三幻魔解放を目論むセブンスターズだが今度ばかりは沈黙だけが漂っていた。
その理由は大きく二つある。一つはタニヤに続き『闇のプレイヤーキラー』までもが鍵の守護者に敗れた事。あともう一つはセブンスターズの生き残りの一人が既にアカデミアに向かっていて、この場に三人しかいないせいだ。
『お前の戦術も当てが外れたなアムナエル。カイザー亮と遊城十代の二人以外では楽に倒せるのではなかったか?』
モニターに映る男は意地悪く旧友であるアムナエルに問い掛ける。だがその語彙にはアムナエルを責めるような色はなく、寧ろどこか愉しげですらあった。
アムナエルも特に気にした様子もなく平然と口を開くと、
「私は楽に倒せると言った覚えはないよ。ただ……二人よりは倒し易いだろうと言っただけ。万丈目準と天上院明日香の両名が弱いなどとは口が裂けても言えはしない」
闇のプレイヤーキラーは決して弱いわけではなかった。そもそもペガサスに見いだされあのI2社にプレイヤーキラーとして雇われるデュエリストが雑魚なわけはないのだ。
だがしかしデュエルの腕前は兎も角として、精神面の方があまりにも脆弱だった。闇のプレイヤーキラーは身体の大きさに反比例するかのように根は小心者。自分自身を安全な場所に置かねば満足に戦えず、いざ有利にたてば容易く調子にのり油断する。
闇のプレイヤーキラーは『死の物まね師』のことを馬鹿にするような発言を何度もしていたが、出来る限り〝宍戸丈〟のプレイングを再現しようとしていた死の物まね師と比べ、強力なデッキに調子にのって足元を掬われたプレイヤーキラーはそれ以下だろう。
『……ふむ。こればかりは私の人選ミスか。仮にも決闘王〝武藤遊戯〟を嘗て追い詰めたデュエリストの一人。もう少しやるとは思ったのだがな……。
奴如きに宍戸丈のデッキを一つくれてやるのは些か以上に勿体なかった。次の……タイタンは上手くやるのだろうな?』
アムナエルは首肯する。
「タイタンは闇を弄んだことで闇に取り込まれ、そして闇の力を得て復活を遂げたデュエリスト。だが真正の闇のデュエリストになった彼が敗北した時に待つのは、今度こそ二度とは這いあがれない闇の底へ堕ちる末路だけ。
純粋な実力ということならカミューラ以下プレイヤーキラー以上でも、自分の命がチップになっているなら実力以上のものを発揮するはず」
『そうかね』
ニヤリとモニターの向こう側にいる男は笑みを深める。
これまで他のセブンスターズたちの前では決して見せなかった笑みは、奴隷同士を殺しあわせ鑑賞したコロッセウムの主催者にも似ていた。
彼にとって他のセブンスターズは自分の駒であり、利用する道具に過ぎない。
だがここに残った二人のセブンスターズは違う。アムナエルは友情から、もう一人は忠誠から従う本物の同胞たちだ。
「……一つ宜しいか?」
これまで黙っていた大柄の男が話に入る。
『なんだね?』
「やや信じ難いことだと思いますが、飛行機墜落で死んだはずの宍戸丈が九死に一生を得てアカデミアに向かっているという可能性があります」
『なんだと?』
「どうなさいますか? 宍戸丈が守護者に合流するようなことがあれば、三幻魔復活に大きな脅威となりますが」
『…………………』
最初は〝三邪神〟も宍戸丈も利用できると思って、特待生扱いで特殊なプログラムを課して鍛えてきた。上手くいけば計画を起こす時にセブンスターズとして、こちらの戦力に引き入れようと。
だが宍戸丈もその友人である三人は彼の予想を超える程の強さをもっていた。三邪神にせよ、四天王にせよとても簡単に操れるような者達ではない。
だからこそ彼は四人を排除するのを一先ず諦め、アカデミアから出来るだけ遠くに送ることを選んだ。
その成果はあがっている。四天王の二人、天上院吹雪と藤原優介は彼の裏工作もあり未だにアメリカ・アカデミアから動けないでいる。
宍戸丈も太平洋上で物理的に抹殺したはずだった。
『アムナエル』
「恐らく真実だと思う。これを見てくれ」
アムナエルが鎖で雁字搦めにされたケースを見せる。ケースは黒い光を放ちながら、地震でもないのに震えていて今にも中身のものが飛び出してきそうだった。
この中に入っているものがなんなのか彼は知っている。
アムナエルの錬金術で厳重に封印されているが、この中にあるのは三邪神。デッキと共に宍戸丈から奪いながらも、制御不可能と判断しこうして封印しているのだ。
それがまるで興奮するように反応している。となればこれは、
『己の担い手が近付いていることを感じ取っているのか』
「そう、だろうね」
『……止むを得ない』
「どうするんだい?」
『追加戦力の宛はある。それに……使えるか分からないが、あれを使う』
これからの不幸を告げるかのように禍々しい風が吹きすさぶ。
だがしかし。それは宍戸丈の不幸を告げていたのか。それとも宍戸丈の敵対者に告げられていたのか。
それはデュエルの勝敗のみが知ることだろう。
飛行機ごと太平洋上に墜落し、九死に一生を得てからどれくらい経っただろうか。
漁師でもなければ、デッキを取り返すまでの臨時デッキを構築し終えた丈ははっきりいって暇なので梶木とオセロをしていた。
「はい。角頂きです」
「うがーーー! またやられたぜよ!?」
パチンと丈が四隅のうち一つに石を置くと、梶木は頭をかきむしりながら悔しがる。
オセロを知っている人は分かると思うが、基本的にオセロは如何に四隅をとると有利に立てる。隅を制する者がオセロを制するといっても過言ではない。いや上級者同士の戦いとなると過言になるわけだが、丈にしても梶木にしてもオセロのプロというわけではないので関係ない。
しかしオセロ初心者である梶木は余り上手く隅をとることができず、結果的に丈の連戦連勝となっている。
ならば手加減すれば良いのではないかと思うが、仮にも自分より先輩デュエリストである梶木に対して手加減なのは失礼にあたるのでそれはしない。もっともこれはデュエルではなくオセロのわけだが。
「ぐぬぬ。デュエルに関してならルールの裏の裏まで分かるんじゃが、どうもこのオセロってやつは難しい。どうして白と黒だけで水がいないんじゃ」
「それを言ったらチェスにもトランプにも水属性はありませんよ。では俺はここに」
「ぬおっ! 置く所がないぜよ……?」
「置く所がないならスキップですね。俺はここに」
「ぬおおおおおおおおお!? 俺の白い石が真っ黒に!? あとまたしても置く所がないぜよ!」
「更にここに」
「うがああああああああああ!?」
結局今度のオセロも丈の勝利に終わった。
デュエルモンスターズどころかゲーム全般に強い亮と暇なときよく遊んでいたせいで、デュエル以外のゲームに関しても丈はかなりの腕になっていた。
「この俺を倒すとはやるのう。アカデミアはお前のような奴がうようよいるのか?」
「さぁ。少なくともオセロの強い人なら、オセロの世界大会にいる人の方が強いと思いますが」
「ちゃうちゃう。オセロじゃなくてデュエルじゃ」
「デュエルですか」
昔は自分など大した事ないと自分を律していた丈だが、NDLで実績を積み若輩で分不相応と思いながら自分は実力者といえるだけの領域に立てたと思う。
そして失礼になるかもしれないが、自分と互角の強さをもつデュエリストはアカデミアにはいないだろう。三人を除いて。
「自分こそ最強なんて言うつもりはありませんが、アカデミア内なら友人の三人以外に負ける気はしません」
「大きく出たのう。折角だしいっちょデュエル――――といきたいところじゃが、今デッキを持っていないからな。またの機会とするぜよ」
「残念です」
梶木漁太。武藤遊戯や城之内克也といった伝説のデュエリストと互角に戦ったデュエリストの強さに興味はあったのだが、デッキがなければどんなデュエリストもデュエルはできない。
丈の持っているカードを渡して、それでデュエルをするという手もあるが梶木漁太ほどのデュエリストと戦うのにそれでは少しばかり勿体ない。
しかし臨時とはいえデッキはデッキ。どこかで試運転くらいはしておきたかったのだが……。
(いっそ瑠璃にデッキだけ渡すか)
デュエルディスクではないテーブルでやるようなデュエルなら危険性もないだろう。
そんなことを丈がぼんやりと考えていると、
「っ!!」
「な、なんじゃあれ?」
ざばーん、と海が割れる音がしたかと思ったら戦争映画で見るような黒い潜水艦が浮上してくる。潜水艦は梶木の漁船の行く手を塞ぐように停止すると、がこんがこんと機械音を鳴らし始めた。
だが丈が注目したのはそこではない。黒い潜水艦に紫色で千年アイテムに刻まれた『眼』がペイントされている。このマークを象徴とする集団と丈は嘗て戦った事があった。
「まさか、これは」
「はーはははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」
自信満々な高笑いを太平洋に響かせながら、潜水艦から黒いフードの部下を引き連れて一人の男が姿を現す。
紫と銀が混ざった様な髪色。耳につけたガラの悪そうなピアス。爬虫類のような目つき。
「お前は……確か」
I2カップ終了後、三邪神を強奪し丈たち三人に立ち塞がったグールズ幹部の一人。吹雪が交戦し撃破したエクゾディア使いのレアハンターだ。
あの事件の後、資料で逃亡したグールズたちの顔写真を見る機会があったから間違いない。
「グールズ。どうしてこんなところに連中がいるぜよ!」
バトルシティトーナメントに参加していた梶木も当然グールズのことは知っている。それが武藤遊戯の活躍により潰され、復活したグールズが丈に潰されたことも。
だからこそ梶木は驚愕の表情でグールズ構成員に囲まれたレアハンターを睨む。
「フフフフフ。グールズ、懐かしい名前だ。だが今の我々はもはや嘗てのグールズとは違う! 二度の敗北を味わいながらこの神官シモン・ムーランの生まれ変わりにして最強のエクゾディア使いにして城之内に勝った私により、三度目の正直とばかり不死鳥の如く復活したスーパー組織!!
その名も新生ネオ・グールズだ!!!! ははははははははははははははははっ! どうだ恐れいったか、宍戸丈!」
「よっ! ボスかっこいい!!」
「エクゾディアに栄光あれぇーー!!」
取り巻きの部下達に囲まれてご満悦のレアハンター。どうでもいいが新生ネオ・グールズでは〝新〟の意味が二重になってしまっている。
三度復活したことを現しているのは分かるのだが、せめて新生グールズあたりにしたほうがいいだろう。
「……なんでその新生ネオ・グールズがここに?」
「フフフ。よくぞ聞いてくれた。嘗てのボスが敗北したことで解散した我々はデュエルマフィアらしく潜水艦の一つでも買うという私の英断により、深刻な資金難に陥ってしまった」
「資金難に陥ったなら、英断じゃないんじゃ」
至極真っ当な指摘をするがレアハンターは聞く耳を持っていない。
「そして我々が缶詰だけの生活をしていた所に、なんかよく分からない黒服がやってきて金をやるからお前を足止めしろと……」
「…………」
新生ネオ・グールズだのと格好良いことやっておいて、要するに単にお金欲しさにセブンスターズのパシリにやってきただけらしい。
キースがボスだった頃の実にラスボスらしい威厳ある組織だったネオ・グールズは、レアハンターがボスになってラスボスからネタ組織にクラスチェンジしてしまったようだ。
ここまで落下が激しいと悲しみを通り越して哀れみすら覚える。
「というわけだ宍戸丈! 我々全員の明日の食事のためにもここで消えて貰うぞ! お前達を倒せば成功報酬がたんまり貰えるのだ!
もう潜水艦の維持費のために新生ネオ・グールズ総員でアルバイトに励む日々とはおさらばだ!」
「やるしかないか」
丁度臨時デッキの試運転をしたかったところだ。レアハンターには悪いが丁度良い相手が見つかったというべきなのだろう。
そして太平洋上で因縁? の対決が始まった。
「先攻は私だ! 私のターン、ドロー!」
デュエルディスクによる先攻後攻の決定……などを完全に無視してレアハンターが強引に先攻をもぎ取る。文句を言おうにもレアハンターは既にドローしてしまっているので、今更やり直すこともできない。
これが公式戦ならレアハンターになにかしらのペナルティが課されるか、もう一度やり直しとなるところだが、これは大会やNDLの試合のようなものではなく非公式……否、非合法のそれ。
以前こういった非合法に精通しているキースから教えられたことがある。地下デュエルや賭けデュエルなんてものは基本的に「やったもの勝ち」だと。
丈自身ペガサス会長の依頼で地下デュエルに潜り込んだ時に『そちら』のやり方についてもある程度は知っている。だからレアハンターの行動にも今更なにかを言うことはなかった。
先攻を奪われようと関係ない。最後に〝勝った〟ものがデュエルの勝者。その方式は不変なのだから。
「フフフフフフフフフ」
「……何が可笑しい。先攻をとっただけで勝ち誇ったような笑みを浮かべて」
「チッチッチッ。勝ち誇ったような笑みじゃない。勝ち誇っているのだよ私は!!」
「………………」
余程手札が良かったのか。レアハンターは満面の笑みで言い放つ。
レアハンターのデッキは伝説のレアカード『エクゾディア』を揃える事を目的としたエクゾディアデッキ。
エクゾディアパーツ一枚ですら法外な値段がつくことを思えば、全パーツ揃えるのは相当の『大金』か、もしくはエクゾディアを引き寄せる程の縁が必要となる。
そのためNDLでもエクゾディアデッキとデュエルしたことなど一度もないが、それは丈がエクゾディアデッキとデュエルしていないこととイコールではない。
別に本物のカードはなくとも、データであれば伝説のレアカードも自由に使える。
特待生時代のデュエルマシーンとこなしたデュエルの中で、何度かエクゾディアデッキと戦った事が丈にはあった。
だから先攻を貰って勝った気になっているレアハンターを思えば、レアハンターがどういうデッキを組んだのか大体の想像もついた。
「ゆくぞ!! 私は王立魔法図書館を攻撃表示で召喚!!」
【王立魔法図書館】
光属性 ☆4 魔法使い族
攻撃力0
守備力2000
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分または相手が魔法カードを発動する度に、
このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
このカードに乗っている魔力カウンターを3つ取り除く事で、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
守備力2000で攻撃力0のモンスターを攻撃表示で出すという暴挙。
しかしレアハンターは幾ら何でも表示形式を間違えて召喚するほどドのつく素人などではない。攻撃力0の図書館を攻撃表示で出したのは、レアハンターがこのターンで決着をつける気でいるからに他ならない。
「どうだ宍戸丈!! これからお前は戦慄する! 何故ならば私はこのターンで幻の封印神エクゾディアを手中に収めるのだからな!」
「先攻1ターンキルか」
「そうだ! 嘗て天才たる私は武藤遊戯に敗北し、天上院吹雪にまで敗北を喫した……。そこで私はどうして負けたかを考えることにしたのだ……。私のデッキに不備などなかった。
エクゾディアは最強だ。相手の場に三幻神がいようと三邪神がいようと、なんか発動したカードを書き換えるチートフィールド魔法が発動していようと、手札に揃えれば即勝利という絶対性。
それを操る私が最強でなくてなんという! だが何故か私は最強のはずなのに敗北する。何故だ!?」
「別にエクゾディアがあれば最強無敵というわけじゃ」
「そう!! 私は致命的に勘違いしていたのだ!!」
「人生に?」
「敗北のショックで自室で一週間ポテチとコーラと共に瞑想していた時にふとネットオークションで全巻競り落としたとある小説が私に教えてくれた……」
「それは瞑想ではなく単なる引きこもりでは?」
「その小説によれば最強では『もしかして運よく勝てるのでは?』と思われ挑まれるが、最強を超えた『無敵』に到達すれば挑むことすら考えられない絶対者になると」
「何の本を読んだんだ一体……?」
レアハンターの頭は大丈夫なのだろうか。もしかして吹雪と戦った時に頭をうってネジが緩んでしまったのかもしれない。
丈がそんな失礼千万なことを考えるくらいにレアハンターのお頭はあっちの方へ旅立っていた。
「そしてその解答こそがこのデッキだ!!」
「……なにが?」
「先攻1ターン目で相手を倒してしまえば、相手は挑む事すらできない。つまり私は……無敵だ」
「そうなんですか?」
「いや、俺には意味不明ぜよ」
もしかして自分の方がおかしいのかと思い、梶木に尋ねるがどうやら梶木も意味が解らないらしい。
丈たちにとっては意味不明の演説だったが、レアハンターを囲む取り巻き達にとってはそうではなかったようで、どこに涙腺が潤む要素があったのか感動の涙を滂沱の如く流していた。
「フフフフフフ。恐れ入ったか宍戸丈! これがありとあらゆるデュエリストを1ターンで為す術なく葬り去ってきた無敵のデッキ! 図書館エクゾだ!
宍戸丈。貴様も数多のデュエリストたちと同じく我が図書館エクゾの前に跪くが――――」
「あ。エフェクト・ヴェーラーを捨てて効果発動」
「貴様ぁぁああああああああああああああ!!」
【エフェクト・ヴェーラー】
光属性 ☆1 魔法使い族
攻撃力0
守備力0
このカードを手札から墓地へ送り、
相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。
選択した相手モンスターの効果をエンドフェイズ時まで無効にする。
この効果は相手のメインフェイズ時にのみ発動できる。
エフェクト・ヴェーラー。相手ターンにこのカードを墓地へ送ることで、相手モンスター1体の効果をエンドフェイズまで封じる優秀な手札誘発の一枚だ。
その効果により図書館エクゾのキーとなる王立魔法図書館はエンドフェイズまで単なる攻撃力0のモンスターに成り果てる。
「バカヤロォー! 宍戸丈ォ! なにをやってる! ふざけるなァ!! 図書館エクゾを邪魔をするだと!? 空気を読めぇ!!」
「生憎と俺の友人は1killが好きな連中ばかりでね。1kill対策は流々だ。ターンエンドか?」
「わ、私の最強デッキが……ヒィ! 仕留め仕留め仕留められなかったああ! 1ターンで仕留められなかったあああああ! ヒィィイイイイイイ~~」
「…………俺のターン、ドロー。そちらが先攻1killで来るなら、俺は後攻1killで応戦するまで。
増援を発動。デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加える。俺は重装武者-ベン・ケイを手札に加え、そのまま召喚!」
【重装武者-ベン・ケイ】
闇属性 ☆4 戦士族
攻撃力500
守備力800
このカードは通常の攻撃に加えて、このカードに装備された装備カードの数だけ、
1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。
義経に仕えた彼の武将をモデルにしたモンスターにしては500という貧弱な攻撃力。だがベン・ケイは装備された装備カードの数だけ攻撃回数を増やすという恐るべき能力を備えている。
無論装備カードなど余り採用されない基本的のデッキにこのカードを入れたところで大した意味はない。しかしこの『ベン・ケイ』の特殊能力を最大限発揮するためだけのデッキであれば話は別。
「手札より装備魔法デーモンの斧をベン・ケイに装備! 続いて聖剣ガラティーンをベン・ケイに装備! 魔導師の力二枚をベン・ケイに装備!
四枚の装備カードの力を得てベン・ケイの攻撃力は6000ポイントアップ! 攻撃力6500だ」
【魔導師の力】
装備魔法カード
装備モンスターの攻撃力・守備力は、
自分フィールド上の魔法・罠カード1枚につき
500ポイントアップする。
【デーモンの斧】
装備魔法カード
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
自分フィールド上に存在するモンスター1体を
リリースする事でこのカードをデッキの一番上に戻す。
【聖剣ガラティーン】
装備魔法カード
戦士族モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、
自分のスタンバイフェイズ毎に200ポイントダウンする。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、
自分フィールド上の「聖騎士」と名のついた
戦士族モンスター1体を選択してこのカードを装備できる。
「聖剣ガラティーン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
また、「聖剣ガラティーン」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。
ベン・ケイが元々保持していた武器に加え、悪魔の斧と聖なる剣を装備し魔導師の力を得る。
余りにも物々しいその出で立ちにレアハンターが後ずさった。
「重装武者-ベン・ケイは装備カードの数だけ攻撃ができる。バトル! ベン・ケイの攻撃、比叡明鏡殺戮演武!! グォレンダァ!!」
「ぎゃぁああああああああああああああああああ!!」
6500×5、つまり32500のダメージを受けてレアハンターが派手に吹き飛んだ。
レアハンターは「石川や浜の真砂は尽くるとも世に盗人の 種は尽くまじ」などと辞世の句らしきものを残しながらガクリと倒れる。
「ぼ、ボスーーーーーーーーー!」
「しっかりして下さいボス! ボスに貸した五百円まだ返して貰ってないんですよぉ!」
「今度ソー……げふんげふんっ! いい所連れてってくれるって行ったじゃないですか!」
「ええぃ! 者共退けぇ! 退けぇ!!」
取り巻きたちが大騒ぎしながらレアハンターを担ぎ上げると、そのまま潜水艦の中に引っ込む。
やがて潜水艦がまた動き始めると浮上していた時を逆再生するように海の中に潜っていった。
「なんだったんぜよか、あれ?」
「さぁ」
取り敢えず言えたいことは一つだ。
「闇のゲームでもないのに、なんで気絶するんだ……」
丈の問いかけは誰も答えてくれることなく、青い空と青い海に溶けていった。