「デュエル!」
宍戸丈 LP4000
レアハンターA LP4000
今まで不良とのデュエルはやったことがあるものの、本物の犯罪者相手は初めてだ。
緊張に鉄製の鍋で蓋をすると、丈は呼吸を整えて初期手札である五枚をデッキからドローする。デュエルディスクが点灯したのは自分の方。
幸いなことに先行はこちらからだ。
「俺の先行、ドロー!」
丈の新しいデッキは圧倒的展開力がウリだ。一枚一枚のカードは普通のデッキに入れても対して使い道のないカード達だが、専用デッキに組み込まれた時に大いに化ける。そういうカテゴリーだ。丈の構築した暗黒界デッキは。
とはいえ今の手札では最初のターンで超速展開を行うことは出来ない。取り敢えず展開のための準備を整えておくとしよう。
「俺はモンスターをセット。リバースカードを二枚セット! ターンエンド」
「クククククッ、恐れおののき防御を固めたか。私のターン! 私はデーモン・ソルジャーを攻撃表示で召喚! 更にフィールド魔法、万魔殿-悪魔の巣窟-を発動!」
【デーモン・ソルジャー】
闇属性 ☆4 悪魔族
攻撃力1900
守備力1500
【万魔殿-悪魔の巣窟-】
フィールド魔法カード
「デーモン」という名のついたモンスターはスタンバイフェイズにライフを払わなくてよい。
戦闘以外で「デーモン」という名のついたモンスターカードが破壊されて墓地へ送られた時、
そのカードのレベル未満の「デーモン」という名のついたモンスターカードを
デッキから1枚選択して手札に加える事ができる。
暗い夜道が一転して中世ヨーロッパの儀式場のような不気味なモニュメントに早変わりする。今にも悪魔共の呻き声でも聞こえてきそうだ。
これだけの大規模なものがただのソリッド・ビジョンとはどうしても思えない。こんなアイテムを開発した社長の凄さを改めて思い知った気がする。
「フフフフ、これで"デーモン"と名のつくモンスターはライフコストから解放された。といっても今フィールドにいるデーモン・ソルジャーはデメリットもメリット効果もない通常モンスターだが、私は次のターンでより強力なデーモンを呼ぶことができる」
口振りからいってレアハンターの手札には生贄を必要とするデーモンがいるのだろう。それも強力な効果を持った。
しかしそれは召喚出来ればの話だ。
「私はデーモン・ソルジャーでセットモンスターを攻撃!」
「この瞬間、セットモンスターが表側表示になりリバース効果が発動する」
「ぬぁに!?」
「俺がセットしていたモンスターはメタモルポット!」
【メタモルポット】
地属性 ☆2 岩石族
攻撃力700
守備力600
リバース:お互いの手札を全て捨てる。
その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。
「互いのプレイヤーは手札を全て捨て代わりに五枚ドローする」
「くぅ、私の上級デーモンが……」
心底無念そうにレアハンターが自分の手札を墓地に置く。その後五枚ドローしたが顔色は優れなかった。どうやらお目当てのカードを引き当てることが出来なかったらしい。
流れはこちらにある。このまま一気に勝負を決めてやろう。
「メタモルポットの効果で手札が墓地に送られた事により、三体のモンスターの効果が発動する」
「ぼ、墓地に送られることで発動する効果だと!? そんなカードが存在するのか!」
「勿論だ。ないと効果発動なんて出来ないし」
モンスターの効果というのは通常、フィールドで表側表示になっている時に発動するものが殆どだ。最初に使ったメタモルポットもそうだし、サイコショッカーなどの永続効果もこれに含まれる。
しかし中には特殊な条件下でのみ効果を発動するカードもある。それが暗黒界だ。手札が墓地に送られるというデメリットをメリットに変換してしまうカード群。暗黒界に住まう悪魔達を描いたカード。
メタモルポットの効果により暗黒界の力が覚醒する。
「俺は墓地に捨てられた暗黒界の龍神グラファ、術師スノウ、狩人ブラウのモンスター効果を使う。先ず一番目龍神グラファの効果! このカードが手札から墓地に送られた時、相手フィールドのカードを一枚選択して破壊する! 俺は万魔殿を破壊!」
「ちぃ!」
フィールド魔法が消えた事により風景が元に戻る。
デーモンの呼び声はもう聞こえない。代わりに暗黒界の住人の怒号が聞こえてくるが、それは丈にとっては心強いものだ。
「二番目! 術師スノウの効果! このカードがカード効果で墓地に送られた時、デッキから暗黒界と名のつくカードを手札に加える。俺は二枚目の龍神グラファを手札に」
「また最上級モンスターを呼び込んだのか、手札に! 一体そのカードをデッキに何枚投入しているんだ!」
(三枚だ)
自分の手の内をこちからから晒すこともない。
丈は自分の心の中だけでポツリと呟いた。
「三番目! 狩人ブラウのモンスター効果。このカードがカード効果で墓地に送られた時、カードを一枚ドローする」
「これで手札七枚。初期手札を上回った……だと? ええぃ。私はカードを一枚セットしターンエンド!」
「俺のターン」
レアハンターのフィールドには通常モンスターが一体にリバースカードが一枚だけ。
自分の手札と相手フィールドを見比べ口元が緩んだ。これならばいける。このターンで決着をつけることができる。
「魔法カード、暗黒界の雷を発動!」
【暗黒界の雷】
通常魔法カード
フィールド上に裏側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。
その後、自分の手札を1枚選択して捨てる。
「そのリバースカードは破壊だ」
青い雷が天上から落ちる。落雷はレアハンターのフィールドにあるリバースカードを一瞬で黒焦げにすると破壊してしまった。
破壊したカードを確認すると"次元幽閉"。モンスターを破壊をすっ飛ばして除外してしまう強力な罠カードだ。破壊できて本当に良かった。
「しかし私のフィールドにはまだデーモン・ソルジャーが。……そ、そうか! 暗黒界の雷でグラファを捨てれば!」
「ご名答。俺は龍神グラファを墓地に捨て、そのモンスター効果を発動。デーモン・ソルジャーを破壊する」
「わ、私のフィールドがゼロになった……だと?」
「一気にいくぞ。フィールド魔法、暗黒界の門を発動」
【暗黒界の門】
フィールド魔法カード
フィールド上に表側表示で存在する
悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
1ターンに1度、自分の墓地に存在する
悪魔族モンスター1体をゲームから除外する事で、
手札から悪魔族モンスター1体を選択して捨てる。
その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
周りの風景が再度変化する。
暗い夜道の代わりに出現したのは不気味かつ巨大な門が地面から生えてくる。門からは真っ白い霧が溢れてきており、丈やレアハンターの足元を覆い隠してしまった。
「暗黒界の門の効果で俺は墓地の狩人ブラウを除外、手札の暗黒界の尖兵ベージを墓地に捨てカードを一枚ドロー。墓地に捨てた尖兵ベージの効果、このカードが手札から捨てられた時、このカードをフィールド上に特殊召喚する」
【暗黒界の尖兵ベージ】
闇属性 ☆4 悪魔族
攻撃力1600
守備力1300
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、
このカードを墓地から特殊召喚する。
槍を構えた下っ端のような風貌の悪魔が召喚される。
攻撃力1600というのは下級アタッカーとしてはやや心伴い数値だが、暗黒界の門のお蔭で悪魔族のベージはその力を300上昇させていた。
よってその攻撃力は1900。ブラッド・ヴォルスとも相打ちになれる数値だ。
「これでダイレクトアタックといきたいところだが……ここで俺は墓地の龍神グラファのモンスター効果を発動!」
「まだ効果があるというのか!?」
「龍神グラファはフィールドの暗黒界と名のつくモンスターを手札に戻すことにより、墓地から特殊召喚することが出来る。俺は暗黒界の尖兵ベージを手札に戻し、墓地より龍神グラファを蘇生する!」
ベージが光の粒子となり丈の手札に戻る。すると丈の墓地から地響きのようなものが聞こえてきた。空気が割れる。真っ黒な閃光がフィールド上に落下した。閃光はやがて巨大な塊となり、その姿を現した。
全身は闇よりも暗い漆黒。ギラギラと光る双眼と獰猛な牙が敵であるレアハンター、味方である丈までをも畏怖させた。
暗黒界の龍神グラファ。暗黒界最強の怪物にして悪魔。
魔神と軍神を超える者。
【暗黒界の龍神グラファ】
闇属性 ☆8 悪魔族
攻撃力2700
守備力1800
このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の
自分フィールド上に表側表示で存在する
「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、
墓地から特殊召喚する事ができる。
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合
相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、
さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。
確認したカードがモンスターだった場合、
そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
「そして俺にはまだ通常召喚権が残っている。暗黒界の尖兵ベージを攻撃表示で召喚! これで攻撃力の合計は4000オーバー! 尖兵ベージの攻撃、デス・ランス!」
ベージがレアハンターの腹を突き刺す。
暗黒界の門で強化された一撃はライフポイントの半分近くを一度に削り取った。しかしまだ追撃がある。尖兵を遥かに超える龍神の一撃が。
「龍神グラファで直接攻撃! ダーク・デス・バースト!」
グラファの攻撃力は3000。
あのブルーアイズとも互角の攻撃力である。フィールドががら空きのレアハンターに防ぐ術はなく、その直撃をもろに喰らうことになった。
レアハンター LP4000→0
「良し。俺の勝ちだ!」
開始から僅か三ターン、丈の勝利が確定する。
暗黒界はいつぞやのショタコンの時と違い、華々しいデビューを飾った。