場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER、THE DEVILS AVATAR
罠 血の代償
吹雪 LP0 脱落
伏せ 二枚
丸藤亮 LP0 脱落
伏せ 三枚
宍戸丈 LP4000 手札3枚
場 ディウストークン
バクラの復活。あまりにも埒外の出来事に丈は指先一つ動かせずにいた。
視線は白い髪の男に釘づけとなって離れない。生きていてはいけない男だった。生きている筈のない男だった。
デュエルモンスターズの創造主であるペガサス・J・クロフォードは海馬瀬人を指してキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯の永遠の好敵手と言った。そして城之内克也を指して永遠の友と言った。
彼等二人が親友と好敵手ならバクラは倒すべき因縁の宿敵というべきだろう。三千年前からの因縁で結ばれた二人は決して相容れることはなく、どちらかを駆逐するまで永久に殺しあい続ける。それがバクラという悪の魂だ。
当然デュエリストとしての技量も超一流で、ペガサスを相手に優に勝利し、名も無きファラオを後一歩のところまで追い詰めるほどのタクティクスをもつ。
「あな……たは……………まさか、バクラ!? どうしてユーがここに! 貴方は最後の戦いで名も無きファラオの魂により滅ぼされたはず……!」
「ほぉ。起きたのかいペガサス」
よろよろと起き上がって来たペガサスに視線を映したバクラが鼻を鳴らす。
三千年前ファラオを前にしても不遜な態度を崩さなかった盗賊王は、たかだかデュエルモンスターズの創造主を前にした程度で萎縮するはずがない。
「クククッ。王様達に聞きでもしたのかい? 中々情報通じゃねえか。あんまりデカい顔で言えることじゃねえんだがな。確かにオレ様の本体……宿主様、獏良了を器に千年リングに宿っていたバクラは消滅した。
いいや俺様だけじゃねえ。三千年前ファラオと神官団に戦争を仕掛けた闇の大神官、そして冥界の扉の奥に君臨するゾーク・ネクロファデス。全部があのミレニアムバトルに負けて闇に還った。だがな俺様だけは完全に死んではいなかった。
千年リングには面白い力がある。俺様はパラサイトマインドって呼んでるが、物質に魂の一部を封印できる能力。ただの保険として用意してあったこの俺様は大本とは分離していたお陰でミレニアムバトルでの消滅から逃れることができたってわけだ」
「パラサイトマインド……!」
千年リングに宿っていた魂をAとしよう。そしてパラサイトマインドで分割された魂をBとする。
闇のゲームに負けて、魂Aが消滅したとしても魂Aとは完全に独立した魂BはAではない為、Aがこの世から消滅したとしても残り続ける。
実際バクラは同様の方法でマリクに敗北した際の消滅からも難を逃れたのだ。
「千年リングに宿っていた俺様は元々三千年前の盗賊王バクラの魂に『闇の大神官』の邪念を埋め込まれた……闇の大神官の欠片。謂わばしつこく現世にしがみついているこの俺は闇の大神官の欠片の欠片ってわけだ。
だが苦労したぜ。俺様も昔は侮っていたが、器の遊戯……奴はファラオよりも面倒な野郎だ。それも当然かもしれねえな。そもそも良く考えりゃ分かることだったよ」
そこでバクラは一旦言葉を切って、
「
身近な例をあげよう。ペットボトルに入る水の量はペットボトルの体積を上回ることはない。もしも上回ってしまったとしたら、水を入れる器は粉々に割れてしまう。
武藤遊戯は三千年前の王の魂を収めた器だった。ならばその器は確実に中身よりも大きい。
「遊戯には三幻神と魔術師野郎の精霊がついている。闇の大神官の残りカスみてえなオレ様なんざ、見つかった瞬間に俺様は現世から強制退場。事は慎重に進める必要があった。オレ様が生きてるってことが復活するまでに万が一にも知られればその時点でアウト。王墓の盗掘も面白かったが中々にスリリングだったぜ。
オレ様には奴等に気付かれない仮の住まいとする器が必要だった。元々の宿主は使えねえ。あいつは遊戯達とは近い位置にいるからな。キースを見つけたのはそんな時だ。地下デュエル、天国へいける薬にロシアンルーレット……闇のゲームもどきにどっぷり浸かってペガサス、テメエに恨みをもち続けてきたキースはオレ様の住家にするのには打ってつけだったぜ。
前とは違ってオレ様はあまり表に出ることはできねえ。つまり宿主には最低でも遊戯や海馬と勝負できるだけの技量をもつデュエリストを選ぶ必要はあったが、キースの技量は地下デュエルで燻ってはいたが鈍ってはいなかった。キースもペガサスが千年眼を使ってあのデュエルを演出したって教えたらすぐにオレ様を受け入れたぜ。ペガサス会長、アンタ。よっぽど恨まれてたみたいだな」
バクラの器に選ばれてしまったキースは力を失った人形のようにぐったりと棒立ちしている。その瞳は生気を失ったようにはっきりせず、死んでいるようにも見えた。
コインに裏表があるようにデュエルにも裏がある。丈は当然参加したことはないが、衝撃増幅装置を装着して行われるそのデュエルは疑似的な闇のデュエルそのものとすらいえるだろう。以前、地下デュエルに負けた男が死亡したというニュースを見た事がある。
全米ナンバーワンデュエリストという栄光から、地下デュエルに押し込まれたデュエリストというところまで転落したキースの無念はどれほどのものか。想像することもできない。そんなキースがあのデュエルが千年アイテムの力を使ったものだと聞けば、悪魔と契約を結ぼうとしてしまうのも無理からぬことだ。
「キースという器を手に入れた俺様は漸く復活のために動き出す準備を整えた。次に目をつけたのは……ペガサスが三幻神への抑止力として生み出しながら、世に生み出す前に開発を断念したという三邪神。
おかしいとは思わねえか? 確かに三邪神は三幻神をモデルにデザインされている。だが三幻神をモチーフにしたモンスターなんざ他に幾つかある。だっていうのに三邪神は三幻神に匹敵、同等とすらいっていいだけの魔力をもって誕生した。まるで本物の神のように。
カードに精霊が宿るってのは事実だ。だがな、神をモチーフにモンスターを創造したところで簡単に神の力を得れるほど神ってのは安い存在じゃねえ。三幻神が名も無きファラオの操る三体の神をモチーフにしたように、三邪神にも創造の基盤となった
「そんなはずがありまセーン!」
ペガサスが声を張り上げる。だがその挙動はバクラの話を真っ向から全否定しているのではなく、自分の中にある心当たりを必死に違うと自分に言い聞かせているように見えた。
「会長、テメエにも心当たりがあるんだろう。隠すのはやめろよ。テメエが嘗て左目に埋め込んでいた
「アクナディン……?」
呆然とペガサスは左目のある場所に触れながら、アクナディンという名を反芻する。まるでそこにあった千年眼の名残に問いかけるように。
「クククッ。そう、俺様の故郷を滅ぼした張本人にしてオレ様に魂の一部を植え付けた後の闇の大神官さ。一度バラバラになっちまったパズルが遊戯の手で一つにされたように、三千年前の戦いもまた決着がつくまで終わりはしない。
ペガサス。お前は三千年前の運命に導かれるままデュエルモンスターズを世に生み出し、名も無きファラオの記憶の手がかりとなる三幻神を創造した。だがそれだけじゃなかったってことさ。
光と闇は表裏一体。お前は三幻神を創造した後、まるで強迫観念にとらわれたかのように三幻神を倒す為の神として三邪神をデザインした。テメエは知ってるか? 三幻神は王の名の下に一つとなり、光の創造神ホルアクティとなる」
「ま、まさか……?」
「もう言うまでもねえよな。光が三幻神――――名も無きファラオの魂と光の創造神ホルアクティならば、闇は闇の大神官とゾーク・ネクロファデス以外になにがいる。
三邪神は千年眼に残っていた
大邪神の欠片の欠片である俺様の核とするにはもってこいだったってわけよ。ゾーク・ネクロファデスの現身たる三邪神を核にしたことでオレ様にも闇のゲームを仕掛けるだけの魔力が戻った。丸藤亮と天上院吹雪、上質な
今まで動かずにいたキースがビクッと動いた。糸に操られているように機械的にデュエルディスクを装備した腕をあげると、残った最後のデュエリストたる丈に向き直る。
そこにキースの意志は介在しない。もはや完全にバクラの支配下に置かれてしまったのだろう。
「盗賊らしく、最後にテメエの
「っ!」
三千年もの間、熟成され練磨され続けてきた殺意が丈の身に降りかかる。その濃密過ぎて心臓の鼓動を止めてしまいそうな殺意のハリケーンに丈は目を瞑ってしまう。
どうにか立っていられたのは吹雪と亮の最期が脳裏に焼き付いていたからだ。
「宍戸ボーイ! お願いデース……どうか、あのバクラを倒して下さい! 彼が復活してしまったら……世界は!」
負ければ世界が破滅する。そんな絵空事のような未来を笑い飛ばすことは丈には出来ない。
だって空を見上げれば、世界が夜よりも暗い雲にすっぽりと覆われてしまっているのだ。あれが地球全土を覆い隠してしまえば、本当に世界は終末を迎えてしまうのかもしれない。
「おっと! 外野は黙っててもらうぜ、そいつがデュエルのマナーだろう?」
バクラが指を鳴らすと、ペガサスは見えない腕に薙ぎ払われたように後ろへ飛ばされた。そしてフェンスに押し付けられる。ペガサスはもがき脱出しようとするが、余程強い力で抑えらているのか何の意味もなかった。
「これで邪魔は入らねえ。俺様はこれでターンエンド。さっさとターンを進めな。それともサレンダーでもするかい?」
「…………俺の、ターン」
震える手でカードをドローした。
いつもなら丈はこの手札に対して悪くないという評価を下すだろう。デッキの要ともいえるドローソース、永続魔法『冥界の宝札』が手札にあり最上級モンスターもある。
普段なら最上級モンスターを召喚して様子を見るところだが、邪神イレイザーが相手フィールドにいる時に下手にカードを並べれば逆効果にしかならない。
「ターン、エンドだ」
故に何も出来ない。吹雪と亮の二人が自分の為にカードを残してくれたのに何も出来ないのだ。
丈には邪神を倒すことは、できない。
「遂に勝負を投げたか。俺様はそっちの方が楽でいいんだが拍子抜けだな。オレ様のターン、ドローカード。強欲な壺で二枚追加ドロー。
俺様は至高の木の実を発動。自分のライフが相手より少ない場合、俺様は2000のライフを回復するぜ」
【至高の木の実】
通常魔法カード
このカードの発動時に、自分のライフポイントが
相手より下の場合、自分は2000ライフポイント回復する。
自分のライフポイントが相手より上の場合、
自分は1000ポイントダメージを受ける。
バクラLP3200→5200
至高の木の実はライフが相手より上の場合に使うと1000ポイントのダメージを受けるデメリットがあるのだが、丈のライフは4000でバクラのライフは3200なのでライフは問題なく回復される。
血の代償でライフを消耗することが多いデッキのため、キースはこのカードをもしもの時の為に投入していたのだろう。
「……………」
「゛自分には戦闘耐性のあるディウストークンがいるからまだ大丈夫だ゛そう生易しい考えでいるなら甘ぇぜ。魔法カード、シールドクラッシュ! 守備表示モンスターをあの世逝きだ」
【シールドクラッシュ】
通常魔法カード
フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
ディウストークンは戦闘では破壊されない耐性をもっているが魔法効果には無力だ。ディウストークンは不可視の重力波に心臓を貫かれて破壊される。
「――――あ」
絶望が丈の全身を包み込む。これまで丈の命運を繋いでくれたディウストークンを失いフィールドはがら空き。
丈は生身の体を三体の邪神に晒している。
「終わりは、呆気ねえものだったな。バトルフェイズ」
丈の手札には手札誘発のカードはない。邪神の攻撃を防ぐ術はないのだ。
ここで終わってしまうのか。吹雪や亮を取り返す事も、自分の命を守ることもできず。
『――――丈』
ふと気づくと音のない世界にいた。隣ではカイザーという渾名をもつ丈の知る中でも最高のデュエリストの一人、亮が腕を組んで立っていた。
口元は薄く微笑んでおり、丈のことを信頼しきった顔だった。
『邪神を相手に怯えるな、とは言わない。俺だって三邪神を前にして恐怖に震えていた。恐怖をもたない人間なんていない。例えキング・オブ・デュエリストと謳われた男だろうと……恐怖はあったはずだ。大切なのは、恐怖に恐怖するのではなく恐怖に立ち向かうことだ』
自分は夢を見ているのだろうか。亮は確かにデュエルで敗北したことで魂をバクラに奪われたはず。だから亮が自分の隣にいるはずなどないのだ。
だがデュエルモンスターズ一つをとっても未知のことが溢れている。理屈に合わないことなど、世の中には幾らでもあるだろう。
少なくとも丈には自分の隣にいる亮は本物の丸藤亮に見えた。
『亮らしい青臭い精神論だけど、僕も同感だね』
「吹雪……」
『こんな時だから薄情するけど、僕だって邪神の攻撃を受けるのも負けるのもかなり嫌だったよ。僕だって死にたくなんてないしね。だけど人間、命を賭けても退けないものが一つや二つくらいあって、あれがその時だった。
頼んだよ。僕はあすりんの娘を抱っこしてあすりんの孫をだっこするまで死なないって誓ってるんだ。早く助けてね』
冗談交じりに吹雪らしいエールを送ってくる。
死んだ人間は気楽なものだ。どれだけ応援を受けようとエールを送られようと恐いものは恐い。正直、三邪神のプレッシャーを前にしていて今にも逃げ出したい気持ちが渦巻いている。
だが恐怖に脅えるのではなく、恐怖に立ち向かうことこそがデュエルに一筋の光を灯す勇気というものなのだろう。
『それに丈。俺達だって完全に消えたわけじゃない。俺達は負けて肉体は滅んだが、まだフィールドには俺達の残したカードたちがある』
「残した、カード達……?」
亮は敢えて残したリバースカードではなく、カード達という言い方をした。
(――――そうか!)
その時だった。天啓のように丈の脳裏に邪神を倒す為の道筋が閃く。
デュエルディスクとフィールドに目を落とす。そこには亮と吹雪の二人が命を投げ打ってまで残してくれた三邪神を倒す為の鍵が揃っていた。
鍵は用意されている。けれどまだ鍵は開いていない。鍵を開けるには鍵を差し込み捻る最後の作業が必要だ。その作業を為すためのカードは丈のデッキに一枚だけ眠っている。
『後は任せたぞ』
『丈なら大丈夫だよ。だって僕が余裕をもって戦えない数少ない一人なんだから』
亮と吹雪はそう言い残して消える。
無音の世界はなくなり、現実世界へと引き戻される。目の前では丁度邪神が総攻撃を仕掛けようとしているところだった。
この攻撃が通れば死ぬ。その土壇場で丈は冷静だった。何の迷いもなく亮の残したリバースカードの一枚を使う。
「バクラ、お前がバトルフェイズになった瞬間! 亮の残してくれたリバースカードを発動! 威嚇する咆哮! このターンの攻撃宣言を封じる!」
「――――っ! テメエ」
バクラの命を受け攻撃を仕掛けようとしていた邪神の動きが止まる。威嚇する咆哮でバクラが攻撃命令をすることが出来なくなったからだろう。
「チッ。嫌な顔しやがる……。ターンエンドだ」
憎々しげにバクラは丈を一瞥する。
バクラからすれば勝利を確信した一撃に待ったをかけられた形だ。腹立たしい事この上ないだろう。だが丈は気付かなかったが、それだけではないのだ。
盗賊王バクラであり闇の大神官でありゾーク・ネクロファデスでもある『バクラ』はこれまで幾度も『
丈はデッキトップに手をかける。二人が遺してくれた防御カードは打ち止めだ。このターン、デッキに眠るあのカードを引くことが出来なければ負けが確定する。
「俺はこのドローに吹雪の魂、亮の魂……そして俺の魂を賭ける! ドロー!」
ドローカードを確認せずとも分かった。カードから脈動を感じる。これまで共に戦ってきたデッキ、どれだけデュエルモンスターズの環境が変わろうと共に戦うと誓ったデッキは丈の頼みに応えてくれた。
「希望は、繋がった。俺はこのターンで三邪神を倒す!」
「なんだと!?」
「俺はドローした
【死者転生】
通常魔法カード
手札を1枚捨て、自分の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを手札に加える。
「手札を一枚捨て、俺は自分の墓地のモンスターを手札に加えることができる。この三対一の変則マッチでは墓地は仲間のものも参照する。よって俺は亮の墓地よりサイバー・エンド・ドラゴンを選択ッ!」
「サイバー・エンド……テメエがそのモンスターを戻して、なにを」
バクラの驚きは至極当然のものだ。効果モンスターならまだしも、融合モンスターを戻したところで融合もパワーボンドも素材モンスターもない丈のデッキには無用の長物にしかならない。
けれどその答えはフィールドに用意されている。
亮が敢えてリバースカードという言い方をしなかったのは、墓地のカードを使えという意味だったのだ。
「モンスターを手札やデッキに戻す効果が発動した場合、融合モンスターは融合デッキへと戻る。サイバー・エンド・ドラゴンは亮の融合モンスター。本来ならば戻る場所は亮の融合デッキ。
だが亮はライフポイントゼロとなり脱落している為、サイバー・エンド・ドラゴンは俺の融合デッキへ戻る」
亮の墓地から飛び出してきたサイバー・エンド・ドラゴンをキャッチすると、そのカードを融合デッキへ納める。
バクラには見えないだろうし、他の第三者にも見えはしないだろう。だが丈の両隣では亮と吹雪が不敵に笑いながら応援してくれていた。
「「更に!」」
丈と吹雪の声が被る。
「「
【ピケルの魔法陣】
通常罠カード
このターンのエンドフェイズまで、
このカードのコントローラーへのカードの効果によるダメージは0になる。
「「そして!!」」
今度は亮が言葉を被してくる。
「「ライフを半分払い速攻魔法発動、サイバネティック・フュージョン・サポート!! このターン、機械族融合モンスターを融合する場合、自分の墓地のモンスターを除外することで融合素材とすることが出来る!!」
【サイバネティック・フュージョン・サポート】
速攻魔法カード
自分のライフポイントを半分払って発動する。
このターンに機械族融合モンスター1体を融合召喚する場合、
手札または自分フィールド上の融合素材モンスターを墓地に送る代わりに、
自分の墓地に存在する融合素材モンスターをゲームから除外する事ができる。
丈のデッキにも手札にも融合素材となるモンスターはいない。だが亮の墓地にはサイバー・ドラゴンが三枚いる。
亮の魂のカードであるサイバー・エンド・ドラゴン。その力、この瞬間のみ借り受ける。
「「もう一枚のリバースカード、パワーボンドを発動! このカードは機械族専用の融合カード。このカードにより融合召喚したモンスターは攻撃力が倍となる!!
俺は三体のサイバー・ドラゴンをゲームより除外! フィールドへ降臨し神を凌駕せよ! 融合召喚、サイバー・エンド・ドラゴンッ!!」」
【サイバー・エンド・ドラゴン】
光属性 ☆10 機械族
攻撃力4000
守備力2800
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
サイバー・エンド・ドラゴンを丈を守るように邪神の前に立ち塞がる。
これまで超えるべき壁として、最強の敵として丈の前に現れてきたサイバー・エンド・ドラゴン。敵に回せば恐ろしいが味方であればこれほど頼もしいモンスターはいない。
、邪神への恐怖までどこかへ消えてしまったようだ。
「ここにきてサイバー・エンド・ドラゴンだと? だがドレッド・ルートの効果によりその攻撃力は半減。パワーボンドの効果があっても攻撃値は4000だ。それに俺様の場のアバターは常にフィールドで無敵であり続ける神。
テメエが攻撃力4000のモンスターを召喚しようが意味なんざねえ」
「確かにサイバー・エンド・ドラゴンだけじゃドレッド・ルートとイレイザーを倒すことは出来てもアバターを倒す事は出来ない。けれど俺が受け継いだ力はサイバー・エンドだけじゃない」
丈たちのフィールドにはサイバー・エンド・ドラゴンと吹雪が遺した最後のリバースが残る。これは邪神攻略のためにペガサスが吹雪に託したキーカードだ。
「「「いくぞ!」」」
三人が同時に口を開く。
「「「
【神の進化】
通常魔法カード
フィールド上に存在する神属性モンスター1体の攻撃力・守備力は1000ポイントアップする。
この効果を受けたモンスターは最上位の神のカードとして扱う。
このカードの発動と効果は無効化されない。
「わざわざオレ様の邪神を強化しただと!? 何を考えてやがる!」
「「「バトル!! サイバー・エンド・ドラゴンで邪神イレイザーを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストッ!!」
「迎撃しろ、イレイザー!」
神の進化の効果により姿形をより強大なものとしたイレイザーだったが、攻撃力はサイバー・エンドの方が上回っている。
サイバー・エンド・ドラゴンのエターナル・エヴォリューション・バーストは邪神の体すら貫いた。邪神イレイザーの胴体が消し飛ばされ、その遺骸が地面に落ちる。
「「「邪神イレイザーが破壊され墓地へ送られた瞬間、イレイザーの特殊能力が発動!! フィールド上のカードは全てイレイザーと共に墓地へ送られる!!」」」
破壊されてその胴体を引き裂かれたイレイザーの遺骸から黒い血のようなものが滝のように流れ広がっていく。
黒い血はたちまち地面を覆い尽すと、フィールドにいるモンスターたちを呑み込み始めた。サイバー・エンドもまたその黒い血に逆らえず沈んでいく。
丈は心の中で「ありがとう」と呟いた。
「やるじゃねえか。だがこの効果で破壊される俺様のモンスターはドレッド・ルートだけだ。邪神アバターは最高位の神。イレイザーの特殊能力は通用しねえ」
「「「それはどうかな」」」
「なに?――――そうか! 神の進化でイレイザーには最高位のランクが与えられている……!」
「「「そう。邪神イレイザーはラーの翼神竜と邪神アバターと同様、最上のランクをもつ神へ進化を果たしていた。確かにラーとアバターは下位の神のモンスターの影響を受けない。だが同格の神の力ならその限りじゃない。自らの邪神によって滅びろ!!」」」
イレイザーの黒い血は沼となりアバターすらも呑み込んでいく。
やがて黒い沼が消えた時、そこに残っているカードはなかった。邪神イレイザーは神を抹殺する神の名を体現するが如く自らの同胞である二体の邪神を殺し尽くしたのだ。
「俺はバトルフェイズを終了。そして光属性モンスター、サイバー・エンドドラゴンと闇属性モンスター、真紅眼の黒竜をゲームより除外! 光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時を告げる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」
丈の魂のカードともいえるカオス・ソルジャーが、あらゆるものが終焉を迎えた大地に新たなる開闢を告げるべく降り立つ。
「カードを一枚伏せてターンエンド。バクラ、これが俺達の結束の力だ」
最初はバクラが出てきたところで不甲斐なくも膝をおりかけた。けれどもうそんなことはない。
相手が大邪神の欠片であろうと、自分のデッキと友情を信じて戦う事が出来る。
カオス・ソルジャーはその刃を盗賊王に向けた。