雲一つない空は青く、どこまでも広がり。日輪は燦然と大地を照らす。この天然の恵みと比べれば、一個の人間がどれほどの矮小なることか。
オシリス・レッド主催コスプレデュエル大会は、コスプレ衣装が高品質なことに加え、ブラック・マジシャン・ガールと瓜二つの美少女の飛び入り参加という嬉しいハプニングも重なって大盛り上がりとなっていた。
ブラック・マジシャン・ガールの対戦相手が、一年生ではナンバーワンの実力者である遊城十代で、その彼とブラック・マジシャン・ガールが見事に戦ってみせたのも、会場が盛り上がる一因となっていたのだろう。デュエル・アカデミアはデュエリストの聖地。如何にブラック・マジシャン・ガールにそっくりな美少女であろうと、デュエルが無様なものであれば熱狂は沈静化していたはずだ。
後にBMGファンクラブの会長を務めることになる丸藤翔は「あの日の出会いこそ、私がブラック・マジシャン・ガールを終生の嫁と定めた切っ掛けであった」と述懐していたことからも、大会の大盛況っぷりが分かろうというものである。
だが熱狂はそれだけでは終わらなかった。
遊城十代とのデュエルを終えたブラック・マジシャン・ガールは、自身のインタビューでまさかの宍戸丈へのリベンジを宣言。会場は新たな熱狂に包まれることとなった。
アカデミア四天王の一人にして、カイザー亮の好敵手。〝魔王〟宍戸丈がアカデミアに帰還したことは、既に全生徒の間に知れ渡っている。
三邪神の所有者でもある宍戸丈の名前は、四天王の中でもカイザーと並んで特別であり、セブンスターズの襲来がなければ、帰還を記念してのデュエル大会が開かれていてもおかしくなかった。
しかしセブンスターズの件や学園祭の準備などが重なって、そういったイベントが起こることはなく、丈がアカデミア生徒たちの前でデュエルをすることはなかった。
だからこそブラック・マジシャン・ガールが魔王への挑戦を宣言すると、生徒たちは当人を置き去りにして盛り上がり、遂には消極的だった宍戸丈を決闘場へと引きずり出すことに成功してしまった。
プロデュエリストとしてのユニフォームであり半ば普段着と化している黒い外套を羽織り、宍戸丈は決闘場の中心へと歩いていく。浮かれきっていた観客も、丈がいよいよ姿を見せると生唾を呑み込んで静まり返った。
堂々たる登場は、正に魔王の二つ名に偽りのないもので。純黒の双眸は、挑戦者たる魔術師の少女を見据えている。
ただ当事者である丈は立ち振る舞いとは裏腹に、溜息をつきたい衝動を抑え込むのに必死だった。
(どうしてこうなった)
丈の気分を言い表すのに、それは最も適した言葉だっただろう。
あくまで今日は高校生活最後の学園祭を適当に楽しみつつ、十代のデュエルを見ておくのが目的で、人前でデュエルをするなどまったく予定していなかった。
なのに気付けばこの流れである。しかも相手は微妙に苦手意識をもっているブラック・マジシャン・ガールときた。
(無理に断れば強要はされないだろうが、俺もプロデュエリストとして挑まれた戦いにそう易々と背を向けるわけにもいかん。魔王というのも面倒なものだ)
プロデュエリストは一人のデュエリストであると同時にエンターテイナー。
エンターテイナーとは即ち観客への奉仕者であり、観客を楽しませることを仕事とする者。面倒な事であるが場の『空気』というものには逆らえない。
「人類史における真の暴君は、悪政を強いる王ではなく善良なる一般市民、か」
「ん? 何か言った?」
「なんでもない」
ブラック・マジシャン・ガールの純粋な視線をさらりと受け流しつつ、丈は暫し思案する。
一般生徒たちは彼女のことをただのコスプレイヤーな美少女としか認識していないが、その正体は三千年前にファラオに仕えた魔術師の魂であり、ブラック・マジシャン・ガールの精霊そのものだ。
決闘王〝武藤遊戯〟と数多くの戦いを潜り抜けてきただけあって実力も一級品。I2カップではかなり追い詰められた。そしてあのデュエルでの暗黒界の暴れっぷりのせいで、自分は魔王という二つ名で呼ばれることとなってしまったのである。
(……今日は暗黒界デッキは止めておくか)
また変な二つ名を付け足されることになっても困るので、丈は三つのデッキで一番子供受けの良いHEROデッキを選択する。
同じようにブラック・マジシャン・ガールもデッキをデュエルディスクにセットした。
十代とのデュエルを見る限り、彼女のデッキはブラック・マジシャン・ガールを中心とした魔法使い族。これなら変な事にはなるまい。HEROデッキに敗北したばかりの彼女には悪いが、もう一度HEROの強さを味わって貰うことにしよう。
『さぁ! ブラック・マジシャン・ガールのまさかの一言で始まったエキシビジョン! 我等がアイドル、ブラック・マジシャン・ガールが挑むのはデュエル・アカデミアが誇る〝魔王〟宍戸丈!! 注目の一戦です!!』
『中等部時代を思い出すな。あの頃も四天王……いや、当時の三天才が公開デュエルをすると、観客が押し寄せたものだ』
翔と万丈目は堂に入った名実況&名解説っぷりで場を盛り上げる。その姿はとても素人には見えなかった。案外二人にはそういう方面の才能もあるのかもしれない。
丈がどうでもいいことに思考を割いていると、ブラック・マジシャン・ガールの準備が終わったようだ。丈もブラックデュエルディスクをスタンバイさせる。
「(ごめんね、丈くん。こんなことになっちゃって)」
「……!」
脳内に直接届いてきた声はブラック・マジシャン・ガールのそれ。丈が驚いて顔を上げれば、肯定するようにブラック・マジシャン・ガールが頷く。
思念や意識を直接相手の脳内に送る思念通話。漫画などではよくあることだが、いざ実体験すると妙な気分だ。
「(謝るくらいなら、わざわざ俺とデュエルしたいと言わなければ良かっただろうに)」
「(そう言われると痛いんだけど、私も精霊だけどデュエリストだから、負けたままっていうのも悔しいじゃない。本当は十代くんの様子を身に来ただけのつもりだったけど、折角だしリベンジさせてもらうね)」
「(……………是非もなし)」
負けたままは悔しいという気持ちは丈にも分かる。あの亮なんて負けず嫌いの際たるものだ。
気分の良いデュエルをすることも大切であるが、勝利を喜び敗北を悔しがるのもデュエリストの性。こればっかりはデュエリストである以上は逃れられないものである。
だから丈も彼女の闘志に応えないわけにはいかなくなってしまった。
「いいだろう。来い、デュエルだ」
「うん! マスターのデュエルを見学しながら磨いてきたタクティクス! 見せてあげるね!」
「「デュエル!」」
「「デュエル!!」」
宍戸丈 LP4000 手札5枚
場 無し
場 無し
「私の先攻だね。カードをドロー」
お互いに一度は対戦した相手。丈の側はつい先程のブラック・マジシャン・ガールのデュエルを見ているが、ブラック・マジシャン・ガールも丈のNDLのデュエルを何度か見たことくらいはあるだろう。だとすれば情報アドバンテージは甲乙つけ難く差はないと考えていい。
ともかく丈のやることは変わらない。先攻1ターン目で彼女がどういうプレイをするかを見極めつつ、自分自身のデュエルをする。こういう相手には自分のペースを乱せば不利になるだけだ。
そう、相手がどんなカードやデッキを用いようと、退かず、媚びず、顧みない不動の精神こそが肝要なのだ。
「永続魔法、炎舞-「天璣」を発動します! この効果で私はデッキよりレベル4以下の獣戦士族モンスター1体を手札に加える。更にこのカードがフィールド上に存在する限り、私のフィールドの獣戦士族モンスターの攻撃力は100ポイントアップ! 私はデッキから『妖仙獣 鎌壱太刀』を手札に加えるね」
【炎舞-「天璣」】
永続魔法カード
このカードの発動時に、
デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスター1体を手札に加える事ができる。
また、このカードがフィールド上に存在する限り、
自分フィールド上の獣戦士族モンスターの攻撃力は100ポイントアップする。
「炎舞-「天璣」」は1ターンに1枚しか発動できない。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
それは宍戸丈にとってとても予想外で想定外で、完璧なまでに埒外のことだった。
不動の精神で律した心が、早くも揺れ動く。予想の斜め上どころか、マントルを突き抜けて地球の裏側に飛んでいったくらいの事に、丈の思考回路はブレイカーが落ちたかのように停止してしまった。
ブラック・マジシャン・ガールがなにをしているのかは理解できる。ただ単にサーチカードで獣戦士族モンスターをサーチしただけだ。本当にそれだけなのだが、それをブラック・マジシャン・ガールの精霊がやっているのがあらゆる全てを裏切っていた。
「私は永続魔法、修験の妖社を発動! このカードが魔法・罠ゾーンにある限り『妖仙獣』が私の場に召喚・特殊召喚される度に妖仙カウンターを一つ置く。
いくよ! 私はサーチした妖仙獣 鎌壱太刀を召喚。鎌壱太刀のモンスター効果、このカードの召喚に成功した時、手札から鎌壱太刀以外の妖仙獣を召喚する! 私は鎌弐太刀を召喚。そして鎌弐太刀もこのカード以外の妖仙獣を手札から召喚する効果を持ってます。出てきて、右鎌神柱を攻撃表示で召喚! 右鎌神柱の効果、このカードは召喚された時、守備表示になります。私は右鎌神柱を守備表示に変更。
私が召喚した妖仙獣は三体。修験の妖社に置かれた妖仙カウンターは三つ。私は三つのカウンターを取り除いて修験の妖社の効果を発動! 自分のデッキまたは墓地から『妖仙獣』と名のつくカードを一枚手札に加える。私は鎌参太刀をサーチするね」
【修験の妖社】
永続魔法カード
「修験の妖社」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
「妖仙獣」モンスターが召喚・特殊召喚される度に、
このカードに妖仙カウンターを1つ置く。
(2):このカードの妖仙カウンターを任意の個数取り除いて発動できる。
取り除いた数によって以下の効果を適用する。
●1つ:自分フィールドの「妖仙獣」モンスターの攻撃力は
ターン終了時まで300アップする。
●3つ:自分のデッキ・墓地から「妖仙獣」カード1枚を選んで手札に加える。
【妖仙獣 鎌壱太刀】
風属性 ☆4 獣戦士族
攻撃力1600
守備力500
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。
手札から「妖仙獣 鎌壱太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。
(2):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、
自分フィールドにこのカード以外の
「妖仙獣」モンスターが存在する場合に
相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。
このカードを持ち主の手札に戻す。
【妖仙獣 鎌弐太刀】
風属性 ☆4 獣戦士族
攻撃力1800
守備力200
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。
手札から「妖仙獣 鎌弐太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。
(2):このカードは直接攻撃できる。
その戦闘によって相手に与える戦闘ダメージは半分になる。
(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。
このカードを持ち主の手札に戻す。
【妖仙獣 鎌参太刀】
風属性 ☆4 獣戦士族
攻撃力1500
守備力800
「妖仙獣 鎌参太刀」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。
手札から「妖仙獣 鎌参太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。
(2):このカード以外の自分の「妖仙獣」モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。
デッキから「妖仙獣 鎌参太刀」以外の「妖仙獣」カード1枚を手札に加える。
(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。
このカードを持ち主の手札に戻す。
【妖仙獣 右鎌神柱】
風属性 ☆4 岩石族
攻撃力0
守備力2100
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。
このカードを守備表示にする。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
相手は他の「妖仙獣」モンスターを攻撃対象にできない。
鎌鼬というのは日本に古くから伝わる怪異の一種、妖怪の一つだ。
一説によれば鎌鼬は三人兄弟で最初の鼬が棍棒で人を倒し、次の鼬が刃物で人を斬りつけるが、最後の鼬がすかさず薬を塗るので大事になることはないのだという。嵐や雷など自然現象が神とされる例は多く存在するが、鎌鼬はつむじ風が妖怪化したものといえる。
ブラック・マジシャン・ガールの召喚した鎌鼬達も恐らくはそれをモチーフにしたモンスターなのだろう。日本の伝承を元にした風流なモンスターだ。――――と、いつもなら思ったのだろう。
だが相手が相手なだけに一言言わなければ気が済まない。
「ま、待て待て待て! お前はブラック・マジシャン・ガールだろう! ブラック・マジシャン・ガールはどうした!?」
「え? 入ってないよ」
あっけからんとブラック・マジシャン・ガールは言ってのける。
別にブラック・マジシャン・ガールの精霊だから、デッキにブラック・マジシャン・ガールを入れなければならないなんていうルールはない。なのでルール上は問題ないのだが、果たしてこれは如何なものなのだろうか。
「さっきまで使っていたデッキは?」
「デュエルを始める前に入れ替えたんだ。魔法使い族と全然関係ないデッキの方が対策されなくて良いかなって」
(…………り、リアリストだ)
天を仰ぐ。ブラック・マジシャン・ガールに苦手意識を持った自分は間違っていなかった。
ショタコンほどではないが、ブラック・マジシャン・ガールが丈の中でBランクの危険人物に認定された瞬間だった。
「私はカードを二枚伏せてターンエンド。召喚された鎌壱太刀と鎌弐太刀はエンドフェイズに手札に戻る」
というわけでブラマジガールがトライブ・フォースの販促し始めました。
それとどうでもいいことですが、てっきりZEXALはシンクロじゃなくてエクシーズが開発されたGXから分岐した世界なのだと思ってましたが、最近のARC-Vの展開的に5D's、ZEXAL、ARC-Vで全て別世界疑惑が高まってきたような気がします。
あと融合、シンクロ、エクシーズの世界があるのに、儀式召喚の世界がないのはどういうことなのか……。