バクラ LP3200 手札4枚
場 なし
宍戸丈 LP2000 手札1枚
場 カオス・ソルジャー -開闢の使者-
伏せ 一枚
フィールドを圧巻しゲームの流れを完全に支配していた三邪神。
だが永劫不滅の存在などこの世界には存在しない。地球だろうと宇宙だろうと最終的には死を迎える。邪神もまたその摂理から逃れることはできなかった。
暴君がやがて立ち上がった民衆によって滅ぼされるように。邪神は自らの
「まさか三邪神がやられっちまうとはな。宍戸丈っていったか? 少しばかり腕が良いから粋がってるだけの餓鬼だと思っていたが……中々どうしてやるじゃねえか」
バクラ――正確にはバクラの乗っ取ったキースのデッキは邪神を運用することに特化したデッキだった。
しかしこれは三幻神にもいえることだが神のカードは墓地から蘇生した場合、1ターンで墓地へ送られてしまう弱点がある。三幻神の一体であるラーは敢えて墓地へ送ることにより真価を発揮するモンスターだったが三邪神はそうではない。
例え攻撃力において無敵だろうと、フィールドの全モンスターを半減させる力があろうと1ターンという制約がある以上そこまで強力ではない。
しかも場合によっては丈が死者蘇生などのカードで邪神を利用することさえ出来るのだ。バクラは一転して不利になったといえる。
けれどバクラは特に焦る様子も追い詰められたところもないというのは、恐らく手札に挽回のカードがあるのだろう。
(もしくは――――)
可能性は多くある。なにせ相手は名も無きファラオと互角に戦えるほどのデュエリストだ。警戒し過ぎるということはない。
細心の注意を払って挑まねば。
「オレ様のターン、ドロー。クククククククククッ。三邪神を破壊してテメエは嬉しさ絶頂っていったところかもしれねえが、まだまだ安心するのは早いぜ。デュエルはまだ終わってねえんだからな」
「だが邪神は墓地から蘇生しても1ターンしかフィールドに留まることはできない。それともイレイザーを使う気か?」
「成程ね。イレイザーの特殊能力は墓地に送られた時にフィールドを全滅させる。死者蘇生と組み合わせりゃ擬似的なブラックホール&大嵐になるな。
イレイザーの能力を見てここまで早くその運用法を思いついたのには褒めてやる。だがな、邪神を完全な状態でフィールドに呼び戻す方法は他にもあんだよ。俺様は魔法カード、死者転生を発動するぜ」
懸念していたことの一つが起きてしまった。
神のカードは墓地から蘇生しても1ターンしか留まれないが、墓地から手札に戻して再召喚すればその限りではない。
再び三体の生贄を確保する必要はあるが効果的な手だった。
「テメエがさっき使ったカードだ。効果は説明するまでもねぇな。手札を一枚捨て、俺は邪神アバターを手札に加える。
これでオレ様の手札に邪神が戻った。後は三体の生贄さえ揃えば良いってことだ」
「それを俺が許すとでも?」
「盗賊は許しを請わねえ。神にも悪魔にも……
上手い。デッキに眠ってこそ価値のあるガジェットを戻すのと、丈に邪神を利用する可能性を潰すのを同時に行ってきた。
これで墓地に眠るイレイザーを死者蘇生で蘇生し、回収した神の進化でアバターを倒すなどという戦術もとれなくなってしまった。手札ならまだしも、丈のデッキには相手のデッキのモンスターをどうこうするカードは存在しない。
「オレ様はモンスターをセットし、光の護封剣を発動。3ターンの間、相手の攻撃を封じる。ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー」
どうやら邪神召喚のため守りを固めてきたようだ。
通常召喚のみで地道に生贄を用意していけば、三体の生贄を確保して邪神を降臨するのには4ターンかかる。バクラほどのデュエリストがよもやそんなスローなタクティクスをしてはこないだろう。
何処かで必ずモンスターを大量展開してくるはずだ。その前に押し切る。
「手札より魔法カード、命削りの宝札を発動! 自分の手札が五枚になるようカードをドローする。ただしこのカードが発動してから5ターン目のスタンバイフェイズ時、手札を全て捨てる」
【命削りの宝札】
通常魔法カード
自分の手札が5枚になるよう、自分のデッキからカードをドローする。
このカードが発動してから5ターン目のスタンバイフェイズ時、自分の手札を全て捨てる。
やはりこのデッキは頼りになる。
強力無比な三邪神に対して予めキーカードを用意していたのは吹雪だけではない。ペガサスから直接キーカードを手渡された吹雪のように決定的な逆転のカードはなかったが、丈は手持ちのカードや大会限定パックから邪神に相性の良さそうなカードを数枚投入していた。
そのカードが漸くきてくれたのだ。正にナイスタイミングというやつだ。
だがこのカードを発動するにはしっかりと準備を整えなければならない。
「俺は強欲な壺を使い二枚ドローして永続魔法、冥界の宝札を発動。このカードは二体以上の生贄を必要とする生贄召喚に成功した時、二枚ドローする。だが今はこのカードを使いはしない。続いて速攻魔法、サイクロン! 光の護封剣を破壊する!」
「……………ちっ。他愛ねえな護封剣も」
サイクロンがバクラを守護していた三つの光剣を破壊した。これで丈の攻撃はバクラに届くようになった。
だが丈の目的は光の護封剣を破壊することだけではない。
手札から奪われては不味いカードや汎用性のあるカードをなくすことにあったのだ。そうでなければこのカードは発動できない。
「いくぞ。俺はこの魔法カード、エクスチェンジを発動!」
「エクスチェンジだと!?」
【エクスチェンジ】
通常魔法カード
お互いのプレイヤーは手札を公開し、それぞれ相手のカード1枚を選択して自分の手札に加える。
相手の手札を墓地へ送るハンデスカードは珍しくない。だがエクスチェンジは相手の手札を自分の手札に出来る数少ないカードだ。
丈がこのデュエルのためにデッキに投入した一枚である。
「エクスチェンジの効果により互いのプレイヤーは手札を公開し、それぞれ相手の手札を一枚選び手札に加える。
邪神は恐ろしいモンスターだ。それにデュエルモンスターズには墓地やデッキからモンスターを手札に加えるカードは多い。例え邪神を倒したとしても安心することはできない。
だが邪神がこちらの手札にあれば、邪神を封じることができる。手札交換マジック、エクスチェンジはその為に入れたカードだ」
「小賢しい真似するじゃねえか。盗賊王の手札から
バクラの手札にはアバターの他に手札断殺などの速攻魔法やトークンを生み出すデビルズ・サンチュクアリなどのカードがあった。
中々汎用性も高いカードもあるが、バクラの言う通り丈の選ぶカードは決まっている。
「俺が選択するのは邪神アバターだ」
「なら俺様は……って最上級モンスターしかいねえじゃねえか。堕天使アスモディウスを選択する、寄越しな」
手札から堕天使アスモディウスをひったくるバクラ。あの分だと即座に手札断殺のコストにするだろう。
それはそれで有り難い。自分のモンスターが自分に牙をむくのは余り気分の良いことではない。
「バトル! カオス・ソルジャーで守備モンスターを攻撃する!」
カオス・ソルジャーがセットしていたモンスターを両断する。だがセットしてあったモンスターは、
「伏せていたカードはクリッター。こいつはフィールドから墓地へ送られた時、攻撃力1500以下のしもべを手札に呼び込むことができる。俺様はバトル・フェーダーを手札に加えるぜ」
「ならばカオス・ソルジャーのモンスター効果! 二回目の攻撃を行う!」
「おっと。その直接攻撃はバトルフェーダーで無効だ。バトルフェーダーは相手の直接攻撃時、手札から特殊召喚できる。そしてバトルフェイズを終了させる。俺様はバトルフェーダーを守備表示で特殊召喚」
攻撃を通すことができなかったのは残念だがバトルフェーダーは優秀な防御モンスター。
ここで消費させることができて良かったということにしておこう。
「俺はこれでターンエンドだ」
丈がターンを終了させる。
瞬間であった。バクラが邪悪な笑みを見せた。
(宍戸丈、テメエは邪神アバターを奪う事でオレ様の邪神を封じたつもりかもしれねえが宛が外れたな。エクスチェンジくれえファラオと戦ってきたオレ様が読んでねえとでも思ったか。
クククククククッ。テメエはどうせアバターは手札でそのまま温存して使わないつもりだろうが、そう上手くいくかな。俺様のデッキにはまだ二枚の邪神があるんだぜ)
再び邪神が召喚されれば形勢は覆るだろう。邪神はそれだけのカードだ。
そして幾ら丈でもそう何度も簡単に邪神を倒すことなどできない。もう友人たちの残してくれたカードもないのだから。
(追い詰められたテメエはいずれアバターに頼らざるをえなくなる。その時が――――)
三邪神、特に主神たるアバターはバクラが魂の核としているカードだ。もしも丈がアバターを召喚すればその肉体はバクラのものとなるだろう。
(テメエの終わりだ)
バクラの独白は丈に届くことはなかった。