南雲盾一と不思議な神器   作:康頼

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プロローグ

「おお、こんなところで死んでしまうとは情けない」

 

そう言いやがったのは、白いひげの白服のおっさんであった。

明らかにもこもこしているひげに、もしも赤い服を着ていると間違いなくサンタだろうと思ってしまう風貌である。

しかし、残念なことに目の前のおっさんはサンタではない。

微妙に小汚い恰好をしたおっさんこそ、神なのである。

 

「新しいな……」

 

おっさんを見て思わず零した。

おっさんの来ているTシャツには神の一文字が書かれていた。

まるで有難みがない神様だ。

Tシャツのクォリティも明らかに浅草などで外国人向けに作っているくらいのものだろう。

 

「おお。こんなところで死んでしまうとは情けない」

 

どうやら反応をしないと先に進まないらしい。

というか、微妙にしたり顔なのがムカつく。

そんなにそのフレーズが気に入ったのだろうか?

 

「はいはい、聞こえているって」

「うむ、お主も気づいている通り、儂が神である」

 

おっさん、改め神さんの宣言により、やはり目の前のおっさんは神だったようだ。

俺自身、神を信じたことはないが、流石に理想とは違う目の前の小汚いおっさんにはがっかりである。

 

「お主は南雲盾一で相違ないな」

「相違ないよ。 ってやっぱり神さんって人間とかの名前を覚えておくものなの?」

 

だったら凄いな、と思う。

そんな俺の質問に神さんはにこりと笑う。

 

「知らん」

「ですよね」

 

期待はしていなかったが、やはり神さんも人間一人一人を覚えておくことはできないらしい。

そんなことを考えながら、俺はようやく実感した。

 

「そうか、俺は死んだのか」

 

目の前のおっさんのインパクトのせいで忘れていたが、俺は死んだらしい。

実感なんて全くないが。

 

「だからそう言ってているじゃろ」

「なるほどね。 でここが天国か? 周りが真っ白過ぎて何も見えんけど」

 

周囲を見渡してみるが、ただ一面に真っ白な空間が広がるだけ。

地面も壁も天井も見えないどこまでも続く場所。

天国というのは、そう素晴らしいものでもないようだ。

つうか、坂も川も渡らなかったのだが、本当に天国なのだろうか?

 

「それは人の考えたものだろう。 死なんてただの無。 地獄も天国も存在しないわぃ」

「何とも夢のない話……って今俺は口に出したか?」

「ふっ、心を読むことなんぞ造作もないことじゃ」

 

自慢げにそう言う神さんに、へぇーと相槌を返す。

そんな俺の反応が、面白くなかったのか神さんは眼を細めてこちらに視線をぶつける。

 

「ノリの悪い奴じゃな。 お前本当に高校生か?」

「とりあえず、ノリの悪い高校生もいるよ」

 

この神さんは、高校生はノリだけで生きていると思っているのだろうか?

 

「実際、死んだんだろ? なら俺がどうすることもできないじゃん」

「まあ、そうなんじゃが。 その、死にたくないっとか、若い身空でーとか、無いのかの?」

「ないよ。 別に不満もなかったし、やり残したこともない、満足した人生だったよ」

 

実際、不満等は全くなかったが、ただ一つ気になることと言えば、俺はどうやって死んだんだということだ。

 

「む? お主、覚えておらぬのか?」

「覚えてないよ。 って今心読んだよな?」

「ふむ、それは困ったぞ」

 

俺の指摘を無視して、何やら難しい顔で考え込む神さん。

しかし、心読めるなら、俺別に喋らなくてもよくね?

 

「一応、神の前じゃから、楽するのはやめてほしいのじゃが……それで何が困ったのかというとじゃな、お主が死んだときの記憶がないことじゃ」

「へぇ、記憶がないとどうなるの?」

「お主は死ねない」

 

それってどういう意味?

つまりは、生き返るってこと?

 

「いや、それは不可能じゃ。 理を捻子てまで命を甦らせるということは儂にもできん」

「そうなんだ。 神様でもできないこともあるんだな」

 

寧ろ、理のほうが神なのかもしれない。

そんなことを考えていると、俺はこれからどうなるのだろうか?

 

「まさか、天使とかやれっていうんじゃないだろうな?」

 

流石の俺も天使はできないぞ。

と考えていた俺に、神さんは呆れたようにため息をつく。

 

「それこそまさかじゃ。 お主みたいな無表情無感情ノリの悪いやつを天使にできるはずがない」

 

ノリは関係ないと思う。

ならば、どうすればいいのか?

 

「お主には、今、ある世界にいってもらおうと思う」

 

神さんの予想すらしていなかった提案に俺は思わず首を傾げる。

 

「ん? 生き返ることはできないんじゃなかったっけ?」

「それは現世にじゃ。 今からお前に行ってもらおうと思うのは、少し訳アリの世界じゃ」

「訳アリって……」

 

そんなことを言われて、行きたいと思うやつはいないだろう。

 

「心配するな。 お前にはこれを渡しておく」

 

親指を立て、グッジョウブとウィンクをかます神さんに、イラッ☆としながら小さな箱を受け取った。

箱の中を開いてみると、そこには家庭用携帯ゲーム機が入っていた。

 

「これゲーム機だよね?」

「神の神器じゃ。 これがお主を守ってくれる」

 

明らかに人気ゲーム機を渡してくる神さんに、俺は突き返そうとする。

そんな俺にゲーム機を押し付けようとしてくる神さんが眼を見開いた。

 

「我がまま言うんじゃありません!!」

「我儘はお前だろうが!! っていうか、まだ行くと決めてねぇぞ!」

 

勝手に送ろうとする神さんだったが、俺にゲーム機を投げてそのまま後ろに下がる。

思わず、ソレを受け取ってしまった俺に一言。

 

「幸運を祈る」

 

親指を立てて、再びウィンクをかましてくる神さんの目の前で、俺は突然、その場から落下した。

 

 

 

 


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