宍戸丈 LP4000 手札五枚
場 スピア・ドラゴン
伏せカード4枚
天上院吹雪 LP2700 手札五枚
場 無し
伏せカード4枚
丈は乱れる呼吸を抑え、どうにか平常心を保つ。
自分と吹雪のフィールドには其々リバースカードが四枚。この勝負、どのようなタイミングでリバースカードを使うかが重要となってくる。
「僕のターン!」
吹雪がドローして手札が六枚となる。ターンエンド時に持ち札としていられる最高枚数だ。吹雪の場の四枚のセットカードと合わせて、未知のカードが十枚。
なにか仕掛けてくる。
直感的にそう察した丈は何が来ても慌てないように覚悟を決めた。
「僕は天使の施しを発動、デッキから三枚のカードをドローし二枚捨てる。いくよ、リバースカードオープン! メタル・リフレクト・スライム! 発動後このカードはモンスターカードとなりフィールドに特殊召喚する」
【メタル・リフレクト・スライム】
永続罠カード
このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、
自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。
このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)
(読んでいた!)
丈のデッキにはトラップ・モンスター、メタル・リフレクト・スライムが三枚入っている。そして吹雪が天使の施しで二枚のレベル・スティーラーを墓地へ捨てていたのを丈は見逃してはいなかった。
「メタル・リフレクト・スライムの発動にチェーンして速攻魔法、サイクロンを発動! フィールド上の魔法・罠カードを一枚破壊する! トラップモンスターであるメタル・リフレクト・スライムは罠カードとしても扱われるため、俺はメタル・リフレクト・スライムを破壊する!」
ソリッドビジョンで巨大化したサイクロンのカードから荒ぶる風が真っ直ぐにスライムへと向かっていった。しかしサイクロンがスライムを貫く直前、吹雪もまたリバースカードを発動していた。
「なら僕はサイクロンにチェーン! もう一度、魔宮の賄賂! これでサイクロンは無効化される」
「げっ!」
「墓地のレベル・スティーラーのモンスター効果、メタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げて二体のレベル・スティーラーをフィールド上に特殊召喚するよ」
メタル・リフレクト・スライム レベル10→8
【レベル・スティーラー】
闇属性 ☆1 昆虫族
攻撃力600
守備力0
このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。
このカードは生贄召喚以外のためには生贄にできない。
これで吹雪のフィールドにモンスターが三体並んだ。もし吹雪の手札にバルバロスがいればその効果により丈のフィールドは焼野原となってしまうだろう。
「安心していいよ、僕の手札にバルバロスはない」
丈の心を読んでいたかのように吹雪が言った。
バルバロスがないというのは嬉しいが、かといって安心したかといえばそうではない。バルバロス以外にも丈のデッキには厄介な最上級モンスターが多くいる。
「だけど最上級モンスターはいる。僕は二体のレベル・スティーラーを生贄に虚無の統括者を攻撃表示で召喚!」
【虚無の統括者】
光属性 ☆8 天使族
攻撃力2500
守備力1600
このカードは特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手はモンスターを特殊召喚する事ができない。
「げげぇー!」
露骨に丈が顔を歪める。
未来融合を発動した際に確認した限り、吹雪は重いドラゴン族上級モンスターを特殊召喚で展開していくデッキ。通常召喚ではなく特殊召喚こそが戦術のかなめにある。
しかし虚無の統括者がいる以上、丈の特殊召喚は封じられた。
「やらせて、たまるかっ! 俺は奈落の落とし穴を発動! 攻撃力1500以上のモンスターが召喚、反転召喚、特殊召喚された時! そのモンスターを破壊し除外する!」
【奈落の落とし穴】
通常罠カード
相手が攻撃力1500以上のモンスターを
召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動する事ができる。
その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する。
「こればかりは通させないよ。僕はカウンター罠、神の宣告を発動! ライフを半分支払い、魔法・罠・モンスターの召喚を無効にする」
天上院吹雪 LP1350
吹雪のライフが1350にまで下がる。
下級モンスターの直接攻撃一発で削りきれる数値だ。これでライフポイントの差は大きく開いたが状況的には丈の不利だ。
「僕は虚無の統括者で守備表示のスピア・ドラゴンを攻撃、虚無の閃光!」
虚無の統括者が腕を翳すと、眩い光が放たれスピア・ドラゴンを消し飛ばす。
スピア・ドラゴンがデメリットアタッカーだったのが幸いした。守備表示だったため丈にダメージはない。
「僕はリバースカードを一枚セットしターンエンド。君のターンだよ」
「俺のターン! ドロー!
何が何でも虚無の統括者を破壊しなくてはならない。
未来融合は次のターンで最強のFGDを丈のフィールドに呼び出すが、フィールドにくるための扉が虚無の統括者に封じられていては来るものも来れない。
生贄用のモンスターもおらず特殊召喚が封じられている今、いきなり自分の場に上級モンスターを呼び出す事は出来ないだろう。ならば、
「俺は一族の結束を発動!
【一族の結束】
永続魔法カード
自分の墓地に存在するモンスターの元々の種族が1種類のみの場合、
自分フィールド上に表側表示で存在する
その種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
「そして死者転生を発動! 手札を一枚捨てて墓地のモンスターを一枚手札に加える。俺はカードを一枚捨て、墓地より真紅眼の飛竜を手札に加える。真紅眼の飛竜を通常召喚!」
【真紅眼の飛竜】
闇属性 ☆4 ドラゴン族
攻撃力1800
守備力1600
通常召喚を行っていないターンのエンドフェイズ時に、
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
自分の墓地に存在する「レッドアイズ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
「一族の結束の効果で真紅眼の飛竜の攻撃力は2600にまで上昇! これで虚無の統括者と攻撃力が互角になった。真紅眼の飛竜で虚無の統括者に攻撃!」
「攻撃を仕掛けるつもりだね。だけど忘れているようだ。それは僕のデッキなんだよ。そう来るであろうことも予測済みさ! ……君のデッキは随分と用意がいい。お蔭でそのカードにも対応できる。ボクはサイクロンを発動! 一族の結束を破壊!」
「や、やばい!?」
既に攻撃宣言はしている。
真紅眼の飛竜は一族の結束が破壊されても攻撃を続行する。特攻ですらない自爆攻撃を。
宍戸丈 LP4000→3300
「俺のライフがっ! ああもう、俺はリバースカードを二枚セットしてターンエンド!」
どうにもデッキが回ってくれない。
まるで自分の手足が他の……ネギや鰌にでもすり替わってしまったかのようだ。
「僕のターン。僕はメタル・リフレクト・スライムのレベルを6にして、二体のレベル・スティーラーを再度特殊召喚! そして二体のレベル・スティーラーを生贄にThe supremacy SUNを召喚!」
【The supremacy SUN 】
闇属性 ☆10 悪魔族
攻撃力3000
守備力3000
このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、
次のターンのスタンバイフェイズ時、
手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。
「これでチェックだよ。ボクは二体のモンスターでプレイヤーにダイレクトアタック!」
「リバース罠発動! ガード・ブロック! 俺はThe SUNの戦闘ダメージをゼロにする」
「だけど虚無の統括者の攻撃が残ってるよ。虚無の統括者の直接攻撃、虚無の閃光!」
宍戸丈 LP3300→800
「これでライフも逆転。僕はターンエンド」
「お前のエンドフェイズ時、速攻魔法を発動。月の書、モンスター一体を裏側守備表示にする」
「成程ね。裏側守備のモンスターは永続効果を発動している事が出来ない。虚無の統括者を一時的に封じて、F・G・Dを特殊召喚する気だね」
「……ご名答だ。俺のターン、ドロー! このターンのスタンバイフェイズ時、F・G・Dが俺のフィールドに特殊召喚される! 現れろFGD! 相手フィールドを殲滅しろ!」
【F・G・D】
闇属性 ☆12 ドラゴン族
攻撃力5000
守備力5000
ドラゴン族モンスター×5
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードは闇・地・水・炎・風属性モンスターとの戦闘では破壊されない。
「FGDの攻撃力は5000! 虚無の統括者は勿論、The SUNよりも強い!」
「やるねぇ。だけど……僕はそこまで読んでいたよ。リバース罠発動、奈落の落とし穴! 効果は説明するまでもないね。特殊召喚されたFGDを破壊しゲームから除外する」
「……」
折角現れたFGDだがフィールドに五秒も留まることもなくゲームから除外されてしまった。
丈は俯きながらもどうにかターン終了の宣言をする。
「俺はこれでターン終了」
「壁モンスターを召喚することもなくターンエンド。残念だけど命運も尽きたようだね」
「そうでもないさ。とある知人は言った。ライフポイントが0という数字を刻むまで勝敗は分からないと。俺にはまだ可能性は残っている」
「可能性?」
「俺の手札にもフィールドにも可能性はない。しかし……俺の墓地にはまだ可能性が残っている! そう、レッドアイズという可能性が!」
「そうか! 君が通常召喚しなかったのは!」
「ターンエンド時、墓地の真紅眼の飛竜のモンスター効果発動! 通常召喚しなかったターン、このカードをゲームから除外することでレッドアイズと名のつくモンスターを特殊召喚する! 俺の墓地に眠るレッドアイズは三体! そして真紅眼の飛竜も三枚!」
「未来融合と死者転生でそれだけのドラゴンを墓地へ送っていたのか。この時の為に」
「飛翔せよ三体のレッドアイズ!」
【真紅眼の黒竜】
闇属性 ☆7 ドラゴン族
攻撃力2400
守備力2000
フィールドに並ぶ三体の伝説。
あのブルーアイズと並び称されるほどのレアカード。ブルーアイズが勝利を齎すと伝えられるのに対し、レッドアイズは所有者に可能性を齎すという。
「……レッドアイズを三体同時に召喚したのは驚きだけど、まだ僕のフィールドのモンスター達の方が攻撃力は上だ。僕はメタル・リフレクト・スライムのレベルを4にまで下げ、二体のレベル・スティーラーを特殊召喚。そしてスライムと二体のレベル・スティーラーを生贄に神獣王バルバロスを召喚!」
「甘い! 速攻魔法、禁じられた聖杯! バルバロスの攻撃力を400上げ、このターンの間バルバロスの効果を封じる!」
「安々とやらせてはくれないか。だけどこの総攻撃で終わりだ! 三体のモンスターで攻撃!」
「言っただろう。ここまでは読んでいたって。俺はリバースカードオープン、スリーカード!」
【スリーカード】
通常罠カード
自分フィールド上にトークン以外の
同名モンスターが3体以上存在する場合に発動できる。
相手フィールド上のカード3枚を選択して破壊する。
「そのカードは! 驚いたな、昨日パックで当てて、何気なく入れたカード。それがここでくるだなんて。本当はそのコンボ、僕がやる予定だったんだけど先を越されちゃったねぇ」
「俺のフィールドにはレッドアイズが三体。よってバルバロス、The SUN、虚無の統括者は破壊だ」
吹雪のフィールドからモンスターが消失していく。
もしも最初から二人のデュエルを見ていた者がいれば目を疑っただろう。つい少し前までフィールドががら空き状態にまで追い込まれていたのは丈の方だった。しかし形勢は逆転。二人の立場も入れ替わっていた。
「これ以上、出来ることはなさそうだ。しかし……。僕はこれでターンエンド」
「俺のターン!」
「この瞬間、The SUNのモンスター効果発動! 手札を一枚捨てて墓地のThe SUNを特殊召喚する! レッドアイズの攻撃力は2400。The SUNでは突破できないよ」
「それを覆すのは俺が最初のターンから伏せていたこのカードだ。俺は魔法カード、融合を発動。手札のメテオ・ドラゴンとレッドアイズを融合! メテオ・ブラック・ドラゴン!」
【メテオ・ブラック・ドラゴン】
炎属性 ☆8 ドラゴン族
攻撃力3500
守備力2000
「真紅眼の黒竜」+「メテオ・ドラゴン」
「メテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃力は3500だ。メテオ・ブラック・ドラゴンと二体のレッドアイズによる総攻撃! メテオ・ダイブ! 黒炎弾!」
天上院吹雪 LP1350→0
「僕の負けだね。でもいいデュエルだったよ」
デュエルが終わると吹雪が歩み寄ってきて手を差し出した。
何か言うのは野暮というモノだろう。丈は黙ってその手をとり握手した。
「未来融合でデッキの確認が出来たのが良かったよ。こっちこそスリルのある戦いだった。……というか、勝ったのに嬉しくない」
吹雪の使っていたのは丈のデッキだ。そして自分が使っていたのは吹雪のもの。勝利したデュエリストは自分でも、勝利したデッキは吹雪。
まるで自分の顔面を他人の手を操ってぶん殴ったような違和感と微妙な感触。
勝って微妙な気分になったのは生まれて始めてだった。
「たしかに僕は負けたけど、その僕を倒したのは僕のデッキだから……うぅん、これは何とも不思議な感覚だねぇ」
ふと横を見れば亮の方もデュエルが終盤戦に突入していた。
亮のフィールドには魔道サイエンティストとカタパルト・タートル。相手フィールドにはサイバー・エンド・ドラゴン。
そしてライフポイントはどちらも4000で亮のターンだ。
(あれは勝ったな)
丈は亮の勝利を確信する。
もし亮が使っているのがあのデッキなら攻撃力4000のサイバー・エンドなど恐れるものではない。
「俺は魔道サイエンティストのモンスター効果発動! 3000ライフを払いアクア・ドラゴンを三体召喚、そしてカタパルト・タートルで射出スァンレンダァ!」
「ぐぅうわあああああ!」
「止めぇ! 俺は御隠居の猛毒薬でライフを回復。そして魔道サイエンティストの効果で紅陽鳥を特殊召喚、カタパルト・タートルで射出ッ!」
「ふんばり!?」
亮の圧勝だった。
フィールドにはサイバー・エンド・ドラゴンが棒立ちのまま。なんというか亮は相変わらず暴走特急だった。
何度かのデュエルをこなし、授業終了時間が近くなると再び整列する。
「今日のデュエルで違和感を感じた者は挙手をしたまえ」
田中先生が皆の前で何の感情も見せず淡々と言った。
遠慮がちに何人かの生徒が手を挙げる。丈たちもそれに含まれていた。
「中国の兵法書、孫子にこういう一節がある。彼を知り己を知れば百戦危うからずと。諸君等も何度か対戦するデュエリストの戦いの記録等を閲覧し、対策をとったこともあっただろう。しかし相手を知るだけではデュエルには勝てん。ある程度のタクティクスとデッキがあれば、そこいらの雑魚なら倒せるだろう。だが本物には勝てはしない。自分のデッキを知らぬ者に勝利の女神は微笑まん」
生徒全員が黙って先生の言葉に耳を傾けていた。
校長の演説の際には居眠りをしていた者も、その時が嘘のように表情は真摯だった。
「私からは以上だ。質問は受け付けん。言っても理解できぬ無能に聞かせる説法などないのでな。授業を終了する、解散」
号令すらせずに田中先生が颯爽とデュエル場から去っていく。
その後ろ姿を見送りながら丈は隣にいる亮に囁いた。
「なぁ」
「ん?」
「田中先生って生徒を見下してるし嫌味で陰気かつ性格最悪な上、性根が腐りきってるけど授業は案外まともだよな」
「優秀な人間が必ずしも善人とは限らない。そういうことなんだろう」
「うぅん、亮は博識だねぇ。たしかにあの先生の実力は高いよ」
亮が言うと、何故か後ろにいたJOIN……もとい吹雪がニヤニヤと丈と亮の頭の間から首を出してきた。
その事にも丈は一つ物申したかったが、それ以上に気になる事があった。
「吹雪って、田中先生のこと知ってんの?」
「アレでも元はプロリーグの上位ランカーなんだよ、田中先生。あちこちの大会で優勝しては賞金を稼いだりしていたらしいね。リーグでも連戦連勝。公式記録は百連勝、一時は武藤遊戯以来空席となってる二代目キング・オブ・デュエリストになるんじゃないかって噂されていたほどだよ」
「ど、道理で……」
最初の授業で一目見た時から只者ではない雰囲気は感じていたが、元プロというのなら納得できる。世界が世界のせいか、プロデュエリストには個性的な人が多いのだ。良い意味でも悪い意味でも。
「ただ……」
「ただ?」
「性格は物凄く悪かったみたいだね。勝利してもニコリともしないし、喋れば毒舌か相手への悪口や戦略批判が飛び出すから、連勝記録に反してファン自体はかなり少なかったそうだよ。その代わりアンチはプロリーグ一位だったそうだけど」
「おいおい……」
「だけど……プロリーグのチャンピオン、デスティニー・オブ・デュエリストと謳われるDDと戦うって時になって突如プロを引退したんだ。その後の消息は不明だったけど、まさかこんな所で会うなんてね」
「フム。二代目キング・オブ・デュエリストになるのではと噂されるほどの実力者か。いつかデュエルをしたいものだ」
デュエル馬鹿の亮としては、やはり田中先生の実力が気になるのだろう。
とはいえ丈も田中先生がどのようなデュエルをしていたかには興味がある。
今度DVDでも借りてきて過去の試合を見る事にしよう。そう決意して、丈たちは次の授業へと向かっていった。