱世で生き残るには必要だ、と盾一は気を引き締めていた。

 

———のちに争うことになる曹操や袁紹が自ら戦うと言っているんだ、こちらにメリットこそあれど、デメリットはない。

武名を上げる機会は奪われることになるが、別にこちらとしては武名も名誉も必要ない。

今、俺がすべきことは他軍の動き一つ一つを観察し、対策を練ることである。

 

「なんなら、董卓軍には頑張ってもらいたいものだ。 曹操や劉備、袁紹から兵だけではなく将も奪ってもらうと有難い」

 

劉備軍には関羽、曹操軍には夏侯惇という猛将が、この地で死んでくれたら有難い。

ステータスが最大値のアーサー達なら負けることはないとは思うが、別に強敵と戦う必要性はない。

 

「ベディア、後方をアーサーとトリスタに守らせろ。 ガウェンはそのまま前方を、ランスロを含む残る将達は俺の周りに集めろ」

「かしこまりました」

 

凛とした佇まいのベディアが走っていくのを見送ると、俺は右方に展開している劉備軍に視線を向ける。

 

「さて、天下最強の呂布の武でも拝みに行こうか」

 

何人死んでもいいから、討ち取ってくれよ。

劉備や曹操達に願いを込めて、俺は書簡を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

汜水関の訃報が届いたのは、張遼———霞は洛陽に戻って数時間後の出来事であった。

 

「華雄軍、一万五千は全滅。 投降した者も皆生き埋めにされたらしいわ」

 

顔を青くさせながらも、冷静に努めようとした董卓軍の軍師———賈駆の肩は微かに震えていた。

華雄は賈駆の指示通り、籠城を行っていた。

だが、相手はとんでもない方法で、華雄を引きずりだし塵殺した。

華雄を討ったのは南雲軍ということはわかっている。

だが、最後に華雄と戦った将の名前はどう調べても出てこなかった。

 

「華雄を討ち取った者はそのまま首を取らずに、汜水関を攻め落としたらしいわ。 実際華雄の亡骸を拾ったのは劉備軍だったらしいわ」

 

誰もが一騎打ちの時は名を高らかに上げるものだ、文官の賈駆には理解できないことだが、華雄は武人の誇りゆえにだと自信満々に言っていた。

だが、華雄を討ち取った者はそれすらに興味がなかったのだろうか。

 

「なんや、華雄はそんな死に方をしたんかい……あの誇り高いアイツを、南雲とかいう糞は……」

「霞……」

 

冷静になりなさい、と告げようとした賈駆に霞は手を突き出して、その言葉を止めた。

 

「わかっとる。 これが戦っていうもんくらいわな」

 

賈駆にそれだけを告げると霞は、そのまま振り返って歩き出した。

その行動に賈駆は慌てて声をかけた。

 

「霞、何処に行くの?」

 

まさか、合従軍のところに行かないでしょうね?

その言葉を悟っていたのか、霞はこちらに振り返ることなく、右手を振った。

 

「もう寝るんや。 戦ってないとはいえ、流石に汜水関から走ってきたのは堪えたわ」

 

そのまま寝室に向かおうとする霞に、賈駆はほっとした様子でため息をつくと———次の瞬間、そのあまりの迫力に唾を呑み込んだ。

 

神速の用兵術を扱い、戦場を縦横に走り抜ける将。

それが董卓軍第二の将とされる張遼そのものであった。

言葉を失った賈駆を放って、霞は一人薄暗い廊下を歩く。

 

人が、友が死ぬのは悲しい。

そんな当たり前のことは、この手に刃を握ったその時から覚悟していたことである。

それが乱世、それが戦である。

だからこそ、

 

 

「そうや、戦で人が死ぬんは当たり前や。 だからお前らも————」

 

死んでも文句は言わんよな?

 

友の敵は自分が取る。

静かなる闘気と冷ややかな殺意を身に纏い、霞はその場を後にした。

 

 


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