双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#31 ビーチと夜

 

 

 

 別館に備え付けられた更衣室で着替えを済ませて、一夏は浜辺へと一歩を踏み出した。薄い壁の一枚向こうが女子が使用する更衣室だということもあって、何やらきゃっきゃと女子生徒たちの声が聞こえてきたりもしたが一夏は鋼の精神でそれら全てを聞かなかったことにした。胸がどうとか腰回りがどうとか、今の一夏には刺激が強すぎる話題ばかりだった為だ。

 現在の一夏の格好は先日姫無とのデートをした際に購入した紺色のトランクスタイプの水着に上半身は薄手の灰色のパーカーというものだ。いつでも上を脱げるようにパーカーの前は開けた状態で更衣室を出たのだが、どうやらそれがいけなかったらしい。たまたま更衣室を出るタイミングが重なって出くわした女子生徒が、一夏のその身体を見て頬を染めくねくねし始めたのである。

 

「お、織斑君!?」

「わぁ、腹筋すごーい……」

「私の水着姿大丈夫かな、ちゃんとムダ毛処理したよね!?」

 

 年頃の少女たちにとって、鍛え抜かれた一夏の肉体は少々刺激が強すぎたようである。いつもなら平然と話しかけてきてくれるのに、少女たちは何故か一夏と視線を合わせようとしない。ちらちらと、伺うように一夏の顔と身体を交互に見つめてはきゃーきゃーと頬を染めて足早に砂浜へと走って行ってしまった。

 何とも言えない複雑な心境だが、折角の自由時間。しかも目の前に広がる大海。こんな気持ちでいるのは少々勿体無い。一夏は気持ちを切り替えて、波打ち際へと向かう。足の裏を焼く砂の熱さを我慢しながら進んでいくと、程なくして大勢の女子生徒たちで賑わう砂浜に到着した。右を見ても女子、左を見ても女子。しかも全員漏れなく水着姿である。正直目のやり場に困る。いや、眼福なのは否定しないけれど。

 何事も几帳面な一夏はこういった時でも準備体操は欠かさない。万が一海中で足をツリでもしたらシャレにならないからだ。膝を曲げて屈伸、前後に開いてアキレス腱を伸ばし、腕を上に上げてゆっくりと上体を傾ける。

 

「い、ち、かっ!」

「うおっ!?」

 

 伸脚を忘れていたことを思い出して足を広げて屈む一夏の背中にいきなりドンッと衝撃が走った。突然の事に驚く一夏だったが、首に回されている手を見て背中に張り付いている少女を特定する。というか視界の端でツインテールが楽しげにゆらゆらと揺れているのだ。

 

「いきなり飛びつくなよ。危ないだろ鈴」

「相変わらず真面目ねぇアンタは。準備体操はもう終わったわけ?」

「たった今お前に中断されたところなんだが」

「じゃあいいわ。ほら、泳ぎに行くわよ」

 

 何が良いんだと思う一夏だったが、首に手を回され、腹筋の辺りに足を絡まれたこの状態では準備体操もくそもない。幸い殆ど体操は終えていたし、ここは鈴の言い分を優先することにしよう。そう決めて、一夏はゆっくりと上体を起こす。それを受けて、後頭部の辺りから「うおー」と関心するような声が聞こえた。

 

「高いわねー。一夏また身長伸びた?」

「おかげさまでな。今百八十ぴったりだ」

 

 慣れない視線の高さが新鮮なのか、鈴はあちこちをきょろきょろと見渡しては嬉しそうに肩を叩く。

 周囲から向けられる好奇の視線が気にはなるが、そんなことよりも鈴が楽しそうなので一夏は無理矢理降ろす様な真似はしなかった。小柄な鈴が背中に張り付いたところでさして重く感じることもないし、女子高生と密着出来るのは役得だと言い聞かせる。

 さて、そんなことを考えながら波打ち際へと歩いてく一夏の背中にくっついている鈴はと言うとだ。

 

(うわ、うわぁ……。一夏が近い、近いよぉ……)

 

 一夏の首筋数センチのところに顔を寄せて、耳まで真っ赤な顔を周囲の生徒たちに見られないよう必死に縮こまっていた。女は度胸と勢いよく一夏の背中に突撃したところまでは良かったのだが、そこから先のプランを鈴は全く考えていなかったのである。取り敢えず話しかけたいと思ってはいたものの、まさか背中に抱き着いたまま移動することになるとは思っても見なかった。回している腕からは一夏の身体が引き締まっていることを強く感じ、落ちないように絡ませた足は鍛え抜かれた一夏の腹筋に触れている。パーカー越しとは言え、嫌でも男というものを意識せざるを得なかった。

 

(心臓の音、聞こえてないよね? 大丈夫だよね?)

 

 自身でもはっきりと自覚できるほどに早い鼓動が聞こえているのではないかと不安に駆られる鈴。しかし一夏は気にする素振りを見せず、その様子に少しだけ安堵する。出来ることならこのまま離れたくないと思っていた鈴だったが、ここは砂浜。人目につきすぎる。そしてなにより。

 

「ああぁぁああああッ!? な、何をしているんですか鈴さん!!」

 

 鈴よりも少し遅れてやってきた英国淑女が、それを許してくれる筈がなかった。

 一夏にくっついている鈴を指差して、わなわなと肩を震わせるセシリアに鈴はにやりと口元を歪めて。

 

「何って、監視塔ごっこよ」

「そんな遊びは知りません!」

「今考えたもの」

 

 何か問題でも? とでも言いたげに鈴はにんまりと笑みを浮かべた。それを受けて恋する乙女セシリア・オルコットが黙っていられるはずもない。

 

「い、一夏さん! 私も乗せて下さい!」

「いや俺乗り物じゃねえんだけどっ!?」

 

 そうは言う一夏だが、残念ながら背中に鈴をくっつけたまま言っても全く説得力が無かった。というかそもそも鈴が降りてくれればそれで済む話なのだが、当人は一夏のパーカーのフードに顔を埋めて離れるような素振りは見せない。腕も足もがっちりと回されいるために振りほどくことも不可能だ。傍から見ると木にしがみつくコアラのようである。

 

「おい、鈴。もう波打ち際だしそろそろ降りてくれ。流石に皆に見られるのはなんか恥ずかしい」

「む。何よ私がくっついてちゃ恥ずかしいっての?」

「普通に考えてそうだと思うんだが」

「……ま、しょうがないか。セシリアが顔真っ赤にしてるし」

 

 言って、先程までの強情さはどこへ言ったのかぴょんっと一夏の背中から飛び降りる。その動きの身軽さは猫のようで、改めて鈴の身体能力の高さを思い知る。背中が軽くなった一夏は今一度背中の筋肉を伸ばして広大な海を見渡した。快晴も手伝って空と海との境目が曖昧になるほど見通すことが出来る。爪先に同じ感覚で寄せては返す波が浸かり気持ちがいい。気温も上がって今では三十度近く。真夏日に迫る炎天下の中、海を目の当たりにして泳がない選択肢は存在しなかった。

 

「鈴、あの岩場まで泳ごうぜ」

「いいわね。競争する?」

「それもいいけど、今日のところは楽しむのが目的だからゆっくり行こうぜ」

 

 泳ぎに多少の自信を持つ一夏は競争することも吝かではなかったが、何せ一日は長い。何もスタートからかっ飛ばす必要もないだろう。昼食を挟むとは言え夕方まである自由時間だ、体力の配分は考えたほうがいい。そんな一夏の考えを察してか、鈴も特に異論を唱えるようなことはしなかった。ばしゃばしゃと海水へと身を沈めていく。

 

「ん? セシリアは来ないのか?」

 

 膝上まで海水に浸かったところで、セシリアが付いて来ていないことに気がついた。強制するつもりは微塵もないが、彼女も泳ぐだろうと勝手に思っていた一夏は少々意外そうに呟く。

 

「え、ええ。私は砂浜にパラソルを立ててゆっくりします。ほら、パレオも巻いていることですし」

「いや、パレオは取ればいいだろ」

 

 セシリアは青いビキニにパレオを巻いた格好をしており、確かにそのままの格好では泳ぐのには向かない。が、泳ぐ時はパレオを取るのが普通であり、そんなことをセシリアが知らない筈がない。よくよく見ればセシリアの頬が若干ヒクついているのが分かった。波打ち際まで来てはいるものの、決して海水に浸かろうとはしていない。ビーチサンダルも履いたままで脱ぐ気配もない。

 ふむ、と一夏は考える。そして思い至って、つい口に出してしまった。

 

「あ、セシリアってもしかしてカナヅチか」

「っ!!??」

 

 面白い程にセシリアが狼狽した。

 その反応を受けて確信する。

 

「ち、ちが……」

「無理しなくてもいいぞ。確かに海は危険もあるしな」

 

 何か言おうとして口を開いたセシリアだったが、一夏にそう言われては何も言えなくなってしまった。わなわなと震えていたが、やがて涙目のまま砂浜を駆け抜けて行ってしまった。そんな後ろ姿を眺めながら、一夏は首を傾げる。

 

「俺、何か悪いこと言ったか?」

「まぁ、人に知られたくない弱点だってあるでしょうよ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 皿式鞘無は瞳を閉じて、静かに集中力を高めていた。誰にも分からないよう、気づかれないよう、己の集中力を限界まで高める。五感の一つである聴覚に全神経を集中させ、ソレを聞き逃さないよう壁に耳を押し付けていた。そうして聞こえてくるのは、鞘無の居る部屋の隣に居る少女達の陽気な声。

 

『愛梨また胸おっきくなってない?』

『えーそんなことないよー?』

『うそだ。ちょっと揉ませてみなさいよ』

『ちょ、ちょっと美香? 目が据わってるんだけど?』

『その脂肪の塊毟り取ってやろうかしら』

 

 …………イイ。

 ニンマリと口角を持ち上げて、鞘無は最大限の笑顔を浮かべていた。早い話が盗み聞きである。男子と女子の更衣室が薄壁一枚挟んだ所で隣り合っている為に、お互いの声はこうして聞こえてしまっている。男子更衣室には現在鞘無しかいないために男子更衣室からの声は聞こえないが、女子更衣室からの声は鞘無の耳にばっちりと届いていた。つい十分程前に同じ場所で着替えていた一夏とはえらい違いである。

 着替え自体はものの数分で終わった鞘無だが、女子同士故に遠慮のない会話が繰り広げられている向こう側の会話が彼の身体の自由を奪っていた。

 と、そこに鞘無にも聞き覚えのある声が届く。

 

『あーあ。更識先生にオイル塗って欲しかったのにな』

『教官に殺される覚悟があるならそうすればいい。私は逃げる』

 

 聞き間違える訳がない。シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒの声だった。鼓動が更に早くなる。誰か分からない女子たちの会話も興奮を煽るが、顔までしっかり思い浮かべられる美少女達の会話は彼の興奮を最大限にまで引き上げた。荒い息が漏れる。傍から見れば完全に犯罪者だった。

 

『あれ、ラウラそんな水着持ってたの?』

『本国の部下からのアドバイスだ。男を落とすならこのくらい露出しなければいけないらしい』

『にしてもそれはちょっと布面積が少なすぎないかな』

『そうか? 三箇所隠せればそれで何も問題ないだろう』

『その発言に問題があると思うよ私は』

 

 思わず鼻から深紅の液体が溢れそうになった。二人の話を聞く限りではラウラはかなり際どい水着を着用しているらしい。見たいという欲求が鞘無の中で急速に膨らむ。が、同じタイミングで更衣室を出ればこの会話を聞いていたことがバレる可能性が高い。ビーチに出れば幾らでも見ることが出来るのだから早まるなと己を自制して、鞘無は再び意識を壁の向こう側へと向ける。

 

『な、なにラウラ』

『シャルロット。お前バストサイズはいくつだ』

『え、え?』

『もしも九十以上だった場合、私はお前を友人だとは思わない』

『何で!?』

 

 壁の向こうからシャルロットの叫びが届いた。再び鞘無の身体に血流が通う。いかんいかんと鼻をつまみながら邪念を振り払う様は客観的に見ても完全にアウトだった。こんなところを誰かに見られでもしたら社会的抹殺は免れない。大事なことなのでもう一度言っておこう。こんなところを誰か(・・)に見られでもしたら、社会的抹殺は免れない。

 尚も会話は壁の向こう側で続いているが、このまま更衣室に閉じこもっているわけにもいかない。ビーチには自身の登場を待ち望む多くの女子生徒たちがいるはずであり、彼女たちを待たせるわけにもいかないと謎の使命感に苛まれているためだ。まだまだ二人の会話が気にはなるが、意を決して鞘無は更衣室を出てビーチへと向かう。

 彼が出て行った更衣室の天井の隅に取り付けられていた小さな小さなカメラには、ついぞ気がつくことはなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……あん?」

 

 一夏たちが海へ出てから約一時間。取り敢えずの挨拶を済ませた俺は、折角姫無が選んでくれた水着もあることだし少しの間砂浜に出ることにした。束なんかは今頃何をしているのか定かでないが、この近くにはいるのだろう。あんな格好で周囲を彷徨かれても困るので本当なら傍に置いておきたいところだが、束を横に置くと何をされるのか分かったものではない。今は放置しておくのが吉だと判断した。

 さて、そういう訳で水着に着替えようと男子更衣室にやってきたのである。人数の関係かどうしても女子更衣室と比べるとこじんまりしているようにも思えるが、実際この更衣室を使うのは多くても四人。この程度の大きさで事足りる。それはいい。それはいいのだが。

 

「なんだありゃ」

 

 視線の先には、更衣室天井の隅にある不可思議なレンズ。ここからでは良く判らないが、カメラのレンズのように見えなくもない。

 

「…………」

 

 なんとなくあのレンズの向こうから鼻息荒いウサミミ女が瞳を輝かせているような気がして、俺はそのレンズを即座に叩き割った。

 どこかで『ああぁぁああああッ!!?』という絶叫が聞こえたよう気がした。あれは多分、というか間違いなく束が仕掛けた隠しカメラだろう。俺が発見するまでこの場所にあったことを考えると一夏と皿式の着替えはばっちり映像に残されてしまっている可能性が高い。そんなことがバレたら千冬から物理的な制裁を喰らうことは想像に難くないだろうに。

 つらつらとそんなことを考えながら手早く着替えを済ませ砂浜へと一歩を踏み出す。正午を越えて尚上がる気温のせいか焼けるように熱い砂に苦笑しつつ波打ち際へと向かった。

 

「あ、更識先生だ!」

「うそ、ほんとに!?」

「うわすごい腹筋。織斑君のもすごかったけど、先生のはなんか鋼鉄って感じよね……」

「あの胸板の上でなら私死んでも悔いはないわ……!!」

 

 しまった、パーカーくらい羽織っておくべきだったな。どうせ泳ぐのだから上着は不要だと判断して着てこなかったのが仇となったようだ。俺の周囲の女子生徒たちからの好奇の視線が突き刺さってとてもじゃないが居た堪れない。かといってここで走り出すなどの教師らしからぬ態度を取るわけにもいかない。結局はこの視線に耐えつつゆっくりと移動するしかないのである。

 

「随分と騒がれているようだな。更識先生」

「それはお互い様なんじゃないか? 織斑先生」

 

 と。そこで背後から声を掛けられた。その声に反応して振り返ってみれば、そこには一夏が買ってきたのだという黒のビキニを身に纏った千冬の姿。自身の身体を晒すことに羞恥を感じないのか、余りにも堂々としたその姿に思わず一歩後ずさる。

 

「む。なんだ、そんなに似合っていないか?」

「いや、似合いすぎてんだよ」

「ふむ、そうか。一夏のセンスもあながち捨てたものではないようだな」

 

 寧ろ一夏グッジョブと声を大にして言いたいくらいである。そういえばまだ俺がこの学園の生徒だった時に千冬に買った水着も確かこんな感じのものだったなと思い出す。師弟揃って趣味が同じのようだ。いや、似てきたのか。

 

「山田先生は?」

「山田君なら向こうで肌を焼いている。ああ、心配しなくてもきちんと眼鏡は取っていたぞ」

「そんな心配はしてないけどな?」

 

 そんなドジっ子属性は真耶には付与されていない。

 

「さて、折角だし私は少し泳ぐとする」

 

 ぐっと腕を持ち上げて背筋を伸ばしながら千冬が言う。その際強調される豊満なバストを無意識に眼で追ってしまった俺はきっと悪くない筈だ。あんな凶悪なものを目の前で見せられる男の気持ちも少しは考えてみて欲しい。

 

「俺も少し砂浜を歩いたら泳ぐとするよ。折角の海だしな」

「あまり羽目を外すなよ」

「当然」

 

 颯爽と波打ち際へと向かう千冬の後ろ姿を見届けてからゆっくりと顔を上げる。真上を通過して西へ傾き始めた太陽はぎらぎらと輝きを増すばかりだ。いつの間にか肌にはじんわりと汗をかいていた。

 周囲の生徒たちの視線は気にはなるが、それとこれとは別問題だ。やはり海というものには男心をくすぐる何かがあるらしい。準備運動もそこそこに、俺は海水の中に入っていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 海の幸がふんだんに使用された夕食を堪能して、生徒たちは消灯時間までの僅かな時間をそれぞれの楽しみ方で満喫していた。各自に割り振られた自室で過ごすのが基本であるが、消灯時間までは誰がどの部屋で何をしていようが咎められることはない。それを利用して浴場の隣りに設置された卓球場で卓球に勤しんだり、マッサージ機に背中を預けて寛いだりとやりたい放題である。

 そんな中、一部の生徒たちは楯無と一夏の部屋になんとかして忍び込もうと画策していた。

 

「ほ、ほんとにこの部屋なわけ?」

「間違いないよ。更識先生の匂いがするもん」

「ちょっとそれなんか変態っぽいんだけど」

 

 こそこそと廊下の曲がり角に身体を潜めているのは鈴とシャルロットだった。まず第一にどうして一夏と楯無が同部屋なのを知っているのかとツッコミたいところではあるが、そこのところは乙女の行動力を舐めないでもらいたいとだけ言っておこう。

 そんなやりとりを繰り広げる二人の後ろに、更に人影が二つ。

 

「い、一夏さんのお部屋……」

「おいこれバレたら教官に殺されるぞ……」

 

 セシリアとラウラである。四人とも既に入浴を済ませて浴衣に着替えており、裾をずるずると引き摺りそうになりながら一夏たちの部屋を目指しているのであった。

 目的の部屋までは約十メートル。一気に距離を詰められるが、しかし彼女たちの目の前には最初にして最大の関門が待ち構えている。

 

「どうする?」

「どうするって、横切るしかないでしょ」

 

 楯無たちの部屋の隣には、何とも禍々しい雰囲気(のように見えるだけ)の部屋があった。そこには千冬と真耶がおり、一夏たちの部屋にたどり着くにはこの部屋を横切るしかないのである。

 

「やめておいた方がいいぞ」

「ラウラ。女にはね、死ぬと分かってても逝かなきゃならない時があんのよ」

 

 ラウラの静止の声も最早鈴に意味がないようだった。なにやら大量の死亡フラグを乱立させ、さながら戦場の兵士のような表情を浮かべている。

 そんな表情を見て何を言っても無駄だと判断したのか、ラウラはそれ以上何も言わなかった。鈴に続いてシャルロット、セシリア、最後尾にラウラの順でこそこそと移動を開始する。

 

 

 

 が。

 

 

 

「ほう、私の目の前で堂々と夜這いをかけるとは中々いい度胸じゃないか」

 

 ビシリ、と四人の動きが硬直する。次いでギギギと油の切れた人形のようにぎこちなく、その首を声のした方向へと向ける。

 そこには、鬼(イメージに非ず)が立っていた。心なしか頬に赤みがさしているのは四人の見間違いなのだろうか。

 

「ち、千冬さ」

 

 恐怖をふんだんに含んだ鈴の言葉は、残念ながら最後まで口にすることは出来なかった。目にも止まらぬ速さで鈴の首を引っ掴んだ千冬が、そのまま部屋の中へと連行したからだ。どしゃあっ! という豪快な音が部屋の奥で聞こえた。

 ゴクリと残された三人は唾を飲み込もうとして、口の中がからからに乾ききっていることに気付く。そんな三人を、教師たる千冬が見逃す筈もなかった。

 

「安心しろ。夜は長いんだ。たっぷりと話を聞かせてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 




 嘘予告
鈴「へー千冬さんてそんな趣味なんですかー」
シ「楯無さんの性感帯についてもっとkwsk!!」
セ「初夜は、初夜はどうだったんですか!?」
ラ「?? 3Pとは一体なんだ?」

千冬「うわぁぁああああッ!!」

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