宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第146話  同士討ち

遊城十代 LP1700 手札4枚

場 無し

タイタン LP4000 手札2枚

場 暗黒界の武神ゴルド、暗黒界の軍神シルバ、暗黒界の狩人ブラウ、暗黒界の狂王ブロン

伏せ 三枚

フィールド 暗黒界の門

 

 

 らしくなく十代は顔を苦い顔をする。

 タイタンのフィールドには上級暗黒界が二体に、下級暗黒界が二体。しかもフィールドには『暗黒界の門』が発動中ときている。

 暗黒界デッキの秘めた凶悪なまでのパワーは、さっきのタイタンのターンで身に染みて理解することができた。

 このターンで挽回しなければ自分は勝機を失うだろう。

 

「いくぜタイタン! 俺のターン、ドロー!」

 

 信じればデッキは答えてくれる。このタイミングで最高のカードが手札にきてくれた。

 カードガンナーの効果でドローした分も合わせればこれで手札の枚数は五枚。

 さっきのターン、ライフを削り取られるリスクを犯しても無理してハネクリボーLV10を召喚していないで正解だった。もしもハネクリボーLV10を召喚していれば二枚の手札を失い、逆に絶体絶命の危機に追い詰められていただろう。

 

「まずはこれだ! 魔法カード、大嵐! フィールドの魔法・罠を全て破壊する!」

 

「ここで全体除去カードだとぉ!? 味な真似を……。だが私とてただでは破壊されぬわァ!! 大嵐にチェーンして罠発動、針虫の巣窟! 私のデッキより五枚のカードを墓地へ送る!」

 

 針虫の巣窟はデッキトップから五枚カードを墓地へ送る、代表的な墓地肥やしカードの一枚だ。

 ただ本当に墓地へ送るだけしか役に立たないので、汎用性の高いカードとは言えない。だが墓地にモンスターを送れば送るほどに強くなるデッキならば話は別だ。

 タイタンの場で他に破壊されたのは『ミラーフォース』と『天罰』。どちらも厄介極まるカードだっただけに、十代は密かにガッツポーズをした。

 それに凶悪なフィールド魔法、暗黒界の門も大嵐により消え去っている。今が攻めるチャンスだ。

 

「カードガンナーの効果で墓地へ送られていたネクロダークマンのモンスター効果! このカードが墓地に存在する時、一度だけ手札のE・HEROを生け贄なしで召喚できる!

 俺はネクロダークマンの効果でレベル7、E・HEROエッジマンを生け贄なしで召喚するぜ!」

 

「ふん。E・HEROエッジマン。今更そんなモンスターを召喚したところでなんになる」

 

 

【E・HERO エッジマン】

地属性 ☆7 戦士族

攻撃力2600

守備力1800

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が越えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 ネクロダークマンの効果で召喚できるモンスターとしては最大の攻撃力をもつエッジマン。だがエッジマンの攻撃でタイタンのモンスターを撃破したところで、タイタンの場には三体の暗黒界が残ってしまう。

 タイタンほどのデュエリストに魔王宍戸丈の暗黒界デッキの力を十代は舐めてはいない。例え攻撃力2600のエッジマンがいようと、直ぐにそれを倒してこちらのライフに止めを刺してくるだろう。

 だとすれば、

 

「何になるかだって? こうなるのさ! ミラクル・フュージョンを発動! 場のエッジマンと墓地のワイルドマンを除外し融合する!」

 

「ぬぁにぃぃぃっぃいいい! 効果で召喚したエッジマンを更に融合素材にするだとォ!?」

 

「その通りだ。来い、E・HEROワイルドジャギーマン!」

 

 

【E・HERO ワイルドジャギーマン】

地属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2300

「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO エッジマン」

このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。

相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができる。

 

 

 筋肉隆々とした戦士であるワイルドマンが、エッジマンの装甲を纏った姿。

 黄金の甲冑を得たHEROは古の剣闘士の如き獰猛な双眸で暗黒界の住人たちと対峙した。 

 

「ワイルドジャギーマンはその特殊能力により相手フィールドの全てのモンスターに一回ずつ攻撃をする事が出来る!

 バトルだ! 行けぇ、ワイルドジャギーマン! インフィニティ・エッジ・スライサー!!」

 

 跳躍したワイルドジャギーマンが暗黒界モンスターたちを問答無用に切り伏せていく。

 武神も軍神もエッジマンの力とワイルドマンの力、二つをもつHERO相手には為す術もない。たった一体のモンスターによりタイタンのモンスターは全滅した。

 

「ふん。やりおる。流石は私を一度闇に葬った男、遊城十代。あの男の指示など破って、やはり私自身のデッキで戦っておくべきだったかぁ」

 

 四体分のモンスターの戦闘ダメージでタイタンのライフは1600。

 ライフアドバンテージでは互角になり、フィールドアドバンテージは引っ繰り返った。だというのにタイタンにはまるで焦りがない。

 

「余裕だなタイタン。自分のモンスターが破壊されたってのに」

 

「それがどうした小童。まだフィールドが全滅しただけじゃねえか。能書き垂れてねぇで来いよ。かかって来い! 早く(ハリー)! 早く(ハリー)!!」

 

「ひゅー。おっかねえ。一度闇に取り込まれて、頭のネジが吹っ飛んじまったのか?」

 

 十代としても追撃したいのは山々だが、相手の場にモンスターがいなければワイルドジャギーマンは追加攻撃することはできない。

 手札にバーンダメージを与えるカードでもあるなら別だが、そんな気の利いたカードは手札にはない。

 

「バトルを終了。カードを二枚伏せターンエンドだ」

 

「さっきのターンで私を殺せなかったこと、貴様は後悔することになる。私のターン、ドロー! 手札抹殺、互いのプレイヤーは手札を全て墓地へ送り、その枚数分のカードをドローする」

 

「手札抹殺……!」

 

 普通のデッキでは手札交換のためのカードでしかない手札抹殺。だがそれが暗黒界デッキで使用された場合、超攻撃的な手札交換カードに化ける。

 

「私が墓地へ送るのはこの二枚。暗黒界の尖兵ベージ、そして暗黒界の龍神グラファ! グラファのモンスター効果発動。このカードがカード効果で手札から墓地へ送られた時、相手の場のカードを一枚破壊する。消え失せろ。ワイルドジャギーマン」

 

 龍神グラファのエネルギーがワイルドジャギーマンに突進し、そのままワイルドジャギーマンを粉砕してしまった。

 だがそれだけでは終わらない。尖兵ベージの効果によって、墓地へ送られたベージは場に特殊召喚される。

 これで不死身の龍神を呼び寄せる準備も整ってしまった。

 

「まだだぁ!! 暗黒界の雷、貴様の伏せカードを一枚破壊する!」

 

 

【暗黒界の雷】

通常魔法カード

フィールド上に裏側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。

その後、自分の手札を1枚選択して捨てる。

 

 

 頭上から落雷が落ち、十代のリバースカードを破壊する。

 破壊されたのはミラーフォース。相手攻撃モンスターを全て破壊できるミラーフォースも、メインフェイズに除去カードを使われては成す術もない。

 

「暗黒界の雷の効果はまだある!! 私は手札の狩人ブラウを捨てる、そして一枚ドロー! 手札より尖兵ベージを攻撃表示で召喚!

 ぶはははははははははははは! 準備は完了だぁ……。覚悟はいいか小童。二体の尖兵ベージを手札に戻し、墓地より蘇れ暗黒界の龍神グラファ!!」

 

 

【暗黒界の龍神グラファ】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2700

守備力1800

このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の

自分フィールド上に表側表示で存在する

「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、

墓地から特殊召喚する事ができる。

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合

相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。

確認したカードがモンスターだった場合、

そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 地獄から最強最悪の暗黒界。その恐るべき特殊能力から不死身とまで呼ばれた龍神が地獄より蘇る。

 しかも一体ではない。手札抹殺で捨てられた分と針虫の巣窟で送られた分の二体だ。十代の場にはもうワイルドジャギーマンはいない。いや仮にいたとしても不死身の龍神の前には歯が立たないだろう。

 

「これが暗黒界の切り札。龍神グラファ……か」

 

「死ねィ! 遊城十代! 暗黒界の龍神グラファの直接攻撃、ダークストーム・バーストォォーーーッ!」

 

「まだやられるかよ! 墓地のネクロガードナーの効果発動、こいつを除外してグラファの攻撃を防ぐぜ!」

 

 ネクロ・ガードナーの亡霊がグラファの放ったブレスを防ぎきる。しかし、

 

「グラファはまだ残っている! 二体目の龍神グラファで攻撃!」

 

「速攻魔法、収縮! グラファの攻撃力をこのターンのエンドフェイズまで半分にする! ぐっぁあああああああああああああ!!」

 

 グラファのブレスの直撃を浴びて、十代の体が吹っ飛ばされた。

 ただのソリッドビジョンであれば少し痺れるような痛みがするだけだが、これは闇のゲーム。内蔵が潰れたような激痛が十代を襲った。

 

「まだ、だぜ」

 

 よろよろと立ち上がる。

 収縮で半分にしたお蔭でライフが350残った。ライフが0でなければまだ負けではない。

 

(だけど冷や汗かいたな)

 

 カードガンナーで墓地へ送られていたお蔭で九死に一生を得た。もしもカードガンナーが上手い具合にネクロダークマンと一緒にネクロガードナーを墓地へ送っていなければ、本当にここで自分は負けていたはずだ。

 

「ええぃ。しぶとい小僧だ。私はターンエンドだ」

 

「俺のターン……」

 

 モンスターと伏せカードもなく手札はゼロ。相手の場には不死身の龍神が二体。絵にかいたような大劣勢だ。ここでなにか良いカードを引くことができなければ負ける。

 だが負けたくないのならば引き当ててやればいい。逆転のカードを。

 

「ドロー! このカードは手札がこのカードのみの時、特殊召喚することができる。E・HEROバブルマンを特殊召喚。そしてバブルマンの効果によりカードを二枚ドローする!

 更に貪欲な壺を発動! 墓地のモンスター五体をデッキに戻しシャッフル。その後カードを二枚ドロー!」

 

 土壇場での連続ドロー。

 そして全てを賭してドローソースを使い終えた十代は、

 

「っ!」

 

 遂に全ての希望を断たれた。

 十代がドローしたのは融合と融合解除、そしてE・HEROフェザーマン。例え融合でモンスターを召喚したとしても、フェザーマンとバブルマンで召喚できる融合モンスターはE・HEROセイラーマンだけ。

 セイラーマンには直接攻撃能力があるが、攻撃力は1400しかないため直接攻撃したところでタイタンのライフを削りきることは不可能だ。

 

「どうやら終わりのようだな。貴様のデステニードローもここまでだ。大人しく私に頭を垂れ、私と同じ闇のデュエリストへと身を堕とすがいい!」

 

「くそっ!」

 

 なにがないか、と必死になにか策を考える。

 だがどうしようもない。手札は可能性だと十代が憧れるデュエリストは言った。けれど逆を言えば手札・フィールド・墓地のカードが自分の運命の限界。運命にないことをすることはできない。

 今十代がとれるベストな戦術は精々がフェザーマンを守備表示で召喚するくらいだ。

 運よくタイタンが新たなモンスターを召喚しなければ命が繋がるかもしれない。

 

「どうした? なにもできないのなら大人しくターンの終わりを宣言しろ」

 

「……俺はモンスターを守備表示でセット。ターン、エン」

 

 十代がターン終了を、自分のターンの終了。敗北を宣言しようとして、

 

「え?」

 

 瞬間、ドクンッと十代のベルトにセットされているデッキケースが脈打った。

 このデッキケースに入っているのは十代のデッキではない。以前死の物まね師と戦い取り返した宍戸丈のデッキである。

 十代は精霊の姿と声を聞けるデュエリストの一人だ。だからかは分からないが、十代には宍戸丈のデッキの声が聞こえた。

 

――――自分を使え。

 

 宍戸丈の操るHEROたちはそれだけを必死に十代に叫んでいた。

 十代の脳裏に過ぎる宍戸丈のHEROたち。そして自分の三枚の手札。ふとその時、天啓のように十代に閃くものがあった。

 

「俺にとっちゃ明日香を取り戻すためのデュエルだけど、お前達にとっちゃ自分の仲間を取り戻すためのデュエルだもんな。いいぜ、一緒に戦うぞ!」

 

「なにを一人で訳の分からないことを――――」

 

「ターンは続行だ、タイタン。俺は融合を発動! 場のバブルマンとフェザーマンを融合する!」

 

「馬鹿め! 融合召喚だとォ? 貴様のデッキでその組み合わせで召喚されるのはセイラーマンのみ! 今更セイラーマンなど召喚したところでなんになる!?」

 

「それはどうかな。確かに俺のデッキで召喚できるのはセイラーマンだけだ。だが俺のデッキじゃなきゃどうだ?」

 

「なに!?」

 

「今この時だけ力を貸してくれ! 融合召喚、現れろ水のHERO! E・HEROアブソルートZero!」

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 宍戸丈のHEROデッキで最強のE・HEROと謳われる戦士、アブソルートZero。

 自分たちと同じように囚われたデッキを救う為、今この瞬間のみ遊城十代のHEROとして召喚された。

 

「アブソルート……Zeroだとォ!?」

 

「こいつの効果は知っているよな? 融合解除を発動。アブソルートZeroの融合を解除し、バブルマンとフェザーマンを召喚。

 アブソルートZeroの特殊能力。こいつが場を離れた時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

「龍神グラファ、二体が――――それにフィールドには!?」

 

「バトルだ。フェザーマンとバブルマンでダイレクトアタック! いけ、HEROたち!」

 

「ぶるぁあああああああああああああああああああああ!?」

 

 二体のHEROの攻撃でタイタンのライフが0になる。

 勝利を確信してほっと一息つく。本当に紙一重の戦いだった。今回はアブソルートZeroが力を貸してくれたから良かったものの、もしアブソルートZeroがいなければ負けていた。

 

「そうだ。おいタイタン、そのデッキを――――タイタン!?」

 

 十代が気付いた時には既にタイタンの体は半分以上が闇に取り込まれていた。

 

「い、嫌だ……また、あの暗い闇の中に沈むのは、嫌だぁぁああああああああ!」

 

「掴まれ!」

 

 必死に手を伸ばしタイタンの手を掴む。必死に引き上げようとすると、途轍もない力で引っ張られる。

 しかし十代がどれほど力を入れて引っ張ろうと、タイタンはみるみる闇に沈んでいっていった。

 その時、

 

『…………グル』

 

『ハッ!』

 

 デュエルが終わりソリッドビジョンシステムも作動していないというのに、グラファとアブソルートZeroの二体が実体化する。

 悪魔とHEROの二体が闇を押し返していく。

 全てが終わった時、そこにあったのは気絶したタイタンと闇から解放された明日香、そして暗黒界デッキだけだった。

 




『悲報』
皆のアイドル、ドンさん死す。デュエルスタンバイ!

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