プロデュエリストになる第一条件はまずプロのライセンスをもつことである。スポンサーがなくとも、ライセンスさえあれば一応はプロデュエリストを名乗ることは出来る。
尤も現実的にスポンサーがいないとプロデュエリストは収入も見込めない上にプロとしての活動もできず、リーグで戦うことすら難しいのでスポンサーの存在は必須とすらいえる。
ライセンスだけで戦い抜けるようなデュエリストはそれこそ伝説クラスの実力者くらいだろう。有名なノースポンサーのプロとしては武藤遊戯などと幾度も戦った事のある歴戦の決闘者のハーピィ・レディ使いなどが挙げられるだろう。
しかしスポンサーがなくともプロデュエリストを名乗ることはできても、ライセンスなくてはどれだけの大企業や大財閥がスポンサーになろうとプロデュエリストになることは出来ない。
プロのライセンスをとる方法は幾つかあるが、一番メジャーなのはスポンサーからの推薦を得るというものがあるだろう。プロリーグで活躍するプロデュエリストを多く抱える団体がプロリーグ協会にライセンスを申請し受理されれば新たにライセンスが発効されるのだ。デュエル・アカデミアの卒業生などの多くもこの方法でプロへの道を歩んでいるし、有名大会で優勝したデュエリストがスカウトされる時もこの方法でプロになっている。
もう一つの方法はプロデュエリスト試験をクリアして獲得することだろう。ただし上記の方法とは異なり、実技試験や筆記試験双方を突破する必要があり、突破したとしても面接を通らなければならないので狭き門といえる。仮に全てクリアして合格できたとしても、ライセンスを獲得しただけの無名ではスポンサーになってくれる企業も見つかり難いので、合格したからといって成功が約束されるわけでもないだ。
しかも有望株のデュエリストの殆どはスカウトが発掘済みであることが多いので、プロになって活躍できるデュエリストは一握りだ。この方法で見事プロデュエリストとして大成を果たした者にはミズガルズ王国のプリンス・オージーンやデステニー・オブ・デュエリスト、DDこと本名カイル・ジェイブルスなどがいる。
そんな中……今日のプロデュエリスト試験会場はざわめきに満ちていた。
ある日ふらりと現れた一人の男。その男は筆記試験で合格点を優に出すと、その後の実技試験でも驚くべき成績を叩きだした。
実技試験は合計三十人の試験官と連続でデュエルを行い、その総合成績で判断される。
試験官は誰も彼も元プロデュエリストばかりなので、一勝するだけでも難しい上にそれが30通りである。大体15勝もすれば合格は硬いといわれ、20勝なら文句なしで合格だ。
だというのに彼はその試験で30戦30勝0敗。しかもそのうちの17はワンターンキルで決着をつけている。もはや次の面接試験すら必要ないほどの圧倒的な成績。
試験官の一人はこれほどの男がどうしてスポンサーの目にも留まらずに、と疑問に思ったが、
「そうかっ!」
どこかで見た事があると思っていた彼の顔を思い出したことで疑問は氷解する。
アメリカ国旗の柄のバンダナと目を覆い隠す黒いサングラス。生えた無精髭は不衛生さよりも年季の入った野性味を醸し出していた。
彼の名を試験官は良く知っていた。あの当時を生きたデュエリストなら知らないはずのない名前だった。
「バンデット・キースが、帰って来たのか……」
この日、嘗ての伝説が表舞台へと舞い戻った。
だが試験官は気付かなかったが表舞台に戻って来たのは彼だけではない。
キースと同じくネオ・グールズに身をやつしていたパンドラもまたキースと同じように別の場所でプロのライセンス試験を受けていた。
人形と呼ばれた少年も自分の罪の贖罪のためにも、得意とするパントマイムを活かし人々を喜ばせるような仕事を探して努力していた。
明けない夜はない。終わりのない嵐もない。長い長い暗闇から漸く抜け出した彼等はこれから堂々と光りの道を歩いていくのだろう。
ちなみにその頃、
「フフフフフ、私レアハンターはここに新たにニュー・ネオ・グールズの結成を宣言する。伝説のデュエリスト、城之内を倒し三千年前の神官シモン・ムーランの生まれ変わりの私がリーダーだ。……私がリーダーだ! 大事な事だから二度言ったぞ」
「よっ! リーダー格好良い!」
「ヒャッハー! いつかあの三人から三邪神を奪い返してやるぜぇーー!」
「グールズに栄光あれぇえええ!!」
アホはいなくならなかった……。
しかし肝心のリーダーの頭もアホなので危険性は少ないだろう。出来る事といったら精々丈が三邪神の所有者であると言いふらしまくったり、海馬コーポレーションのブルーアイズ像に落書きをすることくらいだ。
頭の残念なレアハンターがリーダーでいる限り、彼等は少しだけ迷惑な愉快な集団として生きていくことになるだろう。
終わりというのは新たなる始まりであると人は言う。
丈もその言葉に賛成だった。終わるにしてもただ終わるだけというのは悲しい。エピローグは同時にオープニングが始まるのだと思えば、これからの未来に思いを馳せることもできるだろう。
だがこれが新たな始まりだと言い聞かせても、なんともいえぬ切なさは消えてくれないものだ。
丈と亮がアカデミアに入学し、そして吹雪という新たな友を得てからの三年間は振り返ってみればほんの一瞬の出来事のようであった。
楽しい時間ほど早く終わってしまうというが正にそうだ。楽しい三年間はあっという間に終わってしまった。
デュエル・アカデミア中等部は今日卒業式を迎えた。
檀上では卒業生代表ということで首席兼生徒会長でもあった亮が話している。亮はクールでいるようで基本的にはデュエル馬鹿だが、ああいった仕事もそつなくこなす器用さも持っている男だ。卒業生代表のスピーチもスラスラと話していた。
『私達はこの三年間、アカデミアで多くの事を学んできました……』
檀上で喋る亮の言葉が耳に届く。何気なく隣を見ると、吹雪も今度ばかりは真剣に檀上を見守っていた。
亮のスピーチに釣られて、丈もこれまでのことを回想する。
「ライバルは多ければ多い方が良い。丈、俺はお前と一緒にデュエルアカデミアという新天地で実力を高め合っていきたい。どうだ、お前も一緒にアカデミアに来ないか」
あの言葉から全てが始まった。もし亮が自分をアカデミアに誘っていなければ、確実に現在はなかっただろう。
「君だね、出席番号2番くん。僕の対戦相手は」
最初の授業で吹雪と知り合って、それから亮と三人でつるむようになった。
振り返ってみるとこの三年間、ずっと三人で行動していたような気がする。二年生の頃の林間学校に三年生の修学旅行、I2カップやネオ・グールズとの戦い。適当に数えても常に側には二人がいた。
腐れ縁もよくもここまで続いたものだ。我ながら感心してしまう。
『――――以上で終わります』
スマートにスピーチを終えた亮が壇上を降りていくと拍手が降り注ぐ。卒業式なのだから遠慮する必要もない。丈も吹雪も力いっぱい両手を叩いた。
ふと視線を在校生の席に向けると何人かの生徒が泣いているのが目に入る。……これまで実感したことがなかったが、後輩から慕われるというのは良いものだ。
その後、校長の長い話を最後だから我慢して真面目に訊くと漸く卒業式が終わる。
『卒業生退場』
司会の言葉で起立する。……特待生組である丈たちのクラスは最初に退場することになっていた。
四方から拍手が浴びせられる中を歩いていく。
「先輩! 高等部にいったらまたデュエルして下さい!」
「ジーク・カイザー!!」
「吹雪様ーーー! こっち向いて下さい!」
「魔王様、命!」
最後の言葉にはツッコミを入れたいところであるが、ぎこちなく笑いながら丈も退場していく。亮はクールに歓声を流していたが、吹雪などはまるで自重することなく辺りに笑顔を振り撒いていた。
一年生の方に目をやると吹雪の妹の明日香が自重しない兄の姿を見て頭を抑えている。
「ともあれ卒業おめでとうだな」
拍手の中を通りすぎ外へ出ると、最初に亮が口火を開いた。
「まぁ卒業といっても高等部に進級するだけだし、アスリンと一つの屋根の下で学べなくなるのは悲しいけどお別れってかんじはしないかな」
「……それは言える」
丈も吹雪に同調した。
高等部に入ればオベリスク・ブルー、ラー・イエロー、オシリス・レッドに別れることになるし高等部からの編入組も新たに加わることになる。
しかし丈を含めた首席三人は高等部進学後も学費免除の特待生扱いでオベリスク・ブルーになることが決まっており、高等部へ進学するからといって三人が離ればなれになるというわけではないのだ。
「だから俺もともあれと言っただろう。だが高等部があるのは島だ。中等部と違い簡単に本土の大会に出ることもできない。かわりに毎日デュエルに集中することができるのは有り難いが」
「コンビニマニアの田中先生なら発狂ものだ」
からかうように丈が言うと亮も苦笑する。流石の亮も卒業模範デュエルでのコンビニ発言に度肝を抜かれたのだろう。
けれど島の中にあるアカデミアだがそれなりに島内での行動は自由だ。パンフレットや実際に見学にいって見聞きした話によれば、オベリスク・ブルー内には24時間営業の自販機オンリーの売店部などもあるらしい。
TVゲームなども本土から届けてもらうなどのことはしてくれるので、そこまで不自由はしないだろう。
「そういえば亮、高等部の校長って確か……」
「あぁ。鮫島師範だよ、サイバー流で俺の師だった人物だ。いや、俺もこれからデュエル・アカデミア高等部の一生徒になるのだから、鮫島校長と呼ばないとならないか」
亮の強さは身近でいつもデュエルしている丈は良く知っている。そんな亮の師匠というのだから、鮫島校長はかなり強いのだろう。
もしかしたら初手サイバー・エンド・ドラゴンからのリミッター解除&融合解除くらいやってのけるかもしれない。
「マスター鮫島か。デュエルモンスターズ最初期から活躍したデュエリストの一人だね……。そういえば何時だったかキースが以前に戦ったことがあるとかないとか」
吹雪に言われて丈も思い出した。キースとのデュエルの際、彼が亮のことをサイバー流の小僧呼ばわりしたのもそれが原因だろう。
キースによれば完封勝利だったらしいが……そのことを亮に聞くと。
「俺も何度か師範から現役時代の話は聞いたからな。バンデット・キースと戦った時のことも話してくれたことがある。雲の上で……」
「雲の上?」
「なんでもない」
非常に気になる単語が出たが亮が聞いて欲しくなさそうな顔をしていたので、なにも聞かなかった事にした。
「まぁ鮫島師範はミーハーなところはあるが分別のある人だ。校長としてアカデミアにある以上、サイバー流師範としては振る舞わないだろう。だから……コネで宿題免除になるなんて考えないことだ」
「さ、さてなんのことだろう」
わざとらしく口笛を吹いて誤魔化す。やはり悪いことはできないものだ。実行に移す前に釘を刺されてしまった。
もしもうっかりと宿題を忘れるなんてことがあれば中等部の頃と同じようにこっそり亮か吹雪に見せてもらうしかないだろう。
「はぁ。お前は相変わらずだな」
「に、人間誰だって物忘れくらいするさ!」
「俺はしないぞ」
「それは亮が凄いんだよ。吹雪も宿題忘れたことあるし」
「え? そうだったっけ」
「とぼけても無駄だ。俺はしっかり覚えてる。昨日の夜ナンパして24時間カラオケで歌いまくった挙句にフラフラで学校にきたお前を誰が助けたと思ってるんだ?」
「あはははは、その節はどうも」
こうしてみると首席だのなんだのと言われているが、わりと優等生らしからぬことも結構してきている。
特に吹雪の24時間熱唱など下手すれば補導ものだ。丈もレアカード泥棒を捕まえる為に夜な夜な徘徊したことがあるので人の事を言えないが。
「と、もう着いたか」
気付けば校門前に立っていた。
三年間潜り慣れた校門だが『生徒』としてここを潜るのはこれが最後となるだろう。自然と生唾を呑み込む。
丈と吹雪と亮、三人は同時に頷くと、そこから一歩を踏み出した。
――――デュエル・アカデミア中等部 卒業――――
作中で語られた通り、丈が三邪神をもってることが全員にばれてたのは、こっそりキースと丈たちのデュエルを観戦していたモヒカンが言いふらしまくったからです。
そして漸く藤原を出せます。