万丈目と闇のプレイヤーキラー。二人のデュエルは闇のプレイヤーキラーのデッキが『宍戸丈』のデッキだということもあって、プレイヤーキラー優勢だった。
既に万丈目のLPは1600。4000をきっている上に次の万丈目のターンでアームド・ドラゴンがLV5にレベルアップしても、その特殊能力の関係上The big SATURNを破壊することはできない。
しかも闇のプレイヤーキラーの場には強力なドローエンジンである『冥界の宝札』が二枚も発動している。
あれがある限りプレイヤーキラーは最上級モンスターを生け贄召喚すればするほどに手札が増えていく。
「兄貴……。万丈目くん大丈夫かな」
「心配すんなって。万丈目は強いぜ。あいつがそう簡単に負けっかよ。それに『冥界の宝札』があったとしてもデッキに最上級モンスターなんてそうありはしないだろ」
最上級モンスターは強力な攻撃力と特殊能力をもつモンスターが多いが、二体の生け贄を必要とするためデッキに一枚か二枚、多くても三枚四枚というのが常識だ。デッキによっては一枚も投入しないこともある。
かくいう十代のメインデッキにも最上級モンスターで投入されているのはレベル7のエッジマンのみ。他は全て融合デッキだ。
冥界の宝札がドローソースだろうと、それが発動するには最上級モンスターを召喚するというトリガーが必要となる。しかし最上級モンスターが数枚しかないならば、それが発動するのは数回っきりということになるのだ。
「そ、そうっスよね! 最上級モンスターを召喚するには二体の生け贄が必要なんだからThe big SATURNを倒しさえすれば一先ずは――――」
「それはどうかな。The big SATURNを倒したくらいで、最上級モンスターのラッシュが止まりはしないだろう」
「お、お兄さん!?」
どこか物々しい顔でカイザーが翔の横に並び、闇のプレイヤーキラーとそのデッキを睨む。
友人のデッキを他人に使われているからか、その瞳には弟である翔だから気付けるほどの怒りの色があった。
「カイザー、なんでここに?」
「精神統一のため瞑想に耽っていたらサイバー・ドラゴンが闇の力を感じたようだったのでな。急いで来た」
急いできたというわりにまるで疲労しているように見えないのはカイザーのスタミナによるものだろう。
カイザーの背後では精霊である三体のサイバー・ドラゴンがハネクリボーとなにやら目で会話していた。
「それよりどういうことなんっスか。The big SATURNを倒すくらいじゃ駄目って。兄貴の言う通り最上級モンスターなんてデッキに何枚もないんだから、一体倒すだけでも結構な打撃じゃ」
「それは普通のデッキの話だ。あいつの……丈のデッキは違う。あいつのデッキには下級モンスターなんて数えるほどしか入っていない。あいつのデッキに投入されているモンスターはその殆どが最上級モンスターなんだ」
「!?」
衝撃的な発言に十代と翔が二人して固まる。
下級モンスターが数枚たらずで、後は最上級モンスターばかり。それは普通のデッキとまるであべこべの構成だ。
デュエルモンスターズがスーパーエキスパートルールになり生け贄召喚のシステムが実装される前ならまだしも、生け贄召喚があるのに最上級モンスターばかりのデッキなんてもはやデッキとして成り立っていない。
「デッキに最上級モンスターばっかって、それじゃ生け贄はどうするんだよ。最上級モンスターばっかじゃ碌にモンスターだって召喚できないじゃないか」
「その無茶を可能にするのがあいつのデッキだ。トークンやレベル・スティーラーなどを使い回し、まるで下級モンスターのように最上級モンスターを召喚していく。
俺のサイバー流はサイバー・ドラゴン融合モンスターによる一撃必殺の火力に特化したパワーデッキだが、あいつは多種多様な最上級モンスターの攻撃力と特殊能力で場を制圧する性質の異なるパワーデッキ。
使いこなせれば、の但し書きがつくが手強いぞ。闇のプレイヤーキラーは丈のプレイングデータの入ったチップを頭に埋め込んでいるから、その但し書きも意味はないか」
「万丈目……」
十代は闇のプレイヤーキラーと戦う万丈目を見る。
万丈目は中等部で丈とデュエルをしたことがあると言っていた。だとすれば丈のデッキがどのようなものかも知っていただろう。
通常のデッキであればエースとなるであろうモンスターが数ある〝しもべ〟の一つでしかない恐怖。それを万丈目は味わっているはずだ。
「――――だがあいつのデッキには致命的な落とし穴がある。万丈目がそれを見つける事が出来れば、このデュエル」
見定めるかのようにカイザーと呼ばれた男は万丈目を見据える。
そしてターンが闇のプレイヤーキラーから万丈目へ移行した。
闇のプレイヤーキラー LP3000 手札6枚
場 The big SATURN
伏せ 二枚
魔法 冥界の宝札×2
万丈目準 LP1600 手札5枚
場 アームド・ドラゴンLV3
伏せ 二枚
十代が考えた通り万丈目は宍戸丈のデッキがどのようなものか知っている。
だが臆することはない。万丈目はあの日、宍戸丈のLPに1ポイントのダメージを与えることも出来ず敗北してから、あのデッキをどうやって攻略するかを常に考えて来たのだから。
「俺のターン、ドロー! このスタンバイフェイズ時、アームド・ドラゴンLV3はLV5へとレベルアップ!」
【アームド・ドラゴンLV5】
風属性 ☆5 ドラゴン族
攻撃力2400
守備力1700
手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、
そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、
手札またはデッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。
弱々しい幼竜に過ぎなかったアームド・ドラゴンが、レベルアップしたことで雄々しく力強い姿へ変わった。
LV5となったアームド・ドラゴンは手札のモンスターを墓地へ送る事で、その攻撃力以下のモンスターを破壊する効果をもっている。
だが万丈目の手札にThe big SATURNを超える攻撃力を持つモンスターはいない。ここは危険な賭けに出るしかないだろう。
「手札抹殺を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数だけカードをドローする! 俺は五枚のカードを捨て五枚ドロー!」
「また手札交換か。余程テメエは手札に恵まれねえらしいなぁ」
「なんとでも言え。……きたか。魔法発動、レベルアップ! 場のアームド・ドラゴンLV5をレベルアップさせる!」
【レベルアップ!】
通常魔法カード
フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つ
モンスター1体を墓地へ送り発動する。
そのカードに記されているモンスターを、
召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。
アームド・ドラゴンLV5がレベルアップするには本来なら相手モンスターを破壊する過程が必要となるが、レベルアップの魔法効果はその過程を吹っ飛ばしてのレベルアップを可能にする。
魔法効果を得たアームド・ドラゴンLV5がその姿を更に進化させていく。
「現れろ、アームド・ドラゴンLV7!!」
【アームド・ドラゴンLV7】
風属性 ☆7 ドラゴン族
攻撃力2800
守備力1000
「アームド・ドラゴン LV5」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。
手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、
そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。
アームド・ドラゴンLV5の表面が裂け、より猛々しい武装染みた外装をもつドラゴンが降臨する。
守備力はLV5時より低下しているが攻撃力は2800まであがり、モンスター破壊効果も相手フィールド全体に変わった。
「攻撃力はThe big SATURNと互角……! 相打ち狙いか!?」
「ナンセンスだな。宍戸さん本人ならいざしれず、この俺が貴様程度に自爆特攻などするものか! アームド・ドラゴンの進化がLV7までと思ったら甘いぜ。貴様に見せてやる、アームド・ドラゴンの最終形態を!
恐れ慄け!! そして戦慄しろ! 俺はアームド・ドラゴンLV7を生け贄に捧げ、手札よりアームド・ドラゴンLV10を召喚ッ!!」
【アームド・ドラゴンLV10】
風属性 ☆10 ドラゴン族
攻撃力3000
守備力2000
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する「アームド・ドラゴン LV7」1体を
生け贄にした場合のみ特殊召喚する事ができる。
手札を1枚墓地へ送る事で、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。
フィールドに降臨するアームド・ドラゴン最終形態。そのレベルは神のカードと同格にあるLV10。
ここまで進化したアームド・ドラゴンLV10にはもはや捨てる手札コストに関係なく相手フィールドの表側モンスターを殲滅する殺戮竜だ。
「アームド・ドラゴンLV10の効果発動! 手札を一枚捨て相手フィールドの表側表示モンスター全てを破壊する! ジェノサイド・ビッグ・カッター!」
「馬鹿が! テメエの方から墓穴を掘りやがったな! アームド・ドラゴンの効果で破壊された瞬間、The big SATURNの特殊能力が発動!
お互いのプレイヤーはThe big SATURNの攻撃力、つまり2800ポイントのダメージを受ける! 俺のライフは3000、テメエのライフは1600。これでジ・エンドだ。雑魚」
「雑魚は貴様だ。この万丈目サンダーがそんなプレイングミスをすると思った貴様のマヌケを知れ! リバース発動、ピケルの魔法陣! このターン、俺が受けるあらゆる効果ダメージはゼロとなる!」
万丈目の前に白い魔法陣が生まれ、The big SATURNの最後のダメージから万丈目を守り通す。
ピケルの魔法陣は自分のみをバーンダメージから守り通すカード。相手に恩恵はない。これで闇のプレイヤーキラーだけが2800のダメージを受け、ライフでも逆転できる。
しかし闇のプレイヤーキラー、否、彼の使う宍戸丈のデッキはそう甘いものではなかった。
「ククククッ。The big SATURNの効果ダメージを防ぐリバースをセットしていたのにはちと驚いたが爪が甘かったな。俺はThe big SATURNの効果に対しレインボー・ライフを発動させて貰った」
「レインボー・ライフだと!?」
レインボー・ライフは手札を一枚捨てることでこのターン、自身の受けるあらゆるダメージを回復へと変換する罠カード。
この効果によりThe big SATURNの2800のダメージはそのまま回復へと変換され、闇のプレイヤーキラーの命を潤ませた。
2800ライフを回復した闇のプレイヤーキラーのライフは5800。ライフの差を更に引き離した。
「ククククッ。どうするぅ万丈目ぇ。俺のフィールドはすっからかん。攻撃のチャンスだぜぇ」
「……安い挑発にのるか。ここで貴様を攻撃したところで、お前のライフを回復させることにしかならんことはお見通しだ。一時休戦を発動。互いのプレイヤーはカードを一枚ドローする」
【一時休戦】
通常魔法カード
お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。
次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。
一時休戦、その名の通り次の相手ターンまで互いの受けるダメージを0にする、デュエルの展開を休戦するカードだ。
エクゾディアなどの特殊勝利を目的としたデッキでない限り次の万丈目のターンまで首の皮は互いに繋がる。
「ターンエンド」
「クククッ。このデッキのパワーの前には貴様などつまらんカードで時間稼ぎをするしかあるまい。俺のターンだ、ドロー。
一時休戦のせいでテメエのライフを削ることはできねえが、そのかわり圧倒的なフィールドってやつを作ってやる。リバースカードオープン、メタル・リフレクト・スライム!
こいつは発動後、守備力3000のモンスターとなり守備表示でフィールドに特殊召喚される」
【メタル・リフレクト・スライム】
永続罠カード
このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、
自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。
このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)
千年の盾と同等の守備力3000。優秀な壁モンスターとして有効なモンスターだが、宍戸丈のデッキに限っていえばこのカードは壁モンスターとして採用されているわけではない。
このカードが恐ろしいのはレベルが10であるということだ。
「俺の墓地ではテメエが手札抹殺で墓地へ送った分も含めて二体のレベル・スティーラーがいる。こいつを使わせて貰うぜ。
レベル・スティーラーの効果。メタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げ二体のレベル・スティーラーを召喚! 二体のレベル・スティーラーを生け贄に堕天使アスモディウスを攻撃表示で召喚!! 冥界の宝札で四枚ドロー!!」
【堕天使アスモディウス】
闇属性 ☆8 天使族
攻撃力3000
守備力2500
このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。
1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、
「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。
「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。
「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。
最上級堕天使の一枚。破壊されて尚もトークンを残すモンスターが召喚された。
しかもこの召喚で闇のプレイヤーキラーは手札をまた四枚ドローしている。強力な最上級モンスターの召喚と手札増強を同時にやるこの戦術はやはり厄介なものだ。
「良いカードを引いたぜぇ。俺は墓地の闇属性モンスター、闇の侯爵ベリアルと光属性モンスター、虚無の統括者をゲームより除外。光来せよ、カオス・ソルジャー -開闢の使者-!!」
「カオス・ソルジャーだと!」
【カオス・ソルジャー -開闢の使者-】
光属性 ☆8 戦士族
攻撃力3000
守備力2500
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ
ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。
1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、
もう1度だけ続けて攻撃できる。
悪名高き混沌帝龍と並び立つカオスモンスターの片割れ。
余りの強力さからブルーアイズと同じく四枚しか生産されなかったデュエルモンスターズ界最強戦士。
カオス・ソルジャーが混沌の力を得て降臨した。
「カオス・ソルジャーの効果、1ターンに1度、フィールドのモンスター1体を選択し除外する。消え失せろ、アームド・ドラゴンLV10」
アームド・ドラゴンの最終進化形態もカオス・ソルジャーの混沌の力には叶わず跡形もなく消し去られる。
堕天使アスモディウスにカオス・ソルジャー。宣言通り圧倒的なフィールドというものが構築されつつあった。
「一時休戦のせいでバトルする意味はねえからな。カードを二枚伏せてターンエンドだ」
「――――この俺がただやられるだけだと思ったら大間違いだ。エンドフェイズ時、心鎮壷を発動! フィールドにセットされた魔法・罠二枚を封印する!
俺が封印するのは当然お前が今伏せた二枚のカードだ!」
【心鎮壷】
永続罠カード
フィールド上にセットされた魔法・罠カードを2枚選択して発動する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
選択された魔法・罠カードは発動できない。
闇のプレイヤーキラーがなにを伏せたかは知らないが、これでこのカードが存在する限りプレイヤーキラーはあの二枚を発動することはできない。
「悪あがきを」
舌打ちするが闇のプレイヤーキラーから余裕は消えない。カオス・ソルジャーの絶対的な力はそれだけの自信をプレイヤーキラーに齎しているのだろう。
その慢心、そこに一筋の勝機はある。