宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第27話  MVE

宍戸丈 LP4000 手札五枚

場  無し

 

羽蛾  LP4000 手札二枚

場 インセクト女王

伏せカード1枚

 

 

 

「俺のターン!」

 

 羽蛾のフィールドにいるインセクト女王をなるべく視界内に捕えないよう留意しながら、デッキトップのカードを引いた。

 インセクト女王は☆7つの最上級モンスターであるが、その攻撃力はゴブリン突撃部隊にも劣る2200。フィールドの昆虫族モンスターの数×200ポイント攻撃力を上昇させる効果があるため、実質的基本攻撃力は2400で今もその数値だが、だとしてもまだ上級モンスターの平均ラインに届いただけ。特に効果耐性などもないのでそれ程破壊し難いモンスターではない。倒す事は十分可能だ。

 

(あの伏せカードが気になるが…………たったの一枚。もし聖なるバリアとか次元幽閉だったとしてもこの手札なら凌ぎきれる!)

 

「俺は手札からE・HEROエアーマンを攻撃表示で召喚! そしてエアーマンの効果でデッキからHEROと名のつくモンスターを手札に加える! 俺はE・HEROキャプテン・ゴールドを手札に!」

 

 

 

【E・HEROエアーマン】

風属性 ☆4 戦士族

攻撃力1800

守備力300

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

次の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●自分フィールド上に存在するこのカード以外の

「HERO」と名のついたモンスターの数まで、

フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。

●自分のデッキから「HERO」と名のついた

モンスター1体を手札に加える。

 

【E・HEROキャプテン・ゴールド】

光属性 ☆4 戦士族

攻撃力2100

守備力800

このカードを手札から墓地に捨てる。

デッキから「摩天楼 -スカイスクレイパー-」1枚を手札に加える。

フィールド上に「摩天楼 -スカイスクレイパー-」が存在しない場合、

フィールド上のこのカードを破壊する。

 

「更に手札のキャプテン・ゴールドを捨てることでデッキからスカイスクレイパーを手札に加える事が出来る。俺はキャプテン・ゴールドを捨ててスカイスクレイパーをサーチ!」

 

「ひょ?」

 

「手札からフィールド魔法、スカイスクレイパーを発動!」

 

 

 

【摩天楼-スカイスクレイパー-】

フィールド魔法カード

「E・HERO」と名のつくモンスターが戦闘する時、攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

 

 

 ドームの中心にあるデュエル場に突如として聳えたつ摩天楼。アメリカンコミックのヒーローが多くの心躍る物語を作り出してきた舞台が整った。

 全く場違いの場所に放り出されたインセクト女王はといえば、軽い混乱状態に陥ったのか首をきょろきょろと動かしている。

 

「まだ行くぞ。俺は沼地の魔神王を墓地に捨てて融合をサーチ! そして融合を発動! 手札のオーシャンとザ・ヒートを手札融合。融合召喚E・HEROノヴァマスター!」

 

 

 

【E・HEROノヴァマスター】

炎属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

「E・HERO」と名のついたモンスター+炎属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 鎧の上に更に炎の鎧。二乗の鎧が肌を覆った融合HERO。

 心なしか昆虫族であるインセクト女王は熱そうにしていた。森を住み家とする昆虫にとっては火は天敵といえるのかもしれない。

 

「バトル! エアーマンでインセクト女王を攻撃!」

 

「ひょひょひょ! 何を馬鹿な。俺の女王様の攻撃力はお前のエアーマンを上回ってるんだぜ!」

 

「フィールド魔法効果。HEROが自分よりも強い相手と攻撃する時、その攻撃値を1000ポイント上昇させる」

 

『これはぁぁッ! フィールド魔法のサポートを受けたエアーマンの攻撃力が上昇したぞぉ! なんとその攻撃力は2800ッ! インセクト女王の2400を超えたぁぁッ! これでインセクト女王が撃破されてしまえばインセクター羽蛾は続くノヴァマスターの直接攻撃で絶体絶命ぃぃぃ! どうする羽蛾ァ! このまま終わってしまうのか!?』

 

 MCが興奮したように実況しているが、丈は「しまった」と自分のミスに気付いた。ノヴァマスターはモンスターを戦闘破壊した時、カードを一枚ドローできるモンスター効果がある。エアーマンで攻撃した方がスカイスクレイパーの効果もあって総ダメージ量は上がるものの、ここは手札を一枚稼いでおく方が良かった。

 らしくもない。こんな簡単なミスをするだなんて。平静を保っていたが、内心では緊張していたのかもしれない。

 

「させないぜ! 罠カード、攻撃の無力化! これでお前の攻撃は全部無効だ」

 

 

 

【攻撃の無力化】

カウンター罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

 

「くそ。……俺はカードを一枚セット。これでターンエンドだ」

 

 

 

宍戸丈 LP4000 手札二枚

場  E・HEROノヴァマスター、E・HEROエアーマン

伏せ 一枚

魔法 摩天楼―スカイスクレイパー―

羽蛾  LP4000 手札二枚

場 インセクト女王

 

 

 

「俺のターン。中学生の癖にやるじゃないか。だけど僕からしたらまだまだ爪が甘いねぇ。俺はカードを一枚セット、そして永続魔法発動。虫除けバリアー!」

 

 

 

【虫除けバリアー】

通常魔法カード

相手フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターは攻撃宣言をする事ができない。

 

 

 

(虫除けバリアー? となるとあの伏せたカード)

 

 虫除けバリアーは昆虫族の攻撃を出来ないようにするメタカードだが、昆虫族の採用率を考えれば単体では先ず役に立たないカードだ。これを使うとなると、種族変更カードが必須となってくる。そして最も汎用性の高い種族変更カードはDNA改造手術。羽蛾の伏せたリバースカードもそれだろう。

 

「そして俺は魔法カード、天よりの宝札を発動だ。互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードを引く!」

 

 

【天よりの宝札】

通常魔法カード

互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。

 

 

 

「ヒョヒョヒョ! 俺の切り札を見せてやるぜ。俺はプチモスを召喚。更に手札から進化の繭をプチモスに装備!」

 

 

 

【プチモス】

地属性 ☆1 昆虫族

攻撃力300

守備力200

 

 

【進化の繭】

地属性 ☆3 昆虫族

攻撃力0

守備力2000

このカードは手札から装備カード扱いとして

フィールド上に表側表示で存在する「プチモス」に装備する事ができる。

この効果によってこのカードを装備した「プチモス」の攻撃力・守備力は

「進化の繭」の数値を適用する。

 

 

 プチモスが召喚されたかと思うと直ぐにピンク色の繭に全身が包まれた。繭に包まれたプチモスだったが、その命の鼓動は繭の中からもしっかりと伝わってくる。やがて来るであろう進化の時のためにプチモスは繭となって力を蓄えているのだ。

 

『来た来た来た来た、来たァ――――――ッ! 昆虫族最強モンスター、グレート・モスを召喚する為の布陣が今此処に整ったぁぁッ! しかしプチモスを最終形態まで進化させるには自分のターンで数えて6ターン、合計12ターンもの時間を有する! どうするインセクター羽蛾ぁ!』

 

「ヒョヒョヒョ、こうするのさ! 俺は速攻魔法カード、時の飛躍―ターン・ジャンプ―を二枚同時発動!」

 

 

【時の飛躍―ターン・ジャンプ―】

速攻魔法カード

三ターン、ターンをスキップする。

 

 

「これで合計6ターンの時が流れた事により、進化の繭で眠るプチモスは成長条件を整えた。俺は六ターンの時が経過したプチモスを生贄に! ひゃ~ははははははっ! 見て恐れろ! これが昆虫族最強のモンスター! 究極完全態・グレート・モス」

 

 

 

【究極完全態・グレート・モス】

地属性 ☆8 昆虫族

攻撃力3500

守備力3000

このカードは通常召喚できない。

「進化の繭」が装備され、自分のターンで数えて6ターン以上が経過した

「プチモス」1体をリリースした場合に特殊召喚する事ができる。

 

 

 

 進化の繭の外壁がバリバリと破けていく。裂け目の中から光る二つの双眸。瞬間、繭が弾けそこから巨大な昆虫族モンスターがフィールドに飛び出した。

 巨大な翼を生やし毒粉を撒き散らしながら一体の昆虫がその全貌を見せる。その威容と威厳は正に昆虫族の王者と呼ぶのが相応強い。

 丈自身このモンスターを生で見るのは初めてだった。

 このモンスターの召喚には進化の繭を装備したプチモスを合計にして12ターンも守る必要がある。シンクロ召喚隆盛期ほどでないにしろ、高速化した現環境では一体のモンスターが12ターンもいることなど稀だ。そのこともあり究極完全態・グレート・モスはデュエルモンスターズでも最も召喚の難しいモンスターの一つとされている。

 インセクター羽蛾が対戦相手と知った時からもしかしたら、とは思っていたが本当に召喚してくるとは。

 

『おおおぉおおおおおぉおぉぉぉおおッ! 凄い! 凄いぞぉぉぉッ! 速攻魔法を利用してのグレート・モスの高速召喚! その攻撃値はなんとブルーアイズを超える驚異の3500ッ! このまま決着がついてしまうのかぁぁ!』

 

「ひょ~ひょひょひょひょひょっ! まだいくぜぇ! 俺は墓地のプチモスと進化の繭をゲームから除外。手札からデビル・ドーザーを攻撃表示で召喚だ」

 

 

 

【デビル・ドーザー】

地属性 ☆8 昆虫族

攻撃力2800

守備力2600

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の昆虫族モンスター2体を

ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

相手のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 

 

 

「見たか! 俺の昆虫軍団を。まだ終わらないぜ。俺は速攻魔法、突進でグレート・モスの攻撃力を上昇! これで総攻撃だ! バトル、グレート・モスでお前のモンスターを総攻撃だ!」

 

「罠発動! 威嚇する咆哮!」

 

 

【威嚇する咆哮】

通常罠カード

このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 

 

「これでこのターン、攻撃宣言は出来ない」

 

「ひょ? どうやら命拾いしたようだねぇ。まぁいいや。俺は速攻魔法サイクロン発動! スカイスクレイパーを破壊」

 

「スカイスクレイパーが……」

 

「これでお前のノヴァマスターで俺のグレート・モスは破壊させないぜ。俺はこれでターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー」

 

「この瞬間、罠カード。DNA改造手術!」

 

 

【DNA改造手術】

永続罠カード

種族を1つ宣言して発動する。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターは宣言した種族になる。

 

 

 

 丈のフィールドにいるHERO達からグロテスクな触手が生えてきた。頭から生えてきたのは触覚だろうか。見るからに気色悪い。DNA改造手術、ソリッドビジョンを作った人は一々種族ごとのビジョンを作っていたのだろうか。だとしたらかなりの面倒臭い作業だっただろう。丈は心の中で製作者である社長に哀悼の意を贈った。いや死んでないが。

 

「お前はもう攻撃も出来ない。俺の昆虫族にやられるだけなのさ!」

 

「……いや、たぶんこのターンで終わりだ」

 

「ひょ?」

 

「E・HEROオーシャンを攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【E・HEROオーシャン】

水属性 ☆4 戦士族

攻撃力1500

守備力1200

1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。

自分フィールド上または自分の墓地に存在する

「HERO」と名のついたモンスター1体を選択し、持ち主の手札に戻す。

 

 

 

「更に速攻魔法マスク・チェンジ!」

 

 

【マスク・チェンジ】

速攻魔法カード

自分フィールド上の「HERO」と名のついた

モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターを墓地へ送り、

選択したモンスターと同じ属性の「M・HERO」と名のついた

モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 

 オーシャンの頭にマスクが装着される。マスクを被ったオーシャンはキラリと全身を輝かせたかと思うと、そのまま天高く跳躍した。

 先ず最初に姿を現したのは真っ青なマスク。E・HEROがアメリカンコミックのヒーローを連想させていたのに対して、こちらは特撮ヒーローを思わせる姿をしていた。

 

「変身召喚! M・HEROアシッド」

 

「へ、変身!? 一枚のカードで行う融合召喚だって!?」

 

「融合じゃない変身だ。HEROは変身するものだ。……たぶん。そしてM・HEROアシッドの効果を発動! このカードが召喚された時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し相手モンスターの攻撃力を300ポイント下げる!」

 

 

 

【M・HEROアシッド】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、

相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。

 

 

究極完全態・グレート・モス 3500→3200

インセクト女王 2800→2500

デビル・ドーザー 2800→2500

 

 

「お、俺の昆虫軍団がぁ~!」

 

「更に! 俺は手札から魔法カード、融合を発動」

 

「また融合!?」

 

「俺は場のエアーマンとM・HEROアシッド、手札のフォレストマンを融合!」

 

「しかもM・HEROまで!?」

 

「この融合モンスターの素材は『HERO』と名のつくモンスターだ。よってE・HEROだろうとM・HEROだろうと素材と出来る! 三体のHEROを融合し降臨せよ! V・HEROトリニティー!」

 

 

 

【V・HEROトリニティー】

闇属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター×3

このカードが融合召喚に成功したターン、

このカードの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。

融合召喚に成功したこのカードは、

1度のバトルフェイズ中に3回攻撃する事ができる。

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事はできない。

 

 

 凸凹のある大柄の赤い鎧を着こんだHERO。V・HEROトリニティー。他のHEROにあるシャープさはないが、力強さなら他のHEROを軽く超えている。

 

「トリニティーのモンスター効果、このカードが融合召喚に成功したターン、このカードの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値となる。そして融合召喚に成功したトリニティーは一度のバトルフェイズ中に三回の攻撃が可能だ」

 

「三回の攻撃だって!? インチキ効果も大概にしろ!」

 

「行くぞ。V・HEROトリニティーで攻撃。トリニティー・クラッシュ!」

 

「ぐぁがぁあああああああぁぁぁああああああああああああああっ!」

 

「二回目、攻撃! トリニティー・クラッシュ!」

 

「ぎぃぃぃぃいぃぃいい!」

 

「三回目、モンスターカード!…………じゃなくて追加攻撃!」

 

「ぎゃぁああああああああ!!」

 

 

羽蛾 LP4000→0

 

 

『き、決まったぁぁぁッ! 華麗に決まったぁぁぁッ! グレート・モス! デビル・ドーザー! インセクト女王! 三体の最上級昆虫族モンスターをワンターンで瞬殺しての華麗なる逆転劇だぁぁ! 第一回戦第一試合の勝者はなんと若干15歳の宍戸丈ォォォッ! こんな結果を誰が予想したぁぁぁあああああああああああ!! 元日本チャンプまさかの初戦敗退だぁぁああああああああああ!!』

 

「お、覚えてろよ~!」

 

 ライフが0を刻んだ途端、羽蛾が会場から走り去っていく。瞬間、会場中から丈の名を告げる声が轟いた。プレッシャーや緊張はもう体の中から抜けている。

 少しだけ得意気に観客に向けてニヤリと笑みを浮かべて見せた。自分の名を観衆がこんなにも嬉しそうに連呼するのが不思議だった。

 

(さて……次はそっちの番だ。頑張れよ亮と吹雪)

 


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