十代が影丸理事長を倒し、理事長の背後で暗躍していたバクラを追い払ったことで一先ず三幻魔を巡る一連の戦いは終結した。
腰をやられてしまった理事長は静養のため入院することになり、その間の理事長としての仕事は鮫島校長が代行することになるという。
デュエルに敗北して捕虜となっていたセブンスターズも、騒動が収まると共に解放。室地戦人と明弩瑠璃の二人は入院する理事長についていった。
「影丸理事長が我々を駒として利用していたのは知っていますが、それでも理事長は我々の恩人ですから」
別れ際に明弩瑠璃がそう言って微笑んでいたのが印象的だった。
だが二人ほどのデュエリストが、本当に人間を駒としてしか見做さない人物にあれほどの忠誠を誓うとも思えない。
老いへの恐怖と若さへの憧れは、容易く人間の心を歪めてしまう。影丸理事長もその一人だったのだろう。だが十代とのデュエルを通じて憑き物の落ちた理事長ならば、きっと二人とも上手くやっていけるはずだ。
もう一人の捕虜。吸血鬼のカミューラは一族復興のため婿探しの旅へ出た。ヴァンパイア一族はカミューラしか残っていないそうなので、復興は色々な意味で大変だろう。見た目は美人なので寄って来る男には事欠かないだろうが、彼女もこれから前途多難そうだ。
自分の意志でセブンスターズに組したわけではなかったタイタンは、影丸理事長との戦い以前にとっくにアカデミアを出て行っていた。風の噂では『闇のゲーム』の恐怖を味わったことで、闇デュエリストを自称する詐欺からは足を洗い、心を入れ替えて真面目な用心棒デュエリストになるらしい。
死の物まね師、闇のプレイヤーキラーの行き先は不明だ。
ただ元々非合法の地下デュエリストとして名を馳せていた二人である。また元の地下デュエル界へと戻っていったのだろう。
そしてこれからの『未来』のために一番重要な大徳寺教諭は、猫のファラオに魂を呑み込まれたまま依然として成仏しないでいた。
未来で出逢った十代もファラオを連れていたので、きっとこれから十代と行動を共にするようになるのだろう。歴史を変に改変せずに済んでなによりだ。
しかし中には問題の発生した人物もいた。
「ぬぉぉぉぉおおおおおおおお!! 馬鹿なッ! 月曜日なのにジャンプが売っていないとはどういう了見だ! 弁護士を呼べ、裁判だ!」
「仕方ないじゃないか。うちの購買部は本土から仕入れているから、どうしても一日送れちゃうんだよ」
「ええぃ! カードパックはしっかり当日に販売しているではないか!」
「そりゃデュエル・アカデミアなんだからジャンプよりカードを優先するさ」
「阿呆か! ジャンプこそある意味ではデュエルモンスターズ誕生のルーツ! それを当日に売らないとはどういうわけだ! それとファミチキ! ファミチキはないのか!」
「それはファミマにいかないとないねぇ」
「だから高等部は嫌なんだ、購買なんぞ潰して二十四時間営業のコンビニを置けコンビニ!」
「ちょ、購買部のおばさんの前でなんてこと言うんだい!」
「なら私がいる間だけ購買を24時間営業にしろ」
「無茶言わないでおくれよ」
「うぉぉおおおおおおおおおおおおお!! ならうまい棒をあるだけ寄越せ、話はそれからだ!」
結局。田中先生は翌日のフェリーで本土に帰るまで、うまい棒を食べながら血走った目でアカデミアを徘徊することになった。
暴帝の噂を聞きつけデュエルを挑みに来た十代が、デュエルを諦めるレベルと言えばどれほど不味い状態だったのか分かるというものだろう。
封印を解かれた三幻魔は、鮫島校長の手によって再度封印。アカデミアの結界も、ブラック・マジシャン協力の下で新たに張り直された。ブラック・マジシャン・ガールの方は修行不足を指摘され、師匠に説教&猛修行を喰らうことになったらしいが、それはまた別の話である。
セブンスターズが所持していた闇のアイテムも全て破壊。
卒業直前に四天王は再び集結し、今回の事件を通じて一年生も如実に成長していった。
ともかく田中先生というイレギュラーはあったが、セブンスターズ事件は一応の大団円という形で幕を閉じたのである。
だがセブンスターズ事件の終結は、全ての終わりを意味しない。
丈たち三年生にはセブンスターズよりも重要な、学生生活最大のイベントが残っている。
デュエル・アカデミアの電光掲示板。そこに映し出されていくのは、今期の卒業生の総合成績だ。
10位:吉光誠一郎
9位:田川たくや
8位:海野幸子
7位:マー・ン・ゾーク
6位:那須与一
5位:十和野鞭地
一気にランキングが五位までが発表されるが、見物している生徒達のリアクションは薄い。
この電光掲示板を見に集まった生徒達の目的は四位から先。即ち四天王がどういう順になるかに向けられているのだ。
そして勿体ぶるように止まった電光掲示板が、漸く四位から先を映す。
3位:天上院吹雪
3位:藤原優介
1位:宍戸丈
1位:丸藤亮
発表されたランキングに、電光掲示板を見に集まった生徒達がどよめく。
四天王はデュエルの実力も学力もまったくの同等とされる。それ故に下馬評では同率一位の可能性が最も高いとされたのだが、蓋を開けてみれば宍戸丈と丸藤亮の同率一位に、藤原と吹雪の同率三位である。
ただ驚いているのは周囲だけで藤原と吹雪の二人はどこか納得しているようだった。
「余り驚いていないな?」
「そりゃあね。僕は一年生の時に問題を起こしているから、たぶんそれで評価が下がることは予想していたから」
「なるほど」
藤原に言われて丈も納得する。一年生の時、藤原はダークネスの力を目覚めさせることで、あわや世界を滅亡させかねないところだった。
その事件は藤原以外の三人の奮闘でどうにか最小限の被害で収まったものの、下手な暴力事件なんかよりも遥かに不味いことを藤原がやったことは事実である。
「で、吹雪は?」
「ははははははははは! 僕はマックを口説くのに留学期間を強引に伸ばしたり、無断欠席とかやっちゃったからね。たぶんそれが原因かな」
「アホだな……」
亮のコメントに同意する。ただ吹雪らしいといえば吹雪らしい理由だ。
中等部・高等部にある卒業生代表による卒業模範デュエルは、基本的に成績最優秀者と指名された在校生によって行われるので、今年は丈と亮が模範デュエルを務めることになるのだろう。
丈としてはいつか交わした約束を果たす為にも絶対に『首席』にならなければならなかったので、一位になれてほっと一息だ。
「亮は誰を指名するつもりだ? 一年生には将来有望な原石が揃ってるが、あれだけ多いと逆に選ぶのに困るだろう」
「フッ。無用な心配だ。俺の相手ならもう決めている」
「へぇ。誰だい?」
吹雪が興味津々といった様子で亮に尋ねた。
「十代だ。前に一度デュエルしたことはあるが、あいつもセブンスターズの戦いで大きく成長したからな。成長した十代と改めて最高のデュエルをしたい」
「なるほどね」
ダイヤの原石揃いの一年生の中で最も輝いている者を一人だけあげろ、と言われれば四天王全員が満場一致で遊城十代と答えるだろう。
学力は振るわず、知識に関しては原石の中でも一番下かもしれないが、あの天性の引きの強さは常人に真似できない凄味がある。
「しかし惜しいな。卒業模範デュエルがあと一か月先ならば、長き封印から解き放たれた混沌帝龍の切れ味を披露できたのだが……」
「や め ろ」
混沌帝龍-終焉の使者-は余りにも破格な強さから、丈のカオス・ソルジャーと同じく生産が四枚でストップされた曰くつきのカードである。
現在のところ確認されている所有者は海馬瀬人、田中ハル、そしてカイザー亮の三人のみ。もう一枚はアメリカにあるカード博物館に展示されるのみだ。
デュエルモンスターズ史上最強最悪の禁止カードとの呼び声も高く、亮がI2カップの賞品として獲得した際もあくまで観賞用としてのものだった。だがどういうわけか最近I2社により混沌帝龍がエラッタされて、制限カードに復帰することが発表されたのである。
大嵐が禁止カードとなる代わりに、ハーピィの羽箒が戻ってくるなど、一体全体コンマ――――もといI2社はなにを考えているのだろうか。
「それよりも、そういう丈は相手は決まっているのか}
「俺は三年前から予約済みだ。――――そうだろう、後輩」
「その通りだ。三年前の約束、果たしに来たぞ。宍戸さん」
中等部の卒業模範デュエルで、丈は万丈目と戦い再戦の約束をした。
この三年間には多くの事があったが、嘗て交わした約束は今も忘れていない。約束を果たす日がきたのだ。