宍戸丈 LP4000 手札3枚
場 The SUN、バルバロス、黒焔トークン×2
魔法 冥界の宝札×2
レベッカ LP5000 手札二枚
場 白魔導士ピケル、ビッグバンガール
伏せカード1枚
罠 生贄封じの仮面、グラヴィティ・バインド-超重力網-
「俺のターン、ドロー!」
運が良い。丈がドローしたのは速攻魔法サイクロン。これでレベッカのフィールドにある罠カードを一枚破壊できる。
(問題はどっちを破壊するかだな)
生贄封じの仮面かグラヴィティ・バインド。攻撃ロックか生贄メタか。生贄封じの仮面を破壊すれば生贄召喚が出来るようになる。バルバロスを召喚すれば相手フィールドを焼き払うことも出来るだろう。しかし丈の手札にはバルバロスがない。
グラヴィティ・バインドを破壊すれば攻撃が解禁となる。キュアバーンということはレベッカのデッキに攻撃力の高いモンスターはそういないだろう。The SUNとバルバロスで十分押し切れるはず。
(生贄封じの仮面を破壊できても攻撃は出来ない。相手フィールド上にはピケルとビッグバンガール。手を拱いていれば俺はどんどん追い込まれていく。ならば)
攻撃だ。攻撃は最大の防御。ロック相手の時は恐れず相手のライフを1ポイントでも多く削りに行く。それが勝利に繋がると信じている。
「速攻魔法サイクロン、このカード効果でグラヴィティ・バインドを破壊する」
「グラヴィティバインドが……」
レベッカを守っていた重力の網が消える。これで☆4以上のモンスターも攻撃が可能となった。
「バルバロスでビッグバンガールを攻撃、更に速攻魔法! 禁じられた聖杯! これでバルバロスの効果を打消し攻撃力を400上げる!」
【禁じられた聖杯】
速攻魔法カード
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は
400ポイントアップし、効果は無効化される。
「バルバロスの攻撃、トルネード・シェイパー!」
バルバロスの持つランスがビッグバンガールの腹を突き刺した。槍がビッグバンガールの腹を貫通し、バルバロスは狂喜しながらビッグバンガールの刺さったランスを天高く掲げる。
レベッカ LP5000→2900
「そしてThe SUNでピケルを攻撃! ソーラーフレア!」
守備表示のピケルがあっさりと爆砕される。これでレベッカの効果ダメージとライフ回復を両方行うキュアバーンのギミックは崩れた。
「私のフィールドががら空きに。……でも、甘いわよ! ピケルが破壊された瞬間、罠カード発動! 時の機械-タイム・マシーン - !」
【時の機械-タイム・マシーン -】
通常罠カード
モンスター1体が戦闘によって破壊され
墓地へ送られた時に発動する事ができる。
そのモンスターを、破壊された時のコントローラーの
フィールド上に同じ表示形式で特殊召喚する。
巨大な黒い機械の扉から、白い魔道服を着た小柄な少女が飛び出してくる。白魔導士ピケルはレベッカのフィールドに同じ表示形式のまま再び召喚された。
「なんて懐かしいカードを使うんだが……。俺はターンエンド」
「私のターン、ピケルのモンスター効果でライフを回復するわ」
レベッカ LP2900→3300
「そして魔法カード、運命の宝札! サイコロを振りその出た目の数だけカードをドローして、その数だけデッキの上からカードを除外する」
【運命の宝札】
通常魔法カード
サイコロを1回振る。出た目の数だけデッキからカードをドローする。
その後、同じ数だけデッキの1番上からカードをゲームから除外する。
ソリッドビジョンのサイコロが転がる。コロコロと廻っていたサイコロはやがてピタリとその動きを停止した。サイコロの一番上、今後の運命を決める数字は5。
「ラッキー。私はデッキから五枚ドロー、そしてデッキトップから五枚除外。カードを二枚セットして、死者蘇生を発動。ビッグバンガールを攻撃表示で蘇生! ターンエンド!」
「また宝札カード。バンバンドローカードばっか使って……。ええぃ俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、新たなグラヴィティバインドを発動するわ」
「ぐぐっ…………出来ることがない。ターンエンド」
「どうやら運命の女神は貴方に微笑んではくれなかったようね」
「ほっとけ!」
「ピケルの効果でライフを回復、そしてビッグバンガールの効果で貴方にはダメージ!」
レベッカ LP3300→4100
宍戸丈 LP4000→3500
「私のターン、先ずは二枚目のグラヴィティ・バインドを発動!」
「ぎぎっ!?」
レベッカの場を再び重力の網が守る。
これで☆4以上のモンスターの攻撃は再度封じられてしまった。The SUNやバルバロスは悔しげにレベッカを睨む。
「一気に攻めてくわ。リバース罠、シモッチによる副作用。
【シモッチによる副作用】
永続罠カード
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手ライフを回復する効果は、
相手ライフにダメージを与える効果になる。
(シモッチだって……。そういうことか!)
レベッカのデッキは単なるキュアバーンではない。ライフ回復を逆転する永続罠、シモッチによる副作用を中心としたシモッチバーンにキュアバーンのギミックを付け加えたデッキだったのだ。
「これでライフ回復効果はダメージに変わる。相手限定でね。更に私は恵みの雨と成金ゴブリンを発動!」
【成金ゴブリン】
通常魔法カード
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
その後、相手は1000ライフポイント回復する。
【恵みの雨】
通常魔法カード
お互いのプレイヤーは1000ライフポイント回復する。
「私はライフポイントを1000回復、そして貴方の回復文はシモッチの効果でダメージへ変わる。二枚の魔法効果により2000のダメージ!」
宍戸丈 LP3500→1500
「ぐぅぅう!」
最悪だ。このターンだけでライフが4000から一気に1500まで減ってしまった。
相手がシモッチバーンでシモッチによる副作用が発動済みということを鑑みると、カード一枚で0を刻む可能性が高いといえる。
「追い打ちをかけるようで悪いけれど、ビッグバンガールのモンスター効果。私がライフを回復したことにより、500のダメージを与えるわ」
宍戸丈 LP1500→1000
ライフが遂に1000まで達する。もうファイヤーボール二発で負ける状況だ。
「命拾いしたわね。もう私にバーン系カードはないわ。でも、次のターン、ピケルのモンスター効果で私はライフ回復の機会を得る。そしてビッグバンガールのモンスター効果で500ダメージが与えられて……お分かり? THE END間近よ。カードを三枚セットしターンエンド」
「………………………」
「そう。その目、まだ諦めていないのね。ならまだ勝負は分からないかな」
絶対的優位。その立場になりながらもレベッカはまだ勝利を確信するに至らなかった。彼女は知っているのだ。武藤遊戯や海馬瀬人、敗北という未来しか有り得ないと確信できるような絶望的な状況を、たった一枚のドローカードで逆転してきたという事実を。武藤遊戯と共に旅をした経験があるからこその信頼。
「―――――――――――」
レベッカのその考えは過っていない。今の丈の手札ではこの状況を打開するのは逆立ちしたって不可能だ。しかし後一枚、デッキに眠るあるカードを引きさえすれば。一気に逆転するのも出来るだろう。
「シシドジョウ。見せて見なさい、貴方が本当のデュエリストだっていうなら、このままでは終わらないはずでしょう?」
丈は知り得ぬことだが、レベッカのセットしたカードは光の護封壁と聖なるバリア。仮に強力なモンスターを召喚できたとしても、グラヴィティ・バインドのロックを掻い潜れるカードを引いたとしても防ぎ得る布陣である。
それでも、その壁を越えずして決勝の大舞台になど立つことが叶おうはずもなし。
「俺のターン、ドロー!」
運命の女神に見放された。そう、最初は丈も余りのツキの悪さにそう思い女神を呪おうとした。だがそれはやや違ったらしい。運命の女神は丈のことを見放したのではない。ただ照れ屋だったのだ。照れて幸運の出し惜しみをしていたのだ。
だからこそ土壇場でこういうカードを引かせてくれる。
「――――――――ここからが逆転で勝つ。行くぞ、天使の施し。三枚ドローし二枚捨てる。そして死者蘇生。墓地からモンスターを一体特殊召喚。俺は神禽王アレクトールを攻撃表示で特殊召喚」
【神禽王アレクトール】
風属性 ☆6 鳥獣族
攻撃力2400
守備力2000
相手フィールド上に同じ属性のモンスターが表側表示で2体以上存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択する。
選択されたカードの効果はそのターン中無効になる。
「神禽王アレクトール」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
丈のデッキのエースモンスターが一体。神獣王バルバロスと同じ従属神の一体。バルバロスが獣人であるのに対してこれは鳥。
古来より鳥は神聖なる神に仕えし生き物として多くの遺跡に描かれてきた。このアレクトールもその一つ。神に仕えし神、それがアレクトール。
「アレクトールのモンスター効果、このターンの間中。生贄封じの仮面の効果を無効とする。これで生贄召喚ができるぞ。俺は二体の黒焔トークンを生贄に現れよ破壊神! 破壊竜ガンドラ召喚ッ!」
「ッ! そのカードはダーリンの使ってた!?」
【破壊竜ガンドラ】
闇属性 ☆8 ドラゴン族
攻撃力0
守備力0
このカードは特殊召喚できない。
自分のメインフェイズ時にライフポイントを半分払う事で、
このカード以外のフィールド上に存在するカードを全て破壊しゲームから除外する。
さらに、この効果で破壊したカード1枚につき、
このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
このカードが召喚・反転召喚したターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地へ送る。
「ガンドラは1ターンしかフィールドで生きられないけど、そのモンスター効果は極悪だ。冥界の宝札の効果で四枚ドロー。バルバロスの星を1つ減らしてレベル・スティーラーを特殊召喚。三枚のカードを伏せて用意完了。破壊竜ガンドラのモンスター効果! 俺のライフを半分払いデストロイ・ギガ・レイズッ! このカード以外のフィールドのカードを全て破壊し除外する! ここから全部消えろぉー!」
ガンドラの全身から放たれる極太のビームの嵐が、フィールドに点在する有象無象のなにもかもを等しく平等に破壊して粉砕する。
「そしてガンドラはこの効果で破壊した分×300攻撃力を上げるッ! 俺が破壊したカードは17枚。よってガンドラの攻撃力は――――――」
「攻撃力5100のモンスター!?」
「ガンドラの攻撃、えーと。ケーニッヒ・モンスター・デストロイ!!」
破壊竜ガンドラの口から放たれる黒い炎がレベッカの残りライフの全てを焼き払う。
この瞬間、丈の決勝戦進出が決定した。
レベッカ LP5100→0
「……負けたわね。まさかそのカードで止めを刺されるなんて。………運命の女神にも勝利の女神にも、そして恋の女神にも見放されたようね……」
ズーンとレベッカは落ち込んでいた。ただ負ける悔しさにはある程度の耐性があったとしても、嘗ての思い人のエースモンスターにやられるというのは慣れてないのだろう。まるでもう一度、辛い現実というものを突き付けられたようで。
(むぅ……なんだこの罪悪感は……)
別に丈はそんな心理効果を狙ってガンドラを召喚したのではない。あの時はガンドラしか状況を打開できるカードがなかったからこそ召喚したのだ。
とはいえこの胸を渦巻く罪悪感は如何ともし難い。
(仕方ない、か)
「あの、レベッカさん。これ」
丈は破壊竜ガンドラのカードをレベッカに渡す。
「…………これは?」
「その……さっきのお詫びです。受け取ってください」
レベッカは一瞬キョトンとした表情になるが、直ぐに顔をほころばせ笑い出した。
「ふふふふふふっ、あなた面白いわね」
「そ、そうですか?」
「また機会があればデュエルしましょう。このカードは再戦の証として受け取っておくわ。See you again」
レベッカがくすりと笑うと、浅く丈の頬にキスをした。短い、ほんと数秒のキス。レベッカは唇を離すと可憐にウィンクした。
「じゃね」
呆然としながらニコニコと笑いながら会場を出るレベッカを見送る。
頬にはまだあの感触が残っていた。MCが何か言っているが丈の耳には一切届いてこない。
そして――――――次の準決勝第二回戦、友人同士の戦いが始まる。