海馬コーポレーションが資金を捻出し、デュエル界の重鎮であった影丸理事長等と共に曰くつきの孤島にデュエル・アカデミアが創設されて以来、アカデミアは毎年多くのプロデュエリストを排出してきた。
アカデミア卒のデュエリストはプロリーグに加盟してからも着実に成績を伸ばし、シャイニング・リーグなどではランキング上位の三分の一はアカデミアを卒業して者達で占められている。
その輝かしい実績が第二、第三のデュエル・アカデミア創設気運に発展するまでそう時間がかかることはなかった。
現在アカデミア本校に続き世界各地には数多のアカデミア分校が新たに創設されている。アカデミア本校にとって一番馴染み深いのは毎年代表者同士の交流戦が行われるノース校だろう。
ノース校は距離的にアカデミア本校に一番近いのでそういった意味での交流も多い。ノース校以外にはアークティック校、イースト校、ウエスト校、サウス校などがある。他に異色の校舎としては学業重視の本土にあるアカデミア男子校や、お嬢様学校でもあるアカデミア女子なども存在する。
一口に分校といっても学校ごとにコースは様々でデュエル・アカデミアのように寮ごとに待遇がまるで異なるようなシステムもあれば、どんな学生にも平等の教育を受けさせる方針をとる学校など様々だ。
ただし多くの分校に言えることだが、やはり規模・実績・学生数において大本であるアカデミア本校には劣る。
アカデミア本校が最も歴史があることや、近年でいえばアカデミアの〝四天王〟の存在がアカデミア本校のレベルを上げる一因にもなっているといえるだろう。
だが数多ある分校の中で唯一つの例外がある。それが丈がNDL加盟と同時に留学することになったアメリカ・アカデミアだ。
ペガサス・J・クロフォードの生まれた国でありインダストリアル・イリュージョン本社のあるアメリカ。キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯の生まれた国であり海馬コーポレーションの本社がある日本。
この両国は常に最先端デュエル先進国の座を争っているツートップであり、日本で二冠王が出ればアメリカでは三冠王が出るという言葉すらあるくらいだ。
それはデュエル・アカデミアにおいても例外ではなく、アメリカ・アカデミアは唯一本校以外の学校で本校に比肩しうるだけの規模をもっている。もっともだからといって仲が悪いというわけではなく、言うなれば良きライバル関係とでもいったところだ。
「……やれやれ。さすがに少しは緊張したな」
マッケンジー校長に留学の挨拶を終えた丈は少しだけ疲れた面持ちで校長室から出た。
今日は日曜日。日曜日が休みなのはアメリカにおいても日本と同じで、アメリカ・アカデミアの校舎に人気は余りない。平日であれば生徒で賑わうであろう食堂も今はガランとしている。
丈がわざわざ日曜日に挨拶をしにきたのは偶然ではない。日曜日なら校舎にいる生徒も少ないだろうと分かった上で狙って来たのだ。その理由は、
「おい見ろよ。あれが」
「ああ。アカデミア本校四天王の一角。〝魔王〟ジョー・シシドだ。本当に留学してくるなんて」
「しかも学生でありながらNDLのトップリーグに入って、いきなり孔雀舞を倒すような怪物だ」
なにかの事情で校舎にいたアメリカ・アカデミアの生徒たちのヒソヒソとした囁き声が聞こえてくる。
英語という学問に対して真面目に取り組んでいたことをこれほど感謝したことはない。もしも日々の努力がなければ丈は頭の上にクエスチョンマークを浮かべるしか出来なかっただろう。
丈が嘆息しつつ一人でヒソヒソ声の合唱の中を歩いていた時だった。その背中に声が掛けられる。
「どうやらお疲れのようね」
「……………ん? あ、貴女は」
振り向いてみると、そこには理知的な眼鏡をかけ学者らしい白衣に身を包んだ女性がいた。
スラリと長い身長と長い金髪を靡かせた姿は見る者に〝やり手の天才女性研究者〟というイメージを植え付ける。或いは天才と女性の間に美人と付け加えてもいいかもしれない。
「
「こちらこそお久しぶりです。ミス・ホプキンス」
「ふふふっ。ちょっと見ない間に随分と有名になったわね。三邪神に、アカデミアの四天王に…………数えてたら指がなくなるわ。ちょっと前の遊戯を思い出すわ」
「あは、は」
これまでならキング・オブ・デュエリストと準えるなど恐れ多いと恐縮していただろう。だが三邪神なんてカードの担い手となっりダークネスなんて存在と戦ったりした手前、武藤遊戯並みに騒動に巻き込まれているという言葉を否定することはできなかった。
丈は改めて自分が歩んできた数奇な巡り合わせを思い苦笑いした。
「ところでミス・ホプキンスはどうしてアメリカ・アカデミアに? まさか学生ってわけじゃない……ですよね」
「当たり前でしょ! バトルシティトーナメント前からとっくに大学生だったのになんで今更高等部に逆戻りしてるのよ。留年どころか降年してるじゃない」
「バトルシティから大学生って……え?」
まじまじとレベッカの表情を見つめる。が、やはりどう見てもバトルシティの時には大学生してたようには見えない。
余程レベッカが童顔でない限りバトルシティの頃なら精々小学生か中学生くらいの年齢だろう。そんな丈の内心を悟ったのだろう。
「あぁ。私、飛び級して十二歳の時には大学生だったの」
「そういえば最年少で全米王者になった天才でしたね。ミス・ホプキンスは」
「あんまり畏まった風に喋らないでOKよ。年だってそう離れてないしレベッカでいいわ。それで何の話だったかしら?」
「ミス……オホン。レベッカはなんでアメリカ・アカデミアの生徒でもないのにここに?」
「アメリカ・アカデミアと私とお祖父ちゃんの大学は近くにあるの。だから偶に特別講師として実技とかを教えに来たりしてるのよ。ついでに私は私で将来有望な生徒をうちの大学に誘ったりしてるわけ」
「凄いですね。確か大学で考古学の研究もしているのに」
「これでも最年少で全米チャンプになった
自分で自分を天才と言っているのにまるで嫌味に感じないのは、レベッカ・ホプキンスという女性が本物の天才だろう。
凡才が自分を天才というのは単なる見栄だが、天才が自分を天才というのは自分の名前を言うようなものでしかない。
日本だと仮に本物の天才だとしても謙遜するのが美徳とされているが、このあたりはお国柄だろう。国ごとの特色による性格や考え方の差異も異文化交流の醍醐味だ。
「ジョウはこれから予定はあるの?」
「当日迷ったら困るから、これから一通り校舎を見て回ろうかと思ってたんだけど」
「なら道案内がいた方が都合が良いわね。案内してあげるわ」
レベッカがクスリと笑いながら胸を張る。
丈としても一人で好機の視線があちこちから突き刺さってくる校舎を回るのは心細かったところだ。レベッカの提案は願ってもない。
「迷惑でなければ」
丈がそう返事するとレベッカが微笑む。だが二人が校舎の探索に行こうとした所で、
「――――ジョウ・シシドがここに留学してくるっていうっていう話は本当だったようだな」
アメリカ・アカデミアの白い制服に身を包み制服と同じ白い帽子を被った男子生徒が、丈にありありと敵意を滲ませた言葉を投げつけてきた。
隣には興味なさげに男子生徒を見守りつつ、密かに丈のことを注意深く観察している女生徒がいる。髪色はレベッカと同じ金色だが長さはロングではなくショート。どことなく吹雪の妹の明日香に似た雰囲気がある。
「き、君は!」
「フッ。ジョウ・シシド、あの時の借りをここで」
「……すまない。誰だっけ?」
ずっこけそうになった男子生徒だったが寸前のところで踏みとどまった。
男子生徒は怒りで顔を真っ赤にして怒鳴る。
「だ、誰だと!? まさかMeのことを忘れたんじゃないだろうな?」
「はて」
自分にアメリカ人の知り合いなどそう多くはない。もしも彼の言う通り自分と彼に面識があるなら、記憶の糸を手繰れば思い出せるだろう。
しかし本当にいつこの男子生徒と知り合ったのか覚えていないのだ。
丈が記憶の人を手繰り寄せる前にレベッカが口を開く。
「デイビット・ラブ。中等部でナンバーワンの成績の貴方が高等部……いえ、ジョウに何の用?」
「思い出した!」
レベッカの語った〝デイビット〟という名前。Meという変な喋り方。さらにアメリカ・アカデミアの生徒であること。
それらのキーワードを満たす丈が知る人物といえば一人しかいない。
「思い出した? というと本当にデイビットと面識があるの?」
「ああ。中学の頃、アメリカに修学旅行に来たときに偶然プラネットシリーズの一枚〝The big SATURN〟が優勝賞品になってる大会を見つけて、賞品欲しさに出場したんだ。
その大会で決勝を戦ったのが二つ年下のアメリカ・アカデミアの生徒だったんだ。俺の記憶が正しければその決勝戦の相手がデイビットでやたらとMeを連呼してたはず」
「その通りだ! 漸く思い出したのか!」
デイビットはかなり憤慨していた。デイビットからすれば丈は決勝戦で己を下し優勝を掻っ攫った因縁の相手。そんな相手に自分の名前を完全に忘れ去られていたのである。怒りは至極もっともだろう。
丈もさすがにばつが悪かったので何も言えずに鼻を掻くことしか出来ない。
「デイビットについては分かったけど、そっちは?」
丈はデイビットの隣りにいる女生徒に尋ねる。
「レジー・マッケンジーよ。不本意ながら一応はこのデイビットと同級生をしてるわ。私は特に貴方に用はない。ただデイビットの付添できただけ」
こっそりと耳元でレベッカが「マック……レジーはデイビットに次いで次席、しかもマッケンジー校長の一人娘よ」と補足した。
デイビットとレジー。一緒にいる二人だが友好的なオーラはお互いから感じられない。寧ろ仕事上だけのビジネスパートナーといった雰囲気を醸し出している。
それにしては何故かお揃いのピアスをつけているが何か深い理由でもあるのだろうか。
「宍戸丈。MeがYOUに要求することはオンリーワン。YOUが優勝賞品として手に入れたカード、The big SATURNと真の優勝者を賭けてMeとアンティデュエルをしろ」
「滅茶苦茶言うわね。丈、別に聞く必要はないわよ」
「いや受ける」
「は? なんでまた。本校と違ってここはアンティも問題ないけど丈が受ける理由なんてないでしょう」
アンティ勝負。そのものずばりお互いのカードを賭けあい、勝利者が賭けたカードを手に入れるというデュエルだ。
彼のバトルシティではこのアンティ勝負がルールに盛り込まれたことでも有名だろう。武藤遊戯が三幻神のカードを集めることができたのも、このルールによってグールズがもっていた二枚の神と海馬瀬人のオベリスクを入手したからだ。
ただし複数の不良デュエリストが一人を囲んでアンティ勝負を強引に受けさせてレアカードを奪う、といった新しいカツアゲが一時期日本では社会問題となったこともあってアカデミア本校ではアンティ勝負は禁止されている。
「理由は三つある。こちらの不手際とはいえ、一度戦ったデュエリストの名前を忘れるっていう無礼をしてしまった罪滅ぼしというのが一つ。ここで要求を突っぱねてもたぶんデイビットは諦めないだろうというのが一つ。
最後の一つはわざわざ高等部まで乗り込んでアンティを持ち掛けるくらいだ。これから彼の先輩になる身として、後輩の要求には応えないと」
丈はデイビットのようなタイプは嫌いではない。
貪欲に勝利を求め、カードを集め、時に人を見下す精神は万人受けはしないだろうが反骨精神旺盛な者ほどデュエリストとしては大成するものだ。
大局に唯々諾々と従っているだけでは人間は大成することができない。このあたりは光と闇の竜を渡した万丈目にも共通するところがあるといえるだろう。
「フフフフッ。Meの要求を受け入れて感謝しよう。だがYOUは直ぐに後悔することになる。そういえばMeのアンティはどうする? 決める必要のないことかもしれないが一応はマナーだ。YOUが万が一ウィナーとなった場合、YOUはMeのなんのカードを望む?」
「カードは要らない。ただ今後『The big SATURN』を賭け金とするアンティ勝負を挑んでこないこと。それが条件だ」
「おいおい。魔王ともあろう男が随分と謙虚じゃないか! OK。その要求を呑もう。デュエルだ」
「…………」
丈は最近使ってない暗黒界デッキを取り出そうとするが止める。デイビットは〝The big SATURN〟のカードを望んでデュエルを挑んできている。
ならばお望みのカードが入ったデッキで戦うのが礼儀というものだ。
「「デュエル!」」
デュエルディスクが示した先攻デュエリストは丈。亮と違って丈のデッキは先攻絶対有利なのでこれは有り難いことだった。
手札も有り難いことに最初から冥界の宝札がきている。これなら上手い立ち上がりができるだろう。
「俺のターン、ドロー。手札よりトレード・インを発動。手札よりレベル8のモンスターを捨ててカードを二枚ドローする。さらに手札よりフォトン・サンクチュアリを発動。フィールドに二体のフォトントークンを特殊召喚する」
【トレード・イン】
通常魔法カード
手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。
【フォトン・サンクチュアリ】
通常魔法カード
このカードを発動するターン、
自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。
自分フィールド上に「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)
2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは攻撃できず、シンクロ素材にもできない。
ラッキーな時というのはラッキーが続くものだ。トレード・インでドローしたお蔭で最初のターンでいきなり最上級モンスターを召喚できる用意まで整ってしまった。
丈はニヤリと笑い手札から一枚のカードを抜く。このモンスターを召喚する前に最後の準備がいる。
「手札より永続魔法、冥界の宝札を発動! そして二体のフォトントークンを生け贄に捧げ降臨せよ! 銀河眼の光子竜!!」
【銀河眼の光子竜】
光属性 ☆8 ドラゴン族
攻撃力3000
守備力2500
このカードは自分フィールド上に存在する
攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、
手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、
その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。
この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。
この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、
このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを
ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。
海馬瀬人の最強のしもべ、青眼の白龍にも似た宇宙の瞳をもつドラゴンが天高く咆哮しながら飛翔する。
まだ誕生していない新しいシステムに関連する効果をもつ銀河眼の光子竜だが、そのシステムがない今ではその能力は余り意味がない。だがそれを抜きにしても銀河眼の光子竜は他に強力な特殊能力をもっている。
(もう一つの効果も先攻1ターン目じゃ使えるはずもないんだけど)
最上級モンスターの生け贄召喚に成功したことで冥界の宝札の効果が発動する。丈はデッキから二枚のカードをドローした。
このターン、丈が使用ないし召喚したカードは合計で四枚。でありながら丈には手札が五枚もある。
並んでいく最上級モンスターと途絶えない手札。これこそが丈のデッキの強味だ。
「カードを一枚伏せターンエンド」
「いきなり最上級ドラゴンを召喚してくるとは……。やはり〝魔王〟は健在ということか。クククククッ。だが丁度良いくらいさ。これくらいのモンスターを召喚してくれなければ倒しがいってものがないじゃないか。フンフンフーン。Meのターン、ドロー!」
何故かアメリカ国歌を鼻歌で鳴らしながらデイビットがドローする。
丈の記憶にあるデイビットは亮やキースと同じく機械族を中心としたデッキを使っていた。あの頃とデッキタイプを百八十度変更していなければ恐らくは、
「Meは手札より永続魔法、機甲部隊の最前線を発動。機械族モンスターが破壊されMeの墓地へ送られた時、そのモンスターより攻撃力の低い同属性機械族をデッキより特殊召喚できる」
【機甲部隊の最前線】
永続魔法カード
機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、
そのモンスターより攻撃力の低い、
同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
やはり推察は正しかった。デイビットの使用するのはあの頃と同じ機械族、それもマシンナーズを中心としたデッキだ。
大火力のサイバー流とは趣の異なる、途絶えぬ手札と物量を活かしたタイプのデッキである。
「そしてMeは手札よりマシンナーズ・フォースを捨て、マシンナーズ・フォートレスを攻撃表示で召喚する!」
【マシンナーズ・フォートレス】
地属性 ☆7 機械族
攻撃力2500
守備力1600
このカードは手札の機械族モンスターを
レベルの合計が8以上になるように捨てて、
手札または墓地から特殊召喚する事ができる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。
また、自分フィールド上に表側表示で存在する
このカードが相手の効果モンスターの効果の対象になった時、
相手の手札を確認して1枚捨てる。
近未来的な戦車のようなモンスターがキャタピラを動かしながら砲口を銀河眼の光子竜に向けてくる。
攻撃力は銀河眼の光子竜が勝っているが、戦闘で破壊された時に相手フィールドのカードを一枚破壊する効果により格上のモンスターを倒すこともできるカードだ。
しかも破壊したとしても手札に機械族があれば何度でも蘇ってくるため面倒という他ない。
「さらにMeはカードを二枚セット! ターンエンドだ」
攻撃力で劣るマシンナーズ・フォートレスを攻撃表示で召喚しつつ自信満々にカードを伏せたところを見ると、あの中の一枚または両方ともがミラーフォースのような罠カードだろう。
だが罠カードなら今のフィールドならば恐くはない。
「俺のターン……ドロー。手札より死者蘇生を発動。トレード・インで墓地へ送ったThe big SATURNを特殊召喚する!」
「なっ!? 既にSATURNを墓地へ送っていたのか!」
【The big SATURN】
闇属性 ☆8 機械族
攻撃力2800
守備力2200
このカードは手札またはデッキからの特殊召喚はできない。
手札を1枚捨てて1000ライフポイントを払う。
エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。
この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。
相手がコントロールするカードの効果によってこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。
デイビットが両目を開いてその巨大なる体躯を見上げる。古のゴーレムが如き巨体の機械の巨人は雄々しく丈の前に出現した。
表示形式は当然攻撃表示。手札を一枚捨て1000ライフを払うことで、エンドフェイズまで攻撃力を1000上昇させる能力。そして相手のカードの効果で破壊された時に互いのライフに攻撃力分のダメージを与えるモンスター効果。
SATURNの真骨頂は防御ではなく攻撃にあるのだ。
「SATURN、2800のダメージを受けるのは痛いが止むを得ない。SATURNが特殊召喚したタイミングでMeはリバース発動。サンダー・ブレイク! 手札を一枚捨てSATURNを破壊する!」
「そうはいかない。サンダー・ブレイクの発動にチェーンして罠発動、トラップ・スタン!」
「っ!」
【トラップ・スタン】
通常罠カード
このターン、このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。
「このターン、このカード以外の罠カードの効果を無効にする。これでサンダー・ブレイクの効果は無効となる」
「おのれ……。Meにカードの無駄撃ちを強いるとは。だが如何にSATURNがあろうとMeのフィールドには破壊された時に相手フィールドのカードを道連れにするマシンナーズ・フォートレスがいる! さらにマシンナーズ・フォートレスが破壊されたとしても機甲部隊の最前線が後続を呼ぶ!
この布陣、YOUといえど安々とは突破できまい!」
「そうだな。確かにマシンナーズが厄介なのはそれだ」
フォートレスを戦闘破壊すれば、こちらのカードが一枚道連れになる。機甲部隊の最前線があればそれに追加して後続のモンスターまで飛び出してくる。
かといってフォートレスをモンスター効果で除去しようとしたとしても、効果の対象にすれば手札を確認して一枚捨てるというハンデス効果が発動してしまう。
フィールドからモンスターを絶やさずに相手のフィールドを除去する。シンプル故に強力だ。
「だが俺もアカデミア特待生寮で惰眠とただ飯を貪っていたわけじゃない。そのデッキと戦術の攻略法は編み出している!」
「馬鹿な! Meの戦術を崩すなど、出任せもいい加減に……」
「ぶっ倒してもぶっ倒しても次から次に後続が出てくるなら一撃で全てを終わらせればいい!」
「!?」
「俺はThe big SATURNと銀河眼の光子竜を生け贄に捧げる!」
「SATURNを生け贄にするだとぉ!?」
通常のデッキならばデッキの要ともなりうるThe big SATURNのカード。さらにはSATURNに並ぶほど強力な最上級モンスターである銀河眼の光子竜。
その二体を生け贄にすることが信じられないデイビットは絶句する。
「巨大なる土星と宇宙を飛翔する竜を供物とし、海王星に宿りし暴君を降臨する! 現れろ、The tyrant NEPTUNE!」
【The tyrant NEPTUNE】
水属性 ☆10 爬虫類族
攻撃力0
守備力0
このカードは特殊召喚できない。
このカードはモンスター1体を生け贄にして生け贄召喚する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力は、生け贄召喚時に生け贄にしたモンスターの
元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。
このカードが生け贄召喚に成功した時、
墓地に存在する生け贄にした効果モンスター1体を選択し、
そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。
The big SATURNと同じプラネットシリーズの一枚、土星のSATURNに対して海王星のNEPTUNE。
爬虫類染みたワニのような頭部。両足も頭部と同じくワニのようであるが、上半身には甲冑に包まれた力強い体をもっている。ギリシャのケンタウロスをワニのようにしたモンスターだった。
手には暴君の名に相応強い大鎌をもっている。
「あ、新たなプラネットシリーズ……The tyrant NEPTUNEだと? まさか、こんなことが」
「The tyrant NEPTUNEのモンスター効果。このカードの攻撃力と守備力は生け贄にしたモンスターの元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。
そしてこのカードが生け贄召喚に成功した時、墓地に存在する生け贄にした効果モンスターを一体選択し、そのモンスターの名前と効果を自らのものとして奪い取る! 俺はThe big SATURNを選択、SATURNの名前と力を奪う!」
生け贄にしたモンスターの力と名を我が物とする特殊能力。暴君の名に恥じない強力な能力だ。
攻撃力3000と2800のモンスターを生け贄としたため攻撃力は脅威の5800。
「そしてSATURNから奪い取ったモンスター効果発動。手札を一枚捨て1000ライフを払い、NEPTUNEの攻撃力を1000ポイント上昇させる」
「攻撃力6800のモンスターだと!? ま、不味い……っ! マシンナーズ・フォートレスの攻撃力は2500しかない。これを喰らえば」
「バトル! NEPTUNEでマシンナーズ・フォートレスを攻撃、Sickle of ruin!」
「馬鹿なぁぁああああああああああ!」
NEPTUNEの大鎌がマシンナーズ・フォートレスを両断し、4300ものダメージをデイビットに与えた。
デイビットの4000のライフは火力に耐え切れず一撃で吹き飛ぶ。丈の勝利が確定した瞬間だった。
「そんな……Meが………二枚目のプラネットが出てきたとはいえ、ワンショットキル……だと? あ、あ、あ、あ、あ、あ……アンビリーバボォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???」
デイビットが白目を向いて叫ぶと、泡を吹いて失神する。どうやら余程ショッキングだったらしい。
「あー、こういう場合。どうすればいいんだろう?」
「さぁ。そこに放置しておけばいずれ目を覚ますんじゃない」
デイビットのクラスメイトのレジーが冷たく突き放すが、さすがに後味が悪いので職員室に失神した倒れた生徒がいると報告しておいた。
丈のアメリカ・アカデミア初日はそんなこんなで騒々しく始まり終わった。
デイビッド「なんだこのフィールドは?」
デイビット「銀河眼の光子竜、ネプチューン、そしてサターン!! オイオイこれじゃ……Meの負けじゃないか!」